前編段ボールアーティスト
段ボールアーティストのCarton/島津冬樹さんは、
世界中で段ボールを拾い集めて、
お財布やカードケースなどを作る活動をしています。
国内外で街中や市場などを歩き、
いらなくなった段ボールを拾う
活動を続けている島津さん。
拾ってきた段ボールを素材にして
こんな長財布を作っています。
こちら、もともとは
鹿児島県・徳之島のじゃがいもが
詰まっていた段ボールです。
荷物を入れておくという役目を終えて、
捨てられるはずだった段ボールが、
島津さんの手によって、
大切にしたくなる作品に生まれ変わりました。
「ほぼ日手帳」をみなさんにお届けする際に、
オリジナルデザインの段ボールを使っています。
その段ボールを素材にして、
島津さんの手で作品にしていただこうと、
島津さんのアトリエを訪れました。
- ――
- 今日は「ほぼ日手帳」の段ボールを使って
作品を作っていただくのですが、
まずは段ボールでお財布を作ることになった
きっかけを教えていただけますか。
- 島津
- 最初に財布を作ったのは大学生の頃ですね。
ぼくは多摩美大で情報デザイン学科という
デジタルの領域を勉強する学科にいましたが、
授業とは別に、ものを作るのがすごく好きで、
大学2年生のときには、自分が作ったものを
1日1作品ブログにアップしていたんです。
ちょうどその頃、使っていた財布も壊れちゃって
どうしようかなーと思っていたら、
たまたま家に、おしゃれなダンボールがあった。
バイト代が出るまでの1か月だけもてばいいやと、
間に合わせで作ったのがダンボール財布です。
ボロボロの財布から、ダンボールの財布って、
むしろグレードダウンしてる感じですけど(笑)。
その時に作った最初の財布がこちらですね。
- ――
- おお、かなり使い込んでいる感じです。
中の構造は一般的なお財布と同じですね。
ただ、最新のデザインと比べると、
まだ作りがラフな感じがします。
壊しちゃいそうで、さわるのが怖いぐらい。
- 島津
- でもこう見えて、
お財布として実際に1年弱は使えていました。
途中、ゴムバンドに挑戦した時期もあったんです。
- ――
- ゴムバンドというか、
ごく普通の輪ゴムなのでは(笑)。
- 島津
- 「ゴムバンド」なんてカッコいい言い方したけど、
やっぱり、輪ゴムに見えちゃいますよね(笑)。
ゴムってポケットに入れると、
すぐに取れたり引っかかったりして、
けっこう弱いことがわかりました。
だいたい2か月おきぐらいで作り方を変えて、
なかなか形にならずに、
いろいろ悪戦苦闘しましたね。
- ――
- お友達の反応はどうでしたか?
- 島津
- 友達からは、やっぱり賛否両論(笑)。
「すごく貧乏に見える」と言う友達もいたし、
「段ボールなのに財布として使えるってすごい!」
と褒めてくれる人もいましたね。
もともとは自分用の財布として作っていましたが、
多摩美の芸術祭で販売してみようと思って、
いろんな段ボールを拾い始めて
段ボール財布を量産するようになりました。
そのときに気づいたことがあって、
段ボールにもいろんなデザインがあって、
段ボールがおしゃれだと、
財布も自然にカッコよくなるんですよ。
そこから段ボールを探すたのしさが生まれて、
段ボール拾いは今でも続いています。
- ――
- 今では世界の各地で段ボールを集めていますが、
学生の頃は、日本だけで拾っていたんですか。
- 島津
- 当時は日本だけでした。
大学2年生の冬に初めての海外旅行で
ニューヨークに行ったのですが、
段ボールを見ようということではなく、
自由の女神とかを見れたらなあって。
でも、現地でびっくりしたのが、
街なかに落ちている段ボールが
おしゃれだったり、きれいだったりして。
海外にも段ボールってあるんだよなあ、
という当然のことに気づいたのと同時に、
国によって違いがあるんじゃないかと思って、
海外へ段ボールを探しに行くことに、
徐々に興味を持つようになったんです。
- ――
- 捨てられている段ボールを
拾うことに抵抗はなかったんですか。
- 島津
- 最初は恥ずかしさもあったんですけど、
拾う後悔と拾わない後悔を比べたら、
「あのとき拾っておけばよかったな」
ということが多々あるんですよ。
海外でも、日本でも同じです。
まあ、他人の行動って
そんなに気にしているわけじゃないんで、
最近はまったく気にせず、慣れました。
- ――
- 広告会社を辞めてフリーになった今、
段ボールアートの活動も
世界に広げていますよね。
- 島津
- 会社にいた頃も海外旅行には行っていましたが、
会社を辞めてから考えが整理されてきて、
「なぜ、その国で段ボールを拾いたいのか」を
きちんと考えて、伝えるようになりました。
その国の事情が見えないと
行っても意味がないと思うようになって、
より内容の濃い旅ができるようになりました。
- ――
- 段ボールって、
国ごとにどんな違いがあるんでしょうか。
- 島津
- いろんな意味で違いはあって、
見た目のデザインだけでなく、
段ボールの捉え方が国によって違っていたり。
日本では「段ボールください」と言えば
普通にもらえると思うんですけど、
インドや東南アジアでは、
段ボールを拾って換金することで
生活している人たちがいるんです。
だから、ぼくが拾おうとしても
段ボールが見つからない国もあります。
- ――
- 国や文化によって、
段ボール事情が異なるんですね。
いろんな国がありますけど、
島津さんが行きたい国って
どうやって選んでいるんですか。
- 島津
- 海外で行きたい国を選ぶ時には、
その国の言語は意識していますね。
段ボールにはその国の言葉が
印刷されていることが多いので、
その言語が魅力的だなと思ったら
その国へ行って段ボールを拾うんです。
このあいだ行ったミャンマーとかも本当に、
「え、何の言語?」とまったく読めないのが
いいなって思って拾ってきました。
- ――
- これまで段ボールのことを
あまり意識せずに暮らしていました。
日本の段ボールって、
どんな特徴があるのでしょうか。
- 島津
- 日本の段ボールは印刷の技術が高くて、
版ずれがまったくないんです。
工場でデータ管理していて、
ちょっとした版ずれがあっただけでも
規格外として処分されているようです。
日本以外の国ではそんなに厳しくないので、
明らかに印刷がずれていてもOKだったりして。
笑っちゃうような版ずれをしたものもありますよ。
印刷のクオリティは日本のレベルが高いのですが、
デザインとしては、色が地味になる傾向があります。
ベージュに「大根」って書いてあるだけとか、
単色で刷られていることも多いですね。
海外で目を引くような段ボールって、
すごくカラフルで主張が激しいんです。
- ――
- 派手さの違いって、なぜでしょうね。
- 島津
- 日本人ってたぶん、文化的に色を使うことに
慣れていないんじゃないでしょうか。
墨絵の時代から通じているように、
そんなに色を多用する国ではないから。
海外では油絵にもすごく色を使いますし、
色を使うセンスがあるんですよね。
海外の段ボールを見ていると、
とにかく目立たせたいという主張を感じます。
- ――
- たしかに、段ボールといえば、
ベージュの地味なイメージです。
- 島津
- そうだ、この段ボールを見てください。
どうしてこんなデザインなのかわからないけど、
オレンジが入っていた箱なんですよね。
- ――
- えっ、このカンガルーの箱に
オレンジが入っていたんですか。
- 島津
- オーストラリアのバレンシアオレンジです。
この箱をパッと見ても、
「カンガルーだからオーストラリアかな」
ということ以外は何もわからないですよ。
明らかに画像合成をしたカンガルーが
ひとつの箱に合計6匹もいます。
オーストラリアはデザイン大国なので、
カチッとしたデザインが多い印象ですが、
段ボールに関しては
不思議なデザインに遭遇するんですよね。
ぼくはアートディレクターの出身なので、
オレンジの段ボール箱を作るとしたら、
「オレンジをどう表現するか」から
スタートしたくなるのが普通だと思うんです。
でも、段ボールに関しては、
農家さん主導の直感で動いているところもあるので、
理解できないデザインがけっこうあります。
ただ、自分としてはそこがすごくおもしろくて、
いつも発見があるんですよね。
- ――
- 自然発生的に生まれてしまったんですね。
そのままお客さんに出すものでもないことが、
ゆるさにつながっているのでしょうか。
- 島津
- 日本の場合、野菜や果物の段ボールは、
市場で競りをするおじさんの
目を引くために作られているんです。
おじさんの好みか、どうしたら目立てるか。
そういうところを考えてデザインするから、
独特なデザインが生まれるんじゃないでしょうか。
あと、日本の段ボールを象徴するのが、
「ゆるキャラ」がかなり多くの割合で
箱に印刷されているんです。
しかも、商業的なキャラクターではなく、
農家さんがちょちょいと描いたようなキャラなので、
注目してみるとおもしろいんですよね。
こういったところでも、
日本のキャラクター文化を象徴していると思います。
- ――
- 映画では、広告会社で働いていた当時、
お客さんの会社へプレゼンに向かう途中で
段ボールを拾うエピソードがありましたが、
友達と遊んでいたり、街を歩いていたりしても、
気になったら拾わずにはいられないんでしょうか。
- 島津
- いい段ボールって、
どこに落ちているかわからないんですよ。
飲みに行った帰りに見つかることもあれば、
段ボールを拾いに出かけたとしても
見つかるかどうかは運次第。
だから、常にアンテナを張ってないと、
いい段ボールとは出合えません。
- ――
- 「いい段ボール」の定義って何ですか。
- 島津
- ぼくが思う「いい段ボール」の定義のひとつに、
段ボールの「温かさ」があります。
農家の人が考えたようなゆるいデザインとか、
数十年前にデザインされてから変更されていなくて、
そこだけ時代が止まっているような
レトロで、温かさのある段ボールとか。
たとえば、昔の段ボールはフタを開けると
「いつもありがとうございます」と書いてあったのが、
最近作られた段ボールは最低限の情報だけで、
けっこうドライになっているんですよね。
昔は段ボールも含めて真心を届ける文化があって、
温かさのある素材だなと思っています。
このみかんの段ボールなんて、
何年前のデザインかわからないですけど、
「日本国有鉄道」って書いてあるんですよ。
- ――
- JRになる前だから30年以上前ですよね。
それから作り直していないんでしょうか。
- 島津
- これはたぶん、
ずっと倉庫で眠っていた段ボールなんです。
国鉄時代の規格で作られたのではないでしょうか。
このみかん箱、ゆるいデザインに見えますが、
けっこうグラフィカルにデザインされていて
気に入っているんですよ。
この箱は、ワークショップに来てくれた
お客さんが持ってきてくださったんです。
「家にあった段ボールを持ってきたんだけど」
と言うので、ぼくが持ってきた箱をお渡しして
代わりに譲っていただいたんです。
- ――
- 国内外でいろんな段ボールを拾い集めている
島津さんの目で見たときに、
「ほぼ日手帳」の段ボールはどんな印象ですか。
ちなみに2019年版は「ほぼ日刊イトイ新聞」の
創刊20周年記念のモデルなんです。
- 島津
- この箱、すごくかわいいですね。
コストのかかる全面印刷で豪華だし、
箱の全体がしっかりデザインされていて、
すごくいいなと思いました。
お話をいただいたときに画像を見せていただいて、
これでお財布にしたら絶対かわいいと思ったんです。
ただ、ぼくは「ほぼ日」の段ボールを
街で拾ったことがなかったんですよね。
かわいいから、みんな捨てないんじゃないかな。
「ほぼ日」でお買い物しているお客さんも
こういう箱が好きなんじゃないかなと思いました。
置いておくのにちょうどいい厚さと色味なので、
使い終わった手帳を箱に入れておいたり、
家に残してありそうな気がしましたね。
- ――
- 「この箱をどう活用しているんでしょうか」
という質問はいただいたことがあります。
もちろん大半の方は捨ててしまうと思いますが、
手帳や資料をしまったり、ネコが遊んだり、
という話を教えていただくこともありますね。
- 島津
- ああ、やっぱり。
今日は、何を作ろうかなあ。
段ボールの全面に柄が入っているから、
どこを切り取っても使えそうです。
手帳カバーは作ることができそうなので、
他にも何か作れたら作りましょうか。
(後編では段ボールアートを作ります!)