- ──
- 最初に「写真を手帳に」という
話を聞いたときはどう思われましたか?
- 幡野
- うちの妻がほぼ日手帳を使っていたので
「こんなこともあるのか」と、
ちょっと感慨深いものがありました。
全然想像してなかったですし。
そして、選んでくださった2枚が
自分でも好きな写真だったので、
うれしかったです。
- ──
- この2つの写真は、
どんなときに撮影されたものなのでしょうか?
- 幡野
- どちらも雑誌の旅特集
(BRUTUS No.879「心を開放する旅、本、音楽。」)
のために撮影したものですね。
僕と、写真家の鈴木心さんと2人で知床に行き、
写真と文章にするといった仕事で、
旅行のふりじゃなくて、ほんとに旅行でした。
普通はカメラマンって
たくさん機材を持っていくと思うんですけど、
旅がテーマということで、
僕も心さんも、ちっちゃいカメラ1個だけ。
替えのバッテリーも、レンズもなし。
ほんとにプライベートで写真を撮るように
撮影していて、ありがたい仕事だと思いました。
- ──
- それぞれの写真についても、くわしく教えてください。
- 幡野
-
「海の写真」は知床の海で、
カメラを横にスイングさせて撮っているんです。
そうすると水平線は残るけど、
ほかのものはブレるんです。
人間の目って、左右についていますよね。
だから、視界を上下に動かすことってそんなになくて、
左右に動かすほうがずっと多いんです。
特に、旅で風景を見るときとか、
ほとんどが左右の動きだと思うんですね。
電車に乗ってるときも、車を運転するときとかも。
その、旅のときに人間が見ている景色を
再現できたらと思ったのが、この写真なんです。
- ──
- つまり、「旅をしている人間の目」の写真?
- 幡野
- そうそうそう。だから、これを持ってね、
旅に出てくれるとうれしいですね。
- ──
- なるほど。
- 幡野
- ‥‥でも、実際にはそうなんですけど、
こういう写真の説明って恥ずかしいというか、
ちょっと鼻につきません(笑)?
- ──
- いやいや、そんな(笑)。
聞くとまた違う視点で見えてきて、
おもしろいです。
「湖の写真」のほうはどうですか?
- 幡野
- こちらはもう、まっすぐかまえて撮ったものです。
夕方の時間に、ただただキレイな景色を見て、
眺めるように写真を撮っていました。
何だろうな、ボーッとしてましたね。
- ──
- 場所はどこですか?
- 幡野
- 阿寒湖です。
初めて行った場所だったんですね。
そして初めての場所って、
また来れるとは限らないじゃないですか。
そういうとき、ついつい写真を撮っちゃうんですけど、
ほんとは自分の目で
しっかり見たほうがいいなとも思うんです。
だから「またいつか来れるかな」とか思いながら
ボーッと眺めて、
でも、もう来れないかもしれないし
「残しておきたいから」と思って撮って。
- ──
- えぇ。
- 幡野
- あんまり写真を撮らずに
見たほうがいいんだけど、
でもちゃんと撮っておかないと‥‥
っていう自分の中のせめぎあいがあって、
そういう感覚の中で撮ったものですね。
それが最終的に
「ボーッと眺めながら撮る」
という行為になっています。
- ──
- さまざまな感情が頭に浮かぶ中で撮られた、
旅の途中の景色というか。
- 幡野
- そうですね。
「船がいるな‥‥」とか思いながら。
- ──
- 幡野さんにとって、自分で撮影した
好きな写真に共通点はありますか?
- 幡野
- 僕、夕方か朝が好きなんです。
そして家が一番好きで、あと、
ひとりでいるのが好きなんですね。
だから夕方にひとりで家にいるとき、
よく写真を撮るんですよ。
食べものとか、買ったものとか。
そういうのって、好きなものが重なるから、
好きな写真になりますよね。
- ──
- 好きなものが重なると、好きな写真になる。
- 幡野
- そう。逆に僕は曇りが好きじゃないから、
曇りの日に撮っても、
あんまり好きな写真にならないんです。
ドン曇りのなか、大人数でキャバクラで‥‥
とかなると、もうなんか全然つまんない(笑)。
嫌いなものを積み重ねると
すごくつまらない写真になる。
- ──
- この2枚の写真は、
どの時間帯に撮られたものですか。
- 幡野
- これは両方、夕方ですね。
すごく好きな光の時間です。
よく晴れた日の夕方とか、一番好きです。
すごい好き。
- ──
- 今回の2つの手帳で、幡野さんが使うとしたら、
どちらになりそうですか?
- 幡野
- あ‥‥自分のは使わないかな(笑)。
なんかナルシストっぽくないですか?
妻が使うのもちょっと‥‥。
- ──
- (笑)そっか、撮られた本人だと、
そういう感覚なんですね。
- 幡野
- 自分の写真は自分で見れるし、
せっかくいろんな種類があるわけだから、
僕は使うなら他の人の作品がいいかな。
革とかもいいですね。
革は、傷がつくところも好きなんです。
- ──
- 幡野さん自身は、手帳ってお使いですか?
- 幡野
- 分厚い紙で、ミシン目が入ってて
ページが切り離せる手帳があるんですけど、
わりと長い間それを使ってました。
切手を貼るとそのままポストカードになるんで、
旅先から妻に投函したりとか。
- ──
- それ、いいですね。
- 幡野
- でも最近は、ほぼ日手帳を使ってます。
妻と一緒に。
妻に使い方を聞きながら(笑)。
- ──
- ずっと使ってくださっている奥様と一緒に(笑)。
- 幡野
- カバーは使ってないんですけどね。
本体そのままで。
折れたりシワがついたりもするけど、
それも好きなんです。
それも、思い出みたいな感じがして。
- ──
- 使い込んだ手帳の良さってありますね。
どんなことを書かれてますか?
- 幡野
- 書くことはそんなになくて、
あちこちに出かけることが多いので、
飛行機のチケットや手荷物のシールを
貼ったりしています。
ネパールに一緒に行った
浅生鴨さんかな、誰かの真似で。
そういう記録的なものを1年とか残したら、
おもしろいかなと思って。
新幹線の券とかも貼ってますよ。
あれ、めちゃくちゃ貼りづらいんですけど(笑)。
でも貼ってますね。
ただ挟んでるだけのことも多いです。
(幡野さん、ありがとうございました!)
2019-08-20-TUE