「ウクライナの花」のカバーを彩る かわいらしい花の刺繍は、 ウクライナの民族衣装(ソロチカ)にみられる うつくしい刺繍たちをもとにデザインされています。 今回、ウクライナの刺繍文化を研究されていて マスターの称号をもつユーリ・メルニチュクさんにお会いし、 ソロチカについて、そして ウクライナの刺繍について教えていただきました。 ほぼ日手帳2013ラインナップ

ユーリさんに会うために訪れたのは
こちら、ウクライナの首都キエフにある
「イワン・ホンチャール博物館」

 

 

 

この博物館には、
イワン・ホンチャールさんが集めた
たくさんの民族衣装(ソロチカ)や
刺繍生地が収蔵されているほか、
民芸品や書籍、写真などが展示されています。

 

 

 

このイワン・ホンチャール博物館の一室が
ユーリさんのお部屋です。

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました。」
と、笑顔で迎えてくれたユーリさん。
ウクライナの刺繍やソロチカのすばらしさを、
たっぷりとお話してくださいました。

ウクライナの民族衣装・ソロチカには たくさんの刺繍がほどこされています。
 
ソロチカの刺繍は、地方ごとに模様がちがう。

ソロチカをうつくしく彩る刺繍は、
地方によって模様が異なります。
つまり、見る人が見れば
「あれはどこどこ地域出身の人だ」
ということがわかります。
写真の4人が着ているソロチカは
左から東ポリーシャ、
ポルタヴァ、西ポリーシャ、
チェルニーヒウのものです。
 
   
刺繍が、「悪しきもの」から身を護る。

ソロチカの刺繍は
病気や悪霊などの「悪しきもの」から身を護るための
「魔除け」の意味があります。
その「悪しきもの」が入ってこないように、
袖、襟元、裾などの外界との境目には
念入りに刺繍がほどこされています。

 
   
女性は、刺繍と同じく魔除けの意味で
ネックレスをする習慣があるため、
女性用のソロチカは、首もとの刺繍が控えめ。
それに対して、
男性用の首もとには
しっかりと刺繍されています。
 
   
ソロチカとは、「高級な布」のこと。

ソロチカという名前の由来は、
ウクライナ語で「40」の数を表す「ソローク」から。
40とは、糸の太さを表す番手のことで
ふだんより細い糸をつかっている
高級な布だ、という意味がありました。
 
斜めの線の刺繍模様は、 運を切り開く、という意味があります。
 
刺繍の方法は200種類以上、  ソロチカの模様は数千のパターンがある。

刺繍の方法は200種ほどあり、
模様にいたっては数千あるといわれています。
白地に赤の刺繍が伝統的な配色で、
大地とのつながりを抽象的に表したモチーフや
幾何学模様の刺繍がほどこされました。
最近では、カラフルで具象的なモチーフも
見られるようになりました。


「ウクライナの花」のバタフライストッパーは、
西ポリーシャのソロチカの袖の模様を
参考にされたんですね。
この地方のソロチカの袖は、左右で斜めの線が逆、
つまり「ハ」の字状になっています。
これには、
舟先が氷を割って進んでいくように、
悪いものを裂いて
運を切り開くという意味があります。

 


 
   
ウクライナ刺繍は、裏も表もうつくしい。

ウクライナ刺繍の特長の1つが、
刺繍生地の裏側もうつくしい、ということ。
表と裏が、写し鏡のようになるよう、針を進めます。
これは、単に裏から見たときのうつくしさだけでなく、
生地の表と裏は心を表す、という意味合いから、
大切だと考えられています。

 
   
結婚に対して重要な役割をもった、刺繍生地。

表も裏もうつくしい生地は、
聖像画にかけられたり、
結婚式のときにその生地の上に立って
誓いの言葉を告げるたりするなど、
重要な役割をもっていました。
嫁入り道具としての刺繍生地は、
女性が結婚が決まる前からつくりはじめます。
大事なことは、針を進めるときに
ポジティブなことをイメージすること。
そうすることで、
自分の未来もポジティブなものになると
考えられています。


男女が生地のどちらに立つのかも、
わずかな模様の違いなどによって決められています。
たとえば、この生地では
鳥のモチーフが雄と雌、左右で区別されています。
ほかのモチーフの意味は、
両端の波打つようなギザギザは「ハーモニー」、
その横を太く彩る芥子の実は「魔除け」、
四角が5つ並んだモチーフは「太陽」、
5つの点と5本の線のモチーフは「月」。
ご紹介したのはほんの一部で、
すべてのモチーフに意味があるんですよ。


取材の最後、ユーリさんが
「終わりのない形」である「うずまき」のモチーフを
実際に刺繍してくださいました。
スイスイと針が進んでいき、
しだいに刺繍が浮かび上がっていくさまは爽快です。
どうぞ、動画でおたのしみください。

 

 

ユーリ・メルニチュク(Yuriy O. Melnychuk)さんのプロフィール

 

イワン・ホンチャール博物館副所長。
1992年にウクライナの古い伝統的な刺繍を
復活させるためのグループ"Tsvit"を設立し、
翌1993年には刺繍の文化活動功績において
"master craftsmen"の称号を受賞した。
現在はウクライナの民族刺繍の組成や歴史、意味論や
民族衣装のパターンを教えるとともに、
他の"master craftsmen"と一緒に、
ウクライナのさまざまな地域の民族衣装を着た人形
 "Dolls in the folk costumes"を制作するプロジェクトを行っている。

    「刺繍をさがして、ウクライナへ」
今回の撮影には、以下の方々にご協力いただきました。  

・明知 直子

 スウェーデン在住の写真家。
 年明け早々、お住まいのスウェーデンから
 ウクライナに行っていただき、
 今回の撮影をしてくださいました。

 

サンウェイツアー(Sun Way Tour) 
 ウクライナの旅行会社。
 社長のトムズさん自ら、
 今回の旅をコーディネートしてくれました。

イワン・ホンチャール博物館(Ivan Hochar Museum)
 キエフにある国立博物館。
 刺繍をはじめとする民芸品や書籍、写真などが
 約3万点収蔵されています。

 

 
2013-02-08-FRI