6、7年前のことです。
東京近郊の、専門業者だけがあつまる
古着の倉庫を訪れました。
そこは、deserticでつくる服の素材として、
ヴィンテージのニットを探しに
それまでも何度か通っていたんですが、
あるとき、けっこう大量に素材を買い付けた際、
オーナーさんが「平くん、こんなものもあるんだよ」と
見せてくださったのが、ヴィンテージスカーフでした。


色がうんと鮮やかで、
見たことがないような青色が使われていたり、
なのに版ズレ(印刷のズレ)を起こしていたり、
あるいは「どうしてこんな柄なんだろう」という、
ちょっと不思議なデザインだったり、
国旗や、市町村のエンブレムがあったり、
ところどころに、味わいのある手書きふうの文字があったり。
──すっかり魅了されました。
それが、1940年代から50年代に、
ヨーロッパで「おみやげもの」としてつくられていた
ヴィンテージのスーベニールスカーフとの出逢いでした。

▲ヴィンテージのスーベニールスカーフを使ったdeserticのアイテムです。

海外の有名なブランド向けに、横浜でつくられていた
80年代頃のスカーフは知っていたんです。
それはわりと「きちんと」したものです。
けれども、もっと古い、
そのスカーフのことは知りませんでした。


聞くと、これらは、
当時ヨーロッパ各地でつくられたもので、
現在は数があまり残っておらず、
世界的にもコレクターがいる人気のアイテムで、
価格も高めなので、
なかなか市場に出回らないものなんだそうです。
オーナーさんが売らずにとっておいたそのスカーフを、
どうしてぼくに見せる気になったのか、
また、売ってくれたのか、それは今もわかりませんが、
もしかしたら「こいつなら、活用できるかも」と
思ってくれたのかもしれませんね。


「どう使うか」を考えつつも、
しばらくは素材として保管していました。
最初に使ったのはカーディガンの裏地です。
前立ての裏に、ちらっと見えるふうに使いました。


それから、きちんとしたメンズの
テーラードジャケットの手法で
ワンピースをつくったときに、
ポケットのフラップに使いました。
ちょっと制服っぽい印象の服で、
そのとき、たとえば勲章とか階級章のようにして
ブローチもつくってみたらかわいいんじゃないか、
と思いつきました。
ニットのブローチはつくっていたので、
その手法が応用できるぞと思ったんです。
それが、今回も販売する、
マカロニ型のちいさなブローチです。
あ、マカロニ型というのは、
ぼくが勝手にそう呼んでいるだけなんですけれど。
だから最初はワンピースの一部として生まれたんですね。

そこから出発して、
単品のブローチをつくるようになりました。
小さなマカロニ型にくわえて、
国旗や紋章の部分を抜いて
そのかたちでつくるエンブレム型をつくりました。
もちろん最初は自分でこつこつ手づくりです。
いまは、縫製などは委託してつくってもらいますが、
スカーフから、どの部分を抜き出すか、
という指定はじぶんでやっています。
風景画だったらこの部分、
たとえば「この犬の絵が右に来るように」というような
こまかな指示も出しています。
厚みのあるものなので、
正面からだけでなく、横から、上から見たときにも
ちゃんとかわいい印象になるように気をつけています。

もう、何百枚のスカーフを解体したかなぁ?
もちろん、ブローチだけではなく、
ストールの一部分に使ったり、服の素材にもします。
けれども、こういう小さな、
「ちょっと大事な」印象のある小物って、ぼくは大好きで。
ひとつひとつにいのちが吹き込まれるようだと、
よろこんでくださる人も多くいらっしゃって、
ああ、つくってよかったなあ、って思うんです。
(談)

「HEIGHTS」ができました。

平さんのブランド「desertic」(デザーティック)の、
あたらしいショールームができました。
名前は「HEIGHTS」(ハイツ)。
オーガニックのスキンケアや日用品をあつかう
山藤陽子さんの「YORK.」と共同のスペースに、
平さんのつくる服や雑貨がならびます。
アトリエであり、
ショールームでもあるこの「HEIGHTS」は、
予約制で訪問も可能です。
くわしくは、こちらのウエブサイトからどうぞ。
http://www.heights-heights.com/

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