刺繍での表現をはじめて間もないころ、
がたついたり、不揃いだったりして
自由でやわらかい手刺繍というものがあるのに、
機械の刺繍になると、
どうして、均一化された硬い印象のものに
なるのかなぁと思っていて。
機械の力は借りつつ、
手刺繍のような表現ができたら。
そんなふうに刺繍の可能性を感じていたので、
フリーハンドでスケッチを描いて
そのタッチを刺繍に起こそうと試みました。
単純な図形のほうがわかりやすいだろうと思い、
デザインしたのが、「tambourine」なんです。
![](images/20140107/1.jpg)
2000年の秋冬コレクションで
はじめて世に出た「tambourine」。
ベージュの生地とブラウンの刺繍糸という
やさしい色合いのあたたかみのある生地で、
ワンピースなどがつくられた。
丸という単純な図形を刺繍するとき、
今までは均一に刺すのが一般的とされていたのを
ひと粒ひと粒、ちがう形の粒にして
遠くからみると同じような集合体なんだけれど、
よくよく見てみると個体差があるようにしました。
![](images/20140107/2.jpg)
よく見ると、ひとつひとつの粒によって
糸の方向や盛り上がり方、大きさなどが
微妙にことなっているのがわかる。
「tambourine」のポコっとした刺繍は、
ひたすら刺繍糸を重ねてつくっています。
その分、時間も人の手もかかっていくんですけど、
わたしたちミナ ペルホネンは
刺繍をレリーフのように捉えていて、
立体的な刺繍柄をつくるということが
1つの特長になっています。
![](images/20140107/3.jpg)
刺繍糸を往復させることでポコッとした
ふくらみをつくりだしている。
針が往復する分の時間がプラスされ、
13.7mの生地をつくるのに、4時間ほどかけられている。
前に一度、手書きで星をいっぱい描いた
「galileo(ガリレオ)」というテキスタイルがあって、
それを刺繍でもやってみたいな、と思っていました。
「星」ときいたら、誰もが思い浮かべる
「5つ角がある星型」ではない表現だったら、
刺繍でできるんじゃないかと。
やってみたら、花のようにも見えて、
おもしろいテキスタイルになりました。
![](images/20140107/4.jpg)
「skyful」の元となった、「galileo(ガリレオ)」。
皆川さんが鉛筆で描いた無数の星たちが
ひしめき合っている。
今まで、たくさんの刺繍の柄をつかった
テキスタイルをつくってきましたが、
布全体をここまで密に覆ってしまうほど
刺繍を刺すということは
この「skyful」がはじめてでした。
「tambourine」のようにポコッとした刺繍があったり、
専用のメスで穴をあけてから糸でかがったりして、
柄が単調にならないような工夫も加えました。
![](images/20140107/5.jpg)
生地全面に刺繍が入ることにより、
開発時には、生地が予想以上に縮んでしまうなどの問題も。
生地の伸縮は気候にも左右されるため、
細心の注意を払ってつくりあげられている生地の1つなんだとか。
「満点の星」をイメージしたテキスタイルなので、
光沢感を感じていただけるように、
ブルーとグリーンはレーヨンの糸を、
ピンクとイエローは綿の糸をつかっています。
[yellow mix]と[blue mix]で
だいぶ印象がことなりますが、
実は、イエローか黒かだけのちがいだけなんですよ。
ピンクの色のたちかたも、
この2つでずいぶんちがうように感じられます。
色は、その隣になに色があるのか、
何色といっしょにくっついているのかが
大事だと思っています。
![](images/20140107/6.jpg)
コットンとレーヨンの糸をつかいわけることで
レーヨンの艶っぽい質感が強調され、
夜空に輝く星を表現している。
複雑で精巧なミナ ペルホネンの刺繍生地は、
神奈川県の山間にあるレース工場でつくられています。
![](images/20140107/7.jpg)
2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI
刺繍生地の制作は、
皆川さんがスケッチを描くところからはじまります。
そのスケッチには、
「この丸は平坦で、この丸は盛り上げたい」
「この木の葉は、左から吹いている風に吹かれている」などの
皆川さんの意志が込められてます。
![](images/20140107/8.jpg)
2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI
レース工場の佐藤さんは、
20年以上、皆川さんと刺繍生地をつくってきました。
その経験に基づいて、
皆川さんが描いたスケッチの
色の濃さ、線の太さなどから意志をくみ取り、
機械に命を吹き込むように
プログラムを打ち込んでいきます。
![](images/20140107/9.jpg)
2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI
ミナ ペルホネンの刺繍は
同じ形でも手刺繍のように不揃いだったり、
デザインが複雑だったりするため、
機械は通常の3分の1ほどの速度で
ゆっくりと、ていねいに針を進めていきます。
![](images/20140107/10.jpg)
2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI
刺繍の図案ができあがったら、
皆川さんはすぐにレース工場へ向かいます。
会ってイメージを伝え、
どうしたらそのイメージによりちかいものになるのか
佐藤さんと話し合います。
顔を合わせてイメージを絵や言葉で伝えることが大切だと
皆川さんはおっしゃいます。
![](images/20140107/11.jpg)
2012SS 紋黄蝶より PHOTO:L.A.TOMARI
綿密なやりとりを重ねて、
皆川さん、佐藤さんのお互いが
納得がいくところまでにたどり着いたとき。
そのとき、
ミナ ペルホネンの刺繍生地は完成するのです。