知るとますます、持っていてうれしい。 無数のアーカイブから選び抜かれた 「タイ&チーフ」の生地の話。
 
  「ほぼ日手帳2013 WEEKS」の 人気シリーズ「タイ&チーフ」。 ジャカード織機で織られたネクタイ生地の質感と アメリカン・トラッドの雰囲気をたのしめると同時に フォーマルな場でもしっかり活躍してくれる、 使い勝手のよいWEEKSです。 今回はこの「タイ&チーフ」シリーズについて、 「生地」にスポットをあてて、ご紹介することにしました。 製作に携わってくださったネクタイ生地メーカー、 和商(わしょう)さんの事務所にて、 興味深いお話をたくさん、お聞きしてきましたよ。
ほぼ日手帳2013ラインナップ
 

株式会社和商 高比良篤志さん

 

「和商」は1957年創業、
ネクタイ、マフラー、ストールなど
首まわりの商品を中心に、
さまざまな服飾雑貨を製作しているメーカーです。
毎年つくられているネクタイの数は、数十万本。
国内外の多くのファッションブランドのネクタイの
共同開発もされてきています。
お話しくださった高比良さんは、
「タイ&チーフ」シリーズを担当してくださった方。
「ぼく自身もまだまだ勉強中ですが‥‥」と言いつつ、
とても丁寧に生地や柄のことを教えてくださいました。

和商さんの、すごい資料室。
ほぼ日 (和商さんの資料室にて)
わぁ‥‥この資料の数、すごいですね。
時代を感じさせる資料も、たくさんありますね。
高比良 ここはネクタイ生地の資料室です。
うちの会社がこれまでつくってきた
ネクタイ生地のアーカイブや、
過去にうちの会社の人間が集めてきた
膨大な数の資料を置いてあります。
数自体、非常に多くて、
中には100年以上前のものなど貴重なものも多いので、
この資料を専門的に管理しているスタッフもいます。
小さな図書室のようになっています。

‥‥ちょっと見てみます?
ほぼ日 はあー‥‥‥‥すごい。
こういった資料は、
どのようにして集められたものなんですか?
高比良 これらの資料は
イタリアやイギリスの創業の古い生地メーカーから
アーカイブ資料を譲っていただいたり、
国内のネクタイ工場の廃業時に
いただいたものだったり、
海外の古本屋に置いてあるものを
たまたま見つけて買ってきたものだったり、ですね。
今も、社員が国内外で、
ここにない柄を見つけてきては
アーカイブを増やし続けています。
ほぼ日 このたび一緒につくらせていただいた
「タイ&チーフ」シリーズについても、
こちらの資料をもとに生まれたんですよね?
高比良 そうですね。
そのまま採用したものと、
資料をもとにオリジナルデザインを
起こしたものとがあります。
どれも最初、この部屋にある資料を
デザイナーさんと「ほぼ日」さんに見ていただき、
いろいろ相談しながら決めていきました。
アメリカン・トラッドの定番柄をつかった  「タイ&チーフ」シリーズ。

高比良 たとえばこちらは、
イタリアの「TINO COSMA」というブランドが、
過去のネクタイ生地のアーカイブをぜんぶ集めて、
本のように編集しなおしたブックです。
古いネクタイ生地がひとつひとつチップの形で
収録されています。
「レジメンタルストライプ」の表紙デザインは
こちらのブックから生まれたものなんですよ。
ほぼ日 ‥‥眺めているだけでたのしいです。
高比良 今回の4月はじまり版のWEEKSの表紙になった
レジメンタルストライプは、これですね。
そばに書かれた「Old Albanian」というのが
この生地の名前。
きっと、もともとアルバニアの軍隊のものなんでしょうね。
ほぼ日 レジメンタルストライプはもともと
軍隊の旗を起源に持つもの、と聞いたのですが。
高比良 16、17世紀のイギリス陸軍の連隊旗が
発祥と言われています。
それぞれの連隊が「自分の隊を見分けやすいように」と
つくられたストライプなんです。
それが、イギリス以外のヨーロッパの他の地域とか、
アメリカだとかに広まっていって、
さらに時が流れて、アメリカの大学のクラブとかで
「自分たちはどこどこの大学のボートクラブですよ」
といった「自分の所属するクラブ」を主張するために
使われるようになった。
そこから「アイビー」や「プレッピー」といった
アメリカン・トラッドの定番柄に
なっていったもののようです。
ほぼ日 「アンカークレスト」の手帳のような、
「クレスト柄(小紋が並んだ柄)」も
アメリカン・トラッドの定番柄ですか?
高比良 ええ、クレスト柄もアメリカン・トラッドで
非常によく見られるデザインです。
レジメンタルストライプと同じように
イギリスが発祥で、
同じく「軍隊を示すためのデザイン」としても
つかわれてきたデザインなんですが、
起源はもっと古く、さかのぼれば
十字軍の盾のマークまでたどりつく、という話もあります。
 

(クレストの歴史が書かれた本「Shield and Crest」。
 和商さんの資料室には、こんな資料までありました)

 

クレスト柄としてよく使われているのは
王冠のマークと、
あとは月桂樹の葉のデザインでしょうか。

今回の手帳の「アンカークレスト」のような
錨(アンカー)のマークもけっこう見ますね。
錨マークはとくに「マリンスタイル」という
海を意識したコレクションのなかに
登場していることが多いと思います。

ほぼ日 もう一つの「ピンドット」も?
高比良 ピンドット単体が、というわけではなく
ドット柄全体がアメリカン・トラッドの
ファッションの中によく登場しますね。
イギリスのファッションにもよく登場するので
ドット柄=アメリカントラッドではないのですが。
非常に古典的な柄で、50s'のマリリンモンローの時代に
一世風靡した柄でもあります。
ラルフローレンでも、毎シーズン水玉ってありますし、
ずっと人気のある柄ですね。
上質な服をあえて  着くずすようにつかってほしい。
ほぼ日 「タイ&チーフ」と合うファッション、
というのはありますか?
高比良 そうですね‥‥ネクタイのセオリー的には、
ジャケットにスラックス(パンツ)という、
いわゆる「ジャケパン」スタイルが
王道の合わせかたと言えるとは思います。
グレーのスラックスをはいて、紺のブレザーをはおって、
白いシャツを着て、Vネックのチルデンセーターを着て
そこにレジメンタルのタイをつける、みたいな。
ただ、これはあくまで
セオリーとして言えば、というものなので、
定番はこうなんだな、というくらいに考えて、
自由にたのしんでいただくのがいいかな、と思います。
ほぼ日 たくさんのネクタイをご覧になってきた
高比良さんご自身の感覚だと、
この手帳は、どんな服に合うと思われますか?
高比良 ああ(考える)‥‥個人的には、
アメリカの学生が持っていたらかわいいと思いますね。
あと、やはり、いまとても人気のある
プレッピーのアイテムのひとつとして
考えていくと、つかいやすいかもしれません。
上質な服をあえて無造作に着くずすように
身につける、といいますか。
ほぼ日 あ、なるほど。
高比良 あと、国としてイメージするのはやはり、
アメリカのファッションですね。
この手帳はストライプの流れが
左上から右下に流れているアメリカ式ですから、
(※右上から左下に流れるのはイギリス式)
ネクタイに詳しい方などは、この柄を見て
「あ、アメリカのネクタイだな」と
感じるのではないかと思います。
持ち歩きに適した、  摩擦に強い、毛羽立ちしにくい生地。
ほぼ日 この「タイ&チーフ」の生地の
特徴というものはありますか?
光沢があって、すこし特徴的な生地ですよね。
高比良 そうですね。
今回の「ほぼ日手帳 2013 spring」の
「タイ&チーフ」の生地はどれも、
ジャカード織のなかでもとくに
「レップ織り」という織り方をしています。
これは通常の織りに比べて、約2倍の糸が使われている、
ざっくりと言えば「詰まっている」織り方なんです。
糸量が多いので、織る時間もかかりますけど、
そのぶん組織が非常に強くなります。
だから、摩擦に強くて、毛羽立ちしにくいという特長があります。
ほぼ日 あ、そうなんですか。
高比良 ええ、1年間持ち歩く手帳としては
適した織り方の生地だと思いますよ。
ほぼ日 なるほど。

‥‥今日は知らなかったことをたくさん教えていただいて、
とても勉強になりました。
高比良 ぜひ多くのかたにつかっていただけたら、いいですね。
ほぼ日 ほんとうに!
どうも、ありがとうございました。
高比良

こちらこそ。

 

(高比良さん、どうも、ありがとうございました!)

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2013-02-12-TUE