幡野広志さんに聞いた
「海の写真」「湖の写真」のこと。

「ほぼ日手帳2020」では、
写真家の幡野広志さんの手帳カバーが、
2つ、登場します。
カバー全面に写真をプリントしたもので、
オリジナルサイズ用カバーが「海の写真」、
カズンサイズ用カバーが「湖の写真」です。
完成にあたり、幡野さんに
お話をうかがいました。

> 幡野広志さんプロフィール

幡野広志 (はたの・ひろし)

1983年生まれ。写真家。元狩猟家。
2017年、34歳の若さで
血液のがん(多発性骨髄腫)を発症。
そのとき書いた文章がきっかけで、
多くの人に知られることに。
著書に、3作品を掲載した『写真集』(ほぼ日)、
『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』 (ポプラ社)
『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』 (PHP研究所)がある。

Twitter :@hatanohiroshi
note:幡野広志


「ほぼ日刊イトイ新聞」の、幡野広志さんが登場するコンテンツ
これからのぼくに、できること。
被写体に出会う旅。
幡野広志、東北の鷹匠に会いに行く。
ネパールでぼくらは。

「海の写真」オリジナルサイズ用カバー
「湖の写真」カズンサイズ用カバー
──
最初に「写真を手帳に」という
話を聞いたときはどう思われましたか?
幡野
うちの妻がほぼ日手帳を使っていたので
「こんなこともあるのか」と、
ちょっと感慨深いものがありました。
全然想像してなかったですし。
そして、選んでくださった2枚が
自分でも好きな写真だったので、
うれしかったです。
──
この2つの写真は、
どんなときに撮影されたものなのでしょうか? 
幡野
どちらも雑誌の旅特集
(BRUTUS No.879「心を開放する旅、本、音楽。」)
のために撮影したものですね。
僕と、写真家の鈴木心さんと2人で知床に行き、
写真と文章にするといった仕事で、
旅行のふりじゃなくて、ほんとに旅行でした。
普通はカメラマンって
たくさん機材を持っていくと思うんですけど、
旅がテーマということで、
僕も心さんも、ちっちゃいカメラ1個だけ。
替えのバッテリーも、レンズもなし。
ほんとにプライベートで写真を撮るように
撮影していて、ありがたい仕事だと思いました。
──
それぞれの写真についても、くわしく教えてください。
幡野
「海の写真」は知床の海で、
カメラを横にスイングさせて撮っているんです。
そうすると水平線は残るけど、
ほかのものはブレるんです。
人間の目って、左右についていますよね。
だから、視界を上下に動かすことってそんなになくて、
左右に動かすほうがずっと多いんです。
特に、旅で風景を見るときとか、
ほとんどが左右の動きだと思うんですね。
電車に乗ってるときも、車を運転するときとかも。
その、旅のときに人間が見ている景色を
再現できたらと思ったのが、この写真なんです。
──
つまり、「旅をしている人間の目」の写真?
幡野
そうそうそう。だから、これを持ってね、
旅に出てくれるとうれしいですね。
──
なるほど。
幡野
‥‥でも、実際にはそうなんですけど、
こういう写真の説明って恥ずかしいというか、
ちょっと鼻につきません(笑)?
──
いやいや、そんな(笑)。
聞くとまた違う視点で見えてきて、
おもしろいです。
「湖の写真」のほうはどうですか?
幡野
こちらはもう、まっすぐかまえて撮ったものです。
夕方の時間に、ただただキレイな景色を見て、
眺めるように写真を撮っていました。
何だろうな、ボーッとしてましたね。
──
場所はどこですか?
幡野
阿寒湖です。
初めて行った場所だったんですね。
そして初めての場所って、
また来れるとは限らないじゃないですか。
そういうとき、ついつい写真を撮っちゃうんですけど、
ほんとは自分の目で
しっかり見たほうがいいなとも思うんです。
だから「またいつか来れるかな」とか思いながら
ボーッと眺めて、
でも、もう来れないかもしれないし
「残しておきたいから」と思って撮って。
──
えぇ。
幡野
あんまり写真を撮らずに
見たほうがいいんだけど、
でもちゃんと撮っておかないと‥‥
っていう自分の中のせめぎあいがあって、
そういう感覚の中で撮ったものですね。
それが最終的に
「ボーッと眺めながら撮る」
という行為になっています。
──
さまざまな感情が頭に浮かぶ中で撮られた、
旅の途中の景色というか。
幡野
そうですね。
「船がいるな‥‥」とか思いながら。
──
幡野さんにとって、自分で撮影した
好きな写真に共通点はありますか?
幡野
僕、夕方か朝が好きなんです。
そして家が一番好きで、あと、
ひとりでいるのが好きなんですね。
だから夕方にひとりで家にいるとき、
よく写真を撮るんですよ。
食べものとか、買ったものとか。
そういうのって、好きなものが重なるから、
好きな写真になりますよね。
──
好きなものが重なると、好きな写真になる。
幡野
そう。逆に僕は曇りが好きじゃないから、
曇りの日に撮っても、
あんまり好きな写真にならないんです。
ドン曇りのなか、大人数でキャバクラで‥‥
とかなると、もうなんか全然つまんない(笑)。
嫌いなものを積み重ねると
すごくつまらない写真になる。
──
この2枚の写真は、
どの時間帯に撮られたものですか。
幡野
これは両方、夕方ですね。
すごく好きな光の時間です。
よく晴れた日の夕方とか、一番好きです。
すごい好き。
──
今回の2つの手帳で、幡野さんが使うとしたら、
どちらになりそうですか?
幡野
あ‥‥自分のは使わないかな(笑)。
なんかナルシストっぽくないですか?
妻が使うのもちょっと‥‥。
──
(笑)そっか、撮られた本人だと、
そういう感覚なんですね。
幡野
自分の写真は自分で見れるし、
せっかくいろんな種類があるわけだから、
僕は使うなら他の人の作品がいいかな。
革とかもいいですね。
革は、傷がつくところも好きなんです。
──
幡野さん自身は、手帳ってお使いですか?
幡野
分厚い紙で、ミシン目が入ってて
ページが切り離せる手帳があるんですけど、
わりと長い間それを使ってました。
切手を貼るとそのままポストカードになるんで、
旅先から妻に投函したりとか。
──
それ、いいですね。
幡野
でも最近は、ほぼ日手帳を使ってます。
妻と一緒に。
妻に使い方を聞きながら(笑)。
──
ずっと使ってくださっている奥様と一緒に(笑)。
幡野
カバーは使ってないんですけどね。
本体そのままで。
折れたりシワがついたりもするけど、
それも好きなんです。
それも、思い出みたいな感じがして。
──
使い込んだ手帳の良さってありますね。
どんなことを書かれてますか?
幡野
書くことはそんなになくて、
あちこちに出かけることが多いので、
飛行機のチケットや手荷物のシールを
貼ったりしています。
ネパールに一緒に行った
浅生鴨さんかな、誰かの真似で。
そういう記録的なものを1年とか残したら、
おもしろいかなと思って。
新幹線の券とかも貼ってますよ。
あれ、めちゃくちゃ貼りづらいんですけど(笑)。
でも貼ってますね。
ただ挟んでるだけのことも多いです。

(幡野さん、ありがとうございました!)

2019-08-20-TUE