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LIFEのBOOK ほぼ日手帳

LIFEのBOOK ほぼ日手帳

『うつヌケ』田中圭一さん × ほぼ日手帳 心の変化を記録しておくこと。

漫画家の田中圭一さんによる、
うつ病をテーマに描いたインタビュー漫画、
『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』が、
30万部を超える大ヒットになりました。
10年の間、うつと向き合いつづけ、
現在ではうつを克服されている田中さん。
うつのトンネルから抜け出せたきっかけは、
気温と機嫌の記録をつづけることで、
ある法則に気づいたからなんだそうです。
『うつヌケ』の中で描かれていた、
記録をつづけることや日記を書く意義、
そして、「ほぼ日手帳」でできるうつ対策について、
田中圭一さんにお話をうかがいました。
心の変化を書きとめておくと、
きっと、未来の自分が喜んでくれますよ。

田中圭一さんのプロフィール

田中圭一(たなかけいいち)

1962年5月4日生まれ。
大阪府出身。血液型A型。
手塚治虫タッチのパロディーマンガ『神罰』がヒット。
著名作家の絵柄を真似た下ネタギャグを得意とする。
また、デビュー当時からサラリーマンを兼業する
「二足のわらじ漫画家」としても有名。
現在は京都精華大学 マンガ学部 マンガ学科
新世代マンガコースで専任准教授を務めながら、
株式会社BookLiveにも勤務。
Twitter:@keiichisennsei

記録が残るとうれしい。

――
ことし、「ほぼ日手帳」から新しく、
「ほぼ日5年手帳」という手帳が登場したんです。
見開きのページにおなじ日付が、
2018、2019、2020、2021、2022と、
5年分ずらりと並んでいるんです。
田中
ああー。なるほど、なるほど。
1年前とかを簡単に遡れるんですね。
――
そうなんです。
12月が終わったらまた1月に戻るから、
1年前を気軽に見返せる手帳です。
季節とうつの関係の話で思いついたのですが、
「この頃はちょっと気分が落ち込んでいたから、
気持ちを落ち着ける準備をしておこう」
といった対策もできるのかなって思いました。
田中
この手帳、おもしろいですね。
確かに、一年スパンを意識するのはいいことですね。
「去年の今ごろ、こんなことを考えていたんだな」
ということって、年をとるほど忘れてしまいます。
――
「去年の3月に、こういうことがあったな」
ぐらいなら、なんとなく覚えていても、
「3月5日に何をした」
ということまでは、覚えていられないでしょうね。
田中
いやあ、覚えてないですよねえ。
あとね、ご機嫌ななめの日が続く時期があれば、
3年、4年と経ったときに、
「やっぱりこのシーズンはやばいぞ」
と感じることができるかもしれません。
――
田中さんは、日記を書くことはありますか?
TwitterやFacebookで
考えをまとめているのでしょうか。
田中
昔、mixiをやっていたころに日記を書いていて、
今になってみれば、あれは便利でしたね。
何年も前の日記をずっと遡って、
「そうか。この頃にこの人と知り合ったんだ」
「この頃はこんなこと言ったんだ」
みたいなことがあったんですけどね。
今でこそ日記を書いてはいないけれど、
日記を書くことの重要性をすごく感じています。
というのも、ボクは今ちょうど、
睡眠時無呼吸症候群の治療を始めたところなんです。
――
寝ている間に、呼吸が止まってしまう病気ですよね。
田中
ここ1年ぐらい、
夕方から夜にかけて急に眠くなって、
22時ごろが本当に眠くて、
そこから2時間ぐらい寝てしまうんです。
24時にハッと目が覚めて、
ひと仕事やってからお風呂に入って、
深夜2時ぐらいに寝るという生活をしていました。
2時に寝ても8時には起きて、
6時間ぐらい睡眠時間はとれているはずなのに、
なぜか22時になると、
気絶するようにイスの上で寝ちゃう。
これはなんだろうなあと思っていたら、
今年に入ってから寝ても疲れがとれなくて、
異常にダルい日が続いていたんですよ。
――
原因がわからないと怖いですね。
治療は、どうやって始めたんですか。
田中
毎週末に原稿の手伝いに来てくれる
アシスタントの男性が、
たまたま睡眠時無呼吸症候群だったんです。
その人は妻帯者で、奥さんから、
「夜中に呼吸が止まってるよ」と言われたそうで、
専門の病院に行って、間違いないと診断されました。
治療として、ガスマスクみたいなものをつけて
寝るんですが、治療をはじめてから、
見るからに明るく、元気になっていくんですよ。
そんな彼から、
「田中さんもきっと同じですよ」と言われまして。
――
アシスタントさんのおかげで
たまたま発見できたんですね。
田中
ボクは独身だから、夜中にいびきをかいていたり、
呼吸が止まったりしても気づけないんです。
でも、このつらさを早く改善したかったし、
隣にいるアシスタントの彼が
みるみる元気になっていく様子を見ていたので、
とりあえず病院に行って調べてみました。
すると案の定、睡眠時無呼吸症候群だった。
マスクをつけて寝てみたら、
最初の3日間ぐらいで劇的に快適になって、
日中眠くなるということは、ほぼなくなりました。
この1年ぐらいで体も急激に太ったから、
肥満はその一因となりえるんですって。
この経験もいずれ、漫画にしたいですね。
――
いいですね。自分の睡眠の問題って、
気づけない人がいそうですもんね。
田中
なにかしら記録をとっておかないと、
後で振り返るのは大変だから、
日記を書いておく必要があると思っています。
――
そうですね。
「22時から2時間寝てしまった」と、
ちょっと書いてあるだけでもいいし。
それこそ、病院でお医者さんに、
「この手帳を見てください」とも言えますよね。
田中
そうそう、場合によっては、
体重と一緒に記録しておくといいかもしれませんよ。
体重が増えて、眠っても疲れがとれなくなったとか、
そういう変化がわかるかもしれないし。
体重や体脂肪のことも含めて、
記録を残す作業は、まめに続けなきゃいけませんね。
面倒ではあるけれど、意外なことに気づくための
貴重な資料になるんだと思いますよ。
――
未来の自分が、
いちばん喜んでくれますよね。
田中
ああ、そうですね。
ボクは、今が55歳なんですが、
健康が担保された状態で
漫画家として今のペースで執筆できるのは、
60歳までかなと思っているんです。
「ってことは、残り5年じゃん」となるわけですが、
その5年間の中で、すごく体がダルくて、
ほぼ何もできない日が続くのは、非常にマズい。
快適な日々をいかに増やしていくかが重要なんです。
――
急に締切ができたような感じがしますね。
田中
対策のひとつとして、日々の記録を残すこと。
ご機嫌でもいいし、体重・体脂肪でもいい。
何か記録を残しておくことで、
不健康なものが浮き彫りにされて、
治療や対策ができます。
すると、残りの寿命の中で快適な日が増えるんです。
これがボクの年になると、いかに重要なことか。
お金があれば家やクルマを買えるけれど、
快適な日々を買うというのは、
本来いちばん価値の高いものなんですよね。
でも、快適な日々の買い方ってわからないでしょう?
――
ああ、そうですね。
田中
それはね、健康のどこかに、
不健康な部分があるんじゃないかと、
調べなければいけないんです。
日記という記録も大事だし、
定期検診とかに行って血液検査とかを
しておくのも重要かなと思いますね。
――
健康診断の記録も残しておくといいですよね。
その年の数値だけでわからないことも、
のちのち悪くなることもあるだろうし。
田中
ボクもね、30代、40代のときは、
めったに風邪すら引かない体質だったから、
健康なんかどうでもいいと思ってたんですよ。
40代でうつになってはじめて、
10年間つらい日々が続いたんです。
それって、人生70年だとすると、
7分の1をロスしたわけじゃないですか。
――
7分の1は大きいですね。
田中
その10年間に快適でいきいきとしていれば、
もっといろんな作品を描けたかもしれません。
恋愛をしたり、結婚をしたかもしれないし。
いかに普通の状態を
手に入れていることがありがたいか、
うつを経験したことで気づいたわけです。
おそらく、うつになった経験がなかったら、
睡眠時無呼吸症候群を疑うこともせず、
「最近ダルくて、なんかやる気が起きないな」
ぐらいで済ませていたと思いますよ。
ダルい症状がなくなって快適になってくると、
「あっ、今度はあれもやろう。これもやってみよう」
と、毎日やる気が出てくるわけです。
――
40代でうつになっていたころは、
漫画への意欲もなかったんですか?
田中
漫画については、
仕事として依頼をいただいたものは描いていました。
ただ、新しい漫画を企画して持ち込むことはなく、
仕事だけを淡々とやっていた状況です。
まあ当然のことかもしれませんが、
その頃に描いてたものって、
あまり人気も出なかったんですよね。
編集部から「そろそろ‥‥」と言われると、
「いや、もうちょっとやらせて」と言って、
延命させていたことがありますね。
みっともないのですが、
あの頃は、仕事が途切れてしまう恐怖心が強くて。
「ここで連載が終わったら、
次の依頼なんか絶対に来ないぞ」
と思ってしまっていたんですよね。
――
会社の仕事は、普通にこなせていたんですか?
田中
仕事も一応こなしてはいたけれど、
目立った成果は出せませんでした。
会社では「もう、田中さん何やってるの?」
みたいなことを言われて、毎日叱られていました。
売上げは下がっていくし、給料も下がる。
担当するセクションからも外されていって、
最後の最後には、みんなの机から離されて、
雑用に近いようなことをやらされていました。
次に“肩たたき”がくるということが、
完全にわかっていたんです。
――
ああ、それはツラいですね。
自分でみっともないと思いながらも
漫画を続けたかった気持ちも納得です。
田中
漫画は、自分の存在価値を
唯一認めてもらえる場だったんですよ。
漫画を描けばとりあえず載ったから、
「ここに俺の居場所がある」と思えました。
うつが最悪の状態まで重症化しなかったのは、
漫画があったおかげとも言えますね。
(つづきます)