セーターにネックレス。HOBO SIRI SIRI 山のコレクション セーターにネックレス。HOBO SIRI SIRI 山のコレクション
「山のコレクション」ができるまで〈ジュエリー篇〉
山との関係が深いスイスの暮らし。
その空気感をジュエリーにしてみたかった。
スイスの山や自然モチーフにしたジュエリーと、
それに合わせてつくったニットという
ユニークな組み合わせでデビューする
HOBO SIRI SIRIのニューライン「山のコレクション」。
その開発の舞台裏へ、みなさんをご案内しましょう。

ジュエリーとニット、それぞれできあがるまでのプロセスを
SIRI SIRIデザイナーの岡本菜穂さんと
ニットブランド「Nahyat(ナヤット)」のデザイナー、
依田聖彦さんに振り返っていただきました。

まずはジュエリー篇からどうぞ。






写真
笛は鳴らなかった
ほぼ日
そもそもは、「海のコレクション」のアイテムが
だいたいひと通り出揃ったこともあり、
別のシリーズにも挑戦してみましょうか、
というのがはじまりでした。
岡本
はい、お話をいただいて、
まずは木を使うことを提案しました。
わたしがいま住んでいるスイスは、海がないかわりに、
山との関係が暮らしの上でとても深くて、
その空気感をジュエリーにしてみたかったんです。
ほぼ日
「パールのつぎは木」という展開はいいなと思って、
ぼくらもすぐ賛成しました。
岡本
そのあと、いろいろ話しているうちに、
「エマージェンシー(緊急)」という
キーワードが浮かびあがってきて。
ほぼ日
山登りのときに、緊急用の笛とか、IDカードでしたっけ、
身元確認できる紙を入れたカプセルを持っていくけど、
そういう要素を入れたジュエリーがあったら、
画期的なんじゃないかという話でしたね。
写真
岡本
それには背景があって、東日本大震災のあと、
日ごろから緊急時にそなえなきゃという意識が
みんなのなかに芽生えたと思うんですけど、
身につけているジュエリーで、
そういうときに使えるものができたらいいなと
当時からぼんやり考えていたんです。
ほぼ日
それで思いついたのが‥‥。
岡本
「緊急時に笛としても使えるジュエリー」でした。
ほぼ日
山に持っていくアイテムから発想しているし、
素材も木だし、「山のコレクション」でいこう。
海のつぎは山だ! っていうので盛り上がりました。
依田
そんな話があったんですか。
ぼくが参加したときには、エマージェンシーとか笛とかの
キーワードはなかったです。
ほぼ日
ああ、そっか、そうでした。
そのときにはもう、笛の案はボツになっていたんです。
岡本
試作を重ねたんですけど、みごとに鳴らなかった(笑)
写真
ほぼ日
がっくりきましたよね(笑)



揺れる・透ける・光るは、モテの3大要素
依田
そのあとどうなったんですか?
岡本
けっこう悩んで、
スイスと日本でスカイプでやりとりしながら、
他の案をいろいろ考えました。
ほぼ日
岡本さんがスケッチを描いてはスマホで撮って、
こっちへ送ってくれたり。
岡本
そのなかにあった、2つのパーツを組み合わせた、
ベルみたいなデザインを試作してみたら、
ネックレスもピアスも、揺れてかわいい音がして。
ようやく「これでいこう!」ということになりました。
ほぼ日
そもそも、ジュエリーとして身につけているものを
笛として吹くのか、と考えたら微妙な気もするし、
結果的に、笛にしなくてよかったかもしれない(笑)
依田
笛がベルになった。
岡本
それで言うと、スイスには牛がいっぱいるんですけど、
牛が首につけているカウベルのニュアンスもありますね。
スイス→カウベルという発想は安直すぎる気がするけど、
知らずしらずのうちにその要素が入ったことで、
自然なスイスらしさが出せたと思います。
写真
ほぼ日
カウベルをモチーフにしていたら、
木でつくらないですもんね。
岡本
はい、あのう、木って、ジュエリーに使うには、
実はむずかしい素材なんです。
日本人は木が好きで、愛着も感じると思うんですけど、
キラッと光る要素がないというか。
「揺れる」「透ける」「光る」っていう、
モテの3大要素があるとやりやすいんです。
ほぼ日
えっ、なんですか、それ?
岡本
私もどこかで聞いただけですけど、
揺れたり光ったりすると、狩猟本能でつかまえたくなるし、
透けるとのぞいてみたくなるということなのかな。
ほぼ日
ああ、男性がね。
つまり、ジュエリーは猫じゃらしみたいなもの?(笑)
岡本
でも、これ、たしかにそういう気もしていて、
SIRI SIRIって実はけっこう、
揺れたり透けたり光ったり、してるんですよ。
依田
今回のネックレスとピアスの場合は、
「揺れ」ですね。
岡本
そう、しっかりモテ要素を取り入れてます(笑)



音が鳴ることが、よろこびにつながる
写真
依田
揺れたときにカラカラと鳴るのもかわいいです。
音が鳴るジュエリーって、わりとあるんですか?
岡本
あんまりないです。
ただ、SIRI SIRIのガラスのジュエリーには、
あえてそうしたわけではないんですが、
つけていると自然に鳴るものがありまして。
写真
SIRI SIRI "CLASSIC Earrings NEROL"
ほぼ日
「ほぼ日」にも、愛用してる人がいます。
岡本
それについて、お客さまが
たのしそうに話してくれることがあります。
「シャラシャラって鳴るから、
まわりは私が来たことがわかるんです」とか。
音が鳴るということが、よろこびにつながる
シーンもあるんだなと、そのとき思いました。
ほぼ日
そうか、もしかしたら「鳴る」っていうのも、
モテ要素の1つなのかも(笑)
依田
これからは、4大要素になる(笑)
これ、ネックレスとピアスで音がちがいますよね。
音で素材の軽さとか、大きさのちがいが伝わるのが
ぼくはおもしろいなと思いました。
岡本
なるほど、音がそれぞれのアイテムの個性にもなる。
ほぼ日
さっきのガラスの場合もそうだけど、
つけている人の存在が伝わる感じがいいですね。
揺れるだけでなく、それが音で伝わってくる。



スイスにいるからこそ、うまれた造形
写真
ほぼ日
かたちは、どんなふうに発想したんでしょう。
岡本
スイスにいると、やっぱり自然に目が行きます。
たとえばハイキングに行くと、
落ちている木の実や葉っぱのかたちや色が、
日本とはぜんぜんちがうんですよ。
そういうのがインスピレーションの源になっています。
それと、ネックレスとピアスには
スワン(白鳥)の要素も入っています。
依田
スワン?
岡本
スイスは湖が多くて、スワンがけっこういるんです。
まじまじと見ると、横顔やくちばしの形状がおもしろくて、
よくスケッチをしていました。
ほぼ日
ああ、この切り欠いた部分ですね。
これを見てスワンを連想する人、いるのかな?(笑)
花とか蕾(つぼみ)がモチーフなのかと思ってました。
写真
岡本
冬場にデザインしていたので、
花よりは木の実のほうを意識していたかな。
ただ、蕾は意識して見ていました。
ほぼ日
ブローチのほうはいかがでしょう。
岡本
これは、スイス伝統の「糸巻き」がモチーフです。
スイスにはレースをつくる伝統があって、
レース用の細い糸をつくる技術があるんです。
ですから、昔はこういう糸巻きが
ふつうにキッチンなどに置いてあったそうです。
はしっこに装飾がしてあって、
置いてあるだけでも華やかでかわいいですよね。
写真
ほぼ日
なるほど、あらためて見るとどれも、
岡本さんがスイスにいるからこそ、うまれた造形ですね。
岡本
はい、ふだんスイスで見ているものを頭の中でまとめて、
それをかたちにした、という感じでしょうか。
どのアイテムも基本はろくろや旋盤の技術でつくっていて、
ネックレスやピアスの切り欠きのところは、部分的に、
木彫という技術を持ったかたに、つくってもらっています。
依田
ろくろと木彫でたずさわる人がちがうわけですか。
岡本
はい、1つの技術だけではつくれなくて、
加工する場所も、それぞれちがうんですよ。
ほぼ日
実はぜいたくなつくりなんだなあ。



だんだん味わいが増して、
「山のお守り」感が出てきたらいい
ほぼ日
これ、使い込んでいくとどうなっていくんでしょう。
岡本
クルミオイルで仕上げているので、
だんだん飴色になっていきます。
乾燥してきたら、クルミオイルか、
あるいはオリーブオイルでもいいんですけど、
たまに塗ってあげると、すごく艶が出て、
いい感じの深い飴色になっていくと思います。
依田
ネックレスの紐もヌメ革だし、
身につけるほどに味わいが出てくる。
経年変化がたのしめるジュエリーという点もいいですね。
ほぼ日
なんか「山のお守り」みたいな感じの、その人にとって
愛着のある存在になってくれたら理想的です。
依田
おばあちゃんになってもつけてたら、相当すてき。
岡本
いいですね。
依田
カラカラ。
あの音が鳴ると、あのおばあちゃん。
ほぼ日
カラカラカラ。
あっ、おばあちゃんまた来てる。
依田
カラカラカラカラカラカラ。
きょうのおばあちゃん、あわててるみたい。
岡本
ふふふ、おもしろい。
ほぼ日
鳴るっていうの、なんか、こうやって話してても
おもしろいポイントですよね。
岡本さん、くわしいお話をありがとうございました。
さて、依田さん、おまたせしました。
つぎはニットについてうかがいましょうか。
写真
(つづきます)









こぼれ話
岡本菜穂、スイス留学のひみつ
写真
ほぼ日
あの、そもそもスイスに行かれた理由って、
なんだったんでしょう。
岡本
2006年からSIRI SIRIのデザインをずっとしていて、
つぎのステップのためにも、
自分のあらたな可能性を探究したかったんです。
東京にいると流行に左右されやすいですし、
いちど日本から遠いところに行って、
プリミティブな創作意欲をもう1回見直したくて。
勉強できるところを探していたら、
たまたまスイスにあったということなんです。
ほぼ日
でも、いきなり海外に行くって、
ふつうは、なかなかできないですよね。
いまやってる仕事ができなくなったり、
留学のあいだに事業が失敗しちゃうかもしれないし。
岡本
はい、そのリスクは当然あります。
ただ、プロデューサーの視点で考えると、
SIRI SIRIが100年とか200年つづくのだとすると、
まだぜんぜん最初のほうなんです。
だから多少の失敗はしょうがないと思っていますし、
スタッフを信頼しているので、心配はあまりなかったです。
ジュエリーは小さいので、
気がるにサンプルを送ったりもできますし。
ほぼ日
うーむ、なるほど、すごい考えかただ。
依田
うらやましいです。
ぼくも、自分のつくるものの限界が見えてきたときに、
そこで止まっちゃうのが怖いです。
岡本さんみたいに踏み出せるのって、
クリエーターとして望ましいかたちだなと思います。
環境を変えるのがいちばん早いんですよね。
見えるものがちがうから。
写真
ほぼ日
岡本さんも、スイスに行く前は、
「このままだとちょっとまずいぞ」という
感覚があったんでしょうか。
岡本
はい、出しすぎちゃってるなと思っていました。
今まで400種類くらいデザインしてるんです。
ものづくりは好きなのでアイデアは出てくるんですけど、
それとは別のものを見たい、という探求心ですよね。
依田
ものをつくってて一番うれしいのって、
自分が想像してないものが
できたときだったりするじゃないですか。
イメージしてる通りにしかできなかったら、
おもしろくない、自分が。
岡本
そうそう、そのへんは受け取るがわのユーザーも、
実はすごく敏感ですよね。






<これまでの予告>



岡本菜穂さんのでモチーフをさがす旅


HOBO SIRI SIRI 山のコレクション