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〈後編〉お守りのような手帳。
- ――
- 小栗さんが取材や解説をするために、
意識して探しているものはありますか。
- 小栗
- 私は政治・外交をずっと専門分野にしているので、
国際情勢について調べることは多いですね。
それ以外ですと、
自分もいい年齢になってきたので、
仕事の専門分野だけじゃなくって、
もうちょっと、生活を楽しむようなことだとか、
まったくやってこなかったことも、
やりたいなあと思っています。
すぐご紹介できるようなテーマじゃないけれど、
最近学んでいることは、端唄(はうた)です。
- ――
- 端唄を学ぼうと思ったのには、
きっかけがあったんですか。
- 小栗
- 江戸の文化について知りたいなと思って、
端唄や三味線を習っているんです。
ピアノとかチェロとか、
西洋の楽器は学校でも触ってきましたが
三味線を習ってみてびっくりしました。
ピアノではありえない音の進行があって、
すごく違和感があったんですよね。
習い始めてから2年目になりますが、
音の揺らぎを感じられるようになったら、
とってもおもしろくなりました。
最近、「揺らぎ」みたいなことが
話題になることもあるから、
うまく結びつけたらオンエアにも使えるかな‥‥。
あっ、そうやって「オンエアにも」とか、
変な欲をだすと純粋に楽しめなくなるから、
趣味は趣味で、と思っているんですけど(笑)。
- ――
- 日本文化に興味が向かっているのは、
アメリカで生活していたことと
関係があるんでしょうか。
- 小栗
- ええ、それもあると思いますね。
アメリカにいた頃には、
日本人であることを再認識させられました。
「日本人なんだから日本のこと教えて」
と言われて、あまり知らなかったことに
直面したという経験はあります。
それと、自分が年齢を重ねてきたことも、
関係があるかもしれませんね。
どこかで原点回帰したくなってきている感じ。
- ――
- 何年か前の手帳でも、
読み返すようなページってありますか。
- 小栗
- 亡くなった母についてかなあ。
私の母は短歌をやっていたんです。
作った短歌をよく私に見せてくれましたが、
母が亡くなってから母の手帳を見てみたら、
「こんな歌を作ってたのね」というのがあって。
それを記録したページは、
ヘコんだ時に見返すことがあります。
特別なわけじゃないんだけど、
常日頃、私を支えてくれる感じかな。
- ――
- お母さんが励ましてくれるように
思えるのかもしれませんね。
- 小栗
- 手帳のポケットにはさんでいるものも、
私にとって、お守りみたいになっています。
母の言葉が書かれた紙が
遺品整理をしていた時に見つかって、
母の字を見るだけで、
気持ちが救われることがあるんです。
- ――
- カバーを含めた全部が
大事な存在になっているんですね。
- 小栗
- そう、そう。
これは母が詠んだ短歌ですが、
「優しさは切なくて娘よ
老年を生きる孤独は言わず逢いたり」。
私と会って嬉しいけれど、
老いの淋しさを話せば、
私を心配させてしまうでしょう?
だから、寂しい気持ちなんて、
言わないで会っていたみたい。
私、母の孤独に気づいてあげられなくて、
亡くなってからこの紙を見つけました。
- ――
- 本当の気持ちって、
なかなか気づけないものですね。
- 小栗
- 私も年齢を重ねてきて、
母の寂しさが、少しずつわかってきました。
以前、母にネックレスを贈ったことがありました。
でも、せっかくあげたネックレスを、
母はあまりつけてくれなかったんです。
なんでつけてくれないのか聞いても、
「また今度つけるわよ」なんて言われて。
- ――
- 趣味が合わなかったとか?
- 小栗
- 今になってわかったことですが、
年を取ってくると勘も鈍って、
手先が器用じゃなくなるから、
鎖の端っこを細い輪っかに
入れることが難しいんですよね。
私も、いつもなら一発で入っていたのに、
最近、急いでいる時に
うまく入らなくなることが増えてきて。
「あっ、私のあげたネックレスは、
つけたくても、つけられなかったんだ!」
と、追体験していくことが増えてきました。
母のことはすごく好きだったし、
仲も良かったんだけれど、
あまり優しくしてあげられなかったなあ。
- ――
- でも、心の内側では、
大切に思う気持ちがあったわけですよね。
- 小栗
- はい。だからこそ、
ごめんなさいの気持ちです。
自分を戒める意味でも、
ほぼ日手帳にはさんであります。
- ――
- 手帳のどこかのページに貼るというよりも、
ずっと持っていたいものですね。
- 小栗
- そうですね。
手帳を切り替えるたびに、
中身も移し替えています。
母の字を見ているだけでも、
「この人の娘で良かったな」とも思うし、
こういう母のもとで一所懸命生きてきたんだから、
辛いことがあっても大丈夫、
乗り越えていこうと思えます。
- ――
- 大切な思い出の詰まった
手帳を見せていただいて、
ありがとうございました。
- 小栗
- ありがとうございました。