ほぼ日 |
「うおがし銘茶」さんは、
築地のまん中に本店があって、
常ににぎわっている印象がありますが
いつごろから築地でお茶屋さんを
はじめられたんですか?
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▲築地本店の様子。 |
土屋 |
創業は、今から85年前です。
亡くなった祖父、初代会長の土屋正が
20歳のころに静岡を旅していて、
山本平三郎という農学博士と出会います。
その方が「深蒸し茶」を考案し、
それをたまたま飲んだ初代会長が
「これはすごい」と思って
築地で売りはじめたのが最初です。
今よりももっともっと、
築地に活気があった時代で、
そこから全国に深蒸し茶が
一気に広まっていったと聞いています。
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▲土屋正氏。 |
ほぼ日 |
すみません、
初歩的な質問かもしれませんが、
「深蒸し茶」というのは、
どういうお茶なんでしょうか?
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土屋 |
お茶をつくるとき、
最初の行程で茶葉を蒸すんですけど、
蒸し時間が短く、はっきりと茶葉のかたちが
残っているのが「浅蒸し茶」です。
蒸し時間が長いものが「深蒸し茶」で、
しっかり蒸されているぶん、
茶葉も崩れやすく、
いれたときに濃い味がでます。
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ほぼ日 |
なるほど。
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土屋 |
それから、大切なのがお茶の色です。
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ほぼ日 |
たしかに、はじめて「うおがし銘茶」の
お茶を飲ませていただいたとき、
色がすごくきれいだと思いました。
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土屋 |
ありがとうございます。
世間では、「深蒸し茶」をいれたときの色は、
緑色のほうが「いい色だ」と思われています。
でもぼくらは、「きいろきんいろ」っていう
きいろく澄んだ色こそが、
本来のお茶の姿だと思っているんです。
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ほぼ日 |
きいろきんいろ。
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土屋 |
きいろく澄んだ色のお茶は、2杯目、3杯目‥‥と
おかわりをしてもおいしいんです。
緑色のお茶をつくるのは簡単なんですよ。
葉肉の薄いものをつかうと
葉っぱがぼろぼろ崩れて粉状になり、
いれたときに濁った緑色になります。
ただ、近年は、この崩れて濁った緑色のお茶を
「深蒸し茶」と称して販売する店が増えて
困っています。
そこで、うおがし銘茶が追い求めている
「昔ながらの深蒸し製法」を
「香り蒸し製法」という表現で呼ぶことにしました。
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ほぼ日 |
香り蒸し製法。 |
土屋 |
はい。
葉力のある、葉肉が厚いものを
長く蒸す製法です。
長く蒸しても、かたちが崩れにくく
粉もあまりできません。
そのため、緑色にならず、
きれいな「きいろきんいろ」になるんですよ。
どうしてもできてしまった粉の部分は、
できるだけ取り除いています。
粉の部分が抜けると、
全体の8割ぐらいしか残らなくて
原価が高くなってしまうんですが、
そこも覚悟の上で。 |
ほぼ日 |
葉肉が厚かったり薄かったりっていうのは、
何が原因でそうなるんでしょう。 |
土屋 |
うーん、やっぱり「土」ですね。
畑が元気だと、厚い葉肉ができます。
痩せた畑だと、葉肉も薄くなります。
いい畑って、なかなかないんですよ。
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ほぼ日 |
‥‥もしや、
畑も管理されているのですか?
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土屋 |
そうです。
農家さんと二人三脚でやっています。
畑を見に行って、
年に数回、何十人もの農家さんを集めて
勉強会を主催しています。
その年に収穫したお茶を
目隠しをした状態で飲んで、
「これはこうした方がよかったね」
なんて言いながら検証して、
また来年につなげていくんです。
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ほぼ日 |
あぁ‥‥いいお茶をつくるために
そういう努力をされているんですね。
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▲創業当時の様子。 |
土屋 |
はい。でも、いいお茶といっても、
うちは、格調高いお茶を求めているわけでなく、
「ふだんづかいのお茶を、
とにかく大事にしよう」と思っているんです。
ほかのお茶屋さんに、
「いいお茶はどういうお茶?」って聞くと、
だいたいの人が
「うまみや甘みの強いお茶」って言います。
でも、そういう味って、
ずっと飲んでいると飽きちゃうと思うんです。
うちがいちばん大事にしているのは
昔ながらの良質な苦みと渋みです。
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ほぼ日 |
苦みと、渋み。
それだけをぱっと聞くと、
ネガティブにもとらえられそうですけど‥‥。
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土屋 |
そうですね。
でも、苦みと渋みがあるからこそ、
飽きずに何杯も飲めるし、
食事のときに飲んでも、
ごはんの甘みがちゃんとわかっておいしいんです。
スイカに塩をふると甘みがひきたつように。
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ほぼ日 |
あー、わかりますその感じ。
苦みと渋み、たしかにごはんに合いそうですね。
それにしても、それをつくるために‥‥
お茶屋さんがそうやって畑のところから関わるのは、
ふつうのことなんでしょうか?
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土屋 |
いや、一般的なお茶屋さんは、
問屋にある「お茶の見本」を選んでいます。
ただうちも、
今のように農家さんと組みはじめたのは
ぼくの代からなんですよ。
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ほぼ日 |
あ、そうなんですか。
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土屋 |
以前はそこまでしなくても、
茶葉自体の元気がよかったから、
市場に出てきた茶葉を買えばよかったんです。
でも今はそうも言ってられなくなって、
ぼくの代でしっかりやっておかないと、
香りのいいお茶ができなくなってきているんです。
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ほぼ日 |
それはどうしてなんでしょう?
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土屋 |
全体的に、お茶の木自体の年齢が
高齢になってきているんです。
植え替えが必要なんですけど、
そうすると、その木の分の収入が減るから
なかなか農家さんも踏みきれなかったり‥‥。
ですからそういう面もふまえて、
サポートしていかなくてはと思っています。
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ほぼ日 |
‥‥大変なことですね。
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土屋 |
そうですね。
でもぼくは、もっと力強いお茶をつくりたいんです。
うちは日本茶専門店なんで、
いい葉っぱができないと、
生き残っていけないと思っています。
お茶以外にも、乾物とかお菓子とか
いろいろ広げていくようなことは、
うちは家訓で一切だめなんですよ。
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▲お茶ひとすじ! 1980年の年賀状。 |
ほぼ日 |
家訓。
おじいさまが残されたものですか?
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土屋 |
ええ。まず、「銀行から金を借りるな」。
自分の身の丈でやりくりを
しなさいっていうことですね。
そして、
「どんなことがあってもお茶以外に手を出すな」
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ほぼ日 |
‥‥どんなことがあっても。
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土屋 |
深い理由は聞いていないんですが、
おそらく、お店の個性みたいなものが
なくなっていくからだと思うんです。
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ほぼ日 |
お茶屋さんはお茶を、ということですね。
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土屋 |
ええ。
そして、もうひとつの家訓に、
「露地栽培のものしか扱わない」
というのもあります。
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ほぼ日 |
露地栽培というのは?
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土屋 |
人工的なことをしない
自然のままの育て方を露地栽培といいます。
ところが、産地に行って
「露地ものをください」って言っても
どこにもそれはなかったんですよ。
だから、自分たちで露地栽培をはじめました。
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ほぼ日 |
それは‥‥
すごく大変なことだったんじゃないでしょうか。
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土屋 |
最初はほんとうに大変でした。
露地栽培するって言ったら、
「何言ってんだ!」って追い返されて(笑)。
でも、昔は露地でつくれていたわけですから、
ときどき「そういうお茶のほうがいいんだ」と
わかってくださる方もいます。
そうした方と1件契約すると、
だんだん周囲の方も賛同してくださって‥‥。 |
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ほぼ日 |
信頼をひとつひとつ積み重ねてこられた。
そこまでできるのは、
初代会長であるおじいさまから伝わった
本来の「深蒸し茶」への思いが
強くあるからなんでしょうね。
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土屋 |
はい。
祖父からお茶を教わりましたから。
ぼくをすごくかわいがってくれて、
全国の畑にも連れていってくれました。 |
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▲土屋正氏、台湾の茶畑にて。 |
ほぼ日 |
おじいさまがいれるお茶は、
やっぱり味が違いましたか? |
土屋 |
そうですね。
でも、何て言うのかな‥‥
大ざっぱに入れてるのに、
味がある‥‥というか。 |
ほぼ日 |
へえー。 |
土屋 |
おいしかったです。 |
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ほぼ日 |
いいですねぇ‥‥。
ご家族でも、お茶の話をよくされているんですか? |
土屋 |
いや、お茶の話はふだんしないんですよ。 |
ほぼ日 |
そうなんですか。 |
土屋 |
母も妻も専業主婦で、
お茶のことをまったく知らないんです。
父は‥‥つまり今の会長ですけど、
入れかたにはあまり口を出さず、
「おいしかったらそれでいい」という感じでしたし。 |
ほぼ日
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私たちもなんだか安心できます。
「大ざっぱにいれてもいいんだ」って。 |
土屋
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そうですね。
それに、ぼくも大学くらいまで
お茶なんか飲まなかったですからね。炭酸ばかりで。 |
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ほぼ日
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え、炭酸(笑)。 |
土屋
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「お茶を飲め」とか「こうしなさい」とか
だれも言わなかったんです。
父も、「お茶はこうでなきゃ」って
決めつけることを嫌うタイプなので。
だからこそ父の代では、
お茶のパッケージやネーミングも
どんどん変えていって
あたらしいことを取り入れているんだと思います。
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▲お父さまである、うおがし銘茶会長・土屋博義氏。 |
ほぼ日
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おじいさまが基本となる道をつくって、
お父さまが売り方の幅を広げて、
そしてこれから土屋さんは
生産者と手を組んで、
あたらしいお茶をつくろうとされていて‥‥。
それぞれに役割ができているんですね。
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土屋
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そうですね。
市場で目に止まるようなお茶があれば
わざわざつくらなくていいんですけど、
いい茶葉が日本からなくなりつつあるので、
もうぼくがやるしかない、と思っています。
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ほぼ日
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‥‥お話をうかがっていると、
お茶に対する、真剣さとか
思いの強さみたいなものを感じて、
80年続いてきた理由が
僭越ながらすこしわかったような気がします。
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土屋
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ありがとうございます。
今度、ぜひ茶葉を収穫するところも
見に来てください。
絶壁みたいなところで採ったりしているんですよ。
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ほぼ日
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そうなんですか?!
ふつうの平地でつくっていると思っていました。
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土屋
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いえいえ、
「こんなところで!」みたいな場所なんです。
なかなか人が行けないような山奥とか、丘の上とか。
そういうところでつくる茶葉は香りがいいんです。
新茶の季節に、ぜひ。
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ほぼ日
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それはぜひ行ってみたいです!
本日は、ありがとうございました。 |