寒くなって新型コロナの勢いが盛り返したりして、
お出かけも、なかなかままならない状況がつづきます。
でも、想像の中でなら、どこへ旅するのも自由です。
今年の「ほぼ日の水沢ダウン」の裏地は、
岩手と宮沢賢治にインスパイアされた、
ニット・テキスタイル「イーハトーブの冬」。
水沢ダウンを着るのは街でも、こころはイーハトーブに。
そこで、こんな物語はいかがでしょうか。
ある日、こんな手紙がとどきました。
こんこ、こんこ、このふゆは、
いーはとーぶへおいでなさったら、よいとおもいます。
みずがすきとおったかわやら、
くちぶえをふくとんねるやら、
どんじゃらほいがいるもりやら、
すてきなものが、いくらもあります。
ふゆのそなえにいそがしいきつねが、
いちいち、あんないしてあげます。
いえでは、いろりやら、ほっぺがおちるおだんごで、
もてなしてあげてもいいです。
たいそうさむいから、あたたかくしてきなさい。
こんこ、こんこ、いつきますか。
わたりぎつね拝
いつ来ますかといわれても、
わたりぎつねなんて会ったこともないし、
連絡先だってわかりません。
それに、なんだかちょっと押しつけがましい。
でも、わたしたちは二人とも、
家ですごすのにすっかり飽きておりましたので、
わたりぎつねを探しがてら、
イーハトーブに行ってみることにしました。
たしかに、水底まで見とおせるような、
すんだ、きれいなかわがありました。
口笛みたいな音がするトンネルがありました。
もりのなかで、かさりと音がしましたが、
どんじゃらほいだったのか、わたりぎつねだったのか。
いかにもきつねが出てきそうな神社もありました。
でも、わたりぎつねがいるけはいはありません。
コートを着て山高帽をかむったひとにでくわしましたが、
わたりぎつねこのとを訊くと、ばつがわるそうな顔をして、
そそくさと逃げていってしまいました。
おや、この家は?
なかにはいってみると、黒板が立てかけてあって、
そこにはこう書かれていました。
おだんご たべても よいです
囲炉裏のそばにお団子がいっぱい。
ここは、わたりぎつねの家なのでしょうか。
わたしたちが来ることを知っていたのでしょうか。
おいしいお団子ですっかりくつろぎましたが、
やっぱりわたりぎつねは、あらわれませんでした。
もう渡りの季節になったのかもしれないねえ。
わたりぎつねには会えなかったけれど、
でも、なんだか来てよかったねえ。
わたしたちはそう言いあいながら、
イーハトーブをあとにしました。
おしまい
撮影:小野田 陽一
スタイリング:野崎 未菜美
ヘアメイク:筑波 成美
モデル:ALAN 木村 舞輝
協力:長野県安曇野市 碌山美術館