- 今回は、
「CO-」さんといっしょに
すてきなボタンのついた
手帳カバーをつくろう!
というお話からこの「Search & Collect」が
できあがりましたが、
なぜアンティークボタンの復刻をすることに
なったんでしょう?
- 小坂
- さいしょは
ヨーロッパで買いつけてきた
アンティークボタンをそのまま
使おうという案もありました。
けれど、アンティークボタンは
手帳カバーをつくるには数が足りない。
じゃあ作ろう! と。
そこで、去年買いつけた
イギリスのボタンを復刻することにしたんです。
復刻といっても、サイズもシェイプも
今回のために変えています。
もとのボタンから、
蜂とお花のモチーフだけを取り出したかたちです。
- もとのボタンは小さいですね。
- 小坂
- ね。
元のボタンにかぶせてあるのは薄い真鍮です。
いま同じようにつくろうと思っても、
まったく違う感じになってしまうんですよ。
そこで、今回の手帳カバーに合うよう、
「存在感のある真鍮の一枚もの」のかたちで
復刻することにしました。
元のボタンは平面的ですけど、
復刻したのはなだらかなアーチを描いているのも
ポイントなんです。
- ほんとうですね!
みつばちのようなラッキーモチーフは、
むかしのボタンには多いんでしょうか?
- 小坂
- そうですね、はちのモチーフは
けっこう使われていますね。
ジュエリーにもよくあります。
イギリスの人って、はちが好きなんですよ。
趣味で養蜂をしている人もいたりして、
親しみのある存在なんだと思います。
- 復刻というのは、
ボタン屋さんに発注をするのですか?
- 小坂
- はい、つくってもらいました。
今回はすべて東京産なんですよ。
原型をつくってくれた職人さんも、
工場さんも含めて東京。
- じゃあ、MADE IN TOKYOのボタン。
- 小坂
- そう。これね、作り方がおもしろくて。
4倍の型で作ってくれたんですよ。
- 4倍?
- 小坂
- このボタンの模様は、
原型師さんの手彫りなんですよ。
レーザーでも金型の彫刻はできるんですが、
ぜったいに手彫りのほうがステキだと思って
お願いしたんです。
そしたら、私も知らなかったんですが、
「4倍の大きさでつくった原型を、
機械に読み込んで1/4に縮小する」
という作り方があるらしく、
原型師さんが「そのやり方で作ってみたい」とおっしゃって。
ボタン工場でもそのやり方は初めてだったそうなんですが、
工場のかたも、私も、
「面白そうだからやってみたい!」
とすぐに賛成しました。
- 精密でありながら、
どこか手仕事のあたたかさが
残る仕上がりになったなと思います。
時間が経って色が濃くなっていくと
蜂や、花びらの部分に
よりはっきり立体感が出てきますよ。
- 真鍮って、最初はピカピカしていますけど、
ずいぶん色が変化するんですよね。
- 小坂
- 革が育つような感覚で、
使っていくうちにどんどん濃くなっていきます。
最初から少しくすんだアンティークゴールドのような
色合いのボタンにしようかという話もあったんですが、
やっぱりみんなに育ててもらって、
アンティークにしてもらうほうがいいなって。
もっとピカピカにもできるんだけれど、
あまりピカピカになりすぎないように
少し粗めに仕上げています。
- 革以外で、
カバーにこういう「使っていくうちに変化する」
という価値がくわわったのが、すごくうれしいです。
- 小坂
- わたしこそうれしいですよ!
ほんとうにうれしい。
たくさんの人に届いてほしい。
‥‥これって前にお渡ししたサンプルですか?
この短い期間でも色が変わってきてる。
めっちゃかわいい!
- 小坂
- ああ、すごくいいと思います。
これ、2020年の手帳だから、
何十年もたってから振り返って
「これ、東京オリンピックの年に
使ってた手帳なんだ」
って言いたい。
きっとすてきに育っていくし、
しっかりしたボタンだから
たいせつに持っていたら
ちゃんと “次のアンティーク”になるじゃないですか。
- そうか、自分でアンティークをつくれる。
- 小坂
- だからそうやって
手に入れたみなさんのボタンも
引き継がれたらいいな、って
勝手に妄想しています(笑)。
- ボタンってすごいですね、
何十年もずっと持っていられるんですもんね。
- 小坂
- そうなんです。
ボタンって、
素材によってはすごく長く残ります。
海外に買い付けにいくと、
「これ、祖母のボタンなのよ」と
教えてくれたりする人に出会うんです。
ヨーロッパの人にとってのボタンは、
日本でいうところの
帯留めのような存在だったと思います。
- ジュエリーに近い?
- 小坂
- そう。ジュエリーをつくっている工房が
ボタンもつくっていることがあります。
ほんとうの昔って、
裏に足のついたボタンの金具がついているか
ピンがついているかの差だけで、
まったく同じものがボタンになったり、
ブローチになったりしています。
- 日本の感覚とはちょっと違いますね。
- 小坂
- 日本は、ボタンの歴史が浅いんです。
洋服が広まったのは戦後ですし。
最初の頃は洋服といえばオーダーという時代で、
輸入物などいいボタンをつけていたとは思います。
その後、バブルの頃にはとてもいいボタンが
作られたりもしたんですが、
だんだん大量生産の時代になってきて。
日本の歴史の中では、
いいボタンの時代はあまり長くない。
そのなかで、
こうして日本で作ったボタンを
楽しんでいただけたらいいなって。
- そういうお話を聞くと、
日本で、東京で作られたボタンを
手元におけるのは、うれしいですね。
- 小坂
- こちらこそうれしいです。
ボタンの裏に名前も入れてあるので、
ずっと持って受け継がれていったら、
未来の人が「HOBONICHI」と「CO-」を
検索したりするかもしれない。
わたしも、ボタンの裏の文字は
必ず検索するんですよ。
「この会社は何年頃、この住所にありました」
と出てきたら
Google Mapでその住所を見てみたりして
「おお!」って。
- 小坂さんが、ボタンを買い付ける基準って
どんなものですか?
- 小坂
- ボタンという小さなものひとつ見ただけで、
いろんな背景が想像できたり、
「こんなふうに使えるな」
「こんなものにつけられるな」
って創造の刺激になったり、
両方の「ソウゾウ」を掻き立てることができる。
そんなものを集めたいと思っています。
もちろん古いものはどんどん減っていく一方ですけど、
買い付けに行くたび「まだこんなのがあるんだ!」
という驚きがありますよ。
- ここにあるボタン、
すべて小坂さんの思いがつまっていると思いますが、
とくに「これ!」というボタンはどれですか?
- 小坂
- ガラスだったらビミニボタン。
ビミニという会社は
ルーシー・リーが働いていた工房として有名です。
プラスチックだったらアメリカのベークライト。
あとは、イタリアの手彫りのボタン。
‥‥この話、しつこくなりますよ(笑)。
- 聞きたいです。
- 小坂
- フランスだと、オートクチュールの、
1個何万もするような
「どこどこのメゾンがつくっていたボタンです」
という高級なボタンがたくさんあるんです。
けれどイタリアは、
ふつうのボタン工場のサンプル帳から
信じられないような凝ったデザインのボタンが
出てきちゃう。
- 一般の人が着るような服に、
すごく凝ったボタンがつけられる‥‥。
- 小坂
- そう。
サンプル帳だから、
もしそれを見て買う人がいても、
作るのがたいへんだろうに、
というようなデザインのものがたくさんあるんです。
そういう感じで、国によって
好きなボタンがあります。
- 今回復刻をした、イギリスのボタンは?
- 小坂
- イギリスは、やっぱり制服の国ですから、
金属のボタンが得意なんですよ。
リバリーボタンという、
「おしきせのボタン」という意味の
制服のボタンがたくさんあります。
貴族の館で働いていた執事の制服のボタンには
貴族の紋章が入っています。
19世紀の終わりには、
紋章をもたない、商業で成功したお金持ちが
いっぱい出てくるので、
自分のイニシャルをおしゃれな書体にしたりして
雇った人に着せる制服につけたりするのが
ステータスだったんです。
- なるほど。
そんななかで、
制服のボタンとは少し違うけれど、
ラッキーモチーフの刻まれた
金属のボタンもあって。
- 小坂
- はい。それが今回復刻された。
ああ、でもこのボタン、
わたしほんとうに‥‥。
ほんとうにかわいいと思います。
- はい。かわいいですよね。
- 小坂
- わたし、元のボタンをつくった人に、
あの世で会えたら報告したいです。
「こんな感じで復刻しましたよ」って。
それを楽しみに、
このボタンをたいせつに使いたいと思います。