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石川さんのすてきな写真のおかげで、
こんなにかっこいい手帳になりました。
本当にありがとうございます。
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石川さん |
おおー、かっこいいですね!
(手帳を手にとり、まじまじと見る)
いいじゃないですか。
空の群青色もいい感じですね。
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まだ、染色会社に微調整を
お願いしている最中なんです。
(取材当時は製作中で、
サンプル品を見てもらいました)
もうすこし、
写真に近い色が再現されるようにねばりたくて。
青を濃くしたり、緑を少し淡くしたり‥‥。
色しだいで岩のゴツゴツ感も
写真に近くなると思います。
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石川さん |
え、そこまでねばってくれているんだ。
この生地はコットンですか?
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コットンです。
完璧な再現はむずかしいですが、
やっぱりこの空の色は、
この写真がかもしだす力強さの1つかなと。
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石川さん |
そうですね。
標高6000m以上じゃないと、
宇宙を近くに感じさせる独特な空の色を
見ることはできませんからね。
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わたしたちが石川さんの数ある写真の中から
この1枚を(手帳カバーに)選んだのは、
空と積雪のコントラストのうつくしさはもちろん
人が登っている様子が
映りこんでいるのがいいなと思って。
大自然と人の力強さや、
躍動感みたいなものを覚えたんです。
この人たちは登っているんですよね?
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石川さん |
2人は登っていて、
1人が下っているんじゃないかな。
この2人はきっと仲間です。
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これはどこで撮影したんですか。
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石川さん |
ローツェという山に登頂するまえに、
からだをならすために登った山で、
名前をロブチェ・ピークっていいます。
ローツェは標高8516m。世界で4番目に高い山。
いきなり8000m以上の高さの山に登ると
酸欠でからだがついていきません。
だから、ローツェに登る1ヵ月前ぐらいに
6000m程度のロブチェ・ピークに登って
からだをならしたんです。
そのときに撮影しました。
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8000mの前に6000mの山に登る‥‥。
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石川さん |
そう。からだを高所に順応させるわけですね。
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どんなときにシャッターを押すんですか。
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石川さん |
理屈じゃなく‥‥。頭では考えていないですよね。
驚きや感動があったとき、つまり
からだが反応したときにシャッターを切るわけで。
このときも一歩ずつ登りながら、
見上げたロブチェ・ピークのうつくしさに
驚きがあったんでしょうね。
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―― |
驚きですか。
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石川さん |
ぼくは登山家ではなく、写真家です。
だからシャッターを切るわけで。
旅と、その旅を記録する写真って
昔からセットだと思っていて、
ぼくにとって山登りは、
探検でもスポーツでもなく、
旅の延長みたいなものなんです。
「未知なるものと出合いたい」「驚きたい」。
そんなきもちでガイドブックにはのっていない、
知らない場所へと旅にでる。
そこで見た驚きをカメラで記録しています。
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知らないところに行ってみたいと思っても
わたしたちはまず、ガイドブックを買います。
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石川さん |
ぼくも買いますよ。
『地球の歩き方』とかね。
国会図書館にも行って調べまくりますし。
それでも情報が出てこないときに、
「それじゃあ、ぼくが行くしかないでしょう!」
とがぜん、気合いが入る(笑)。
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ぼくがやるしかないと(笑)。
冒険ですね。
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石川さん |
自分にとっての個人的な冒険ですね。
ネパールのガイドブックを買っても、
そこに載っていない空白地帯はもちろんあるし、
エベレストやローツェといった
ヒマラヤの山々の登り方なんてどこにも書いてない。
そこに驚くことができる、何かがあると思うんです。
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エベレストやローツェなどの山々は、
何回頂上に立ってもやっぱり感動するもんですよね。
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石川さん |
感動しますよ。
2ヵ月かけてようやく立てるんですから。
でも苦しいし、危ないのも確かです。
ローツェの頂まであと20mというときも、
「死なないようにしなきゃ」と思いながら登っていました。
頂上は風が強くて滑りやすいので、
5分も立ってられなかった。
もう必死に、シャッターを押します。
フィルムカメラをもっていくことじたい、
本当はバカげた行為なんです。
登頂するときは、荷物を極限までへらして
1gでも軽くするのが鉄則。
それでも我慢して中判カメラをもって登ると
“からだを使い果たす感”があります。
水平の旅や標高6000mぐらいでは味わえるものでなく、
8000m以上の山に登ったときにはじめて
自分をすべて使い果たすというか、
なんかこう、細胞レベルから生まれ変わるような気がする。
「ぼくのからだ、つくり直しています」みたいな(笑)。
自分を変化させたくなって、
8000m以上の高峰がつらなるヒマラヤ山脈に
何度も向かいたくなると思うんです。
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「細胞レベルから生まれ変わる」っておもしろい。
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石川さん |
自分のからだを、環境に適応させながら登頂する、
そんなプロセスがおもしろいんです。
街で暮らしていれば、寒ければ暖房をつければいい。
でも、こうした世界級の山に登るときは、
自分のからだを変化させるしかありません。
たとえば、世界で5番目に高い山、
標高8463mのマカルーという山に登ったとき、
予定よりも1時間はやい、
朝の4時に山頂についちゃったんです。
でも、当然真っ暗で撮影できません。
2ヵ月かけて登りましたから、1時間待ちました
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ええー、1時間!?
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石川さん |
仲間はすぐ、「じゃあ、下りるわ」といって下りていって(笑)。
ぼくとシェルパのパサンくんの2人で待ったんです。
もう寒くて寒くて‥‥。
凍死するかと思いました。
血を足先へめぐらすように、
ボンボンボンボンと、雪を足で蹴り続けて。
たぶん、あの極限の状態になんとか適応しようと、
からだは一生懸命、変化していたんだと思います。
あの「日の出待ち」は忘れられないです。
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そこで撮影された景色は?
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石川さん |
朝日が照らす先にうっすら見えてきたものは、
エベレストとローツェが並ぶ姿でした。
「ああ、双子じゃん」って驚きました。
この2つの山は双児峰だったんだって、
まったく予想していなかった絶景でした。
ローツェに登ってエベレストを目にしたときは、
「あ、案外とがっている」と思いました。
もっと鈍重な山だと思っていたんです。
下から見るとそんなにとんがっていないし、
シルエットだけでいうと
エベレストってむしろかっこよくなかった。
でもローツェの頂から見るとすごくとんがっていて。
「案外かっこいいなあ」って。
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案外(笑)。
惚れ直した?
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石川さん |
惚れ直した(笑)。
「おお、これぞ地球のでっぱりだ」みたいな。
エベレストをちがう角度から見ると
あらたな発見があって、
それを確かめたくて登ってしまうんですよね。
で、人の記憶は薄れてしまうから写真に記録するんです。
ぼくの記憶より、山の鋭角ぐあいや空の色は、
写真のほうが正しいですから。
自分の記憶に合わせて補正しないし、
色もほとんど変えてない。
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お話を聞いて、
やっぱりこの手帳の空の色も
もう少しねばって写真の色に近づけたいと思いました。
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石川さん |
布だからむずかしいですよね(笑)。
でも、やってみないとわからないよね。
ぼくもこの手帳、ほしい。
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(笑)
ぜひつかってください!
今日は本当にありがとうございました。
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石川さん |
こちらこそありがとうございました。
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石川直樹 いしかわ・なおき
写真家。1977年生まれ。2001年、七大陸最高峰登頂を達成。
写真集『NEW DIMENSION』、『POLAR』(リトルモア)で日本写真協会新人賞、
『CORONA』で土門拳賞受賞。また開高健ノンフィクション賞受賞の『最後の冒険家』(集英社)など、
著作・写真集多数。最新作に『国東半島』『髪』(共に青土社)『Lhotse』『Makalu』など
5冊のヒマラヤシリーズの写真集(SLANT刊)も発売中。
http://www.straightree.com/
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