新聞をとってない人々

第7回 新聞読んでると飽きちゃうんです

【前回のあらすじ】
大学の後輩は、
「テレビブロスがあるから新聞なんてとらない。」という。

何人目かに会った新聞をとってない人は
かなり可愛かったんです。
「なっちゃん」のCMのコに似ていました。
ま、それはちょっと置いといて。
彼女は私の職場に書類を届けに来たバイトの女の子でした。
デザイン系の専門学校に通っているそうです。
彼女は理知的そうで、礼儀正しくて、
胸の形がよくて、一人暮らしで。
そして、新聞をとってない異星の客でした。
私は半ば強引に昼飯に誘いました。

「君なんか新聞をとってそうなんだけどね」
混んでいるイタリアンレストランで
私たちは向かい合いました。
「でも私のまわりの友達だととってない人多いですよ。
独り暮らしの女の子は
たいていとってないんじゃないかなあ。
男の子だってとってないと思う」
「そうなの?」私はスパゲッティを
くるくる巻きながら言いました。
「新聞に載るような話題って友達との会話で
ぜんぜん出ないし、みんなあまりニュースって
興味ないんじゃないかなあ?」
「あ、そう」それにしても可愛いなあ。
「あの誌面の大きさが許せないってコもいますよ。
電車で広げて読んでる人とかいるじゃないですか。
もう邪魔でウザイって言ってた」
新聞の大きさなんて私は考えたこともありませんでした。
考えてみれば、あまり可愛い大きさじゃないな。
「インクで指が汚れるし、そういうの気になるんですよ」
綺麗な指だもんなあ、小さくて。
「字が小さいし。それに読んでて次がどこに続くのか
わかんない時もあるし」
記事が折れ曲がって続くような時ね、なるほどなあ・・
「なんか新聞ってNHKみたいっていうか、楽しくないの」
そうか、新聞って野暮なんだな。
「勧誘員ってサイアクですよね。
なんで洗剤なの? って感じ。
怖いし。勧誘員が怖いからとらないってコも多いと思う」
私もとるのやめようかな・・
ハッ! いけない。
私は異星人に洗脳されかかっていたのです。

「でもさ、新聞とってなくて困ることないの?」
私は気を取り直して反撃に出ました。
「ないですねえ」そうか、ないのかあ・・
「あ、でも一度。先生が教室でワインのラベルに
猥褻な図案が使われて問題になったという話をしたんです。
新聞に載ってたって。でもみんなキョトンとしてたんです。
誰も知らなくて。
そしたら先生が君らは新聞読んでないのか?って
言ったんです」
「クラス中が読んでなかったんだね?」
「ええ。でも読んでないからどうってことって・・
それくらいかなあ」

「じゃあ新聞っていらないってことね」
私は少しすねてきました。
「新聞って入っていきづらくて、読んでて疲れちゃう」
「いいとこないのね新聞なんて」
「雑誌とかで読んだほうが掴みやすいし、
別にリアルタイムでニュースを知らなくてもいいんです」
リアルタイムで知らなくても別にかまわない、
というのにはちょっと虚を衝かれました。
でもリアルタイムで知らなきゃ困る出来事なんて、
そういえばそんなにないかもしれない。

彼女は可愛い口をナプキンで擦ると、
そのまま小首をかしげました。
何か考えているようでした。
そのしぐさがまた可愛いのです。
おごってもらったんだから、
少しはちゃんと考えてあげようと思ったのかもしれません。
「新聞ってなんか気がきいてないっていうか。
お父さんたちの時代のものって感じがするの。
もっと見せるサービスとかセンスとかって工夫するの、
大事なんじゃないかなあ」
「テレビのニュースなんかのほうが面白い?」
「うん。やっぱりそうかな」またちょっと考えています。
「だって視覚で伝わることって大きいじゃないですか。
言葉にできることって限られてる感じがするの」

私たちはレストランの前で別れました。
また会いたいなあと私は思っていました。
新聞をとってない人々には
彼女のような可愛い女の子が多いのかも知れません。
新聞ってあまりモテナイようです。やばいなあ。

1998-07-03-FRI

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