LIFEのBOOK ほぼ日手帳

エチオピアからの贈りもの。

一度触れば誰もがそのやわらかさに驚く、「andu amet」のシープ革で作った手帳カバー。
ふわふわの革のひみつとものづくりに込められた思いを、「andu amet」の代表でありデザイナーの鮫島弘子さんに聞きました。
東京とエチオピアを行き来しながら、エチオピアのシープ革の魅力を伝えている鮫島さん。
今回は、エチオピアと電話をつないで取材をおこないました。
> 鮫島弘子さんプロフィール

“ブルーム”
オリジナルサイズ用
カバー
“ナイルブリーズ”
オリジナルサイズ用
カバー

−前編−

いい革の条件を備えた、特別な羊

今回は、「andu amet」さんの革でとってもすてきなカバーができました。
なんといっても、魅力はこのふわふわの羊さんの革だと思うのですが、まずはその特長から、教えていただけますか。
鮫島
はい。「アビシニアハイランドシープスキン」というエチオピアだけに生息している羊の革です。
世界の羊は大きく2種類、「ヘアシープ」と「ウールシープ」に分けられるんです。
ウールシープっていうのは、ニュージーランドやオーストラリアによくいる毛がふわふわした羊さんで、見た目もかわいい(笑)。
でも、毛がいい代わりに、革はあまりよくないんです。
反対に、ヘアシープは毛はよくないけれど、革がいいと言われています。
アビシニアハイランドシープは、ヘアシープの仲間なんです。
毛はよくないけれど、革がいい羊なんですね。
鮫島
ええ。そして、ヘアシープの革の中でもさらに、いい革に適した生息環境というのがありまして。
生息環境が革に影響するんですね!?
鮫島
寒暖差の激しい標高3000メートル、緯度が南北10度以内というのが、羊革にとって好条件とされる土地なんですが、エチオピアに生息するアビシニアハイランドシープがまさにその条件に当てはまるんです。
革の繊維の強さ、きめ細かさが違うといわれているんですよ。
条件が、ばっちりそろっているんですね。
鮫島
この、赤ちゃんの肌みたいななめらかさとやわらかさは、アビシニアハイランドシープの革ならではです。
それから、こんなにやわらかいのに実はすごく丈夫なんですよ。
同じぐらいの厚さにして比べてみると牛革よりも強度が高く、ペン先のような尖ったものを当てても貫通できないぐらいです。
やわらかいのに、強いなんて。
鮫島
エチオピアのアビシニアハイランドシープはよく、ゴルフのグローブなどにも使われています。
ほら、ゴルフのグローブって打つときに強い力が加わるし、摩擦も生まれるから弱い革だとすぐボロボロになってしまうでしょう。
でも、アビシニアハイランドシープの革ならグリップの微妙な感覚をきちんと伝える繊細さもありつつ、しっかりした強度があるんです。

いい革だからこそ、ナチュラルに仕上げる

革自体が、すごくよいものだということがよくわかりました。
ほかにも特長はありますか。
鮫島
なめしたあとの仕上げも、一般的な革と違います。
市場で流通している革製品の多くは、仕上げに「顔料」が使われています。
いわば、マニキュアみたいなものでベターっと上から塗布することで、もともとついていた傷とかマダラを「厚化粧」して、隠すんですね。
たしかに、傷は隠れるんですけど、同時に革の良さも殺しちゃうことになるんです。
ええ。
鮫島
わたしたちが使う革は、「染料」仕上げです。
透明感のある仕上がりで、革の欠点を隠せないぶん、その長所まで隠すような厚化粧もしていません。
そのため水や摩擦に弱く、取扱いにすこし注意も必要です。
一般的には、本当にいい革や高級品にだけ使われることが多い染め方ですね。
私はこのシープ革が本当にいいと思っているから、できるだけナチュラルな仕上げにしたいんです。
革のよさを、活かした仕上げなんですね。
鮫島
天然の傷とか色ムラとかシミとか、そういうのが見えてしまうんですけれど、それは動物たちがのびのび暮らしていた証であると思うんです。
ああ、ほんとうにそうですね。
なんとなく、傷やシミなどはよくないものと考えてしまいがちですが、革というもの自体、動物のものであり、自然のものであるわけですものね。
鮫島
ちなみに今回のカバーでいうと、白はやっぱり汚れがつきやすいので、上から顔料を薄くかけています。
ピンクと水色の部分はさらにうすくかけていて、表側のこげ茶色のところは、いっさいかけていません。
一方、内側のこげ茶色の部分はなめし方自体も違うんです。
こんなふうに、色や部位によってもちょっとずつなめし方仕上げを変えています。
色によって仕上げ方が違うなんて!
小さなところまで気をつかってていねいに作られているんですね。
鮫島
表面ひとつをとっても、白いところを触っていただくとわずかに硬い感触、表側のこげ茶色のところを触っていただくと、ちょっとだけ触り心地がやわらかなんですよ。

やりたかったことの、ひとつの答え

鮫島さんは、このエチオピアの革とどのように出合ったんですか?
鮫島
わたしは、最初は日本の会社でデザイナーとして働いていたんですが、大量生産・大量消費の世界に身を置きながらそうじゃない仕事がしたいと思っていたんです。
2002年に、ボランティアとしてエチオピアに行ったときに、このすばらしい革に出合いました。
でも‥‥。
でも?
鮫島
当時、この革はほとんど原皮の状態で輸出されていたんです。
結局それがイタリアでなめされてイタリア製の革になったり、フランスで縫製されて、フランス製のバッグになったり。
有名ブランドで売られて、十倍、何十倍って、どんどん価格は上がっていくけど、結局その宝物みたいな革をもともと産出しているエチオピアには経済的な還元はほとんどありませんでした。
経済的なことだけでなく、職人さんも育っていかないわけですよね。
ああ‥‥。
鮫島
わたしも、時代の流れが大きくファストファッションに向かっているなかで、自分は大量生産・大量消費じゃないものづくりがしたいなと思っていたので。
そこで、自分自身がやりたかったことのひとつの答えが見つかったというか‥‥
この仕事なら自分も幸せだし、エチオピアの人にとっても、もしかしたらお客さんとなる人にとってもいいことなんじゃないか、と思ったんです。
帰国後、外資系の会社でのマーケティングの仕事をして、2012年に「andu amet」を立ち上げました。

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