まずは、
たのしむところから。
- ――
- 蒼喬さんのTwitterでの活動を見ていると、
ちょっとユーモアのある言葉や
SNSで流行っている単語を書かれて、
すごく書をたのしんでいる印象があるんです。
先日Twitterであげていらっしゃった
「かすていら」という文字も、とても素敵で。
- 蒼喬
- ありがとうございます。
ふつうにきれいな字を書いて
ツイッターに載せるのも全然いいんですけど、
ぼくとしてはたのしんでるところを
見てもらいたいと思っているんです。
- ――
- あと、個人的な感想になりますが、
蒼喬さんの「和」という作品がとても好きなんです。
- 蒼喬
- うれしいです。
これはじぶんの作風をどうしていこうかと
試行錯誤しながらいろいろ書いてみたときに
生まれた作品です。
偶然の「この表現はいいなあ」という部分を
ひとつにしたら、こんな表現になりました。
- ――
- 蒼喬さんとしては、こういった幅広い活動を、
どのような思いでされているのでしょうか。
- 蒼喬
- ぼく自身、じぶんの活動の根本には
「1000年後の時代に書道を残していきたい」
という考えがあるんですね。
- ――
- 1000年後まで。
- 蒼喬
- はい。そのためには、
書道にふれる人の数を増やさないといけない。
じゃないと書道がなくなってしまう。
だから、多くの人に見てもらう機会を
たくさん持とうと思っていますし、
さまざまな表現の幅を見せることで、
堅苦しいイメージを変えていきたい。
そんなことを考えているんです。
- ――
- 1000年後、というのはけっこう大きな
スケールの話だと思うのですが、
なにか、そう思うようになった
きっかけみたいなことはありますか?
- 蒼喬
- ひとつは、書道を教えてくれた
お師匠へのリスペクトです。
やっぱりじぶんが教わってきたものを、
ぼく自身も次の世代に伝えていきたいという
気持ちがあるんです。
- ――
- なるほど。
- 蒼喬
- あとは、危機感ですね。
今の時代、年賀状だってデジタルで簡単につくれてしまう。
宛名さえじぶんで書かなくて済みますよね。
書道以前に、手書きで文字を書く文化自体がだんだん、
廃れてきてるじゃないですか。
さらに筆を使うなんて、もっと機会がすくない。
- ――
- 残念ですが、そうですよね。
- 蒼喬
- だけどぼくは、書道は絶対に、
なくしちゃいけないものだと思うんです。
必要がないからその文化が消えていいのかというと、
それはまたべつの話だと思うんです。
日本には平安時代、1000年前から
筆と墨で書かれた文化が受け継がれている。
遥かむかしの人たちの営みが連綿と続いて、
書物として残ってきたから、ぼくたちは文字を書ける。
今の時代にも文字がある。
それってすごいことだと思うので。
- ――
- 1000年前の人たちも同じように
筆と墨で文字を書いていたと思うと、
それってうれしいなあと感じます。
- 蒼喬
- そうそう、そうなんですよ。
- ――
- 今もすでに、蒼喬さんのツイッターや
ゲームの筆文字などの活動は、筆文字の魅力を
多くの人たちに伝えている印象があります。
- 蒼喬
- ぼくのツイッターのフォロワーさんって、
もともと書道をやっている方はすくなくて、
ゲームの技名を書いた筆文字などから
ぼくの存在を知ってくださった方が多いんです。
「書道に興味はなかったけど、
ゲームの字がかっこよくて好きになりました」
ってコメントをくれる方も多くいますし。
- ――
- すごい、確実に裾野を広げていっている。
- 蒼喬
- ぼくの書を見て書道家になりたいと思ったとか、
作品を真似して書いてみてますとか
言ってくれる人もいて、
そういう反応があるたびに、ほんとうにうれしいです。
- ――
- あと蒼喬さんは、海外での展示もされていますよね。
- 蒼喬
- はい、ありがたいことに。
海外の方はあまり書を文字として見てなくて、
絵を見るような視点で美しいと言ってくれますね。
芸術として捉えているところがある。
- ――
- たしかに言語が違うと、そうかもしれないですね。
- 蒼喬
- 去年、アラブ首長国連邦(UAE)で、
作品「雨」を展示したときは、現地の方に驚かれました。
真ん中に雨冠の字をいっぱい書いた作品ですが、
雨冠があってそのほかの部分が変わるだけで、
一字ごとに意味が変わるなんてすごいと。
漢字特有の表現の美しさだと、
海外の方は感動して話してくれました。
- ――
- 霜、雹、零、雷……。
たしかに、それぞれ違う意味を持ってますもんね。
- 蒼喬
- アラブ首長国連邦(UAE)の歴史や暮らしを調べていたら、
ほとんど雨が降らない国だって知ったんです。
だったら、ぼくが日本から
書で雨を持って行っちゃおうと思って(笑)。
テーマを「雨」と決めて、つくりました。
- ――
- その遊び心も、なんだか素敵です。
「ほぼ日手帳」の話になりますが、
いま、デジタルツールが便利になっていることもあって、
「もっと手書きのおもしろさを伝えていけたら」
という気持ちがあるんですね。
そういうときに、蒼喬さんが
むかしから続いてきた書道という文化を、
いまの人びとによろこばれる新しい視点を交えながら
受け継いでいこうとされている姿勢に
とても刺激を受けます。
- 蒼喬
- そうですね。受け継いでいきたいですね。
まあ、ぼくも書道という部分では勉強中なので、
あまり偉そうなことは言えないですけど。
- ――
- 蒼喬さんも勉強中ですか。
- 蒼喬
- ぼくはまだまだ。
このあいだも中国のむかしの書家の美しい字を見て、
「17年やっていて、この字が書けないのか」
って悔しくなりました。
- ――
- わあ。
でも、書を通じてそうやって
むかしの中国の方と
じぶんがつながれたりもするんですよね。
- 蒼喬
- そうですね。おもしろいですよ。
- ――
- 書道という文化を蒼喬さんが純粋に
すごくたのしまれている感じも
なんだか、いろんな人が書道に興味を持つ
きっかけになっている気がします。
- 蒼喬
- 書道はたのしいです。
こんなにたのしくていいのかってくらい。
ほんとうに、たのしい。
やっぱり、たのしむことが大事だと実感しています。
ぼくが書道の世界に本格的に入ることになったのも、
書道がたのしい、と感じたからですから。
- ――
- まずは、たのしむこと。
- 蒼喬
- はい。だから、まだあまり書道に親しみがない人も
なんとなく気になったら、まずは筆とか、
筆ペンを使うことをたのしんでみてほしいです。
そのあと興味が湧いてきたら、
ちゃんと習ってみてもいいわけで。
- ――
- ほぼ日手帳で筆を使うときも
同じように考えていったらいいですかね?
- 蒼喬
- ええ、まず自由に「筆遊び」くらいの気持ちで
初めてもらえたらな、と思います。
筆を使うことへのハードルを下げて、
まずは「自由にたのしんでいい」ということを
知ってもらえれば。
もし興味が湧いたら、ぜひ日々のことなどを
筆文字で手帳に書き残してみてください。
- ――
- わたしも筆ペンあたりで、
手帳にいろいろ書いてみようかなと思いました。
今日はありがとうございました。
- 蒼喬
- こちらこそ、ありがとうございました。
(おわります)