後編 こんなところでドット絵のスキルが役立つとは。
ーー
開発チームのお仕事は、
きっとデスクワークがメインだと思うんですけど、
ハラマキ、いかがですか?
座り仕事の方の腰痛対策にも、オススメです。
京極さん
私、毎日というほどではないですけど、
わりと巻くほうなんですよ。
どうしてもお腹が冷えたりするので、
冬はハラマキして寝たり、
あと、旅行に持って行ったりとか。
ーー
あ、そうなんですね!
じゃあ、ぜひ『どうぶつの森』のハラマキも
そこに加えてください。
ちなみに、巻くとしたら、どちらのデザインを?
京極さん
こっち(「もりのせいかつ」)かなぁ(笑)。
野上さん
デザインしてるし(笑)。
ーー
そうですね(笑)。
高村さん
僕は、こっち(「とたけけ」)かな。
つくってて、すごく楽しかったし。
あ、でも、思い入れは
こっち(「もりのせいかつ」)のほうがあるなぁ。
写真1
京極さん
こっちのほうが調整に時間がかかりましたね。
高村さん
そうそう、
サイズに応じて、いろいろ組み直したりもして。
でも、最終的には、ちゃんときれいに
仕上がって、すごくうれしかったですね。
ーー
たしかに、この「もりのせいかつ」は、
開発チームのみなさんと
何度もやり取りさせていただきましたね。
とくに、ゲームのなかの「雰囲気」が
きちんと再現できるかどうかがポイントで。
高村さん
そうですね。
ハラマキって、印刷じゃなくて、
編んで絵をつくるじゃないですか。
そういう作業がはじめてだったので
実際に編み上がったらどうなるのか、
まったくわからなかったんです。
でも、かなりきれいに出てくれた。
ーー
はい、本当にうまく仕上がりました。
ハラマキは基本的に2色の糸しかつかえないので、
その制約のなか、微妙な濃淡をつかって
ここまで柄を表現できたのは、
私たちにとってもはじめての経験でした。
野上さん
こういう表現って、
じつは、うち、得意なのかもしれないですね。
というのも、ゲームの開発って、
「制約のなかでいかに表現するか」ということが
いつもテーマだったりするので。
ーー
あーーー、なるほど!
京極さん
いや、ほんとう、そう思いました。
野上さん
とくに、昔からいるデザイナーは、
そういうことをつねに工夫しているんです。
たとえば、最初に出たゲームボーイって
カラーじゃなくて白黒だったんですよ。
そのとき、どうしても影を
「半透明」で表現したいんだけど、
スペック的にそれができないので、
黒い影をチカチカ点滅させて「半透明」に見せたり。
京極さん
意外なところで、そういう経験がハラマキに(笑)。
野上さん
そうそう(笑)。
そういうふうに、制約を逆手に取るって、
わりと好きなんです。
今回作業を担当した高村も、
NINTENDO 64の頃から
ずっとやってますから。
写真2
高村さん
はい。ここに入った当時は、
ルイージをドット絵で描いたりしてました。
そう、編み物で絵を表すのって、
ドット絵の表現とすごく近いんですよね。
昔のドットの知識がこんなところで
活きるとは思わなかったです。
ーー
あーーー、そうかそうか。
毛呂さん
まさか、こんなところで
ドット絵のスキルが役立つとは(笑)。
ーー
具体的には、どういう風に役立ったんでしょう?
高村さん
たとえば、ここの、とたけけの顔の周りのライン。
こういう微妙なカーブをきれいに見せるのって、
「編み目、何個飛びでずらしていくか」
っていう技術があるわけですよ。
写真3
野上さん
1、2、1、2、2とかね(笑)。
高村さん
そうなんです(笑)。
だから、このカーブ、
実作業は新人さんにやってもらったんですけど、
「この間隔で曲げていったら、
 こういうきれいなカーブに見えるから」って
教えながら進めていきました。
「ここ、一見、出っ張ってるように見えるけど、
 この出っ張りをなくしたら、
 遠目で見たときに丸く見えないから」とか。
ーー
へぇーーー。
毛呂さん
うまい人はうまいんですよ。
ーー
いや、それで納得したんですけど、
やっぱり、デザインしていただいた2種類のハラマキ、
いつもより、曲線の表現が滑らかな気がするんですよ。
たとえば、イラストレーターさんと
ハラマキをつくるときって、
だいたい原画を描いていただいて、
それをニットのデザインに落とし込んでいくんです。
そこで原画の線なんかを再現するのに
いつもすごく苦労するんですが、
今回、任天堂さんにデザインしていただいた曲線は、
ほんとうに滑らかで。
野上さん
得意分野ですから(笑)。
毛呂さん
一応、伸縮の感じもちゃんと計算して、
そのまま編んでいただければ
ピッタリになるようにデザインして、
その通りにつくってもらったので。
ーー
はい。ハラマキを生産している
白倉ニットさんがおっしゃってたんですけど、
細かい表現がすごくやりやすかったそうです。
毛呂さん
よかったです。
写真4
ーー
‥‥あの、今後、ほかのデザインで悩んだら、
相談にのっていただいていいですか?
一同
(笑)
ーー
この曲線の「滑らか感」を、教えてもらいたいです。
高村さん
あはははは。
野上さん
でも、この、とたけけは
すごくいい仕上がりですね。
2色で映えるデザインだし。
高村さん
そうですね。
ーー
とたけけさんの、
鼻のテカリ、湿り気も表現されているような。
高村さん
そうですね。
あとこれは、リバーシブルにしたら、
おもしろいかなと思ったんですよ。
ーー
あ、なるほど。
写真5
野上さん
あー、裏返すと、また違った感じになるね。
高村さん
ちょっと悪い顔になるかも。
京極さん
とたけけは、目とか眉毛が実は非対称なんですよ。
ーー
え?
高村さん
そうなんですよ。これ、左右を対称にしたら、
とたけけにならないんですよ。
ーー
あ、本当だ。右と左が微妙に違いますね。
え? これは、このハラマキがということではなく?
京極さん
とたけけは、ぜんぶ左右非対称なんです。
高村さん
1作目の『どうぶつの森』から左右非対称で。
ーー
えーーー。じゃあ、64版から。
野上さん
そうなんですよ。
でも、あんまり知られてなくて。
だから、他社で企画された商品を監修すると、
皆さんだいたい最初は左右対称でつくっておられますね。
ーー
し、知らなかったです(笑)。
それは、ゲームに登場するキャラクターの顔は
みんな左右非対称にしてあるというわけではなく?
写真8
高村さん
いえ、とたけけだけです。
ーー
そうなんだー。
ああ、知らなかったですー。
京極さん
左右対称にすると、
とたけけの味わいにならないんですよ。
ーー
そうなんですねー。
もう、どんどん訊いちゃいますけど、
「もりのせいかつ」の方にいる村民は、
どれが、だれ、というのはあるんですか?
野上さん
いちおう、元キャラはいます。
高村さん
しずえと、ハムスターのハムスケ。
京極さん
リスのももこと、くまのガンテツと。
あ、このネコのシルエットは‥‥?
高村さん
マールですかね。
京極さん
ブーケかな?
毛呂さん
ブーケでしょう。
野上さん
僕もブーケ派です
ーー
あ、解釈が分かれている(笑)。
写真10 ▲左から、ももこ、ガンテツ、ハムスケ、しずえ、ブーケ (C)2012 Nintendo
高村さん
むしろ、ご自分の好きなネコのキャラに
思ってもらえたら、それでいいのでは。
ーー
じゃあ、ネコは自由。
野上さん
はい。ネコは自由(笑)。
ーー
わかりました。ありがとうございます。
なんだか、お話をうかがいながら思ったんですが、
開発チームのみなさん、すごくたのしそうで、
なんというか、仲もよさそうですよね。
一同
(笑)
高村さん
たしかにそうですね。
仲のいいチームだと思います。
京極さん
ゲームの性質もあると思うんですよ。
『どうぶつの森』って、現実の時間とリンクしていて、
クリスマスがあったり、
七夕があったりするじゃないですか。
そうすると、ゲームの中の行事を、
実際にチームでもやったりするんですよ。
クリスマスにケーキつくったりとか。
高村さん
そうですね。
ーー
たのしそう!
京極さん
七夕に誰かが笹を買ってきて、
みんなで願い事を書いて、チームの席に立てたりとか、
そういうことが起こりやすいチームなんで、
それで仲よしなのかもしれないですね。
だから、仕事以外の会話が生まれやすい
チームだなぁとは思います。
高村さん
そうですね。
ーー
はーーー。
なんか、そういうチームのみなさんに、
デザインしてもらえてうれしいです。
写真9
毛呂さん
発売は、いつ頃になったんですか?
ーー
おかげさまで、年内に発売できることになりました。
京極さん
やっぱりハラマキだから、
寒い季節に間に合えばいいなと思っていたので、
年内になってよかったです。
ーー
そうですね。色々とご無理を聞いていただいちゃって。
年末にお届けできる感じです。
京極さん
お正月のプレゼントに(笑)。
ーー
親戚の子どもたちにあげたら人気者になれるかも。
友達も、「娘に、とたけけ買ってあげる!」って
張り切ってました。
子どもさんだけじゃなくて、もちろん、大人の方もね。
野上さん
身に着けて、会社の更衣室で着替えてたら、
隣の人がびっくりするかもしれませんよね。
ーー
「あのー、とたけけですか?」って、
話のきっかけにもなりますよ。
実際、温泉や銭湯の脱衣所で話しかけられることも、
ありますからね。
「それ、ハラマキなの?」って(笑)。
京極さん
じゃあ、銭湯に行って、手売りしようかな?(笑)
毛呂さん
「今なら新品があるんですけど、どうですか?」
って(笑)。
ーー
わははは。
今日はどうもありがとうございました!
写真7

(おしまい。
任天堂のみなさん、ありがとうございました!)

2014-12-17-WED

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