ほぼ日手帳だと、なぜ続くんだろう。

2016年11月に福岡・天神ロフトで開催した
「ほぼ日手帳ミーティングキャラバン」では、
手帳ミーティングの合間に、
浅生鴨さんと糸井重里がふたりで話す
ちいさなトークイベントも開催しました。
元「@NHK_PRの中の人」で、
作家としても活動されている浅生鴨さんは、
「ほぼ日手帳」の10年ユーザーでもあります。
短い時間のトークイベントでしたが、
「ほぼ日手帳」について、深い話ができました。

(前編)浅生鴨さんの使い方      2017-01-22(日)

(後編)ほぼ日手帳だと、なぜ続く?  2017-01-23(月)

▶︎手帳ミーティングのようすはこちらからどうぞ!

糸井
鴨さんは、「ほぼ日手帳」を使う前から、
手帳は使っていらっしゃったんですか。
浅生
高校生ぐらいの頃から、
weeksのような形の手帳をずっと使って、
そのあと社会人になってから、
もうちょっと大判の手帳を使っていました。
「ほぼ日手帳」になったのは、2006年かな?
糸井
じゃあ、10年ぐらい経ちますね。
浅生
糸井さんを飛行船に乗せるっていう企画が、
かつてNHKでありまして。
糸井
ぼくらは、あのときに初めて会ったんですよね。
浅生
そうです。
その年にぼく、初めて「ほぼ日手帳」を持ったんですよ。
「糸井重里だし、『ほぼ日手帳』ぐらい
 チラ見させておこう」
と思って、机の上に出していたんです。
糸井
ずいぶん戦略的な方ですね。
浅生
そうしたら糸井さんが、
「あっ、その黒い革のカバーなのね。
 それはサラリーマンがよく使うんだよね」
って、おっしゃったんですよ。
糸井
ぼくの印象が嫌な感じに(笑)。
浅生
「悔しい!」と思って、
帰りに渋谷のロフトに行って、
赤いカバーに替えました。
糸井
そうそう。
鴨さんに似合わない手帳を持っていたんだよね。
あー、あの飛行船は大変だったよ。
浅生
その頃の、飛行船を飛ばした一連の番組の記録も
全部手帳に残っています。
糸井
書いてたんだ! それは読みたいくらいだね。
浅生
予定表とか。
当日、トラブルが起きてドタバタがあったんですよ。
番組の中身がどんどん変わって、
その変更した予定表も貼ってありますね。
糸井
それは今読んだら、文体の違う小説ですね。
浅生
過去の記録っていうことでもあるし、
そのとき自分が何を考えていたかもわかる。
デジタルデータだと、
引っかかるフックが足りないんですよ。
書きなぐっていないじゃないですか。
糸井
書きなぐったほうがいいよね。
浅生
本当にあわてて書いている、その文字のあわてっぷりが
「ああ、このとき、こういう気分だったよね」
というのを思い出させるんですよね。
デジタルだと、フォントが全部一緒なので。
糸井
そうですね。
文字が羅列されているだけになっちゃう。
浅生
気持ちが引っかからない感じがしますね。
糸井
しゃべっていて思ったんですけど、
過去の自分が書いたものを読んでいる時は、
その過去の自分からしたら、未来の自分ですよね。
だから、未来からその時を眺める癖がつきますね。

ぼくはよく、「アイディアを出すってどういうこと」
ということを聞かれることが多いんですね。
そんなに得意なわけじゃないけれど、
職業としてそういうことをやっているんで、
どう説明したらいいかなってよく悩むんですよ。
浅生
はい。
糸井
その都度、いろんなことを言うんですけど、
これは間違いなく役に立つぞ、という発想があります。
例えば、新発売のクルマを見たときに、
「この車、古いよなぁ」と思いながら見るんです。
そうすると、
「えっ、じゃあお前は分かってんの?」って、
まだ分かっていないのに。
でも、「古いなあ」って見えた時が、
次のことをやるヒントになるんです。
浅生
「2016年って、こうだったんだ」と思いながら見る。
糸井
過去の仕事でトラブルがあった時のことも、
今だったら、その時には分からなかった
視点を足せますよね。
その足せる感じを覚えると、この先、
「2020年、オリンピックが来る年は
 どうなんだろう」っていうことも、
こっち側から見るんじゃなくて、
もう、そこに立っちゃうの。
自分が未来の視点に立っちゃってから、
「まだ、こういうことできてなかったね」みたいな。
そういう練習をするのに、
手帳を自分が書いてるとすごく役に立つはずです。
浅生
そうですね。
手帳に貼りっぱなしで、
どんどん先へ進む人もいると思うんですけど、
ふと時間が空いたときに、
今年に限らず何年か前の手帳でもいいので
引っ張り出して読んでみると、
「あ、こんなことあった」って、
完全に忘れていることがいっぱいあるので、
「この日、ここでラーメン食べたな」
みたいなことも含めて、いろいろ考えられそう。
糸井
人間関係の気持ちみたいなのだって、
ある同じ人と、ずーっと付き合いがあるんだけど、
「あの頃はこいつのこと、ものすごく好きだったな」
「この頃はあんまり付き合ってなかったのに、
 今はこんなに打ち解けてるな」
「今じゃ一緒に生死を共にするところにいるな」
とか、いろんな変化が見えてくる。
で、人は変わるものだって分かるだけでも、
だいぶ豊かになるような気がしますね。
浅生
自分が変わることって、
いちばん気づきにくいじゃないですか。
自分って、ずっと一貫して
自分だと思い込んでいるから。
糸井
うん、うん。
浅生
だけど、過去の自分を覗き見すると、
ビックリするぐらい今とは違っているし。
糸井
違いますね。
浅生
そう考えると、多分この先に書くことも、
今とはまた、ずいぶん違うんだろうなあ。
糸井
鴨さんがやっている、
来年の手帳を使っている自分から
今を見返すみたいな発想は、
みんな真似してもいいかもね。
でも、みんな、来年の手帳を使うのは
やりたくないんですよ(笑)。
浅生
はい。分かります。
糸井
さっき、手帳ミーティングで、
前からぼくらが聞きたかったことを聞いたら、
ちょっとヒントがありました。
「なぜ、ほぼ日手帳だと続くんですか?」
という質問です。
鴨さんのテーブルでも話しましたか。
浅生
「なぜか」はしてないですね。
糸井
みんな、「続くんですよね」という
実感があって、集まっているんですけど、
理由がなかなかわからなくて。
その正体を、このミーティングキャラバンで
掴みたいなと思っているんです。
鴨さんは、なぜ続くんだと思いますか?
浅生
ぼくの場合は‥‥、
ぼくの場合しか言えないですけど、
ルールを守らないですむ手帳なんですよね。
糸井
たしかにそうだ。
浅生
つまり「○○手帳」って決められちゃうと、
その規格通りに埋めていかなきゃいけないんですけど、
「ほぼ日手帳」の場合、1月2月の書き方と、
8月の書き方、10月の書き方で
全然変わっちゃっていても、
全部を飲み込んでもらえる感じがあるんですよ。
糸井
しばらく書いていなかった時期があっても、
「糸井重里の考えた『ほぼ日手帳』って、
 “ほぼ”って書いてあるし、
 “糸井重里”って書いてあるから、まぁいいか」と。
「ほぼ日」っていう、許しそうな会社が
出しているってのは大事ですかね。
浅生
ゆるい感じがいいんじゃないでしょうか。
だから、途中でルール変更しても
いいっていうことなんだと思います。
糸井
はあー。
浅生
変わることが許されているというか。
「ほぼ日」も18年前と今とでは、
もうだいぶ違うじゃないですか。
糸井
だいぶ違いますね。
浅生
どんどん変わっていっていいんだよ、という気配が、
きっと手帳の中にもあるんだと思うんですよね。
糸井
許されているが故に、
じゃあ自分も変わるよ、みたいな。
浅生
ええ。
糸井
鴨説はそういうことですね。
浅生
はい。
糸井
あっ、そろそろお時間も来たようなんで、
どうもありがとうございました。
浅生
どうもありがとうございました。

(以上で、浅生鴨さんと糸井重里の
ちいさなトークショーはおしまいです)

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2017-01-23-MON