ほぼ日手帳 2016

ほぼ日手帳に書きつづる 高校球児の野球日誌 豊川高校野球部、選手とコーチの記録

愛知県、豊川高校の野球部コーチが、
「ほぼ日手帳」を使った新しい試みをはじめました。
それは、部員全員が野球日誌を手帳に書いて、
コーチと毎日やり取りをするというもの。
「ほぼ日手帳カズン」に記録されている
天気、体調、素振りの数、印象に残った言葉が、
選手とコーチが過ごした歴史を物語っています。
甲子園を目指して日々練習する野球部のみんなを、
ときどき訪問してレポートしていきます。

#1 日誌のやりとりで選手を育てる硬式野球部 部長 青山弘和さん

ほぼ日手帳チームが初めて豊川高校を訪ねたのは、
2016年2月のことでした。
愛知県といえば、甲子園大会の地区予選への
出場校が全国最多という激戦区。
創部70年の豊川高校硬式野球部は、
2年前の春のセンバツ高校野球で初出場ながら
見事な逆転劇でベスト4に進出した学校です。
そんな豊川高校を2010年から指導し、
ご自身も、ほぼ日手帳ユーザーである
青山弘和コーチにお話を伺いました。

ほぼ日
青山コーチ、よろしくお願いします。
青山
よろしくお願いします。なんでも聞いてください。
ほぼ日
まずは、部員全員に「ほぼ日手帳」を配る
きっかけから教えていただけますか。
青山
手帳を配ったのは2015年の9月です。
これまで練習の記録は、A3サイズの紙に
1週間分のメモをさせていましたが、
使っていくうちになくなることがあったので、
手帳という一冊の本の形で残したいと思いまして。
それと、社会に出る前から
自分の予定を把握できるように。
その月ごとの予定を書いて、
「いつが試合、いつが練習」というのを
全員にしっかり把握してもらいたいんです。
ほぼ日
ご自身でも「ほぼ日手帳」を
使ってくださっているんですよね。
青山
はい、使ってます。
亜細亜大学でコーチをしていた2009年に、
同僚が「ほぼ日手帳」を使っていたんです。
僕も方眼紙の手帳を探していたので、
この手帳を使うようになりました。
手にしてみたら、「あ、書きたいな」と思って
書きなぐるようになりました。
ほぼ日
ふだんは、日記や予定を書かれるんですか。
青山
日記ですね。野球や仕事で感じたことを
ガーッと書きなぐっています。
野球は打ち方も投げ方も感覚的なことが多いので、
教えたことや、やってみたけど違ったことなんかを
絵に描いて残すこともありますね。
ほぼ日
高校1年生と2年生に手帳を配ってみて、
最初の反応はいかがでしたか。
青山
まっさらなものを手に入れて、
「やったー!」って喜んでましたね。
みんなに「好きに使っていいよ」と伝えたら
チョロチョロと書いてきて、
たしかに「自由に」とは言ったけれど、
それって僕が求めていた量じゃないんですよ。
今まで使っていたA3の紙をもとに書こうとしても、
5、6行ぐらいにしかならないんです。
きちんと文章を書けるようになってほしいから、
常用漢字を当たり前に使ってほしいし、
文章力を上げるためにも、ちゃんと書かないと。

▲2年前のセンバツでベスト4に進出。

ほぼ日
A3用紙に書いていたときと、
1日1ページの「ほぼ日手帳」とで、
違いを感じるところはありますか。
青山
初めは「書け」と言って書かせていたので、
そこに本心が入っていなかったんですよね。
指導したことを、そのまま当たり障りなく書いただけ。
「どこかが痛いです」とか「苦しいです」とか、
そういう感情は文章に表れていませんでした。
それでは意味がないので、
「ほんとのこと書け」と言い続けるようにして、
ようやく本音が出てきましたね。
しばらく書かせてみてわかったんですが、
自分のことしか書いてこない選手もいるんです。
僕が思うに、1年生は自分のことを書いてもいい。
2年生からは、もうすこし後輩のことも。
3年生になったら、チーム全体を見て
チーム作りをしてほしいなと思うんですけど、
そこまでできる選手は、あまりいないんですよね。
ほぼ日
意識の差が、文章に表れるんですね。
学年ごとに、書き方を指導されるんですか。

▲漢字の間違いは、書き直してもらいます。

青山
そうです。そこはもう、分けています。
チームのことを書ける子は書けていますが、
自分のことしか書けない子には、
こちらの指導で変わっていってほしいんです。
他人を思いやるとか、チームのために頑張ることを、
野球を通して学ぶのが人間教育だと思っています。
チームのことを日誌に書けるようになって、
行動にも移せたらいいなと思います。
ほぼ日
文章が変わってきたという実感はありますか。
青山
授業で感想文を書かせてみると、
日頃から書く習慣がない子に比べれば、
すらすら文章を書けるようになってきたと思います。
まだまだのレベルだとは思いますけどね(笑)。
この経験がいずれ高校を卒業してから、
履歴書や論文に活きるといいですね。
ほぼ日
A5サイズのカズンに毎日書くというのは、
かなりの文量ですよね。
選手たちにたくさん書いてほしいけれど、
毎日読むコーチもたいへんですよね。
青山
毎朝8時半までに日誌を提出してもらって、
どこかで時間をつくって読み込んでいます。
忙しくてまったく見られない日があれば、
次の日には必ず、前日の分も読みます。
僕は選手たちと意思の疎通がしたいんですよね。
ちゃんと伝わっているかを確かめたくて。
ほぼ日
みんなに書いてもらうことで、
青山先生の中で変わってきたこともありますか。
青山
自分が伝えようとしていることのうち、
10伝えても、10は伝わらないんだとわかりました。
意図して言ったことが理解されなければ、
もう1回説明しないと、共通認識が持てません。
理解していなければ、僕もしつこく話します。
青山
たとえば「3月1日を見ろ」と書いていますが、
これは寮長の清水という選手に書いたことです。
僕がちょっと気になったのは、
ある日の日誌に「こういうことがありました」という
報告だけが書かれていた日があったんです。
「それに対して、リーダーとして何か感じないのか。
 お前の指導はないのか」と言いたいわけです。
彼は、他の子を叱らなきゃいけない立場なので。
ほぼ日
「ほぼ日手帳」を野球日誌にしてから、
ターニングポイントになった試合はありましたか。
青山
秋の大会ですね。三河地区の大会で、
負けちゃいけない試合で負けたんですよ。
ほぼ日
選手の手帳にも書かれていますね。
「10月25日。2回戦、3対8で負け」。
選手同士で見せ合ったりもするんですか。
青山
全員で共通認識が得られるようにしたいので、
見せ合うようにさせています。
たとえば、誰かが怒られたとしても、
他の選手は自分のことしか考えていないから、
まったく関係ないことを書いていたことがありました。
選手間での共通認識が得られていなかったので、
全員に回し読みをさせて、
自分の手帳と見比べながら注意しあうようにしました。
その日の日誌には、書き方についての気づきを
みんな書いてきましたね。

▲共通認識を持つために厳しい指摘も‥‥。

ほぼ日
「こいつの書き方はおもしろい」とか、
「わかりやすい」と気がつけるんですね。
青山
はい。他人と比べて漢字が使えていないとか、
我々スタッフから求められる内容が違うとか、
仲間の日誌を通して気づいてくれたようです。
あとは、こちらが選手たちに考えてもらいたい内容と
ピントがずれていたりすると、
他の選手の手帳を見させるようにしています。
僕は毎日の日誌を読んでいますが、
疲れていたり、余裕がなくなっている選手は、
書いてくる文章量が減ることもわかりました。
朝が来たら必ず提出しなきゃいけないので、
ごまかしながらでも、なんとか書く。
苦肉の策として「家に忘れました」といって
まとめ書きすることもできるけれど、
グラウンドの隣に住む寮生は、その手が使えません。
取りに行かせると「書いてませんでした」って(笑)。
ほぼ日
わかりやすいですね(笑)。
青山先生のルールが浸透してきたと思いますが、
これから、まっさらな1年生が入ってきますね。
青山
はい、そうですね。
新1年生にはまず、日誌の書き方の指導ですね。
目標やメニューの書き方、それに手帳の扱い方も。
僕と選手とのコミュニケーションだから、
やっぱり邪険に扱ってほしくないんです。
あとは、カレンダーで予定を管理してもらいたい。
練習や試合、テストの日程を書き込むように
期待しているんですが、熱いヤツなんかは
「夏の大会まであと何日!」と書いてますからね。
新入生には4月の仮入部から徹底して、
あとは、自分でできるようになってほしいです。
ほぼ日
これから、さらに変化するのが楽しみです。
またお邪魔させてくださいね。
青山先生、ありがとうございました!

<選手のインタビューにつづきます>

2016-03-22-TUE