シリーズ 2012年 宇宙へぴょん!  星出彰彦宇宙飛行士インタビュー on orbit! 地上400キロのチーム・プレイ。シリーズ 2012年 宇宙へぴょん!  星出彰彦宇宙飛行士インタビュー on orbit! 地上400キロのチーム・プレイ。



第2回  スペースシャトルはかっこいい。

── ぼくたち、今までに2度、
ロケットの打ち上げを見ているんです。
星出 すばらしい。
── 種子島で見た
日本の国産大型ロケット「H-2B」と、
仏領ギアナで見た
アリアンスペース社の「アリアン5」と。

2011年1月、種子島から発射されたH-2Bロケット。写真提供:JAXA

2011年5月、仏領ギアナから発射されたアリアン5。
星出 ええ、ええ。
── でも、
それらいわゆる「ロケット型のロケット」と
ぜんぜん違うものとして
135回目の飛行を最後に退役した
「スペースシャトル」があると思うんです。
星出 そうですね。
── カタチもまったく異なりますし‥‥。
星出 はい。
── 詳しくは知りませんけど
あれだけカタチが違うんですから、
なんというか、その‥‥「思想」みたいなものも
違うんだろうなと想像したり。
星出 ええ、違いますね。
── なので、そのスペースシャトルについて
実際お乗りになった星出さんに
ぜひともお話をおうかがいしたいな、と。
星出 わかりました。
── 何より圧倒的に「かっこいい」と思うんです、
スペースシャトルって。
星出 ええ、かっこいいです(笑)。
── では、そのあたりから、お願いします。
星出 そうですね‥‥。

私が初めてスペースシャトルに関わったのは
中学生のときでした。
── え! 中学生で!?
星出 いやいや、文化祭で
友だちとスペースシャトルの模型をつくって
展示したってだけなんですけど(笑)。
── ああ、びっくりしました(笑)。
星出 簡単なプラモデルをつくったんですが、
そのときからすでに
「他のロケットとはまったく違う魅力」を
感じていました。
── それは、具体的には‥‥?
星出 まず、飛行機みたいに翼がついている。
そして、滑空して地球に帰還してくる。
さらに、
一度きりじゃなく何度も宇宙へ飛んでいける。
── 打ち上げのときに「垂直に立ってる」姿も
「いっちょう宇宙へ飛んでくぜ!」
みたいな感じで、かっこいいんですよねぇ‥‥。

アトランティス号の発射。写真提供:JAXA/NASA/Bill Ingalls
星出 それから20年くらい経って
宇宙飛行士として接してみますとね。
── はい。
星出 われわれが「システム」として学んだときに
感じたのは、その「複雑さ」です。

なにしろ30年も前の機体ですから
インターフェイスには
昔ながらの武骨な部分が残っていて、
スイッチも多い。
── へぇー‥‥。
星出 コクピットのディスプレイを変更したりとか
少しずつ
アップグレードはしていましたが、
基本の部分は
30年前と変わらないつくりのまま。
── じゃあ、こういったら何なんですけど、
そういう乗り物が
何度も、宇宙へ飛んで行ってたんですね‥‥。
星出 スペースシャトルというのは、
「宇宙空間での活動」
については
基本的に「すべてできる」機体なんです。
── ええ。
星出 人間も上げられるし、荷物も上げられる。

ロボットアームもついてますし、
船外活動もできるし、実験もできます。
── あれ一台で。
星出 そう、あれ一台で(笑)。
── オールマイティな宇宙機、なんですね。

ISSから撮影されたエンデバー号。写真提供:JAXA/NASA
星出 そうそう、はじめて肉眼で見た打ち上げも
スペースシャトルだったんです。
── あ、そうなんですか!
星出 そのとき、シャトルに乗っていたのが
若田(光一)飛行士。
── じゃあ‥‥1996年ですか?
星出 ええ、若田さん最初のミッションでした。

当時、私は、彼のサポートということで
打ち上げまでの1年間、
ずーっと、いっしょについていたんです。

なので、スペースシャトルで
彼が宇宙へ飛んで行くのを見てたんです。
── ‥‥どうでしたか?
星出 もう、興奮の絶頂というか‥‥
「うお〜! うお〜! うおおお〜!」と、
叫んでたら、見えなくなりました。
── つまり、言葉にならなかったと(笑)。
星出 ロケットの打ち上げというのは
「見ているよりも
 乗っているほうがラクだなぁ‥‥」と
今は思います。
── おお、乗った人しか言えない意見!

じゃあ、お聞きしますが
「スペースシャトルの乗り心地」って
どんな感じなんででしょうか?
星出 いいですよ。
── おお! 「いい」ですか!
星出 私が次のミッションで乗る
ソユーズは
ちっちゃなカプセル型の3人乗りですけど、
シャトルは7人乗りで
機内も飛行機のようにゆったりしてました。
── へぇー‥‥。


ISSから撮影されたディスカバリー号。写真提供:JAXA/NASA
星出 宇宙から帰ってきて
滑走路に着陸したときも、飛行機の着陸みたいな
衝撃だったのを覚えています。
── はー、そうなんですか。
星出 操縦していたのが
NASAに所属する米海軍のパイロットだったから
着陸が荒かった、
なんて冗談を言ってましたが(笑)。
── え、操縦してるのって、そういう人なんですか?
星出 私のときは、米海軍でしたけど、
空軍の場合もあります。
── 米軍のパイロットって、宇宙にも行くんですね。
はーー‥‥。
星出 ソユーズの場合は
パラシュートで地上に下りてくるわけですから、
最後はけっこうな衝撃を受けるんですけど。
── ドシンと。そうでしょうね。
星出 さきほど
シャトルの「思想」という話がありましたが、
ロシア、つまりソユーズの場合は
「人間は打ち上げるけれど
 荷物は別の手段で宇宙に持ってく」んです。

ちなみに星出さんのとなりに立っているのがソユーズの模型です。
── つまり、人間と荷物を分けてるんですね。
星出 そこを、スペースシャトルは
ぜんぶ一緒にやってしまおうという考え方で。
── はい、はい。
星出 ようするに「思想」というならば
そのために設計された機体であるわけです。

何でもできる機能を搭載していて、
「再使用できる」という点も含めて。
── なるほど、なるほど。
星出 ソユーズはソユーズで
ちっちゃいけれども、もう何十年もの間、
確実に人間を宇宙に送り込んで
帰還させています。

だから、
どっちがいいとか悪いとかいうものでは
ないんですね。
── でも、やはりすごい機体だったんですね‥‥。
スペースシャトルって。
星出 はい、そう思います。

残念ながら2度、事故も起きてしまいましたし、
いろんな理由があって
2011年に退役してしまいましたが、
われわれ人間が
あの唯一無二の宇宙機をつくったということは
やはり、誇るべきだと思います。
── そうですか!
星出 人類の宇宙史を考えたとき、
「ガガーリンの人類初の宇宙飛行」や
「アポロの月面着陸」に
勝るとも劣らないと
個人的には思っていますから。
── そのふたつに並びますか!
星出 スペースシャトルを運用してきた30年間、
われわれは宇宙空間で
たくさんのミッションを遂行してきました。

宇宙ステーションをつくることができたのは
スペースシャトルがあったからです。
── ええ、ええ。
星出 ですから、「貢献」という側面で語るなら、
「ガガーリン」や
「アポロ」に勝る面もあるかもしれません。
── はー‥‥。
星出 なにより‥‥「かっこいい」ですしね。
── あははは、やっぱり最後はそこに(笑)。

でも、見た目がかっこいいっていうだけで、
「宇宙のファン」を増やしましたよね。
星出 いや、それは、本当に大きいです。
── かつての星出少年みたいに。
星出 スペースシャトルを語るうえで、
ものすごく大切なポイントだと思います。

「かっこいい!」‥‥と、いうのは。

ケネディ宇宙センターに着陸するアトランティス号。
写真提供:JAXA/NASA/Bill Ingalls
  <つづきます。>

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2012-01-19-THU