新聞をとってない人々

第3回 地球人よ、警戒せよ!

土曜日の深夜。
私は自分のアパートで持ちかえった経理の仕事を
していました。
どうしても計算が合わないところがあって、
それは膨大な数字のどこかが狂っているからなのです。
そうなると粘着質の私は、
どうしてもそれを見つけ出さなくては
寝る気になれないのです。

細かい数字の群れの中に没頭していると、
なんだか自分が自分から離れかけていくような
妙な心持ちになってきます。
その時、背中の後ろで突然ゴトン!
と音がして、私はビクッと身をすくめました。
しばらくして、
それは新聞が入れられた音だと気がつきました。
窓の向こうで空が明け始めています。

私は急にあることを思いつきました。
ドアを開け、自分のアパートを出ると、
私は通りの向こうにそびえる大きなマンションに
入っていきました。
今なら、新聞をとってない人がいるか確かめられる。
そう思ったのです。

マンションの通路に並ぶ新聞受けには、
みな新聞が入っていました。
分厚い広告をロールパンのように巻き込んで。
なんだ。みんな新聞をとってるじゃないか。
私はほっとしてその新聞の刺さったドアの列を眺めました。

でもなんだか一番向こうに、
新聞の刺さってないように見えるドアがあるぞ?
私は吸い寄せられるように通路を歩いていきました。
やっぱり新聞が刺さっていないのです。
表札は掛かっているのに。
私は階段を昇って各階を廻りました。
するとポツポツと、何も刺さっていないドアが・・・
(いる。確かにいる。新聞をとってない人々が!)
(第3回了)

1998-06-18-THU

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