筆を使って、
ほぼ日手帳に書いてみる。
- ――
- 蒼喬さん、こんにちは。
今日はよろしくお願いします。
- 蒼喬
- よろしくお願いします。
- ――
- いま、ほぼ日手帳のページでは、
「書く」ということのおもしろさやたのしさを
いろいろ紹介できたらと考えているのですが、
そこで思いついたのが「筆」なんです。
ただ、筆で書く文字は美しいし、
筆の世界って絶対におもしろいと思うのですが、
ちょっとハードルが高いイメージもあります。
そこで、作品をつくるだけでなく、
ツイッターだったり、海外での展示だったり、
さまざまなかたちで書道のうれしさを
広めていらっしゃる蒼喬さんに
お話を聞けたらと思って、今日はやってきました。
- 蒼喬
- ありがとうございます。
ぼくも書の魅力について多くの方に
知ってもらえるのは、とても嬉しいです。
なんでも聞いてください。
- ――
- ではさっそくですが、ほかの筆記具と比べたときの、
筆の特徴って、どのあたりにあると思いますか?
- 蒼喬
- 筆で書くと、やっぱり「味」は出やすいですね。
ふつうのペンだと線の太さが一定ですが、
筆は強弱を変えることで、
線の細いところと太いところの差が出るので、
それだけ幅広い表現ができるんです。
もちろんボールペン字などでも、
その人の手ぐせや個性で字ができますけど、
筆だとさらに、文字のイメージに合わせて、
やわらかく書いたり、かっこよく書いたりとか、
いろんな表現がしやすいと思います。
- ――
- 筆は、細さや太さの調整ができるから、
幅広い表現が可能になる。
- 蒼喬
- ええ。また、そのときのじぶんの気持ちで
表現も変わってきます。
ぼくの場合は、筆だと「じぶんの個性」プラス、
「書くときの感情」が表現として
どんどん追加されていく感覚があります。
ちょっとイライラしてるときに文字を書くと、
自然と力が入って文字が力強くなる。
- ――
- はい(笑)。
- 蒼喬
- だから、たとえ同じ文字を書いていても、
そのときの感情によって、全然違う表現になります。
手帳に毎日書いていても、
違いが出やすいかもしれません。
- ――
- たしかに、同じ文字を描いていても、
その日のじぶんの気持ちが残るって、
ちょっといいですね。
- 蒼喬
- せっかくなので、一筆書いてみましょうか。
道具を持ってきたので。
- ――
- すごい、筆がたくさんある。
- 蒼喬
- ある程度は持ってきました。
持ち運び用の道具なので、
筆の本数はすくないですし、市販の墨汁なんですけど。
- ――
- では、こちらの大きいサイズの「ほぼ日手帳」、
カズンに書いていただいてもいいですか?
広いほうが書きやすいかなと思うので。
- 蒼喬
- なにを書きましょうね。
- ――
- なにか、筆で書くことで
より文字が魅力的に見えそうなものとか‥‥。
- 蒼喬
- はい、では……。
(筆を動かしながら)松尾芭蕉の句、
「古池や蛙飛びこむ水の音」です。
- ――
- うわー、これはうれしい。
好きな俳句や短歌などを
毎日筆で手帳に書いてみる、
というのもたのしそうですね。
- 蒼喬
- いいアイデアだと思います。
あとで見返すのもおもしろいとおもいますし。
- ――
- ‥‥墨が乾くのを待つあいだに聞きたいのですが、
初心者が筆を選ぶときは、
どんなものを選ぶといいでしょう?
- 蒼喬
- 最初は毛先の短い筆がいいと思います。
毛先が長い大きめの筆だと、
扱いがすこし難しくなるので。
- ――
- なるほど、毛先の長さが短いものを選ぶと
書きやすい。
- 蒼喬
- そうそう。
でも慣れてくると毛先が長いほうが
表現の幅が広がって、たのしくなるんですけどね。
個人的には、細さと太さの差が出しやすいので
筆の毛の部分が長いものが好きです。
- ――
- ふと思いましたが、蒼喬さんは
筆ペンを使うことはありますか?
ほぼ日手帳で、より気軽に筆をたのしむなら、
筆ペンという選択肢もあるのかな、と思いました。
- 蒼喬
- ぼくは書家なので、作品をつくるときには
やっぱり筆を使ってます。
でも筆ペンはふだん使いにとても便利ですし、
手帳に書くときにはいいと思いますよ。
いつも通りボールペンで書く延長で使うだけで、
字に筆らしさがすこし出るので、
そこからはじめてみるのはいかがでしょう?
- ――
- じゃあ、気軽に筆らしさをたのしむなら、筆ペンで。
もうすこししっかりやってみようかなと思ったら、
毛先の短い筆を選ぶとよさそう、みたいな。
- 蒼喬
- そうですね。
最初はほんとうに、
いつも使ってるペンが筆ペンに変わっただけ、
という気持ちで書いてみてもらえたらと。
上手い下手とかは考えずに、
肩肘張らず、たのしんでみてほしいです。
- ――
- いいですね。
そういうアドバイス、うれしいです。
- 蒼喬
- ‥‥あ、書いた字の墨が乾いてきました。
やっぱり紙は全然平気そうですよ。
裏写りもしない。
うん、いい感じですね。
一枚和紙をはさんでおけば、閉じても大丈夫です。
- ――
- たしかに和紙をはさんでおけば、安心ですね。
使うのは和紙のほうがいいんですか?
- 蒼喬
- ふつうの紙でもいいんですが、
和紙は余分な墨を吸収しやすいので。
- ――
- きれいな和紙もたくさん売ってますし、
選ぶたのしさもありますね。
しおりにもなりそうです。
- 蒼喬
- そうですね、お好きなものを。
- ――
- それにしても蒼喬さんは、
いろいろな筆を使ってらっしゃるのですね。
- 蒼喬
- 使い分けていますね。家にはもっとあります。
一回のお仕事でも、
ここにある半分以上の筆を使います。
筆が違うと、まったくイメージの違う字になるんです。
- ――
- そうなんですか。
- 蒼喬
- じゃあ、筆のたのしさを知っていただけるように、
違う筆で同じ字を書いてみましょうか。
たとえば……「水」という字。
- ――
- ああ、ほんとうに、全然違う。
- 蒼喬
- この2本はどちらも
水墨画で使うような筆なので個性が強いんです。
ざっくり言うとですが、
筆は毛の種類、長さ、量によって、
表現が変わります。
ちょっと本格的になってしまいますけど、
こういう違いもたのしいですよ。
- ――
- 毎日こうやって筆で書いたもので
手帳が埋まっていったら、
かっこいい一冊になりそうです。
- 蒼喬
- いいですね。毎日一筆、みたいな。
(つづきます)