▲左から、和田美佐子さん、なかしましほさん、三谷ふきさん。
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まずはクオカさんにうかがいます。
今回の開発は、やはりたいへんでしたか。
- 和田
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そうですね、
料理家のかたからオーダーをいただいて、
商品を開発することはあまり経験がないですし、
ここまでやりとりをしてつくりあげたのも、
今回がはじめてでしたので。
- 三谷
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なかしまさんの理想形に近づけていくのが、
ほんとうに難しかったです。
最初のころの試作品は、
だいぶ遠いものをお送りしていました。
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- けっきょく、完成までに何種類の試作品を?
- 和田
- お送りしたのは6種類くらいです。
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- 6種類‥‥。
- なかしま
- すみません、わたしが遠慮なく注文をしたので。
- 和田
-
いえ、イメージに近い試作品を
最初からお渡しできず
こちらこそ申し訳ありませんでした。
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- 試作を重ねていくやりとりは、
具体的にはどういうことからはじめたのでしょう?
- なかしま
-
最初は、発酵でつくろうと思っていたんです。
「イースト菌で発酵させるミックス粉を」
というのが最初のリクエストでした。
- 和田
-
そこでもう、最初から途方に暮れまして(笑)。
イーストをミックス粉に入れることが、
どの工場さんでもできないんです。
イーストを別添えで付ける案もあったのですが、
それを実現するのも難しくて、
「どうしよう、どうしよう」と考えていました。
- なかしま
-
一方そのころわたしも、
イーストを使ったミックス粉を
自分で試作していたのですが‥‥
つくりながら「あれ?」って思ったんですよ。
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- なにか疑問が?
- なかしま
- どんどんパンに近づいていくんです。
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パン?
‥‥ああ、イーストを使っているから。
- なかしま
- 「わたしがつくってる、これはパンだ」(笑)。
- 一同
- (笑)
- なかしま
-
イーストを使うよさはもちろんあるのですが、
もっとおやつっぽさがほしくて。
もう一度スタートに戻ろうと、
イーストを使うのはやめることにしました。
で、ベーキングパウダーでつくったら、
「あ、やっぱりこっちのほうがおいしい」って、
素直に思えたんです。
‥‥(クオカのふたりに)ほんとにごめんなさい。
- 和田
- いえいえ(笑)。
- 三谷
- イーストではなくなってホッとしました(笑)。
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- つまり最初のリクエストを変更したんですね。
- なかしま
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変更しました。
やっぱりベーキングパウダーでいきます、と。
正式にはじまったのはそこからです。
まず、市販のミックス粉をいっぱい買って、
試食をして、
「私だったらこういうふうにしたい」
というのをつくり、クオカさんにお渡ししました。
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そこから何回ものやりとりがあって、
試作品を6種類以上つくって‥‥。
完成したこれは、いかがでしょう?
- なかしま
-
いちばん驚いたのは、
ベーキングパウダーを変えることによって
ここまで違うのか、というところです。
- 和田
-
業務用で出回っているベーキングパウダーには、
数百もの種類があるんです。
さらに配合を変えたものも含めると、
本当に数えきれない種類の
ベーキングパウダーがあります。
そのなかから、苦味が出にくいもので、
焼いたときにパっと膨らむものを
選んで使わせていただきました。
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‥‥あの、初歩的な質問で恐縮です、
ベーキングパウダーって、何なんでしょう?
- なかしま
-
役割りとしては「膨らし粉」ですね。
生地を膨らませて、熱の通りをよくするもの。
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- 膨らし粉‥‥何のパウダーなんですか?
- 三谷
- メインは「重曹」と考えていただければ。
- なかしま
-
重曹に、重曹のはたらきを助ける
添加物を加えるのですが、
保存中にこのふたつが反応してしまうのを防ぐために
コーンスターチを加えています。
ふんわり膨らませたいけど、
たくさん入れると生地がかたくなったり
苦味が出てしまうので、
加減がすごく難しいんです。
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- ‥‥奥深い世界です。
- なかしま
-
今回のこれはとにかく口溶けがよくて、
しかも苦味が出ない
ギリギリのところで抑えてくださっています。
それと、アルミニウムが入っていないのも
たいせつなポイントです。
アルミニウムが入っていないベーキングパウダーを
というのは、最初の希望でしたので。
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なるほど‥‥。
ベーキングパウダーだけでも
お話がいくらでもできそうです。
もうひとつの大きな特徴として、
「全粒粉を使用している」
ということをうかがっていました。
- なかしま
-
そうですね、全粒粉。
全粒粉を入れるのが難しいというのは
うかがっていたんです。
でも、このミックス粉の個性として、
全粒粉の素朴な風味を加えたかったんです。
それでまたクオカさんに難しいお願いを‥‥。
- 和田
-
はい(笑)。
難しい理由は、全粒粉を使うと
賞味期限が短くなるんです。
そこで今回は、工場で袋に粉を入れるとき、
なるべく空気を抜いてもらうようお願いしました。
さらに袋の中に「脱酸素剤」を入れることにしました。
コストはかかるのですが、
全粒粉入りを実現したかったので。
- なかしま
- ありがとうございます。
- 和田
-
「脱酸素剤」は、お客さまがまちがえて
入れたままつくってしまう可能性があるので、
そこは十分に気をつけていただきたいです。
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それは危険です。
ここでも注意書きとして記しておきますね。
「おやつミックスの袋を開けたら、
脱酸素剤を必ず取ってください」
- 三谷
-
あとは、そう、
お砂糖も選んで使われていますよね。
- 和田
- きび砂糖を。
- なかしま
-
きび砂糖。
これはfoodmoodのおやつでも定番のものです。
そして、バターミルクパウダーも入っています。
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‥‥またもや初歩的な質問で恐縮です、
バターミルクパウダーとは?
- 和田
-
クリームのなかから、
油の部分を取り出したものがバターです。
そのバターを取り出して、
残った液体がバターミルクパウダーの元、
バターミルク。
牛乳のおいしさが詰まった
水みたいなものなんです。
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それがパウダー状になったものが、
バターミルクパウダー。
- 和田
-
はい。
いま、国産のものはなかなか手に入らないんです。
最近はオーストラリア産や
ニュージーランド産が多いのですが、
国産のものとは匂いがちょっと違ってしまって。
- なかしま
-
国産のもので良質なものは、
しっとりしていてコクがある。
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「おやつミックス」に入っているのは、
国産なんですね。
- 三谷
- そうです。
- 和田
- 今回、最も入手が難しかったものです。
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-
はぁー。
材料はすべて国産ですし‥‥
ほんとにぜいたくなミックス粉なんですね。
- なかしま
-
最後の最後まで、塩の加減など、
いろいろと調整していただいて
手間と時間をかけましたので、
その意味でもぜいたくなミックス粉だと思います。
研ぎ澄まされたものができました。
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なかしまさんとクオカさんの
メールのやりとりを見ていたのですが、
すごくスリリングで(笑)。
- なかしま
- すみません(笑)。
- 三谷
- いえいえ(笑)。
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最後の試作品に、
なかしまさんのOKが出たときは感動しました。
- なかしま
-
わたし、いまでも覚えてます。
土曜日でした。
届いた試作品をつくって食べて、
あんまりびっくりして、
ほぼ日の担当さんにすぐメッセージしたんです。
土曜だからお休みだろうなと思ったんですけど、
しらせずにいられなかったので、
「たいへんだ!」と。
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届きました、
「たいへんだ!」のメッセージが。
- なかしま
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foodmoodのスタッフにも
急いで食べてもらいました。
何も言わずに出したんですよ。
そしたら「変わりましたね」って。
明らかに製造スタッフがその変化に気づいた。
- 和田
-
もっと早くご希望に合うものをつくれていれば‥‥
ご迷惑をおかけしたと思っています。
- なかしま
-
そんなことはないです。
あのやりとりがなければわからないことが
たくさんありましたから。
それにわたしも、クオカさんならやってくださる
という信頼についつい甘えて、
遠慮なくリクエストしちゃったので。
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こうして完成したミックス粉は、
「おやつミックス」と名付けられました。
あえて、「ホットケーキミックス」ではなく。
- なかしま
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ホットケーキミックスの配合って、
多くのお菓子をつくる基本的な割合なんです。
せっかくですから、
ホットケーキ用のミックス粉と限定せず、
もう少し広がりがあるとたのしいなと思って。
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- いろんなおやつに挑戦してほしい。
- なかしま
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はい。
とはいえ、やっぱり、
まずはホットケーキを焼いてみると、
この粉がどういうものなのか、
いちばんシンプルにわかってもらえると思います。
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まずは、ホットケーキ。
それからいろいろ自分なりのアレンジで。
- なかしま
-
これがあれば、あれこれ買って準備しなくても
簡単においしいおやつづくりができます。
ぜひ、挑戦してみてほしいです。
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- ‥‥いやぁ、できましたねー。
- なかしま
- できました。
- 和田
- よかったです、ちゃんとできて。
- 三谷
- ありがとうございました。
- なかしま
- こちらこそ、ありがとうございました。