ほぼ日刊イトイ新聞

アトリエシムラのあたらしいストール、織りあがりました。

アトリエシムラのストール。 2018

[鼎談]
その色を生かすための白。
アトリエシムラ 志村昌司・志村宏・堀ノ内麻世

自然の草や木からいただいた、
「命の色」で、ていねいに糸を染め、
その糸を織り上げてできる、いちまいの布。

自然と芸術を日常に取り入れる染織ブランド、
atelier shimura(アトリエシムラ)がつくるストールには、
たくさんの時間と手間が織り込まれています。

今回は、いままでにないイメージの新作が登場します。
あたらしいストールについて、
代表の志村昌司さん、染師の志村宏さん、
デザインを担当された堀ノ内麻世さんにお話をききました。

植物の色を生かす、白

今回、3回目のストールですけれど、
糸は、これまでと同じで、
大正紡績の近藤さんに、
シムラの色が最大限にいきるようにと
特別につくってもらったものを使っています。
この糸は、このストールのために考案されたもので、
絹とオーガニックコットンの混紡なんですね。
シルクとコットンの両方の良さをあわせ持ち、
とても細くてしっとりとした光沢があります。

それまでのアトリエシムラでは
絹を染めていたので、混紡糸を染めることに慣れず、
1年目は染めが難しかったのですけれど、
2年目になると、今度は材料を変えたりしながら、
改めて新しい物を作りだすことができました。
そして今年、3年目になって、
「いちど、根本に戻ってもいいんじゃないかな」
と思ったんです。
この2年間を振り返ってみて、
綿っていうものが染めにとってどういうものか。
絹が入ってるからこそ、当然、糸の光沢は良いんですけど、
綿の持つ優しさを、色に反映できるように染めるのが、
この糸にとっては良いんじゃないかっていうことを考えました。
堀ノ内
デザインするうえでは、
植物の色をいちばん綺麗に見せることを考えました。
今回のストールは全部、白糸が入っています。
それが今までのストールにはなかったことです。

具体的なイメージは、
ドイツにある、ル・コルビュジェが設計した集合住宅なんです。
それは優しい色の中間色に白が入っているような建築でした。
「その色を生かすための白」のように見えて、
すごく印象的で忘れられなくて。

余白っていうと、日本的な考えのようですけれど、
この白は、余白っていうよりも、
「白がしっかりある」っていうような、
隣に来る色のためにある、白。
植物それぞれの色が、すごく透明感があるので、
白が隣に来ると、その透明感がさらに綺麗に出てくれる
という印象があって、全部に白を、今回は入れました。
この白は、染めていない糸の色なので、
真っ白というより、少しベージュといいますか、
黄色がちょっと入ったような、優しい色合いですね。
「ツキノハナ」という名前の糸なんです。
昌司
たしかに、白を使うというのは、今までありませんでした。
それから、建築のイメージと、植物染料の組み合わせって、
あんまり想像したことがなかったので、とっても新鮮でしたね。
実際に見てみたら、建築の堅牢なイメージと、
植物素材の柔らかなイメージが、入り混じったような感じ。
堀ノ内
たしかに織物では、白を配色の中で
なかなか使わないというイメージですよね。
部分的に白で抜くみたいなことも、あんまりない。
ストールは、使い方によって
どこが出るか分からないのがおもしろいので、
柄ゆきを大きめにしたかったこともあるんですけれど、
白をあえて使ったのは、
そういう、抜け感みたいなところを
表現したかったっていうのがいちばんですね。
隣に綺麗な赤が来るとか、
藍も、白があることで、すごく引き立ってくるっていうような。
昌司
うん、そうですね。
着物でも、白場(しろば)といって、
1本白を入れてから他の糸を入れると引き立つ、
よく僕の母(染織家 志村洋子)も
アルスシムラのデザイン指導でそう言ってますけれども、
白をどう使うか、ってすごく大事なんでしょうね。
たしかに着物でも白って使いにくい。
でも敢えて白場を作ることで、
他の色が生きるっていうことはけっこうあります。
堀ノ内
私がイメージとして持っていたのは、
色が、それぞれ独立しているような感覚です。
織物って、経糸と緯糸が交わっているので、
どうしても混色になるし、
まったくの独立っていうことはないんですけど、
でも、その中で、織物ならではの混色で綺麗なところと、
はっきりと独立して見えるところとの境目が、
ちゃんとわかる、みたいなところです。
昌司
形やデザインよりも色がメインっていうのは、
アトリエシムラの考え方のひとつの方向性ですよね。
植物の本来の色をいただいて、それを生かすのが人間の技。
命から色が出て、色糸を通して形になっていくっていうふうに
段階があるなと、よく僕たちは思ってるんです。
命、色、形っていう。
このストールは、何とも言えない形のない命の世界と、
コルビュジェをイメージした造形的な世界の、
ちょうど間を、ユラユラしてるような感じかなっていう。
命とも触れ合ってるし、形とも触れ合ってるような。

まとうことで、守られる

昌司
僕たち、これまでそういう発想がなかったんですけど、
身につけるものに、「戦闘服」っていう感覚もあるって、
うちのスタッフから聞いたんですよ。
特に、東京で仕事をしていると、
ビルの中の職場に入っていく時に、ある種、身を守る、
あるいは、自分を奮い立たせるものとして着る服があるって。
シムラのものを買われる方にも、東京なんかでは、
そんな気分で身にまとって、町に出ていく、
そういう感覚もあるのかな、って思いましたね。
堀ノ内
植物って、柔らかい優しいイメージで、
植物染めをして学んだことですが、
すごく癒されるんですよね。
植物染めのものって、「ずっと手に持っていたい」とか、
「まとっておきたい」っていう方が、けっこういらっしゃって、
それは、直接的な攻撃から身を守る
鎧のようなものではなくて、
心の鎧というか、そういうイメージでしょうか。
昌司
鎧とか戦闘服というのは、アトリエシムラとは、
まったく対極にあるようなイメージですけど、
言わんとしてることは、これで身を守るっていうことですね。
そうだね、戦う方じゃないですよね。守る方だと思う。
植物の力を取り入れるって言いますか、自分の中に。
それによって守られるというのは、
確かにあるなっていう気がします。
堀ノ内
着物を着たときに、シャンとする感覚も、
そうかもしれませんね。
着物というものが、
今はちょっと非日常なところもありますけれど。
昌司
着物そのものが、何百年という時の試練を経て、
デザインが決まってきたし、しかも植物染料。
そこにある日本の精神性のようなものが、
着るひとの中に入ってくるんじゃないかな。

今回のストールは、コルビュジェという1つのキーワードと、
日本の伝統的な植物染料との出会いで初めてできたものです。
なおかつ、歴史の深い所とも結びついている気はしますね。
そこには植物の命の色ということが、
すごく大事なこととしてある。
自然染料だし、糸も自然のものですから、
そういうものを身にまとえる喜びがあるんです。
2018-10-22-MON

販売時期

2018年10月25日(木)午前11時より、

「ほぼ日ストア」(ネットショップ)で販売開始。

売り切れ次第販売を終了します。

販売方法と出荷時期

数量限定販売です。

お申し込みから1~3営業日以内に出荷いたします。

atelier shimuraがはじまる。はじめての志村ふくみ

STAFF

モデル=KIKI
写真=菅原一剛(モデル)、大江弘之(商品)、三谷武(取材)
スタイリング=轟木節子
ヘアメイク=草場妙子