HOBONICHI TECHO 2011
思いをのせたファブリック。 皆川 明さんに聞きました。(memories of rain 編)

2011年のカバーラインナップのなかでも
ひときわ存在感を放つファブリックカバー、
<memories of rain> <sleeping rose>
ご好評により、いち早く完売しておりましたが
本日27日より再販売を開始しました。

たくさんの人の心を惹きつけた
このふたつのファブリックカバーは、
ファッションブランド「ミナ ペルホネン」の
デザイナー、皆川明さんとの出会いによって生まれました。

<memories of rain> と <sleeping rose>は、
いずれも皆川さんが、英国の老舗テキスタイルメーカー、
リバティの2010年秋冬コレクションのために
デザインした新作ファブリックです。

このファブリックがどのようにして作られたのか、
皆川さんにうかがったお話を、
本日と明日の2回にわたり、お届けします。

皆川 明さんプロフィール

ーー 「ほぼ日手帳2011」の手帳カバーとなった
ふたつのファブリックは、
リバティの2010年秋冬コレクションとして
発表されたものですが、これは、
なにかテーマに沿ってつくられたものですか?
皆川 いえ、テーマというものはいっさいなかったんです。
自分のなかでのテーマとしては、
自分らしく、リバティらしく、
そしてもうひとつ、
でも、リバティではない。
やはり外部のデザイナーである自分が
つくる意味をどこかにもたせたいと考えていました。

ーー それをご自身のテーマに。
皆川 そうですね。
リバティらしくて、リバティらしからぬ、
その接点はなんだろうか、ということを
考えることからスタートしました。
ーー その接点は、微妙そうです。
皆川 ええ、その微妙なさじかげんのところに
着地できたらと考えていて。
それで、ひとつ思い描いたのは、
社内のデザイナーが出した企画としては、
通りにくいかもしれないけれど、
でもリバティのファブリックとして
じつは、不自然ではない。
そんなデザインが着地点かなと。
ーー それは、どういった?
皆川 たとえば、
この <memories of rain> の柄は、
にじませる、ということを
ひとつのポイントにしているんですが、
通常、プリントで「にじみ」というと、
「ミスプリント」といって、
失敗として扱われるようなことなんですね。

でも今回は、そういうミスプリントのような
にじみの表情をあえてつくることで、
柄の自由度を表してみようと考えたんです。
ーー 絵の具のにじみですね。
皆川 ええ。これを、仮に社内のデザイナーが、
「にじんだようにしたい」と提案したとすると、
「不良品みたいに見えてしまうからだめだよ」、
みたいにいわれるかもしれない。
そんな社内の企画会議のようなことを
あたまのなかで想像しまして(笑)。
ーー (笑)ひとり企画会議を。
皆川 でも、外のデザイナーが提案したものなら「OK」と、
まぁ、イベント的な意味合いも含めてですが、
通っていくというようなことがあるんです。
でも、そうやって
外部のデザイナーだからできることというか、
外からの視点を差し込めたほうが、
伝統的なリバティの方向性ともちがう
アプローチができて、
新しい空気を感じてもらえるものが
できるんじゃないかと考えたんです。
ーー ほぼ日手帳のカバーとしても、
新しくて、とても魅力的なカバーになりました。
やはり手描きの力なのかなと思うのですが、
生命力があって、軽やかで、たのしげで。
皆川 いたずら描きのようでしょう。
ーー 子どものハミングが聴こえてきそうで、
ごきげんな感じが伝わってきます。
きっと、たのしんで描かれているんだろうな、
と想像していました。
皆川 それが伝わっているなら、うれしいですね。
ーー <memories of rain> という名前も
ものがたりを思わせるようで
とてもすてきです。
名前は、先にイメージとして
決まっているのですか?
それとも描きあがってから?
皆川 描きながら、ですね。
これは、子どもが絵を描くように、
躊躇なく描いていこうと思ったんです。
子どものころにそうだったように、
うまいとかへたとか、
バランスや構図といったことは考えないで、
自分の気持ちをただ、紙にのせていくということ。
デザインとしての完成度とかじゃなくて、
気持ちだけをのせて柄を描く、ということを
やってみたんです。
  なので、 <memories of rain>という名前には、
そういう、子どものころの気持ちを憶い出して、
という意味を含んでいるのと、
「レイン」というのは、にじませているので、
そこに雨が降っているイメージですね。
ーー ちょうちょや花や、いろんなモチーフみんな、
バランスとか配置もとくに考えずに。
皆川 そうです。これはもう、
あたまが考えてしまわないように、
どんどん描いて、あっという間に
描きあげた感じでした。
ーー どんどん手を動かして。
皆川 あたまが手に追いつくと、
っていうと変な表現ですけど、
そうするとどうしても作為的になるので、
あたまに追いつかれないように描く、
という感覚がいちばん近いです。
ーー なるほどー。
とても軽やかな感じがするのは
作為がないこととか手の勢いとかに
ひみつがありそうですね。

ところで、あちらのお洋服は
もしかすると、 <memories of rain> の
色ちがいの生地でつくられたものですか?
皆川 ええ、そうです。
この生地は、
うち(ミナ ペルホネン)の製品としては、
子ども服のラインで展開しているんです。
遊んでいて絵の具をつけちゃった、
みたいな感じにも見えるかな、と。
ーー はい、ほんとに。
とても、かわいらしいです。
皆川 たぶん、子どもがこの柄を見ると、
大人の視点とはまたちがうかなと
想像しているんですけどね。
「へただなぁ」とか、
思われるのかもしれない(笑)。

(明日は <sleeping rose> についてのお話をお届けします)
前編はこちら

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