うおがし銘茶・仕入担当の柿崎さんに
秋のお茶「ぽっかり」と
「広びろ」についてうかがいました

築地に本店を構える「うおがし銘茶」さんは、
1931年から続く老舗でありながら、
敷居の高さを全く感じさせない
気さくなお茶屋さんです。
「茶遊会」や「お茶当てゲーム」といった
だれもが楽しめるユニークな催しを行ったり、
気軽に入れる雰囲気のいい喫茶室を設けたり、
「お茶を買うなら、うおがしさんで!」
というファンが多く、
長年愛され続けているのもうなずけるほど。
今回は、うおがし銘茶で働く
仕入担当の柿崎信之さんに、
「ほぼ日のにほん茶」用に仕入れていただいた
2種類の秋のお茶について、うかがってきました。




ーー 今回、「ほぼ日のにほん茶」のために
仕入れてくださったのは
「ぽっかり」と「広びろ」の2種類です。
さっそく「ぽっかり」から
うかがってもいいでしょうか。
柿崎 「ぽっかり」は、宮崎の「ゆたかみどり」という
品種を使ったお茶です。
まろやかなやさしい味わいが特徴の品種なので、
焙煎を弱めにして、口当たりのやわらかさを
引きだすような製法にしています。
ーー すごくやさしい味わいで、飲みやすかったです。
これは、宮崎県のお茶なんですね。
昔からお茶づくりが盛んなんですか?
柿崎 そうですね。
全国生産量第4位のお茶の産地です。
一から農家さんとじっくりつきあって、
うちが目指しているお茶を作っていただけるように
お願いしてきたんです。
ーー 信頼関係を積み重ねて、
作ってこられたんですね。
柿崎 ええ。
ーー 「広びろ」のほうはいかがでしょう。
柿崎 こちらは、静岡県藤枝市の奨励品種である
「藤かおり」という品種を使っています。
めずらしい品種で、
味はすっきり、きりっとしているのに、
すごく華やかな香りがあります。
ーー 試飲させていただいたら、
独特のジャスミン茶のような
華やかな香りがありました。
糸井も「おいしいねえ」と言って、
すごく気に入った様子でした。
柿崎 ああ、そう言っていただけてうれしいです。
「広びろ」は、
香りがいちばん引き立つような火入れをしたんです。
ただ、おいしいもののなかでも、
さらにいい部分を、というふうに厳選しているので、
仕入れの量が少なくて申し訳ないです。
ーー いつもどういうことに気をつけて
仕入れてくださっているんですか?
柿崎 まず、「ほぼ日」さん用には、
「ブレンドしないお茶」を
特別にご用意させていただいています。
お茶って、ブレンドすると増やせるんです。
ブレンドすることで足りない味を補えるなど
いい面ももちろんありますけど、
そのぶん味が複雑化します。
1つの畑で作った1種類の茶葉だけ、というほうが
お茶本来のシンプルで素直な味わいが出ますから。
ーー 素材だけで勝負する、というぶん、
仕入れにもすごく苦労なさるんでしょうね。
柿崎 とくに「広びろ」のような
比較的新しい品種の場合、
作っている畑自体が小さいので、
なかなか量が作れないんです。
ーー 柿崎さんは長年仕入れを
担当なさっているんですか?
柿崎 いえ、ぼくはもともと
販売担当として入社しまして、
ずっと店舗に立っていたんです。
入社したのが20年前で、
まだ本店しかない時代でした。
初代の会長にも
ずいぶんいろんなことを教わりました。
ーー 仕入部というのは、
どんなお仕事をなさっているんでしょうか。
柿崎 店舗にも立っているんですけど、
日々、静岡工場から商品の見本が届くので
それを見て商品にできるかどうか判断しています。
とはいっても、ぼくのもとに届くまでに、
すでに静岡工場で大量に試飲をしたうえで
選り分けられているので、
大変な思いをしているのは
ぼくよりも、静岡工場の者だと思います。
特に仕入れの時期は、
何百個もの荒茶が工場に届くんです。
ーー 以前、新茶の季節に
取材させていただきましたが、
ひたすら試飲を繰り返されていて、
すごい作業だなぁと思いました。

▲何百個という数の荒茶の味をたしかめる。
柿崎 深夜から起きて
何百種類もの見本を飲みつづけますからね。
香りをかいで、味見をして、
一瞬で、いい、悪いを決めていきます。
そうして、静岡工場の者が厳選したお茶が
東京にいる、ぼくのもとへ届けられます。
今年は静岡がずっと晴れ続きだったので
農家さんも工場も、すごく大変でした(笑)。
雨の日は収穫も仕入れも休みになるんですが。
ーー 晴れだと、休みがないんですね。
柿崎 そう。毎日晴れだから、
収穫も毎日、試飲も毎日!(笑)
そのぶん、いい状態で詰められましたけどね。
まぁ、毎年いいんですけど、
今年はダントツによかったんです。
ーー 柿崎さんのところでは
どんな作業をなさるんですか?
柿崎 ぼくは、何種類か届いた中から、
「もっと香りを出したい」とか、
「焙煎を強めて香ばしくしてほしい」とか、
もっとおいしくならないか、
もっとやわらかくできないか、というようなことを
調整する役目です。
今回の「ぽっかり」も、
何度も静岡工場とやりとりしました。
商品すべてに理想のイメージがあります。
それに近づくように、日々、届くお茶を
チェックしていく、という感じで。

▲「こんなふうにお皿に全部開けて、
  茶葉全体の形を見ることが大事なんです」と柿崎さん。
ーー お茶の味を記憶しておいたり、
微妙な味の違いを判別するというのは、
すごく難しそうな作業に思えるのですが、
どういうふうに訓練するんでしょうか。
柿崎 やっぱり、ひたすら飲み続けることですね。
社長からも専務からも
「とにかく飲め」と言われています。
「ほぼ日」さんへの仕入れにしても、
去年のイメージを覚えておいて、そこに近づけていく。
それから、うちが大事にしている、
「良質な苦味、渋みがあるか」
というのは、常に意識しています。
ーー 味を守り続けるっていうのは
想像以上に、大変なことなんでしょうね。
柿崎 そうですね。
「お茶以外に手を出すな」
というのが、会長の代からの決まりで、
お茶だけで勝負しているので、
いいかげんなものはもちろん出せません。
「お茶というのは、
 おいしいから毎日飲めるんだ」
というのが社長の方針です。
味がちょっと変わっただけでも、
お客さまにはすぐ気づかれますし、
その意味では、仕入れ部の役割は責任重大だと感じます。
ーー 「おいしいから毎日飲める」という考え方って、
たしかにそのとおりだと思います。
お客さんからも、
「前回購入したお茶が
 とてもおいしかったので、また欲しいです」
という声が、すごくたくさん届くんです。
柿崎 「おいしい」と思っていただけたら、
それだけで、いちばんうれしいです。
うちは、ふだん使いのお茶を大切にしていて、
煎茶だけでなく、抹茶でさえも
本来は難しいものじゃないということを
伝え続けたいんです。
産地がどこで、このブランドだからおいしい、
という、うんちくを語るよりは、
「まずは飲んでほしい」というのが願いです。
ーー だから、すべての店舗で
気軽にお茶が飲めるように
工夫されているんですね。
すごく納得です。
どうもありがとうございました!



さいごに、お茶をいれてくださった柿崎さん。
その所作は惚れ惚れするほどかっこいいです。

「ぽっかり」は、まろやかな味わいで、
食事どきや、ふだん使いにごくごく飲みたいお茶。
「広びろ」は、とにかく香りがすばらしいので
気分転換にも最適です。

みなさんにお届けできるまで、もう少し。
どうぞおたのしみに。


2015-10-27-TUE
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