みなさまに支えられて、日本一の路線図をめざします。 出発進行!ほぼ日の路線図2014


ほぼ日手帳WEB SHOPで毎年販売している
「ほぼ日の路線図」は、
毎年、読者のみなさんに校正していただきながら
進化を遂げてきた路線図です。

今年も6月に「ご近所の目」チェックを実施し、
たくさんのご指摘メールをいただきました。
なかでも、九州の路線図が拡大したことで、
九州在住の方からのご指摘も多かったです。
みなさん、本当にありがとうございました!

また、今回は長年ご指摘をいただいていた
「東京の蔵前駅は乗り換え駅か否か」という
疑問を解決するため、取材をしてきましたので
そのレポートもご紹介します。

「蔵前駅乗り換え問題」をご説明する前に、
まずは「今年の修正箇所一覧」から
ご報告したいと思います。
さっそくご覧ください。

九州の路線図が 広範囲にわたって拡大します!
みなさんのチェックのおかげで
また一歩、「日本一の路線図」に
近づくことができました。
ご協力、ありがとうございました。

浅草線蔵前駅と大江戸線蔵前駅は「乗り換え駅」? 東京都交通局のみなさんに聞きました。

蔵前駅乗り換え問題‥‥それは、
「ご近所の目チェック」がスタートした2009年版から
今にいたるまでご指摘メールをいただき続けている問題です。
まずは、こちらの路線図とメールをご覧ください。




浅草線蔵前駅と大江戸線蔵前駅は
いったん改札を出て
地上に出て乗り換えないといけません。
かなり離れていますが、
乗り換え駅として扱っていいのでしょうか。


▲このようなメールをたくさんいただきました。

この件に関して、
「駅同士は離れているものの、
 改札を出て乗り換えても、新たな初乗り料金がかからず、
 東京都交通局のホームページでも
 乗り換え駅として案内しているため、現状のままの表記とする」
という判断をさせていただいておりましたが
メールは毎年届き続けます。
「日本一の路線図」を目指している我々としては、
この問題を曖昧にしたまま
放置しておくわけにはいきません。
というわけで、都営地下鉄を運営している
東京都交通局の方に直接お話をうかがってきました!


▲いざ、都庁へ‥‥!


▲お話をうかがった交通局のみなさん。
左が大塚さん、右が井上さん。


ーー 本日は、お時間をいただきありがとうございます。
実物をお持ちしたんですけど、
弊社が製作している「ほぼ日の路線図」は、
主要都市の地下鉄、JR、私鉄が、
すべて1つにまとまっている路線図なんです。
大塚 おぉ、すごいですね。
こちらは、いただいてもいいんですか?
ーー はい。ぜひ!
そして、この路線図のもう1つの大きな特徴は、
読者の方々に呼びかけて
「ご近所の目」で路線を確認していただく
という方法をとっていることなんです。
届いた意見を、1つ1つ確認して、
反映していく作業を続けています。
大塚 ずいぶんと
大変なことをされていますね(笑)。
ーー はい(笑)。
そういう方法で成長してきた路線図なんですが、
読者の方から、毎年必ず
ご意見をいただく駅がいくつかあるんですね。
その代表格が、実は「蔵前駅」なんです。
大塚 蔵前が。
ーー そうなんです。
最初、私たちは都営大江戸線の蔵前駅と
都営浅草線の蔵前駅が離れていることを
知らずに路線図をつくっていたんですが
読者の方からメールで指摘がありまして。
駅員さんに電話で確認したところ、
「たしかに離れてはいますが
 料金がかからずに乗り換えができるので、
 乗り換え駅というふうに見えたほうが、
 親切なんじゃないでしょうか」
という意見をいただき
「乗り換え駅」と表示してきました。
それで正しいのかどうかということと、
そもそもなぜ離れているのかということを
教えていただきたいなと思っています。
大塚 なるほど。
実は、同じ意見がうちにもよく届くんです。
ーー あぁ、やっぱり、あるんですね。
大塚 蔵前駅は、みなさんがおっしゃる通り、
地上を歩かないと
乗り換えができない場所ですから、
いろいろな意見をいただきます。
でも、運賃面から考えると、
「同じ駅」という扱いにすることで、
運賃が継続されるという
お客さんにとってのメリットがあるんです。
普通は、1回改札を出ると、
そこまでの運賃が必要で、
また入ると、初乗り料金を引かれてしまう。
ですから、「乗り換え駅」で間違いありません。
うちでは「同一駅」と言っていますが。
ーー 同一駅。
ただ、乗り換え駅だと思っていても、
はじめて降りる方は
遠いので
やっぱりびっくりしちゃいますよね。
大塚 そうですね。
「わかりづらい」という声もいただくので、
改札を出て階段をあがったところの道路に、
「230メートル先に大江戸線」とか
「ここを直進」といった
標識を立てています。
井上 本当は、道路に広告のようなものを出すのは
禁止されているんですけど。
ーー そうなんですか?
井上 はい。そういう規則があるんです。
でも、やっぱりお客さまに
わかりづらいといけないので、
「なんとかお願いします」って頼みに行って、
道路に立てさせてもらっています。


▲たしかに、道路に標識が!
ーー いろいろ工夫をされているんですね。
ところで、
なぜ、こんなに駅間が離れているんでしょうか。
井上 その話は、駅をつくりはじめた時代まで
さかのぼるんですけど、いいですか?
ーー ぜひ、お願いします。
井上 最初に基本的な情報からお伝えしますと、
今、東京の地下鉄は路線が13本あるんですけど、
どの路線も、駅間の距離の平均が約1キロなんです。
ーー 1キロ。
けっこう短いんですね。
井上 はい。
そして、新しい駅をつくるときには
お客さまの利便を考えて、繁華街や
デパートがあるところなど、
人通りの多い場所につくることが多いです。
既設の鉄道があるところには接続して、
お客様の利便を上げることを考えながら、
駅をつくっていきます。
ーー なるほど。
井上 まず1960年ごろ、浅草線ができました。
そのころ、東京には銀座線と丸ノ内線の一部が
既にあったんですけど
国から東京都に、
「どんどん地下鉄をつくりなさい」とお達しがあり
浅草線をつくることになりました。
浅草線の浅草駅と浅草橋駅がまず計画されたのですが、
この2つの駅間は、1.5キロもあります。
さきほど言ったように
駅間は平均1キロなので、1.5キロだと
ちょっと長いんです。
ーー たしかに。
井上 それで、浅草駅と浅草橋駅の間に
当時あった蔵前国技館と、
その周辺の問屋街が
人通りがすごく多いところだったので、
「ここに駅があれば便利だ」ということで、
浅草線の蔵前駅を計画したんです。
ーー 1つ目の蔵前駅が生まれたんですね。

▲浅草線蔵前駅。下水道局のところに、当時は国技館があったそう。
井上 そうです。
また時は流れて1972年、
東京は爆発的に人口が増えて、
経済も活発になっていました。
そこで、国から
「1985年までに地下鉄を13本つくりましょう」
というお達しがありました。
そのときにはじめて、
大江戸線をつくる構想ができました。
「どなたかやりませんか?」って言われたので、
1974年に、うち、つまり東京都交通局が
「やります」って手を挙げたんです。
ーー へぇー!
そんなふうに決まるものなんですね。
井上 ところがその後、オイルショックが到来したんです。
建設費もすごく上がっちゃって、
公共事業がみんなストップしました。
大江戸線の話も、一度中座したんです。
ーー ‥‥オイルショック。
そのあおりを受けたんですね。
井上 そう。その後、どうにか状況が落ちついた頃、
都議会で「大江戸線の話を進めてほしい」
という要請がありました。
有楽町にあった東京都庁を
新宿へ移転するという話が持ち上がったので、
それに合わせて大江戸線を作ろうという話で。
しかも、大江戸線は都内をぐるっと
円を描くように走る環状型の線なんですけど、
既存の地下鉄線はすべて放射状に広がっていたので、
そこに大江戸線が接続したら
「利便性が飛躍的に上がる」ということで、
当時の鈴木知事が都政の最重要課題として
つくる決断をされたんです。

▲当時の資料。赤いラインが大江戸線。
ーー おぉー。
井上 ただね、大江戸線って
すごく費用がかかる路線だったんです。
浅草線(1960年開業)を1キロ通すのに
約46億円かかったのですが、
大江戸線(1991年開業)は
1キロあたり約323億円必要でした。
でも都からは「早く、安くつくりなさい」と
言われているので
安く鉄道をつくれるよう
第三セクターを設立するなどして試行錯誤したわけです。
そんな厳しい状況で、予算も増やせないなか、
浅草線の蔵前駅があった場所に
大江戸線の駅をつくろうとすると、
またさらに莫大なお金と時間が
かかるということがわかったんです。
ーー ‥‥なぜですか?
井上 浅草線の蔵前駅のまわりは住宅地だったんです。
だから、大江戸線を接続させるとなると、
その民家の下に
線路を通すことになるわけです。
ーー あ、民家の下!
たしかに‥‥。

▲浅草線の蔵前駅の周辺は、民家が密集しています。
井上 民家の下に線路を通す場合、
その土地を持っている人に、
保証金を払う必要があります。
下に地下鉄が通ると、
将来、その土地に大きなビルを建てようと思っても、
地下鉄が壊れる恐れがあるから
一定の大きさ以上のものを建ててはいけないっていう
制限があるんですよ。
ほかにもいろんな制限があるので、
保証金を地下鉄の業者が払う必要があるんです。
ーー なるほど。
井上 それに、交渉をするにあたっても
住民全員と合意する必要があって、
時間と労力がかかるんですね。
でも、この大江戸線っていうのは、
「とにかく早く、安くつくりなさい」っていう
お達しがでていたので、
やむなく、少し離れた道路の下に
大江戸線の駅が通るようにしたんです。
ーー あっ、たしかに
道路には民家がありません。
井上 ただ、鉄道というのは、
「道路を通ってはいけない」
「自分で用地を買って、通しなさい」
というルールがあったので大変でした。
山手線も、道路を通ってないでしょ?
だけど、地下鉄の場合は
「やむを得ない場合は、
 道路の管理者が許可すればいいよ」ということで
ここに通したんですね。
今、大江戸線の約80%が道路の下を通っています。
東京で最も、道路の下を通ってる路線なんです。
ーー へぇー!
知らなかったです。
井上 しかも、道路の下を通るといっても、
普通の地下鉄だと、急なカーブは曲がれないから
結局はどこかで民家の下を通らなきゃいけないんですけど、
大江戸線の場合は、車輪がリニアモータという
新しいモータで走っているので、
かなりの急カーブを曲がることができます。
だから、多少の無理をしてでも
既存の道路の下を通らせることができたんです。

▲45年、このお仕事に携わっているという井上さん(写真右)。
ーー へぇー。
大江戸線ってすごいですね。
井上 はい。線路に勾配や高低差もあって
ちょっとジェットコースターみたいですよ。
ーー ジェットコースター!
井上 そういうわけで、蔵前は
少し離れた場所に2つの駅があるんです。
「地上連絡」という形にしてね。
ーー やむを得ず、ということ
だったんですね。
井上 ええ。当時の担当者もつらかったと思います。
同じ場所に駅をつくりたかったでしょうし。
でも実行しようとすれば、すごくお金がかかるうえに、
完成するのに10年くらいかかるかもしれない‥‥。
かといって、既にあった
浅草線蔵前駅のほうを、大江戸線側に
近づけるのも無理がありました。
既に利用者がたくさんいる駅を移動するというのも、
また大変な話ですから。
それで、今のような形になりました。
本当は地下鉄の乗り換え駅は、
地下でつながっているのが原則なんですけどね。
大塚 地下で乗り替えられれば、
車も来ないし、危険も少ないし。
ーー そうですね。
井上 以上が顛末です。
それでも「同一駅」としていることで、
さきほどお伝えしたように、
お客さんには、運賃の面でのメリットがあります。
あと、同じ駅だと証明できる
わかりやすい話をすると、
浅草線の蔵前駅で切符を買うと、
その切符を持って
大江戸線の蔵前駅からも入れるんですよ。
ーー あ、入れるんですか。
大塚 はい、離れていても、
同じ駅ですから。
ーー たしかに、隣の駅で買った切符は
普通は乗れないですもんね。
井上 つまり、
「たまたま物理的には離れているけれども、
 あくまでも同じ駅なんです」
ということなんです。
ーー ますます、
「蔵前駅は乗り換え駅でいいんだ」
という自信が出てきました。
ちなみに、この蔵前駅で乗り換えることができる
おすすめのルートなどはありますか?
大塚 そうですね‥‥
たとえば、今だとスカイツリーが
観光名所になっていますよね。
ここへ行くには、浅草線の押上駅が便利なんですけど、
西側から大江戸線でいらっしゃった方が、
どこで浅草線と接続したらいいか、っていうときには
蔵前駅を利用していただくのが便利です。
ーー なるほど。
1回乗り換えで済むので
スムーズですよね。
大塚 地上を歩くので
天気のいい日が、おすすめです(笑)。
ーー 晴れた日限定で(笑)。
今日はいろいろお話をうかがうことができて、
当初の目的であった、
「乗り換え駅」問題もすっきりしましたし、
なぜ蔵前駅が離れているのか
理由がわかって、とっても興味深かったです。
どうもありがとうございました!

▲浅草線蔵前駅を出て歩きはじめると、あちこちに標識がありました。

▲大江戸線蔵前駅に到着!

駅にはそれぞれ歴史があることを
あらためて感じつつ、
積年の疑問であった
「蔵前駅は乗り換え駅か否か問題」
これにて解決いたしました。
これからも「蔵前駅は、乗り換え駅です!」と
宣言させていただきます。

今後も、「ほぼ日の路線図チーム」は
皆様からいただいた疑問点やご意見を
1つ1つ検証していこうと思います。
ご意見をくださったみなさま、
本当にありがとうございました!

「ほぼ日の路線図 2014」は、
9月1日に発売予定です。どうぞ、お楽しみに。

路線図チーム一同


みちこみちこみちこみちこ


2013-08-21-WED

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