桐生で作られる、マキノコレクションの生地。

「ほぼ日手帳2020」では、
8年ぶりにマキノコレクションシリーズが
復活しました。
このコレクションの名前になっている
西出商事株式会社の牧野さんは
日本で生まれた魅力的な生地を
ご紹介くださるかた。
牧野さんとともに
今年の手帳に選んだのは、
群馬県・桐生にある昭和7年創業の織物メーカー、
ミタショーさんのものです。
それぞれの生地について、
ミタショー常務の三田さんにお話をうかがいました。

今日はよろしくおねがいします。
さっそくですが、
今回「マキノコレクション」シリーズに使った
生地について教えてください。
三田
まず、これらの生地の織り方について
ご説明しますね。
織物には、織り機の違いによって、
ドビー織りとジャガード織りというものがあります。
ドビーは手機の延長線上で、
タテ糸がまとまって動くもの。
だからある程度織れる生地に制約があります。
ジャガードの場合は、タテ糸を1本1本
別々に動かせるので、
複雑な織物を作ることができます。
桐生はもともと、ジャガードの産地として
有名なんです。
では、今回使った生地も、
ジャガード地なんですね。
プリントのように複雑な柄が
織りによって表現されているのがすごいですね。
三田
そうですね。
もちろん、
プリントにはプリントのよさがあります。
色の数に制限がなく、サイズも自由。
ジャガードの場合は、
機種や糸の密度によって柄やサイズが限られますから
その制約のもと
いろいろな柄を作っていくことになります。
けれど、やはりこの表面感、立体感は、
プリントには出せません。
今回使わせてもらった生地は、
とくに立体的で、
さわるだけでたのしくなりますね。
三田
そう言っていただけるとうれしいです。
ぼくら、見慣れてしまっていますから、
もう客観的に見られなくて。
どんどん深みにハマってしまって、
お客さんはそこまで求めていないんじゃないの?
というところまで追求してしまっています(笑)。

今回、手帳カバーに選ばれた生地は、
じつは10数年前に作られたものもあります。
ミタショーさんの生地は、
だいたいどれくらいの種類があるんですか?
三田
全て現存しているわけではありませんが
1万数千種類は作ってきました。
昔の生地ですと、
残念ながらメーカーさんが生産中止にした糸があったり、
機械がなくなってしまったりで、
今は再現できないものもありますが。
残念ですね。
三田
非常に残念ですが、
いまできるやり方にアレンジして
作り直すということもやっています。
昔のポリエステルって、やはりどうしても
天然繊維には劣る印象があったと思うのですが、
いまはハイカウントポリエステルという、
とても細い繊維で1本が成り立っている
ポリエステル糸もあります。
そういう糸で織ると、風合いがいいんですよね。
すると、ファッションにもじゅうぶん通用します。
なくなるばかりではなく、
進化している部分もあるんですね。
三田
はい。ですからそういう新しい素材なども取り込んで、
お客さまの細かな要求に応えて、
新しい生地を生み出しているんです。

机上の庭> 商品詳細へ

三田
緑色の基布、ベースとなる生地部分は綿100%です。
そこに白い綿のようなものが飛んでいますよね。
これを「パピリオ」といいます。
最近、服地でもこのパピリオの需要が多くなっています。
ただ、白の糸をそのまま横に織っていくと
パピリオが機械的に並んでしまいますよね。
複数本まとめて織り込んである糸の
数本ずつを上下にずらしていくことで、
ランダムなかたちでパピリオが出るようになっています。
それで複雑な表情があらわれるんですね。
パピリオは、どうやって織り込むんですか?
三田
もともとは、白い長い糸です。
それを織り込んで、織り上がったら
不必要なところはカットします。
薄いピンクの花や、青い三角形の部分は、
裏でカットします。

たとえばピンクの花部分の糸をカットしないと、
生地の裏側で花と花の間にずっと糸が
つながって渡っている形になります。
するとひっかかってしまいますから、切ります。
それによって生地を
なるべく軽くするという効果もあります。

この生地は表裏両方で糸をカットしているので、
非常に贅沢な作りをしています。
カットをするのは、贅沢なんですか?
三田
はい。カット屋さんにお願いして、
手で切っていくので。
手で!?
三田
カミソリを改良した道具があって、
それを手に持って切っていきます。
花の周りが、ぼかした感じというか、
にじんだ感じというか、
ちょっとふしぎな風合いになっていますよね。
三田
織り方を変えてなるべく糸を出して、
盛り上がるように織っているんです。
周りの部分は、裏をカットする都合上、
糸が抜けないようにという役割もあります。

すずらんの日> 商品詳細へ

三田
こちらは「机上の庭」とは手法が少し異なります。
基布はブルーとネイビーの糸を二重織りしています。
すずらん部分のベージュは、
糸を織り込んで花びらの部分だけ表に出して、
裏側の不要な部分をカットします。
パピリオ部分は「机上の庭」と同じですね。
素材も違いますね?
三田
「すずらんの日」は横糸が綿麻のブレンド糸で、
経糸が細いナイロンの糸。
それをブルーとネイビー2色用意して織ります。
ネイビーは必要なところだけ葉っぱ部分に出す形です。
生地に斜めに線が入っていますよね?
三田
これは二重綾織りという織り方で、
表と裏が浮かないように斜めに止めながら織ってあります。
もっと細かくもできるし、ジグザグにもできる。
ただ基布はあまりうるさくしたくないので、
モチーフを際だたせるために邪魔しないていどにしました。
でもこの線が見えることで、
ちょっとシャープに見えてすてきですね。
三田
織物のよさってまさにそこなんです、糸なんですよ。
糸から成り立っているということが織り目から見えると、
あたたかみを感じられるんです。

ネイビー×ブラウン> 商品詳細へ

三田
「机上の庭」「すずらんの日」とは
フィニッシュ、つまり仕上げのしかたが違います。
平らにきれいに仕上げるのではなく、
シボを残すといいますか、
織り組織の違いによる
生地のぼこぼこをそのまま残している。
むしろ強調しているところもあります。
わざとゆらぎを残しているわけですね。
三田
こういう織り組織ならではの凹凸感を楽しんでもらう生地です。
細い銀糸がきらりと光るのがアクセントになっていますね。
三田
細いがゆえに織るのがとてもたいへんなんです。
実は、この細い糸には水溶性ビニロンという
水で溶けてなくなる糸を巻いて織っているんですよ。
この1本の銀糸をきれいに織るために?
三田
銀糸はもともと、スリットヤーンという、
平たいシート状の糸なんです。
太くスリット(切断)すればそのままでも織れるけど、
ねじれたところがポツポツ見えて触るとザラザラと痛い。
でもそれをとても細ーくスリットすると平たさがなくなり、
ねじれたところも見えなくなって、触っても痛くなく
まるで普通の糸のようになります。
でもそうすると弱いんですね。
簡単に伸びたり、切れてしまうので、
それを補強するために水溶性ビニロンという
水で溶ける糸を一緒に撚糸するんです。
それを織ってから洗って溶かしします。
また洗うことによってよけい、織り組織の差が出ます。
洗った後は生地を天日干しして、
凹凸を消さないように仕上げたのが
この生地ですね。

ミントリボン> 商品詳細へ

三田
このベースとなるチェック生地は
ドビー織りと呼ばれる織物です。
ごくシンプルなパターンの織物の場合、
色柄があっても、私達は無地といいます。
ですがこれにはリボンが入っているので、
無地ではないですね。
リボンも、地といっしょに
織り込んでいるんですよね。
三田
はい、サックスの糸をリボンの形に織り込んでいます。
こちらのリボンの中央に織り込んである金糸は
ネイビー×ブラウン」の銀糸と同じ細さです。
ですが、金糸には水溶性ビニロンではなく、
ナイロン糸が巻いてあります。
それはやはり補強のためですか?
三田
はい。とても細いので、
補強しないと織れないんです。
この生地は織り上がったあと、
洗わないので
ナイロンにしてあります。
この生地は
きれいなまま仕上げる生地なんです。

それぞれの生地によって
用途やお客様のイメージで、
最終的な生地の表情を考え、
洗う/洗わないを決めたり、
フィニッシュの工程を選んだりしています。

ボルドーチェック> 商品詳細へ

このチェックは、
同じブラックのラインでも、
真っ黒になっているところと、
細かな模様のようになっているところと
違いがありますね。
三田
はい。これがジャガード機で織った
織物の特徴です。
糸1本レベルで動かせるんです。
この黒の部分は、光沢とハリのある
サテン織(朱子織り)という織り方と、
サテンよりはもうちょっと細かい組織と、
異なる織り方を組み合わせています。
ですから同じ黒でも、黒さが違う。
黒さの段階をつけてあげている、
かなり手の込んだ生地です。
ジャガード機は、
そういう組み合わせが自由なんですね。

ミタショーさんの工場を見せていただきました。

お話をうかがったあと、
三田さんが工場を見せてくださいました。
実際にジャガード織り機が動いているところや、
まさに「机上の庭」の生地を干しているところを
めぐりました。

ジャガード織機。手帳カバーに使っているような複雑な柄の生地は、1反(30mほど)織るのに十数時間かかることも。
織ったばかりの生地。これをカット屋さんにお願いして切る。カット屋さんは手作業でつながった糸を切ったあと、吸い込みながらカットする機械に最低でも3回かけ、希望の長さに糸を整えていく。
干してある生地は、1枚あたりおよそ25メートル。「生地の風合いをよくするため、パピリオをクルクルにするために洗って、吊るして乾かします」
洗う前はまっすぐの糸。これに洗いをかけることで、パピリオは綿(わた)のような表情になる。

(おわります)