ある日、手帳チームに
カナダ・トロントでほぼ日手帳を売っている
「Take Note」という文房具店のオーナー、
ヨランタさんから、一通のメールが届きました。
手帳チームのみなさん、こんにちは。
このたび、わたしたちが作ったショートフィルムが
東京で開かれているフィルム・フェスティバルに入選し、
日本に行くことになりました。
ほぼ日のお店TOBICHIも、見に行けたらうれしいです。
――「Take Note」オーナー ヨランタより
メールといっしょに届いた
4分弱のショートムービーを見たところ、
これが、とっても素敵だったんです。
‥‥と、ここであれこれと内容を説明するよりも、
まずは、このムービーを見てみてください。
登場人物の、顔や声はわかりません。
次々と大事件が起こるようなこともありません。
画面に映るのは、
どこにでもありそうなテーブル、そしてペンと紙だけ。
それなのに、ハラハラしたり、
心がじんわりと温かくなるのはなぜでしょう‥‥。
ムービーには
「Notes - a life story, a love story」
という題がついていました。
「LIFEのBOOK」をテーマにしている
ほぼ日手帳となんだか通じるものを感じ、
映画祭参加のため日本にやってきたヨランタさんに
話を聞くことにしました。
- ――
- こんにちは、ヨランタさん。日本へようこそ!
ヨランタさんは、文房具店の
オーナーさんなんですよね。
- ヨランタ
- 「Take Note」というお店を立ち上げて2年になります。
わたしはポーランド出身で、
カナダに来てからバッグのデザインの仕事や
文房具のバイヤーをやっていました。
自分のお店を始めたときに、いつの日か東京を訪れて、
文房具ショップを見に行きたい、なんて思っていたけど、
それがこんなかたちで来ることになるなんて!
- ――
- 日本の文房具に
注目してくれていたのですね。
- ヨランタ
- 西洋の文化よりも、日本のほうが
文房具に対しての審美眼があるような気がするんです。
昔は西洋にも文房具を重んじる文化があったけど、
最近は、急激になんでもデジタルになってしまって。
日本には、デジタルメディアももちろんありますが、
高いクオリティの紙やノート、
ペンなどがちゃんとありますよね。
- ――
- そんなふうに見えているんですね。
ところで今回は、どんな流れで
日本の映画祭に
参加することになったのですか。
- ヨランタ
- 実は、お店のお客さんとの会話から、
このムービーのアイディアが生まれたんです。
- ――
- お客さんとの会話から!
- ヨランタ
- いいムービーができたから、
今年のバレンタインデーの企画として、
フェイスブックで公開をしました。
そうしたら、世界のいろんな人から「いいね!」や
うれしいコメントをいただいて‥‥。
そして偶然に「ショートショート フィルム
フェスティバル & アジア」に応募しませんか、と
お声がかかったんです。
- ――
- 映画祭の中の
海外の企業や団体による映像部門
「Branded Shortsインターナショナルカテゴリー」で
みごとグランプリの
「Branded Shorts of the Year」
を受賞されたそうですね。
本当におめでとうございます。
- ヨランタ
- ありがとうございます。
なんだか、まだ信じられない(笑)!
- ――
- さて、このムービー、
お客さんとの会話がきっかけだった、
とのことでしたが‥‥。
- ヨランタ
- 始まりは、ひとりの常連客との雑談でした。
たまたま私が、父の書いた手紙を大事に持っている
という話をしたんですね。
私の父は文章がうまくて、物語やジョークを混ぜながら
手紙を書いてくれて‥‥だから今でも
ときどき読み返しているんです。
- ――
- いいエピソードですね。
- ヨランタ
- そうしたら、お客さんである彼女もまた、
彼女のおじいちゃんがおばあちゃんに宛てて書いた
80年前のラブレターの束を、大切に持っていたんです。
- ――
- わあ。80年前の!
- ヨランタ
- それから私たちは、最近は
携帯やパソコンでのメールが主になってしまっていて
なんだか悲しいね、という話をしました。
手で書くことには、その人らしさが出るし、
紙の色や手触りだってあります。
だからこそ、記憶に残るものになるんですよね。
- ――
- ええ、そうですね。
- ヨランタ
- そんなことから
「このコンセプトで、ムービーを作ったらいいかも」
という話になったんです。
彼女は広告代理店に勤めていたので、
ムービーを作ってくれるクリエイティブチームを
すぐに紹介してくれました。
- ――
- なるほど。
- ヨランタ
- わたしが最初のコンセプトを伝え、
撮影などはチームにすべて任せました。
でき上がったムービーは、本当にすばらしかったです。
特別なことがあるわけでもなく、
結婚して、その後トラブルがあるけれども
それを乗り越えていっしょに生きていく。
小さいけれど、価値のある瞬間が
そこにはあるんですよね。
- ――
- ええ。
1日1ページというコンセプトで
ちいさな毎日を大事にしたいという
ほぼ日手帳の考え方と同じだなあと、
なんだかうれしくなりました。
- ヨランタ
- そうですね。
- ――
- いろいろな文房具が登場しますね。
このムービーは、お店の商品のプロモーションにも
なっているんじゃないでしょうか。
- ヨランタ
- 文房具のセレクトについては、
クリエイティブチームにすべて任せ、
私から特にリクエストは出しませんでした。
ムービーの中では、ティナとロブが
すばやくメモを取るわけですが、
ふつう、急いでいるときや、さっとメモするときは、
いい紙や文房具なんか使わないでしょう?
- ――
- ああ、なるほど!
- ヨランタ
- そのへんに転がっていて、
パッと手に取れる文房具を使いますよね。
そんな雰囲気も、出ているんじゃないかしら。
- ――
- たしかに、そうですね。
- ヨランタ
- 商品のプロモーションをすることよりも、
私は、紙とペンを使うことの
大切さを伝えたいなと思ったんです。
私のお店のお客さんの中にも、万年筆を集めたり、
ケースに入れて、一度も使わないような人も
いらっしゃるから。
- ――
- 文房具を集めるのが好き、ということですよね。
- ヨランタ
- 素敵な紙や素敵なペンを持っていることは
素晴らしいことだし、何の間違いもありません。
ただ、文房具を使うことによってさらに、
誰かとコミュニケーションをとったり、
つながったりできるんだよ、という
メッセージを送りたくて。
- ――
- 何も言わずとも、このムービーで
そのメッセージは伝わると思います。
- ヨランタ
- あとは、日本のパイロットやミドリの
文房具などもでてきていますし、
そこに注目してみても、
たのしめるかもしれませんね。
- ――
- メモ帳にメッセージを書くだけではなく、
背景のスタイリングも素敵でした。
お花が添えられていたり、招待状や薬が置いてあったりと
1シーン1シーンが凝っていましたね。
- ヨランタ
- ええ。素晴らしいムービーに仕上げてくれた
クリエイティブチームに感謝しています。
- ――
- ちなみに、ヨランタさんはふだんから
手帳や日記、手紙を書いたりしますか。
- ヨランタ
- 手紙はあまり書かなくなりましたね。
でも、1日の終わりに、考えをまとめるために
A4のノートなんかに、メモを書いたりしています。
将来の計画を書いたり、心配事を書いたり。
そうしておくと、仕事で役立ったりするんですよね。
- ――
- そうですね。
私たちも、手書きのたのしさや魅力について
これからも考え、追求しながら
手帳や文房具を作っていきたいと思います。
今日はありがとうございました。