LIFEのBOOK ほぼ日手帳

CO-さんと世界のボタン。

「ほぼ日手帳2020」では、真鍮のボタンがチャームポイントの手帳カバー「Search & Collect」をつくりました。
アンティークやヴィンテージのボタンを扱う専門店「CO-」さんといっしょに、イギリスのアンティークボタンを今回のために復刻しています。
このボタンについて、そしてボタンの魅力のことを、「CO-」の店主である小坂直子さんにうかがいました。

今回は、「CO-」さんといっしょにすてきなボタンのついた手帳カバーをつくろう!というお話からこの「Search & Collect」ができあがりましたが、なぜアンティークボタンの復刻をすることになったんでしょう?
小坂
さいしょはヨーロッパで買いつけてきたアンティークボタンをそのまま使おうという案もありました。
けれど、アンティークボタンは手帳カバーをつくるには数が足りない。
じゃあ作ろう! と。
そこで、去年買いつけたイギリスのボタンを復刻することにしたんです。
復刻といっても、サイズもシェイプも今回のために変えています。
もとのボタンから、蜂とお花のモチーフだけを取り出したかたちです。
もとのボタンは小さいですね。
小坂
ね。
元のボタンにかぶせてあるのは薄い真鍮です。
いま同じようにつくろうと思っても、まったく違う感じになってしまうんですよ。
そこで、今回の手帳カバーに合うよう、「存在感のある真鍮の一枚もの」のかたちで復刻することにしました。
元のボタンは平面的ですけど、復刻したのはなだらかなアーチを描いているのもポイントなんです。
ほんとうですね!
みつばちのようなラッキーモチーフは、むかしのボタンには多いんでしょうか?
小坂
そうですね、はちのモチーフはけっこう使われていますね。
ジュエリーにもよくあります。
イギリスの人って、はちが好きなんですよ。
趣味で養蜂をしている人もいたりして、親しみのある存在なんだと思います。
復刻というのは、ボタン屋さんに発注をするのですか?
小坂
はい、つくってもらいました。
今回はすべて東京産なんですよ。
原型をつくってくれた職人さんも、工場さんも含めて東京。
じゃあ、MADE IN TOKYOのボタン。
小坂
そう。これね、作り方がおもしろくて。
4倍の型で作ってくれたんですよ。
4倍?
小坂
このボタンの模様は、原型師さんの手彫りなんですよ。
レーザーでも金型の彫刻はできるんですが、ぜったいに手彫りのほうがステキだと思ってお願いしたんです。
そしたら、私も知らなかったんですが、「4倍の大きさでつくった原型を、機械に読み込んで1/4に縮小する」という作り方があるらしく、原型師さんが「そのやり方で作ってみたい」とおっしゃって。
ボタン工場でもそのやり方は初めてだったそうなんですが、工場のかたも、私も、「面白そうだからやってみたい!」とすぐに賛成しました。
精密でありながら、どこか手仕事のあたたかさが残る仕上がりになったなと思います。
時間が経って色が濃くなっていくと蜂や、花びらの部分によりはっきり立体感が出てきますよ。
真鍮って、最初はピカピカしていますけど、ずいぶん色が変化するんですよね。
小坂
革が育つような感覚で、使っていくうちにどんどん濃くなっていきます。
最初から少しくすんだアンティークゴールドのような色合いのボタンにしようかという話もあったんですが、やっぱりみんなに育ててもらって、アンティークにしてもらうほうがいいなって。

もっとピカピカにもできるんだけれど、あまりピカピカになりすぎないように少し粗めに仕上げています。
革以外で、カバーにこういう「使っていくうちに変化する」という価値がくわわったのが、すごくうれしいです。
小坂
わたしこそうれしいですよ!
ほんとうにうれしい。
たくさんの人に届いてほしい。
‥‥これって前にお渡ししたサンプルですか?
この短い期間でも色が変わってきてる。
めっちゃかわいい!
小坂
ああ、すごくいいと思います。
これ、2020年の手帳だから、何十年もたってから振り返って「これ、東京オリンピックの年に使ってた手帳なんだ」って言いたい。
きっとすてきに育っていくし、しっかりしたボタンだからたいせつに持っていたらちゃんと “次のアンティーク”になるじゃないですか。
そうか、自分でアンティークをつくれる。
小坂
だからそうやって手に入れたみなさんのボタンも引き継がれたらいいな、って勝手に妄想しています(笑)。
ボタンってすごいですね、何十年もずっと持っていられるんですもんね。
小坂
そうなんです。
ボタンって、素材によってはすごく長く残ります。
海外に買い付けにいくと、「これ、祖母のボタンなのよ」と教えてくれたりする人に出会うんです。
ヨーロッパの人にとってのボタンは、日本でいうところの帯留めのような存在だったと思います。
ジュエリーに近い?
小坂
そう。ジュエリーをつくっている工房がボタンもつくっていることがあります。
ほんとうの昔って、裏に足のついたボタンの金具がついているかピンがついているかの差だけで、まったく同じものがボタンになったり、ブローチになったりしています。
日本の感覚とはちょっと違いますね。
小坂
日本は、ボタンの歴史が浅いんです。
洋服が広まったのは戦後ですし。
最初の頃は洋服といえばオーダーという時代で、輸入物などいいボタンをつけていたとは思います。
その後、バブルの頃にはとてもいいボタンが作られたりもしたんですが、だんだん大量生産の時代になってきて。
日本の歴史の中では、いいボタンの時代はあまり長くない。
そのなかで、こうして日本で作ったボタンを楽しんでいただけたらいいなって。
そういうお話を聞くと、日本で、東京で作られたボタンを手元におけるのは、うれしいですね。
小坂
こちらこそうれしいです。
ボタンの裏に名前も入れてあるので、ずっと持って受け継がれていったら、未来の人が「HOBONICHI」と「CO-」を検索したりするかもしれない。
わたしも、ボタンの裏の文字は必ず検索するんですよ。
「この会社は何年頃、この住所にありました」と出てきたらGoogle Mapでその住所を見てみたりして「おお!」って。
小坂さんが、ボタンを買い付ける基準ってどんなものですか?
小坂
ボタンという小さなものひとつ見ただけで、いろんな背景が想像できたり、「こんなふうに使えるな」「こんなものにつけられるな」って創造の刺激になったり、両方の「ソウゾウ」を掻き立てることができる。
そんなものを集めたいと思っています。

もちろん古いものはどんどん減っていく一方ですけど、買い付けに行くたび「まだこんなのがあるんだ!」という驚きがありますよ。
ここにあるボタン、すべて小坂さんの思いがつまっていると思いますが、とくに「これ!」というボタンはどれですか?
小坂
ガラスだったらビミニボタン。
ビミニという会社はルーシー・リーが働いていた工房として有名です。
プラスチックだったらアメリカのベークライト。
あとは、イタリアの手彫りのボタン。
‥‥この話、しつこくなりますよ(笑)。
聞きたいです。
小坂
フランスだと、オートクチュールの、1個何万もするような「どこどこのメゾンがつくっていたボタンです」という高級なボタンがたくさんあるんです。
けれどイタリアは、ふつうのボタン工場のサンプル帳から信じられないような凝ったデザインのボタンが出てきちゃう。
一般の人が着るような服に、すごく凝ったボタンがつけられる‥‥。
小坂
そう。
サンプル帳だから、もしそれを見て買う人がいても、作るのがたいへんだろうに、というようなデザインのものがたくさんあるんです。
そういう感じで、国によって好きなボタンがあります。
今回復刻をした、イギリスのボタンは?
小坂
イギリスは、やっぱり制服の国ですから、金属のボタンが得意なんですよ。
リバリーボタンという、「おしきせのボタン」という意味の制服のボタンがたくさんあります。
貴族の館で働いていた執事の制服のボタンには貴族の紋章が入っています。
19世紀の終わりには、紋章をもたない、商業で成功したお金持ちがいっぱい出てくるので、自分のイニシャルをおしゃれな書体にしたりして雇った人に着せる制服につけたりするのがステータスだったんです。
なるほど。
そんななかで、制服のボタンとは少し違うけれど、ラッキーモチーフの刻まれた金属のボタンもあって。
小坂
はい。それが今回復刻された。
ああ、でもこのボタン、わたしほんとうに‥‥。
ほんとうにかわいいと思います。
はい。かわいいですよね。
小坂
わたし、元のボタンをつくった人に、あの世で会えたら報告したいです。
「こんな感じで復刻しましたよ」って。
それを楽しみに、このボタンをたいせつに使いたいと思います。