書家の蒼喬さんに筆のおもしろさを教わる。

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「Fate/Grand Order」の筆文字や、
劇団☆新感線「けむりの軍団」の劇中文字を
描かれている若き書家、蒼喬(そうきょう)さん。
ユーモアを散りばめた美しい筆文字を
SNS上でたのしそうに発信するなど、
書道の魅力を多くの人に伝える活動をされています。
そんな蒼喬さんに、ほぼ日手帳を使った
筆のたのしみ方を聞きに行ってみました。

> 蒼喬さんプロフィール

(1) まずは、
たのしむところから。

――
蒼喬さんのTwitterでの活動を見ていると、
ちょっとユーモアのある言葉や
SNSで流行っている単語を書かれて、
すごく書をたのしんでいる印象があるんです。
先日Twitterであげていらっしゃった
「かすていら」という文字も、とても素敵で。

▲蒼喬さんのおいしそうな「かすていら」。

蒼喬
ありがとうございます。
ふつうにきれいな字を書いて
ツイッターに載せるのも全然いいんですけど、
ぼくとしてはたのしんでるところを
見てもらいたいと思っているんです。
――
あと、個人的な感想になりますが、
蒼喬さんの「和」という作品がとても好きなんです。

▲この記事のライター・くりたが大好きな作品「和」。

蒼喬
うれしいです。
これはじぶんの作風をどうしていこうかと
試行錯誤しながらいろいろ書いてみたときに
生まれた作品です。
偶然の「この表現はいいなあ」という部分を
ひとつにしたら、こんな表現になりました。
――
蒼喬さんとしては、こういった幅広い活動を、
どのような思いでされているのでしょうか。
蒼喬
ぼく自身、じぶんの活動の根本には
「1000年後の時代に書道を残していきたい」
という考えがあるんですね。
――
1000年後まで。
蒼喬
はい。そのためには、
書道にふれる人の数を増やさないといけない。
じゃないと書道がなくなってしまう。
だから、多くの人に見てもらう機会を
たくさん持とうと思っていますし、
さまざまな表現の幅を見せることで、
堅苦しいイメージを変えていきたい。
そんなことを考えているんです。
――
1000年後、というのはけっこう大きな
スケールの話だと思うのですが、
なにか、そう思うようになった
きっかけみたいなことはありますか?
蒼喬
ひとつは、書道を教えてくれた
お師匠へのリスペクトです。
やっぱりじぶんが教わってきたものを、
ぼく自身も次の世代に伝えていきたいという
気持ちがあるんです。
――
なるほど。
蒼喬
あとは、危機感ですね。
今の時代、年賀状だってデジタルで簡単につくれてしまう。
宛名さえじぶんで書かなくて済みますよね。
書道以前に、手書きで文字を書く文化自体がだんだん、
廃れてきてるじゃないですか。
さらに筆を使うなんて、もっと機会がすくない。
――
残念ですが、そうですよね。
蒼喬
だけどぼくは、書道は絶対に、
なくしちゃいけないものだと思うんです。
必要がないからその文化が消えていいのかというと、
それはまたべつの話だと思うんです。

日本には平安時代、1000年前から
筆と墨で書かれた文化が受け継がれている。
遥かむかしの人たちの営みが連綿と続いて、
書物として残ってきたから、ぼくたちは文字を書ける。
今の時代にも文字がある。
それってすごいことだと思うので。
――
1000年前の人たちも同じように
筆と墨で文字を書いていたと思うと、
それってうれしいなあと感じます。
蒼喬
そうそう、そうなんですよ。
――
今もすでに、蒼喬さんのツイッターや
ゲームの筆文字などの活動は、筆文字の魅力を
多くの人たちに伝えている印象があります。
蒼喬
ぼくのツイッターのフォロワーさんって、
もともと書道をやっている方はすくなくて、
ゲームの技名を書いた筆文字などから
ぼくの存在を知ってくださった方が多いんです。
「書道に興味はなかったけど、
ゲームの字がかっこよくて好きになりました」
ってコメントをくれる方も多くいますし。
――
すごい、確実に裾野を広げていっている。
蒼喬
ぼくの書を見て書道家になりたいと思ったとか、
作品を真似して書いてみてますとか
言ってくれる人もいて、
そういう反応があるたびに、ほんとうにうれしいです。
――
あと蒼喬さんは、海外での展示もされていますよね。
蒼喬
はい、ありがたいことに。
海外の方はあまり書を文字として見てなくて、
絵を見るような視点で美しいと言ってくれますね。
芸術として捉えているところがある。
――
たしかに言語が違うと、そうかもしれないですね。
蒼喬
去年、アラブ首長国連邦(UAE)で、
作品「雨」を展示したときは、現地の方に驚かれました。
真ん中に雨冠の字をいっぱい書いた作品ですが、
雨冠があってそのほかの部分が変わるだけで、
一字ごとに意味が変わるなんてすごいと。
漢字特有の表現の美しさだと、
海外の方は感動して話してくれました。

▲蒼喬さんの作品「雨」。

――
霜、雹、零、雷……。
たしかに、それぞれ違う意味を持ってますもんね。
蒼喬
アラブ首長国連邦(UAE)の歴史や暮らしを調べていたら、
ほとんど雨が降らない国だって知ったんです。
だったら、ぼくが日本から
書で雨を持って行っちゃおうと思って(笑)。
テーマを「雨」と決めて、つくりました。
――
その遊び心も、なんだか素敵です。

「ほぼ日手帳」の話になりますが、
いま、デジタルツールが便利になっていることもあって、
「もっと手書きのおもしろさを伝えていけたら」
という気持ちがあるんですね。

そういうときに、蒼喬さんが
むかしから続いてきた書道という文化を、
いまの人びとによろこばれる新しい視点を交えながら
受け継いでいこうとされている姿勢に
とても刺激を受けます。
蒼喬
そうですね。受け継いでいきたいですね。
まあ、ぼくも書道という部分では勉強中なので、
あまり偉そうなことは言えないですけど。
――
蒼喬さんも勉強中ですか。
蒼喬
ぼくはまだまだ。
このあいだも中国のむかしの書家の美しい字を見て、
「17年やっていて、この字が書けないのか」
って悔しくなりました。
――
わあ。
でも、書を通じてそうやって
むかしの中国の方と
じぶんがつながれたりもするんですよね。
蒼喬
そうですね。おもしろいですよ。
――
書道という文化を蒼喬さんが純粋に
すごくたのしまれている感じも
なんだか、いろんな人が書道に興味を持つ
きっかけになっている気がします。
蒼喬
書道はたのしいです。
こんなにたのしくていいのかってくらい。
ほんとうに、たのしい。
やっぱり、たのしむことが大事だと実感しています。
ぼくが書道の世界に本格的に入ることになったのも、
書道がたのしい、と感じたからですから。
――
まずは、たのしむこと。
蒼喬
はい。だから、まだあまり書道に親しみがない人も
なんとなく気になったら、まずは筆とか、
筆ペンを使うことをたのしんでみてほしいです。
そのあと興味が湧いてきたら、
ちゃんと習ってみてもいいわけで。
――
ほぼ日手帳で筆を使うときも
同じように考えていったらいいですかね?
蒼喬
ええ、まず自由に「筆遊び」くらいの気持ちで
初めてもらえたらな、と思います。
筆を使うことへのハードルを下げて、
まずは「自由にたのしんでいい」ということを
知ってもらえれば。
もし興味が湧いたら、ぜひ日々のことなどを
筆文字で手帳に書き残してみてください。
――
わたしも筆ペンあたりで、
手帳にいろいろ書いてみようかなと思いました。
今日はありがとうございました。
蒼喬
こちらこそ、ありがとうございました。

(おわります)

(1) 筆を使って、ほぼ日手帳に書いてみる。