糸井 |
アンリさん!
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アンリ |
(満面の笑みで、ハグ)。
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糸井 |
全く変わらない!
前に会ったのが、
昨日のことのような気がする。
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アンリ |
え? 若返ったと思ってたけど?
ぼく、若返ってない?
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糸井 |
あははは(笑)。
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アンリ |
でも、ありがとうございます。
変わらないって言ってくださって。
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糸井 |
子どもは大きくなるでしょ、どんどん。
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アンリ |
そうですね、もう8歳です。
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糸井 |
サッカー、上手になってる?
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通訳 |
うん、大好きで。
ぼくの相棒。
背も高くなってきて
おとなっぽいバランスに
なってきました。
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糸井 |
このお店も、中のものが
いろいろと変わりましたね。
アンリさんは、
いろんないいものを作りますね。
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アンリ |
でも、もっといいものが、
明日出てくるよ?(笑)
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糸井 |
そうだね!
ぼくら、引っ越したから
名刺が変わったんですよ。
一枚どうぞ。
どれか1つを選んでね。
8種類あって、絵柄がちがうんだ。
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アンリ |
あ、違う、ほんとだ。
悩む。
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糸井 |
これはね、ぼくがね、
20‥‥何歳のときだっけか、
1976年に初めてぼくが本を出したのが
このペンギンの絵本だったの。
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アンリ |
セッタンタッセ(76)?
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糸井 |
セッタンタッセ。
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アンリ |
このペンギンは、
戻ってきたんですね。
遠いところからね。
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糸井 |
そうそうそうそう。
遠いところから帰ってきたんだ。
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アンリ |
(笑)。
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糸井 |
全然古くないんですよ、今見てもね。
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アンリ |
どういうテーマ?
フィロソフィ(哲学)?
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糸井 |
テーマはね、
とっても説明が難しい(笑)。
ナンセンスなんです。
ページをめくるごとに
違う場面でペンギンが迷子になっちゃう話。
(名刺を見せて)これは、野球場に現れて、
ボールになっちゃって、
バットで打たれてホームランになっちゃった絵。
で、こっちは気がついたら飛行機に乗ってたんで、
大変だって言ってパラシュートで降りてるとこ。
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アンリ |
オッケー。
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糸井 |
アンリさん、1976年、
何してたんだろう?
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アンリ |
エルバ島に住んで、
6年経ってますね。
29歳ぐらいです。
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糸井 |
29歳かあ。
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アンリ |
そのときは
マリナ・ディ・カンポっていうところと
ポルト・アズーロっていうところと、
ミラノにお店があった。
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糸井 |
もう、お店をやってたんだ。
ピース・アンド・ラブ。
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アンリ |
(にこにこ)
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糸井 |
きょうは、このペンダントのお話をしにきました。
1年前、かな。
こんなのがあったらいいと思うんだよねって
ぼくが言ったのが、
スプーンのペンダントだったんです。
そのときに、世の中になかったものなんですけど、
‥‥今、ここにあります。
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一同 |
(拍手)。
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糸井 |
あります。ここに。
確か、簡単に絵を描いたかなあ、
ご飯、食べ終わってから。
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アンリ |
そうでしたね、
ご飯のときでしたね。
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糸井 |
絵を描いたとき、
最初、どう思いましたか?
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アンリ |
糸井さんと最初にお会いしたとき、
2、3年前ですね、そのときから、
ぼくは何か自分とつながる、
通じてるものがあるっていうのを
すごく肌で感じていました。
ですから糸井さんから
スケッチを見させていただいたときに、
これは絶対できる、
いいものができるっていうふうに思って、
それをずっと信じてきました。
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糸井 |
はい、とうとうできましたね。
ぼくがそのときに言ったのは、
「スプーンを身に付けているっていうのを
やってみたいんだよね」って。
それは、気持ちとしては
「スプーンがあれば、いつでも、
食うに困らないじゃない?」
って言ったの。
つまり食べていくっていうことの心配がない、
っていうことが心にあると、
すごくこう、豊かな気持ちになれる。
スプーン持って、
何かおいしそうなものがあったら味見して、
食べたかったら食べてっていうような、
ぼくにとってこのスプーンっていうのは、
好奇心のシンボルだと思うんです。
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アンリ |
ぼくもそう感じていますし、
そのヒントを得て、これができたんです。
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糸井 |
うん。最初、そのスプーンは金属かもしれないし、
木かもしれないし、何かを探そうって思ってた。
その探してる間っていうのは
ぼくもどうなるんだろうなって思ったんです。
最初、アンティークのスプーンを使うという
アイデアもあったけれど、
アンリさんは、革で、いちからつくろうって、
どうやって決めたの?
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アンリ |
ぼくはとても自然に入りました。
革に囲まれて生活もしているし、
革っていうのは自分の手次第で
いろんなかたちにできる。
曲げることもできるし、
膨らませることもできる。
自分の手で暖めてかたちを作る、
っていうこともできる。
ぼくにとっては、革を使うことが
いちばん自然でした。
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糸井 |
こういうかたちのものを作ったことは
今までにはありますか?
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アンリ |
トスカーナ地方の手法なんですけれども、
まず革を塗らして、乾かして、
濡らして、乾かしてっていう手法で、
革のボウルを作ったことがあります。
これですね。
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糸井 |
ほー!
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アンリ |
あとはバッグの底、ですね。
これがそうです。
木でできているベースがあって、
塗らした革を貼り付けて、乾かして、
また、濡らして、もう1回乾かして‥‥
もう、何十回とそれを繰り返す、
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糸井 |
くせを付けていくんだね。
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アンリ |
ええ。そうして硬くなって、
木のようになるんです。
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糸井 |
(カバンの底をたたくと、
コトコトという音)
硬いね!
なるほど、なるほど。
触ってるとだんだんほしくなるね。
なーんだろう、この馴染み感。
まるくなっているぶん、
それだけこの革が人に触れた回数が
多いってことだものね。
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アンリ |
そうです、これは、ほんとに
人が何十回と触ってますよね。
何度も何度も同じ工程を組んでいるので。
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糸井 |
アンリさんの作ってるものって、
全部、人がものすごい数触ってますね。
新品がアンティーク(笑)。
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アンリ |
なぜ手なのかっていうと、
手で作るっていうことが
ぼくの基本だから。
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糸井 |
工場で作ってるものって、
人がどのくらい触らないかっていうのが
新品ですっていうことだったりしますよね。
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アンリ |
そう、新品ていうものは、やはり、
なるべく人が手を触れないでつくる。
それはそうだとぼくも思う。
だけどぼくの作るものは、ちがうんです。
どれだけ人が、どれだけ自分の手が、
この作品に愛情を注ぎ込むか。
そしていちばん最後の目的は、お金ではなく、
自分の情を、この手を使って吹き込むこと。
やっぱりそれが、ぼくにとって、
大切なことなので、
やらずにはいられないんです。
物がたくさん出てけばいいという現代社会において、
たくさん売ることに情熱を注ぎ込むんじゃなく、
ひとつのものにどれだけ愛情を注ぎ込むか。
それを手に持つ人は、
やっぱりすぐわかるんです。
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糸井 |
うん、うん。
今あるものの逆ですよね。
だから物を渡されてるんだけど、
こう、触った時間を渡されてるような。
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アンリ |
ええ。ぼくは少数派かもしれません。
過半数の人たちはもしかしたら、
ブランドありきで、
買いたいっていう意欲が沸く人たちかもしれない。
それにたいしてぼくは
反対のことをやってるかもしれない。
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糸井 |
アンリさんのつくるものは、
「これは何?」
って言わせる力がありますよね。
名前、関係なく。
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アンリ |
とても、すごく、ありがたいお言葉です。
ぼくのつくるものは特別なブランドロゴが
あるわけじゃないんですけど、
たとえばどこかに行ったときに、
「あ、これ、アンリ・クイールでしょ」
っていうふうに言われることがあります。
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糸井 |
うん、言われるよ。
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アンリ |
それってとても嬉しいことなんです。
やっぱりもの作りをする人間っていうのは、
自分に対して限界というものを置いちゃうとだめです。
できないことへのチャレンジを
どんどん続けていかないと、濁ってしまう。
だから自分ができないだとか
限界があるなんて考えずに、
まずやってみる。
それがぼくにとってのエネルギーになります。
しかも大量生産というわけにはいかないので、
ぼくはこの時代の真ん中にはいない人間なんです。 |
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(つづきます) |