1万年筆の誕生。
- ーー
- 今日はよろしくお願いします。
昨年の12月、「ほぼ日5年手帳」の発売にあわせて
万年筆を取り扱いたいなと思い、
いろいろと万年筆を探していたんです。
最終的に「初心者でも使いやすそう」
「わりと気軽に、たのしく使えそう」と選んだのが、
パイロットの「カスタム74」と
「キャップレス万年筆」でした。
▲カスタム74
▲キャップレス万年筆
- そうでしたね。
お声がけいただき、ありがとうございます。
- ーー
- 実際に使ってみて
「書く行為がたのしくなった」とか
「毎日、万年筆で手帳を書くようになった」と
感想を言ってくださるかたもいるんです。
今日は、工場見学をしながら、
万年筆のことをいろいろお聞きできればと思います。
- 長谷川・松尾
- はい、よろしくお願いします。
▲お話を聞いたパイロットコーポレーションの長谷川清美さんと松尾保郎さん
- ーー
- そもそも、万年筆って
どんな筆記具なのでしょうか。
- まず基本的な特長を言いますと、
書き味のよさ、ですね。
文字を書くときに、すべるようななめらかさを
味わうことができます。
- ーー
- ああ、インキがするするっと出て、
すごく気持ちいいですよね。
- それからもうひとつ、
インキの濃淡が出やすく、書いた文字に変化が出ます。
力を入れると濃くなったり、力を抜くと薄くなったり。
その手書きの良さが伝わりやすいという
特長がありますね。
- ーー
- たしかに、「万年筆で書いた文字」って、
独特の味わいがあります。
- わたしは百貨店で20年ほど
万年筆売り場に立っていたのですが、
店頭のポップひとつにしても、
パソコンで作るよりも手書きのほうが
お客さんは見てくれるんですよね。
- ーー
- 本屋さんに行っても、
書店員さんの手書きのポップは
つい読んでしまいますね。
- 万年筆売り場では、
手書きのデモンストレーションをしていると
立ち止まって見てくださる方が多かったですね。
やっぱりいちばんの魅力は、手書きの良さを
感じやすいというところだと思います。
- ーー
- なるほど。
- ーー
- ところで、万年筆は
どのぐらい昔からあるんですか。
- 実質的な万年筆としては、1884年に
アメリカのウォーターマンという人が
インクの流れを調整できる
実用万年筆を発明したのが最初です。
- ーー
- ということは、130年以上前からあるんですね。
- それ以前にもイギリスで
万年筆に近いものが作られてはいました。
ただ、ペンの中にインキを溜めておくことはできても
インキが少しずつ出るような調整ができず、
紙の上にインキがボタボタ落ちてしまうもので、
実用には至らなかったんです。
- ーー
- ああー。
- そして、はじめて日本に万年筆が輸入されたのが
1895年、明治28年です。
いまも書店として有名な「丸善」さんで
当時、筆記具を扱っていた人が
「万吉さん」という名前だったみたいなんです。
その人が広めてくれたから
「万年筆」という名がついたと言われています。
- ーー
- そうなんですか。てっきり、
1万年ぐらい、半永久的に使える筆記具
という意味かと思っていました。
- 万年書ける、という意味も
かかっているでしょうね。
小説家の内田魯庵がその名付け親だというのが
通説になっています。
- ーー
- へえー。
- 日本の万年筆第1号は1911年(明治44年)、
セーラー社さんのものでした。
パイロットが万年筆を出すのは
その1年ほど後になります。
当時万年筆はとても人気だったそうですよ。
その頃まだ日本には、
ペン先の部分を作る技術がなかったので、
ペン先を海外から購入して、そのほか
軸(ボディ)の部分などを国産で作っていたんです。
- ーー
- この金の部分が、ペン先なんですね。
▲この部分を万年筆の「ペン先」または「ペン」とよぶ
- 1916年(大正5年)に
後にパイロットの創始者となる並木良輔が
日本初の金ペン製造に成功します。
- ーー
- 日本初の金ペン製造‥‥。
ええと、金ペンって、なんですか。
- 金を使って作った、ペン先のことをいいます。
ちょっとまぎらわしいですが、
にぎる部分を含めたペン全体のことではなくて、
インクが出る、ペンの先の部分を指します。
- ーー
- 金って、純金なんですか。
- パイロットでは14金などを使っていますが、
正確には純金ではなくて、合金です。
ちょっとマニアックな話になりますが、
並木が1908年に完成させた
金とイリジウムの合金「イリドスミン」を使うことで
ペン先の先端部分の
「ペンポイント」という部分の製造が実現したんです。
ペンポイントは、現在でも
万年筆に欠かせない重要なパーツなんです。
工場でも、見学できると思いますよ。
▲金で作ったペン先。金ペンと呼ばれる
- ーー
- ペン先が作れるようになったということは、
万年筆まるまる一本、
すべて国産で作れるようになったのですね。
- そして、その2年後、並木らが
「並木製作所」という会社を立ち上げ、
「パイロット」というブランド名で
本格的な万年筆の製造と販売がはじまりました。
- ーー
- パイロットは、会社名ではなくて
ブランド名だったんですね。
- 「パイロット=水先案内人」という意味なんです。
並木は、もともと商船学校の卒業生で、航海士でした。
- ーー
- 航海士が、なぜペンを?
- 船乗りだった並木良輔は、
のちに母校の商船大学(現在の東京海洋大学)で
機関科の教授となりました。
- ーー
- ああ、先生に。
- 製図の授業で「烏口(からすぐち)」という
製図用ペンを使っていたのですが、
これは先端がすぐに減ってしまい、
いちいちインキを付けなければならないんです。
それで、軸にインクの貯蔵部を持つ烏口を開発し、
「並木式烏口」として特許を取ったりもしました。
- ーー
- ええ。
- ですが、次第に
使う人間が限られてしまう烏口よりも、
並木の興味は、万人に愛される
「万年筆」へ引き寄せられ、教鞭をとるかたわら、
金ペンの研究に没頭していったそうです。
- ーー
- そうして国産の万年筆が生まれていったんですね。
(つづきます)