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LIFEのBOOK ほぼ日手帳

LIFEのBOOK ほぼ日手帳

『うつヌケ』田中圭一さん × ほぼ日手帳 心の変化を記録しておくこと。

漫画家の田中圭一さんによる、
うつ病をテーマに描いたインタビュー漫画、
『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』が、
30万部を超える大ヒットになりました。
10年の間、うつと向き合いつづけ、
現在ではうつを克服されている田中さん。
うつのトンネルから抜け出せたきっかけは、
気温と機嫌の記録をつづけることで、
ある法則に気づいたからなんだそうです。
『うつヌケ』の中で描かれていた、
記録をつづけることや日記を書く意義、
そして、「ほぼ日手帳」でできるうつ対策について、
田中圭一さんにお話をうかがいました。
心の変化を書きとめておくと、
きっと、未来の自分が喜んでくれますよ。

田中圭一さんのプロフィール

田中圭一(たなかけいいち)

1962年5月4日生まれ。
大阪府出身。血液型A型。
手塚治虫タッチのパロディーマンガ『神罰』がヒット。
著名作家の絵柄を真似た下ネタギャグを得意とする。
また、デビュー当時からサラリーマンを兼業する
「二足のわらじ漫画家」としても有名。
現在は京都精華大学 マンガ学部 マンガ学科
新世代マンガコースで専任准教授を務めながら、
株式会社BookLiveにも勤務。
Twitter:@keiichisennsei

うつは突然やってくる。

――
田中さんの『うつヌケ』で
日記や記録について描かれていたのを見て、
「ほぼ日手帳」を使ってできる、
うつ対策があるのではと考えたんです。
田中
読んでいただいて、ありがとうございます。
よろしくお願いします。
――
3月・5月・11月は、
うつがぶり返しやすい季節だと
書かれていましたよね。
田中
ええ、じつは今日も調子が悪いんです。
3月にうつが戻ってくる原因って、
ちょうど今日みたいに、
こんなに暖かくなるからなんです。
(※取材をした3月5日の東京の最高気温は、
平年より8℃も高い20℃でした)
――
暖かくなったかと思ったら、
急に寒くなったりもしますし。
田中
うつになった経験のない人からは、
「急に寒くなったら、うつにもなりますよね」
というふうに言われることもあるのですが、
急に暑くなるというのも、
けっこうキツいものなんですよ。
暖かくなったからいいのではなくて、
寒くなろうが暖かくなろうが、
気温差というものが、いちばんの大敵です。
――
気温がぐーんと上がるのも、
田中さんにとってはツラいんですね。
田中
そう、毎日の寒さが一定になれば、
うつにならないんですよ。
だから急に暖かくなるとしんどくなる。
多くの人にとっては
「ああ、今日は暖かいから外へ出て行ける」
となって嬉しいものになるんだけど、
この段差が、ボクの気持ちをダメにしちゃう。
――
一定じゃない、
ということがポイントですね。
田中
そうなんですよ。
これはボクの持論ですが、
ある程度年をとってきたせいもあるのかな。
気温の上がったり下がったりすることに対して、
体の調節機能がついていけなくなってきたから、
心に不調をきたしているのかなと思うんです。
――
気温差でうつが戻ってくるというのは、
ご自身で気づいたことですか?
田中
『うつヌケ』でも描きましたが、
自分で記録をつけていたおかげで
「はげしい気温差が原因だ」と突き止めて、
うつを抜けた今でも、気温差は気にかけています。
今はうつが治っているので、
不安に駆られることもなくなりました。
何よりも「気温差で起こる」という
原因がわかった安心感もあるんですけどね。
ただ、あいかわらずマイナス思考に入る日や、
「あぁ、やる気でねえなあ」という日があるのは、
はげしい気温差が原因なんです。
うつの原因を突き止めたからこそ、
実感できていることがありますね。
――
田中さんがうつの症状で苦しんでいたのは、
どのぐらいの期間になるのでしょうか。
田中
うつだった期間は、ざっくり10年ですね。
うつの入り口は曖昧なのですが、
2005年ごろには確実に、うつでした。
――
ああ、10年も!
病院で診断されたわけではないけれど、
自覚症状があったということですか。
田中
ものの考え方とか、やっている行動が、
ちょっと普通じゃなかった。
毎日がつらくてしょうがなくて、
会社も本当に辞めたかった。
2005年ぐらいに一回、
「辞めたいです」と伝えたのに引き留められて、
結局こじらせちゃいました。
今になってみれば、自分のうつを認識しないまま、
会社を辞めようとしていたわけです。
もしもあのときに会社を辞めていたら、
ひょっとしたら、深みにハマっていた
可能性もあるかもしれません。
――
慣れない業界に転職をして、
無理をしてしまったのが原因と、
『うつヌケ』に描かれていましたよね。
田中
そうですね。
自分がやってきたノウハウだとか
キャリアをもとに実績を出せていると、
それほど不安にならないのですが、
ボクは前にいた会社と全然違う業界に入って、
たまたま最初に成果が出たんです。
そしたら、大きな期待をされてしまった。
野球を知らない人がバッターボックスに立って、
思いっきりバットを振り回してみたら
ホームランになっちゃったようなものです。
「うわっ、コイツすげえ! 明日から四番だ!」
なんて騒がれている感じですよ。
本人は、野球なんてよく知らないのにねえ。
周りから期待される中で凡退を続けるボクは、
「こいつ本気でやってないんじゃないの?」
なんてことを言われながら、
「いや、そうじゃないんだよ‥‥」
と、ひとりで落ち込んでいる。

©田中圭一/KADOKAWA

――
身の丈に合っていない
期待のされ方をされてしまったんですね。
田中さんのように転職したばかりだと、
ほんとは違うのにな、という苦しみも、
なかなか伝えられないんでしょうね。
田中
このときに入った会社は、
20人程度のITのベンチャー企業で、
ゲームの開発ツールをつくる
プログラマーばかりがいる会社でした。
ボクは、営業経験者として招かれた営業部長。
――
えっ、いきなり営業部長なんですか。
田中
そうなんです。
その会社に営業職というものがなかったので。
だから、営業の良し悪しも理解されない環境で、
がむしゃらに働いて、成果を出そうとしました。
ただ、ボクがそれまで営業職として売ってきたのは、
オモチャとか家庭用のゲームで、
人を楽しませるエンタメのものでした。
だから、そういうノウハウは持っていたけれど、
その会社で扱っていたゲーム開発ツールは、
中身ものぞけないし、
プログラマー出身でもないボクにとっては、
よく分からないものでした。
ソフトウェアを開発するためのソフトウェアなんて、
コーディングのかたまりみたいなものなので。
「畑が違いますから、違うとこ行きますわ」
なんて言うわけにもいきませんしね‥‥。
最初にうまくいったわけだから、
今後もうまくいくように努力すればいいやって、
ムリしてがんばっちゃったんです。
――
僕の知り合いでも、
畑違いの業種への転職をきっかけに、
心を病んでしまった人がいます。
ただ、うつの症状で苦しむ人に対して、
どう接したらいいのかが、よくわからなくて。
田中
よく言われていることですが、
「がんばれー!」と声をかけるのはよくない。
それは、ボクの経験上からもわかります。
「自分には存在価値がある」というのを、
自分で実感してもらわないかぎり、
うつから抜け出すのは難しいかもしれません。
ボクのケースを例にお話をすると、
まずは自分が今までやってきた
営業に近いところでもう一回仕事をやって、
もう一度感覚を取り戻したほうがいい気がします。
――
できるんだ、という
自信を持つことが大事なんですね。
田中
あと、ボクが転職したベンチャー企業では、
プログラマーばかりがいる会社だったことも、
ボクが無理をする原因のひとつでした。
まったく違う属性の人たちに囲まれて、
ポツンとひとりいるのがキツかった‥‥。
そのベンチャー企業を辞めたあとには、
電子書籍を売る会社で働きましたが、
IT系ではあるけれど、
電子書籍も、要は本じゃないですか。
だから、その会社には営業系な人たちや、
文系の人たちも多くいて、ホッとしました。
自分と同じ属性の人に囲まれて仕事をするのは、
こんなに楽なんだなって嬉しくなりましたよ。
中学や高校でも、クラス内でグループができますよね。
どこかには自分とは違うグループもあって、
悪い人たちではないのに、
なぜか話が噛み合わないことってありますよね。
――
そうですね。
どこか自分と似ている人たちと、
付き合いたくなるんですよね。
(つづきます)