2むさぼるように音楽を聴いていた。
- 今になって、すごいなぁと思うのは、
最初に彼らがデビューしてから、
いわゆる初期の曲が
何枚か続くじゃないですか。
でもその後、どんどん
別人のようになっていきますよね。
- ああ、別人になりますね。
- 3回くらい、変わりますね。
- あれが「過剰なまでの好奇心」なんだな。
- うん。現状に満足することなくね。
きっと周囲は
「今これが売れているんだから、これやれよ」って
言ったと思うんですよ。
- それをビートルズは見事に
ひっくり返しちゃうんだ。
- きっと、マネージャーのエプスタインと
プロデューサーのジョージ・マーティンが、
味方についてくれたんだと思うんですよね。
- そうね。
当時、ジョージ・マーティンは
不倫の状態だったらしいし、
ブライアン・エプスタインは、
役者をやりたかったんだけど挫折してるんですよ。
- そうだったの?
妙に詳しいですね(笑)。
- ‥‥って、本に書いてあったんですけどね。
- 会場
- (笑)
- で、ビートルズも、
ハンブルグへ巡業に行っては
帰ってくるのを繰り返してて、
「リバプールじゃすごい人気者になったけど、
俺たちこの先どうなるんだろうな」って、
状態だったと思うんだ。
デッカ(レコード会社)の
オーディションへ行っても、落ちたりするわけで。
- ああ。
- そういう、みんなの不満の塊が集まって、
ドカンッて破裂したんじゃないですか。
- 今だったらもっとマーケティングされて、
「『抱きしめたい』が流行ったんだから、
この方向がいいはずだ」
みたいに言われたり、曲順に関しても
さんざん口を出されたと思うんですよね。
- でも、彼らは口を出させなかった。
そこはすごく注意していたんだと思いますよ。
あの頃、つまり1962年ぐらいだったら
職業作家が詞と曲を書いて、
バンドに曲をあてがうわけだよね。
それを彼らはほとんど拒否したんだよ。
- それもすごいよね。
- 「書いてもらうぐらいだったら、
カバー曲をやってやる」
っていうことでしょうね。
折衷案でいくぞ、というようなことも
あったと思うんです。
- あぁ。そういう意味でいうと、
ビートルズのカバーの選曲はいいよね。
ビートルズたちがすごいオタクだったから、
アメリカのガールズバンドの曲を選んでて。
- そう、ガールズバンド!
それを男性が歌うことによって、
斬新なサウンドになるんだよね。
- あのあたりは、やっぱりアイデアですよね。
- うん、アイデアでしょうね。
- これは、ぼくのおぼろな知識なんだけど、
ビートルズとかストーンズの連中が、
売れもしない時期から、
マニアックなレコード屋に通いつめて
入ったばっかりのレコードを
奪い合いのように買っていたって。
- そうなんだよね。
ロンドンとリバプール、土地は違うけど
みんな輸入盤を漁ってた。
これはわたくしごとなんですけどね、
1970年代に音楽を始めた頃は
輸入盤のレコードが少なかったから、
渋谷のヤマハに輸入盤が入ると、
とりあえずみんな駆け出して買いにいって、
奪い合いしていたんですよ。
そこで買えないものは、ロック喫茶で聴いてた。
だから、むさぼるように音楽を聴くっていうことが
若い時にはあったんです。
- そうか。慶一くんは、
そうやっていち早く買うっていう
ビートルズみたいなことをしてたわけだ。
- うん。簡単に言うと、
ビートルズのアルバムは
1枚も持ってなかった。
- ‥‥え?
いま、お客さんが
シーンとなっちゃいましたよ(笑)。
- 会場
- (笑)
- なぜかっていうと、
みんなが持っているレコードは
借りられるからなんですよ。
- そうか、そうか。
- そのぶん、誰も持ってないアルバムを
小遣いから捻出するんです。
- そういえば、ぼくも
みんなが知らないバンド、
ハニーカムズとか見に行ったもんなぁ。
- 来日したねぇ。ドラムが女性でね。
- 誰も知らないかな、ハニーカムズなんて。
キンクスなんかと一緒に流行ったんだけど、
全然実力が違ったんだよね。
- あのさ、ビートルズって、
1人をリードボーカルとして
フロントに立てるバンドじゃないでしょ。
- まったくそうだね。
- 少なくとも3人がリードボーカルを取る。
リンゴを入れたら4人取るわけです。
ステージの映像を見てても、
ジョンとポールが2人で
メインボーカルを分け合ってるわけで。
- うん、うん。
- これは、当時の流れに向いてない。
だからオーディションに落ちたりもするんですよ。
想像だけどね、これ全部(笑)。
- つまり、フロントに立つ
トニー・シェリダン(*)みたいな人が欲しくなるんだ。
「ピントがボケる」って言われちゃうわけだよね。
(*リバプール出身のギタリスト、シンガー。
1960年代のドイツにて、まだ無名だったビートルズを
バックバンドに据えて録音したレコードを発売)
- たぶんね。
マーケティング的な視点からしたら。
- クリフ・リチャードの時代なのに。
- クリフ・リチャードが前にいて、
バックバンドに「シャドウズ」がいるっていうのが
通常のスタイルだったのに、
それをぶち壊したんだよね。
- 中心に誰がいるのかよくわからない。
それって一曲一曲についても言えて、
さっきみたいに「抱きしめたい」を
生で聴くとつくづくわかるんだけど、
「これは誰の曲」っていうのが見えないよね。
- あ、そうね。
あの曲も実は不思議な曲ですよね。
リードギターの存在がすごく希薄で。
- 希薄ですね(笑)。
- 不思議な曲がいっぱいあるんですよね。
- それで、リードギターの取りっこも
あるじゃないですか。
譲り合いなのか、取り合いなのかわからないけど。
- そう。だから奇しくも最後の録音となった
「アビイ・ロード」のラスト「ジ・エンド」では、
3人がギターソロを回してるでしょう。
3人とも素晴らしいギタリストでもある、
ボーカリストでもある。
これって実は、やっかいですよ。
- そうだね。
そんなチーム、他にないよね。
- しかも1962年にだよ。
そのやっかいさが、
不倫をしていたジョージ・マーティンに
任されたってことでしょう。
- 「ビートルズとはこういうかたちだ」っていうのが
つかみようがないままに
流行っていたってことですよね。
- そうなんですよ。
- 「ビートルズとは何か」っていうのを
言えちゃったらおしまい、みたいなところもあるし。
- しかも、どんどん変化していくから
ずっと言えないんですよね。
- 言えない。
たとえば、世間に新しいものが出てくると、
「早い話がなんですか」って
みんな聞きたがりますよね。
その時に「こうです」って
言えちゃうもののほうが、売りやすいから。
- うん。
- 「これね、ご家庭向けのナントカなんですよ」
とかって言えば、売れる。
それが言えないと、
「なにか、ないんですかね」って言われちゃう。
ぼくなんかも
ずっと言われてきたことだから。
「あなた、なんなんですか」みたいな(笑)。
- ああ、それならわたしも
「あなた、なんなんですか」って
言われるタイプです(笑)。
- そうだね(笑)。
だから、「せーの」で売る時には
すごく売りづらいんだけど、
思えば、最大に売れたバンドであるビートルズは、
「なんなんですか」のままですよね。
- 不思議なところですね。
それがなぜ、いまだに聴かれるかっていうと、
やっぱり、あの‥‥
曲の良さとか歌詞の良さが、すごく大きいと思う。
って、本当にあたりまえのことを
言いますけれども(笑)。
- あ、結局ぐるっとまわって
そう言いたくなるわけですね(笑)。
たしかに、そうなんだよなあ。
(つづきます)
■ザ・ビートルズ
2016年に公開された映画
「ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK - The Touring Years」内のライブ映像「ボーイズ」
■ザ・ビートルズ
「ハロー・グッドバイ」