キャリーバッグひとつで世界中へ。
家庭料理を撮ってまわる中村優さんは、
おばあちゃんの台所を訪れて、
笑顔とレシピを集める旅をしています。
中村さんが取材で使っているノートを
見せていただきながら、
LIFEについて、お話をうかがいました。

大学時代から家庭料理に興味があって、
ヨーロッパのお家をめぐる旅をしていました。
「料理するからタダで泊めて!」という
プロジェクトを3か月ぐらいしていたんです。
一緒に料理すると信頼関係が生まれて、
初めて会った人とでも仲よくなれちゃう。
そういう空間や、笑顔をシェアしたくて
Youtubeに動画を投稿していました。

 

 

大学を卒業してから、
料理人と編集者のふたりに弟子入りをしましたが、
その中で、私にとって一番重要なことが
「どうやって笑顔をシェアできるか」
ということなんだと気づいたんです。
周りが笑顔になれることを考えたとき、
そこにはまず「食」があって、
伝える手段として「文章」があって。
このふたつで、私に何かできないかなと思って
家庭料理のレシピを集めるようになったんです。
家庭料理は誰かのために作るもので、
それを何十年もやり続けているのが
おばあちゃんなんだろうなと気づきました。

 

▲中村さんは、おばあちゃんの笑顔を素敵に写します。

 

でも、そんなことを考えていたころに、
うっかり家をなくしちゃうことがあって(笑)
今でこそシェアハウスに住んで
家があるっていいなと思えていますが、
あまり東京にいないし、まあいいかと思って、
キャリーバッグひとつで友人の家を転々とする
野良猫のような生活をしていたんです。
2週間ごとにいろんな地域をめぐって、
本当においしいものと出会いたいと
はじめたのが「YOU BOX」というものでした。

 

▲旅で出会った食べ物と、この冊子がついてきます。

 

たとえば、フランスの街で出会った
おばちゃんのビネガーが、もうおいしくって!
そういうものを見つけては詰め合わせにして、
冊子といっしょに友達に送っていたんです。
おすそわけボックスみたいな感じかな。
編集するのも、送るために包むのも、
ぜんぶ友達の家でやらせてもらいました。
なにせ、自分の家がありませんからね(笑)

 

▲ロックなおばちゃんが作る自然派ビネガー。

 

そんな活動をしていたころに、
「おばあちゃんのレシピ」が生まれたんです。
レシピの背景にある想いだとか、
おばあちゃんごとのストーリーをまとめました。
どのおばあちゃんも調味料を
ちゃんと量ったりはしていないんですが、
きっと、人に合わせるから飽きないんですよね。
それを量ってレシピ化しようと考えたんですが、
重要なのはそこじゃないな、と思って。
再現するためじゃなく、ストーリーの面白さを
どうにか伝えていきたいなと思っているんです。

 

▲小さなキャリーバッグなのに、半分ぐらいは調味料だそう。

 

だから、ハレの日のレシピではなく、
普段食べているものに面白さを感じます。
意識されていないような知恵とか、
おまじないのようなものって、
おばあちゃん自身が残そうとしないから
ずっと残るものじゃないと思うんです。
それを集めてみようかなと思って。

 

▲シェアハウスの台所には、作りおきの材料が並びます。

 

私にもおばあちゃんに好みはあって、
前向きで、ロックで、自分の哲学を持っていて、
あとは、しわがいいおばあちゃん。
いいしわのおばあちゃんを見つけては撮って、
「しわ写真集」を出したいぐらいだったのに、
どうやらみんな、レシピのほうが興味あるみたい。

 

 

取材でいつも使うメモは書き殴りです。
どんな料理を作るか書いたり、
構想やレイアウトをまとめたり、
たまに人の住所が書いてあったりとか。
ここで食べたご飯がおいしかったとか、
それだけ入れるようにしていますね。

 


 

私は、自分のおばあちゃんも大好きで
とくに母方のおばあちゃんなんて
87才でまだブティックをやっていて。
そんなおばあちゃんからも、
「人生、なるようにしかならないから」って
いつも言ってくれていたんです。
最善を尽くしたってダメなときはダメだし、
行ける方向にしかどうせ行けないから、
好きなことやりなよって理解を示してくれます。
好きに生きて、自分で肯定して、
常に前に進んでいくことをやっていくのが
一番カッコいいなと思って聞いていました。
今はあまり、悩むこともないんですが、
「たいしたことじゃないよね、彼女たちに比べれば」
といった感じで、変なことで悩まなくなりました。

 

▲お話をうかがいながら、料理を作っていただきました。

 

私、自分でも呆れるぐらい元気なんです。
めっちゃ元気だから、エネルギーが余ってるんですね。
だから発散しないと人に迷惑かけちゃう。
でも、いつか止まるときが来ると思うから、
行けるうちに行っとかないとっていうのはあって。
どうしてもずっとは動いていられないと思うし、
思ったように動ける間には動いていたいですね。

 

▲クスクスにオーソブッコ。中村さん、ごちそうさまでした!

 

 
 
中村優さんの「LIFE is…」
しわ!

 

たくさんのおばあちゃんと会うようになって、
顔を見ただけで性格がわかるようになってきました。
顔に表れるものって、偽れないんですよね。
最近、40creations(フォーティークリエーションズ)
という組織を立ち上げたんですが、
この「40」っていうのも、しわなんです。
しわって、笑顔から生まれた結晶なので、
美しいしわを生み出すプロジェクトだけを仕掛け、
40個できたら解散。そんなことを全力でやります。

*2015年2月27日時点

 

 

 

2015-03-31-TUE