LIFEのBOOK ほぼ日手帳

牧野富太郎「ノジギク」 牧野富太郎のボタニカルアート

「ほぼ日手帳2020」で登場となるweeks「牧野富太郎/ノジギク」は、2019年版で好評だった「ヤマザクラ」につづく2年目のコラボレーションです。
9月1日(日)午前11時の発売にさきがけて、表紙に描かれた「ノジギク」について、そして、植物学者の牧野富太郎博士の描く「牧野式植物図」についてご紹介します。

2020年版の表紙に印刷する植物図として「ノジギク」という花を選びました。
植物図が描かれた紙の地を生かしてweeksの表紙にデザインをしました。

飾り気のない美しさで秋を彩るノジギクは、日本固有の多年草で、主に海岸の岩場に生えます。

牧野富太郎博士にゆかりのある花の中でも、秋の代表格と言われるノジギク。
1884年に吾川村川口(現仁淀川町川口)で見出し、発見された場所が野路(のじ)であったことから、牧野富太郎博士によってその名がつけられました。

今から約130年前の明治時代にルーペや顕微鏡を用いた観察をし、ノジギクの全形がわかる図をはじめ、頭花やつぼみ、葉のつき方の細部まで忠実に描かれた見事な植物図です。
小さな花の集まりである頭花の立体感が伝わるよう筆で陰影をつけて表現されています。

牧野富太郎博士の研究者としての強みは、研究も、採集も、絵を描くことも、すべてを自分でできていたこと。
同年代に生きた研究者の中でも、絵師を雇うような分業をしている人の方が多かったそうです。
牧野博士の絵は教わったものではありません。
研究者ながら天性の絵を描く才能のおかげで、すべてを自分の感覚で進めることができました。

通常であれば、植物の絵を描いた後は、製版・印刷の専門家に依頼をして植物図ができるものですが、牧野博士の場合は、自分の思うように印刷できないからと、「自分で印刷の技術を覚える」発想に至ります。
納得のいく植物誌を出版するために、東京神田錦町の印刷工場で石版印刷の技術を一年ほど学びました。
そのため図の製版に関してはかなり厳しく、妥協を許しませんでした。
校正にも力を注ぎ、微細な原図との違いも見落とさず、絵の一つひとつにかなり細かい指示を入れていた記録も残されています。

平凡社『牧野富太郎 植物博士の人生図鑑』編/コロナ・ブックス編集部

牧野博士が確立した近代科学図は、「牧野式植物図」と呼ばれています。
記載に必要な構成要素を備え、生殖器官、栄養器官など解剖図や部分図をふんだんに盛り込み、種の情報を余すところなく伝えようとしています。
数多くの個体を観察し、一個体ではなく、その種の典型として表現しています。
大きさや長さの比率はもちろん、隠れた地下部にある根や地下茎、成長や季節による植物の変化など、綿密な観察によって植物の形態や生態が正確に描かれています。

牧野博士が植物学を志すにあたって青年時代に書いたという勉強の心得「赭鞭一撻(しゃべんいったつ)」という15箇条のひとつに、このような記載が残されています。

精密を要す
観察にしても、実験にしても、比較にしても、記載文の作成にしても不明な点、不明瞭な点があるのをそのままにしてはいけない。
いい加減で済ます事がないように、とことんまで精密を心がけなさい。「赭鞭一撻(口語訳)」より

「ノジギク」の植物図を描いた1887年は牧野博士が25歳のころです。
1884年に土佐からひとり上京して、植物研究の中枢、東京大学の植物学教室への出入りをしていた時代でした。
西洋の植物書の影響を受けたことで、構図や陰影にその跡が見て取れます。
日本初となる植物誌の出版を夢見て描いた、「ノジギク」の植物図を印刷した手帳です。
手にとって、その緻密さをぜひ感じてください。写真・情報協力/高知県立牧野植物園
参照資料/『牧野富太郎 植物博士の人生図鑑』(平凡社)
『牧野富太郎と植物画展』図録(高知県立牧野植物園)
※「牧野植物園×tretre/Makino original blend tea(3点セット)」の詳細は8月28日(水)に公開となります。