「遊べる本屋」として全国約400店舗。
公私混同で雰囲気をつくるのがヴィレヴァン流。
- ――
- お店をグルっと回らせていただいたのですが、
さすが下北沢店は品揃えが個性的ですね。
他の店舗とは、どこが異なるんですか。
- 長谷川さん
- ひと言で表すと「権力」ですね。
- ――
- 権力ですか!
- 長谷川さん
- 権力というか、担当者の裁量にまかせてもらえる
比重が他の店に比べて多いんです。
通常、チェーン展開をしているお店というのは
仕入れについては本部との調整が必要になります。
しかし、ヴィレヴァンではここが一番違うところで、
かなりの権限を現場に任せてもらっています。
その中でも、「シモキタ」は
全国1位の売り上げを誇る店舗として
その権限というかブランド? によって
たくさんのお話をいただけることにより、
独自の品揃えができるんです。
- ――
- たしかに、商業施設のお店とは全然違いますもんね。
- 長谷川さん
- 下北沢みたいな路面店と、インショップの店舗では
また事情が変わってきます。インショップだと
ディベロッパーさんの目も気にしないといけないので。
下北沢店では、仕入れも陳列もかなり自由ですから。
- ――
- お客さんに合わせて、仕入れを変えるということですか。
- 長谷川さん
- 店舗ごとに仕入れは変えていますが、
自分の好きなものを入れることが基本です。
お客さんに合わせた商品だけを仕入れても
効率はいいだろうけど、面白くはないんですよね。
僕の上司に、どの店舗でも忍者コーナーを作る人がいて、
その人は、空気でふくらませた人形に忍者の服を着せて
天井から吊るし、小さく「忍者コーナー」って書くんです。
- ――
- えっ、忍者って売れるんですか?
- 長谷川さん
- いや、売り上げは出ませんよ(笑)。
でもそれがお店の個性になっているんですよね。
他の店舗で忍者コーナーを見つけると
「あっ、あの人が来たんだな」ってわかるんです。
完全に公私混同ですが、ヴィレッジヴァンガードだから
許されるし、お客さんも楽しんでくれるんですよね。
- ――
- 長谷川さんは、どんな公私混同をされているんですか。
- 長谷川さん
- 僕が高円寺店の店長をしていたときに、
『サイタマノラッパー2』という映画の原作本が
太田出版から出されるタイミングで、
「関係者さんへ。ウチでインストアライブやりませんか?」
というPOPを書いたら、それが関係者の目に入ったらしく
入江悠監督から「じゃあ来週やりましょう」という
メールをいただいて、インストアライブが実現しました。
- ――
- お店のPOPが、メールのような役割になるんですね!
- 長谷川さん
- そうなんです。僕はそこで味をしめて、
「菊池亜希子さんと付き合いたい店長がやってる店」とか
「蒼井優さん、友達になりたい」とか書いたんですが、
そっちはまだ実現されませんね(笑)。
- ――
- それは難しそう(笑)。
でも、ヴィレヴァンならではの面白さを求める文化が
ずっと受け継がれている感じがしますね。
- 長谷川さん
- たぶん、ヴィレッジヴァンガードが
いちばん面白いとされていた時代って、
「ヒマ」で「商売ができなかった」んだと思います。
時間があって、何をしていいかわからないから
売り場を触ったり、POPを書きまくっていたんです。
僕がバイトしていた時代の店長なんて、
お店があまりにもヒマで、雑誌の『Switch』を
天井から吊るしてクルクル回してたら
それを横尾忠則さんが下から眺めてたなんていう
エピソードもあるぐらいですから(笑)。
- ――
- うわー、かなりシュールな光景ですね。
書籍の仕入れで意識することは?
- 長谷川さん
- 僕は、自宅とお店の本棚を同じように考えています。
お店にある商品も、自分が読みたい本が多くて
好きなものを所有している感覚になるんですよね。
自分の趣味で、自分がほしいものという感覚で仕入れたら
売れ残ったとしても、そっちの方が面白みはあります。
2012年発売の『ボールのようなことば。』が
ヴィレヴァン下北沢店で、最も売れた文庫本に。
- ――
- 2012年に発売した文庫本『ボールのようなことば。』が
今でも売れ続けているんですよね?
- 長谷川さん
- はい。僕は下北沢店に来て2、3年というところで、
それまで文庫本では、累計で800冊ぐらい売れた
というのが最高だったんですが、
『ボールのようなことば。』が先日1,000冊を超え、
ダントツ1位で売れているので驚いています。
これはヴィレッジヴァンガードの特徴ですが、
新刊じゃなくても魅力的な商品は
ガッと打ち出してPOPをつけるので、
いい商品が、ずっと売れ続けるんです。
『ボールのようなことば。』は、その典型ですね。
- ――
- 売れるきっかけはあったんですか。
- 長谷川さん
- それが実はよくわからないんですよね。
松本大洋さんのファンがけっこうデカイのと、
糸井さんのネームバリューがあっても、
最初2ヵ月ぐらいで売れて
その後はフェードアウトしていくのかなと
予想していたら、今でも人気が続いています。
- ――
- どんな人が買っていかれるんでしょうか。
- 長谷川さん
- 20~30代かな、若い人が買ってくれてますね。
自己啓発コーナーに置いてあって
迷っているだとか、人生の指針を求めている人にとっては
文字が詰まっている本だと入っていきにくいのですが、
これは中を開くと、すごく読みやすいんです。
立ち読みで何ページか読んでから買っていく感じかな、
はじめから買おうと決めて来るのではなく、
その場で出会って衝動で買っていくというのが強いです。
所有していてうれしくなる装幀だから、
本棚にずっと置いておきたくなる。
- ――
- 今回、ほぼ日手帳 WEEKSの表紙として
この『ボールのようなことば。』が出ると
聞いていかがでしたか。
- 長谷川さん
- 「よっしゃ売れるな」ですね。
ヴィレッジヴァンガードでも手帳はけっこう売れるし
場所も広く取っているんですが、
この手帳は、装幀がホントにすばらしいです。
来年の手帳を買おうとしている人が
松本大洋さんのファンならこれを選んでくれるし、
手帳を使わない人でも、手に取るきっかけになりそう。
仮に、手帳をまったく使わなかったとしても、
この手帳なら本棚に置いておきたいじゃないですか。
- ――
- 手帳ではあるけれど、書籍のような扱いなんですね。
- 長谷川さん
- そうですね。たとえば人気の漫画や小説だと
1回読んで楽しめればいいやってなるんですが、
装幀も含めていい本だったら、机の中や本棚に
ずっと置いておきたい、その感じに近いですね。
文庫本では背表紙で隠れていた部分が
一枚絵になっているのも、ファンにとっては
うれしいアイテムだと思います。
- ――
- コーナーまで作ってくださって、ありがとうございます。
あの、ちなみに2015年版のほぼ日手帳 WEEKSでは
15種類のラインナップを用意しているんですが、
その中で『ボールのようなことば。』だけを仕入れることに
なったのは、どういった理由があったのでしょうか。
- 長谷川さん
- 全種類を仕入れても、たぶん売れるとは思います。
でも、種類を増やすだけ増やしても
やっぱり売れる数に天井はあるので、
1種類でも15種類でも、トータルで考えたら
同じぐらいの売り上げになると思うんですよね。
- ――
- それで『ボールのようなことば。』だけを100冊も‥‥。
- 長谷川さん
- そこはもう、使命感みたいな。
100入れなきゃダメだろ、っていう。
昔の人ほど100とか言いたくなる(笑)。
キリのいい数字が好きなんですよね。
他の店舗で店長をやってるときに聞いた話ですが、
「ハクション大魔王」の魔法のつぼ型ライターが
ブームになっていた頃に、1,000個仕入れて
それを全部売り切ったことが伝説になっているんです。
たぶん1,000個入れたことでヤバイってなって
売るための努力を頑張ったんでしょうね。
- ――
- 売り場に気合を入れる役割もあるんですね。
- 長谷川さん
- ウチの場合、他の書店に比べて
熱量を全面に出せることがメリットで、
逆にそれをしなかったら埋もれちゃうんです。
多面で販売してPOPをつけることで
売り上げは大きく変わってきますね。
「松本大洋の絵を買おう! 今回は特別に
付録として手帳が中についてます‥‥。」
- ――
- POPはヴィレヴァンの象徴ですよね。
- 長谷川さん
- 働いていると感覚が麻痺してしまって、
モノがいいからPOPつけなくていいやって
思うこともあるんですが、
たとえばアルバイトの面接で、
ウチの店をよく利用するという人に魅力を聞いてみると
POPって答えてくださる割合がかなり多いんですよね。
僕らが考えている以上に、POPの効果はありそうです。
- ――
- 長谷川さんのお気に入りPOPはありますか。
- 長谷川さん
- 僕が高円寺で店長をしていた時は
まだiPhoneが出はじめた頃だったんですが、
画面が割れると修理代が高いじゃないですか。
ケースや保護フィルムの種類が増えてきた時に
けっこうデカいPOPで「修理代6万円」って書きました。
「割れるのを防ぎますよ」って言われるよりも
「修理代6万!」って言われた方がリアルにヤバイ。
僕の中では名コピーかなあと。
- ――
- はじめてPOPを書くときって、ドキドキしませんか。
- 長谷川さん
- 最初はPOPを書くことが、いちばん嫌いな仕事でした。
当時の店長がプレッシャーを与えてきて、
無理に面白いものを書こうとしても寒くなったり
フツーの説明や、商品の名前とかをそのまま書くと、
いつの間にか自分の書いたPOPが捨てられてるんです。
そうすると書くことがトラウマのように怖くなって、
最初の2、3ヵ月はものすごくイヤでした。
- ――
- イヤだったPOPにも、なにか変化は生まれましたか。
- 長谷川さん
- 時間が経って、お客さんの姿や像が
見え始めるようになったら楽しく思えてきました。
どういう人が商品を買うかを想像しろと言われていて、
やっぱりそれが本質だと思いますし、
商品だけを見ようとするから書けなかったんです。
広告のキャッチコピーとも違うのは、
お店によって年齢層が違ったり、
好きなアーティストが変わったりもするので、
それによって効く言葉が変わることですね。
POPを書くのには慣れが影響していて、
数をこなすとうまくなるんです。
今ではいちばん好きな仕事ですよ。
- ――
- 新人の方がPOPでやりがちなミスってありますか。
- 長谷川さん
- 最初の頃は「字が汚い」のと「クソマジメ」ですね。
よく、ヴィレヴァンの字がみんな似てますねって
言われることがあるんですが、
書き慣れてくると、ペンの角度とか
書きやすい場所が似てくるからだと思うんですよね。
あそこに前の店長が書いたものがあるんですが、
あれは太い「POSCA」の角で書いてますね。
- ――
- すごい、いわゆる「ルール」なのに
あの字だとスッと読めますね!
- 長谷川さん
- ヴィレヴァンのPOPにもいくつかパターンがありますが
元をたどると、たぶん3人ぐらいに行き着くんです。
この3人から流派のようにそれぞれ伝承していって、
店長が指導したり、書いたものをマネしていくことで、
みんなが似たものを書けるようになるんですよね。
- ――
- 今回、『ボールのようなことば。』コーナーにも
たくさんのPOPをつけてくださいました。
「プレゼントに」という提案もありますね。
- 長谷川さん
- 手帳と文庫本を、セットにしてみました。
こんな手帳ならもらってうれしいし、
手帳がよく売れる時期は年末なので、
クリスマスプレゼントとしてもどうでしょうか。
- ――
- 並べ方で意図していることはありますか。
- 長谷川さん
- 手帳そのものがコンパクトなサイズなので、
売り場で埋もれないように気をつけました。
文庫本と、それから「ほぼ日」の本も
一緒に出すことで連動感を出しています。
『ピンポン』や『sunny』も
並べて、松本大洋さんの絵をすぐに認識できて
惹きつけられるようにしています。
僕は『ボールのようなことば。』を哲学の入り口だと
思っていて、この本を好みそうな人が読んでくれそうな
佐藤雅彦さんの『プチ哲学』や
ヨシタシンスケさんの『りんごかもしれない』を
近くに置くことで、考えるきっかけになればなと。
- ――
- ひとつの手帳が、何かのきっかけになるといいですね。
- 長谷川さん
- ヴィレッジヴァンガードの売り方って、
商品に対する熱量を表現できたりすることは
一般の書店さんよりも絶対に強いと思っています。
僕も書店員として、
本や考えることを好きじゃない人が知ってくれて
本の世界に入ってくれるきっかけをつくりたいんです。
- ――
- 長谷川さん、熱のある解説をありがとうございました。
『ボールのようなことば。』のコーナーの様子は
ぜひヴィレッジヴァンガード下北沢店でお確かめください。
ヴィレッジヴァンガード公式フリーペーパー
『VV magazine』のvol.3で、
長谷川さんが楳図かずおさんと対談をされています。
なんと、下北沢店に置かれているものには
10冊に1冊ぐらいの確率で長谷川さんのサイン入り!
くり返します、楳図かずおさんのサインではなく、
いち書店員である長谷川さんのサインです。
ヴィレッジヴァンガード下北沢店POPセレクション
2014-10-02-THU