書家の蒼喬さんに筆のおもしろさを教わる。

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「Fate/Grand Order」の筆文字や、
劇団☆新感線「けむりの軍団」の劇中文字を
描かれている若き書家、蒼喬(そうきょう)さん。
ユーモアを散りばめた美しい筆文字を
SNS上でたのしそうに発信するなど、
書道の魅力を多くの人に伝える活動をされています。
そんな蒼喬さんに、ほぼ日手帳を使った
筆のたのしみ方を聞きに行ってみました。

> 蒼喬さんプロフィール

(1) 筆を使って、
ほぼ日手帳に書いてみる。

――
蒼喬さん、こんにちは。
今日はよろしくお願いします。
蒼喬
よろしくお願いします。
――
いま、ほぼ日手帳のページでは、
「書く」ということのおもしろさやたのしさを
いろいろ紹介できたらと考えているのですが、
そこで思いついたのが「筆」なんです。
ただ、筆で書く文字は美しいし、
筆の世界って絶対におもしろいと思うのですが、
ちょっとハードルが高いイメージもあります。
そこで、作品をつくるだけでなく、
ツイッターだったり、海外での展示だったり、
さまざまなかたちで書道のうれしさを
広めていらっしゃる蒼喬さんに
お話を聞けたらと思って、今日はやってきました。
蒼喬
ありがとうございます。
ぼくも書の魅力について多くの方に
知ってもらえるのは、とても嬉しいです。
なんでも聞いてください。
――
ではさっそくですが、ほかの筆記具と比べたときの、
筆の特徴って、どのあたりにあると思いますか?
蒼喬
筆で書くと、やっぱり「味」は出やすいですね。
ふつうのペンだと線の太さが一定ですが、
筆は強弱を変えることで、
線の細いところと太いところの差が出るので、
それだけ幅広い表現ができるんです。
もちろんボールペン字などでも、
その人の手ぐせや個性で字ができますけど、
筆だとさらに、文字のイメージに合わせて、
やわらかく書いたり、かっこよく書いたりとか、
いろんな表現がしやすいと思います。
――
筆は、細さや太さの調整ができるから、
幅広い表現が可能になる。
蒼喬
ええ。また、そのときのじぶんの気持ちで
表現も変わってきます。
ぼくの場合は、筆だと「じぶんの個性」プラス、
「書くときの感情」が表現として
どんどん追加されていく感覚があります。
ちょっとイライラしてるときに文字を書くと、
自然と力が入って文字が力強くなる。
――
はい(笑)。
蒼喬
だから、たとえ同じ文字を書いていても、
そのときの感情によって、全然違う表現になります。
手帳に毎日書いていても、
違いが出やすいかもしれません。
――
たしかに、同じ文字を描いていても、
その日のじぶんの気持ちが残るって、
ちょっといいですね。
蒼喬
せっかくなので、一筆書いてみましょうか。
道具を持ってきたので。
――
すごい、筆がたくさんある。
蒼喬
ある程度は持ってきました。
持ち運び用の道具なので、
筆の本数はすくないですし、市販の墨汁なんですけど。
――
では、こちらの大きいサイズの「ほぼ日手帳」、
カズンに書いていただいてもいいですか?
広いほうが書きやすいかなと思うので。
蒼喬
なにを書きましょうね。
――
なにか、筆で書くことで
より文字が魅力的に見えそうなものとか‥‥。
蒼喬
はい、では……。
(筆を動かしながら)松尾芭蕉の句、
「古池や蛙飛びこむ水の音」です。
――
うわー、これはうれしい。
好きな俳句や短歌などを
毎日筆で手帳に書いてみる、
というのもたのしそうですね。
蒼喬
いいアイデアだと思います。
あとで見返すのもおもしろいとおもいますし。
――
‥‥墨が乾くのを待つあいだに聞きたいのですが、
初心者が筆を選ぶときは、
どんなものを選ぶといいでしょう?
蒼喬
最初は毛先の短い筆がいいと思います。
毛先が長い大きめの筆だと、
扱いがすこし難しくなるので。
――
なるほど、毛先の長さが短いものを選ぶと
書きやすい。
蒼喬
そうそう。
でも慣れてくると毛先が長いほうが
表現の幅が広がって、たのしくなるんですけどね。
個人的には、細さと太さの差が出しやすいので
筆の毛の部分が長いものが好きです。
――
ふと思いましたが、蒼喬さんは
筆ペンを使うことはありますか?
ほぼ日手帳で、より気軽に筆をたのしむなら、
筆ペンという選択肢もあるのかな、と思いました。
蒼喬
ぼくは書家なので、作品をつくるときには
やっぱり筆を使ってます。
でも筆ペンはふだん使いにとても便利ですし、
手帳に書くときにはいいと思いますよ。
いつも通りボールペンで書く延長で使うだけで、
字に筆らしさがすこし出るので、
そこからはじめてみるのはいかがでしょう?
――
じゃあ、気軽に筆らしさをたのしむなら、筆ペンで。
もうすこししっかりやってみようかなと思ったら、
毛先の短い筆を選ぶとよさそう、みたいな。
蒼喬
そうですね。
最初はほんとうに、
いつも使ってるペンが筆ペンに変わっただけ、
という気持ちで書いてみてもらえたらと。
上手い下手とかは考えずに、
肩肘張らず、たのしんでみてほしいです。
――
いいですね。
そういうアドバイス、うれしいです。
蒼喬
‥‥あ、書いた字の墨が乾いてきました。
やっぱり紙は全然平気そうですよ。
裏写りもしない。
うん、いい感じですね。
一枚和紙をはさんでおけば、閉じても大丈夫です。
――
たしかに和紙をはさんでおけば、安心ですね。
使うのは和紙のほうがいいんですか?
蒼喬
ふつうの紙でもいいんですが、
和紙は余分な墨を吸収しやすいので。
――
きれいな和紙もたくさん売ってますし、
選ぶたのしさもありますね。
しおりにもなりそうです。
蒼喬
そうですね、お好きなものを。
――
それにしても蒼喬さんは、
いろいろな筆を使ってらっしゃるのですね。
蒼喬
使い分けていますね。家にはもっとあります。
一回のお仕事でも、
ここにある半分以上の筆を使います。
筆が違うと、まったくイメージの違う字になるんです。
――
そうなんですか。
蒼喬
じゃあ、筆のたのしさを知っていただけるように、
違う筆で同じ字を書いてみましょうか。
たとえば……「水」という字。
――
ああ、ほんとうに、全然違う。
蒼喬
この2本はどちらも
水墨画で使うような筆なので個性が強いんです。
ざっくり言うとですが、
筆は毛の種類、長さ、量によって、
表現が変わります。
ちょっと本格的になってしまいますけど、
こういう違いもたのしいですよ。
――
毎日こうやって筆で書いたもので
手帳が埋まっていったら、
かっこいい一冊になりそうです。
蒼喬
いいですね。毎日一筆、みたいな。

(つづきます)

(2) まずは、たのしむところから。