思えば、ずっとやりたかったこと。コンドウアキさんインタビュー

ほぼ日手帳2020springで新しく登場する手帳カバー
「ダンシングきつね」「おはなばたけ」
このふたつの絵を描きおろしてくださったのは、
「うさぎのモフィ」や「おふとんさん」などでおなじみの
イラストレーター、キャラクターデザイナーの
コンドウアキさんです。
このモチーフが選ばれた経緯から
コンドウさんが仕事でたいせつにしていること、
あたらしいことをはじめることについて‥‥。
いろんなおはなしをうかがいました。

――
ほぼ日から「ほぼ日手帳のカバーを
いっしょにつくりませんか」とご相談したとき、
モチーフはすぐに決まりましたか?
コンドウ
最初に打ち合わせをしたときに、
「キャラクターとは違うこと、
やってみたいことにもチャレンジしていい」
と言っていただけたので、
まず「お花を描きたい」とお伝えしました。
じゃあもうひとつはキャラクター系で、
となったときに少し迷いましたね。
ほぼ日さんはおしゃれなので‥‥。
――
いや、そんなことはないですよ!

コンドウアキさんはご自分で用意された
パンダの着ぐるみをかぶっておられます。

コンドウ
わたしのなかではなんかもう、
とにかくおしゃれなイメージがあったので、
「どうしよう」と思ったんです。
キャラクター寄りのものよりは
絵本寄りのものがいいかな、と相談していくうちに
きつねが登場しました。
――
「キャラクター寄り」と「絵本寄り」とは
どんな違いがあるんでしょう?
コンドウ
もちろん人によって考え方は違うと思いますが、
キャラクター寄りだと
「パッと見で忘れられない」「特徴的なもの」
「これだけでぜんぶのグッズをつくれるような
強い存在感のあるもの」を考えます。
絵本だと、「生活になじむ」といえばいいのかな。
自然にそこにあって、ほかのものを邪魔しない。
キャラクターってそれだけで世界をつくってしまうんですが、
そこまではいかないようなものが
私の考える「絵本ぽい」あるいは「雑貨寄り」の
キャラクターかな、と思っています。
もちろん、そう考えた結果出てきたものが
どうとられるかはまた人によりますが、
自分の中ではそう分けているところがあります。
――
今回「生活になじむ」ほうを選択したのは
手帳カバーだから、という理由ですか?
コンドウ
それはかなりありました。
広告のような「商品を紹介するよ!」というものとは違って、
「日常で持ち歩く」ことはかなり意識しましたね。
――
きつねは以前からお好きだったんですか?
コンドウ
きつねはもともと好きでした。
ただ、今回は明るめのポップな色味を使いたい、
黒も合わせたいと思ったのが先で。
手足が長ければ、動きもつけられるので。
――
なるほど!
コンドウさんのこれまでの作品でいえば
「おふとんさん」は手足が短いというか
ほぼないから、動きがつけにくい?
コンドウ
はい、おふとんさんはそうですね。
――
絵本を読んでいると
おふとんさんは自在にとびはねている
イメージがありましたが、
あらためて見てみると、じつはそうでもないんですね。
コンドウ
そう。そんなに動いてないんですよ。
絵本は文章がつくので、
動きが感じられるのかもしれませんね。
今回の「ダンシングきつね」は
そういった補足がなくても、
見ただけで動いている感じにしたいと思いました。
ふだん手足短めのキャラが求められることも多いので、
そういった意味でもすこし違ったタイプになったかな、
と思います。
――
このきつね、手足はもちろん、
しっぽにも表情があってかわいいです。
コンドウ
きつねって、何となく大人っぽい気がしません?
シニカルさもあったりして。
元々きつねというモチーフが持つ印象にも
助けてもらったかなと思います。
――
背景のチェックも、コンドウさんが描かれたんですよね?
コンドウ
はい。この線は水彩で描きました。
背景はストライプにしようか、チェックにしようかと
みなさんと相談して、色や太さもいろいろ変えていただいて、
このかたちになりました。
やまと
(カバー企画担当)
このふたつの絵がコンドウさんから届いた瞬間、
「かわいい!」ともう大興奮でした。
コンドウ
本当ですか。よかった!
――
コンドウさんといえば
パキッとしたキャラクターのイメージが強いなかで、
「おはなばたけ」はやさしいかわいらしさがありますね。
コンドウ
いつもはキャラクターと、それから絵本の仕事が大半で。
フリーになってから16年、
会社員時代を含めると20年以上この仕事をやってきて、
このタイミングで「新しいことをやってみませんか?」と
言っていただけることってほんとうに貴重なので、
とってもうれしかったんです。
――
そのときに、「じゃあお花を」と。
コンドウ
はい。
「水彩で描きたいな」と思って、おはなばたけを描きました。
――
この「おはなばたけ」を見たあとに
改めて「おふとんさん」の絵本を開いて、
たくさんお花が描かれていることに気づきました。
コンドウ
そう。じつは描いていたんです。
自分でも「そういえばちょこちょこ描いていたな」
と後から思いました。
でもお花だけを描けることってなかなかないから、
今回の機会はほんとうに貴重で。
――
なんだか、
子どもの頃に行ったファンシーショップの
包み紙のようなうれしさがあるなと思いました。
コンドウ
たしかに、小さい頃に好きで見ていた
ファンシーグッズとか、ミッフィーちゃんとか
そういうものが残っているのかもしれませんね。
ただそれよりも、
実際の原っぱの影響のほうが強いかも。
わたし、小学生時代はほとんど草っぱらにいて
雑草をつんで遊んでいたので。
――
小学生時代の思い出がここに!
風合いのある生地でつくったこともあるのか、
ハンカチとかエプロンとかにも似合いそうな、
布地の柄のような雰囲気もありますね。
コンドウ
布地の柄というイメージは最初からありました。
それもおとなになってから
「そういえば私って布も好きだったんだ」と
思ったんですよ。
自分の好きなものに気づいて、
好きなものがちょっとずつ増えていって。
その仕事をやれることになったのは、
すごくうれしいことでした。
――
この柄についても、「手帳カバー」ということは
意識されましたか?
コンドウ
「ダンシングきつね」よりも「おはなばたけ」のほうが
意識していたかもしれません。
きつねは自分のこれまでの経験がありますから
ある程度わかって進めていたつもりなんです。
でも「おはなばたけ」は手探りしながら描いていました。
――
「キャラクターを作ってほしい」とか
「絵本を描いてほしい」とか、
いろんな仕事の依頼があると思いますが、
いちばん心がけていらっしゃることはなんですか?
コンドウ
締め切りに間に合わせること。
――
ああ‥‥!
やまと
コンドウさん、ご相談をした最初の段階から
スケジュールのことをものすごく気にしてくださって、
それがとても新鮮でした。
コンドウ
とくに商品って、間にあわないと
最終的には自分の首をしめることになりますから。
つくれないとか、色が選べないとか。
‥‥でも、聞きたいのはこういうことじゃないですよね(笑)。
――
いや、それはすごくほんとうのことだと思います。
やまと
こんなふうに新しいものを作りだしたうえで
しかもスケジュールをきっちり守ってくださることって
決して「よくあること」ではないので、
本当にありがたかったです。
コンドウ
元会社員なので(笑)。
――
ものをつくる現場をご存知だから。
コンドウ
もちろん会社員として実際にものづくりを
やっていたというのもあります。
「みかんぼうや」でCMに携わったときに
お世話になった広告会社の方が
よくしてくださって、鍛えられたというのもあります。

その後、子どもをもったのも大きいですね。
子どもが熱を出すとスケジュールがどんどんずれていく。
その怖さを知ったときに身にしみました。
ずれた分を徹夜で取り戻すとか、
そういう無理もだんだんきかなくなっていくので、
ある程度何かがあっても仕上がるように
スケジュールを組まないと、と思っています。
――
ご自分の中で納得のいくものをつくれる期間を
ある程度見越してとったうえで
スケジュールを組んでいくんですか?
コンドウ
そうですね。
複数のお仕事をいただいているので、
「1か月のうち、これにとれるのは3日だな」とか、
テトリスのように組んでいます(笑)。
絵本とか大きめのお仕事は
ちょっと長めにスケジュールをとって
ずっとふわふわと考えているという感じです。
まあ、でもビビリなんだと思います。
だから間に合うように動くという‥‥。
やまと
スケジュールもそうですけど、
コンドウさんは最初から、
「売り場では全体のどのくらいが見えますか?」とか
「汚れがつきにくいほうがいいですよね」とか、
ものとしての手帳のことをすごく理解してくださって。
コンドウ
やまとさんが「これはこうだから大丈夫です」と
こたえてくださったから、安心して進められました。
――
そういう部分を気にしてくださるのは、
コンドウさんご自身が
キャラクターが商品になっていく過程を
実際に経験されているからこそですね。
コンドウ
会社員時代、文具や雑貨などの商品づくりをしつつ
バーコードシールやディスプレイまで関わっていたので。
手帳にも携わったことがありますよ。
路線図や体のツボを載せたりもして、
「もうちょっとみんなツボのページ見てよ!」
と思っていたこともありました(笑)。
――
わかります‥‥!
そんなふうに理解していただきながら、
今回は新しいチャレンジをしてくださったんですね。
たとえば「ダンシングきつね」は
ユーモラスでふっと肩の力が抜けるような存在ですが、
コンドウさんがご自身で考える、
自分のキャラクターの傾向はなにかありますか?
コンドウ
クライアントさんがいる場合は
もちろんその要望に合わせてつくることになりますが、
元々はあまり主張の激しすぎないものを作りたいな、
と思っています。
「こうであるといいよね」みたいなことを、
あまり言わせたくないというのはあるかな。
――
キャラクターになにかを押し付けさせない?
コンドウ
はい。
自分が押し付けられるのが好きじゃないから、
キャラクターにも誰かになにかを押し付けさせたくない、
と思っているのかもしれません。

キャラクターって、私は、
全員に好かれなくていいかなあと思っているんです。
「好きだな」と思ってくれる人が好きでいてくれさえすれば、
「私、かわいいよね」とか「好きでいてね」とかを
わざわざ伝える必要はないかなと。
人間でもキャラクターでも、
それぞれいいところも悪いところもあって、
合う相手と合っていけばいいんじゃないかなと思っているので。
――
「かわいいでしょ」とか「好きでいてね」という
主張をしない。
コンドウ
もちろんそれが好きな方もいらっしゃるし、
そういう魅力的なキャラクターもたくさんいるけれど、
私自身が生み出すものについては
「そこまでがんばりすぎなくていいかな」と思います。
――
最初にキャラクターのデザインをするとき、
あるいは今回の「おはなばたけ」のように手描きで描くとき、
ときによって調子の良し悪しはありますか?
コンドウ
ありますあります。
丸が描けないときってけっこうあるんです。
なんでなのかはよくわからないんですけど。
ご本人が覚えてらっしゃるかわかりませんが、
和田ラヂヲ先生も以前「丸が全然描けんときあるぞ」
と言ってらしたので、
「わりとあることなんだな」とすこし安心しました。
――
「この丸ではダメだ」と思うポイントはどんなところですか?
コンドウ
ゆがみすぎているときはダメですね。
――
ほどよくゆがむぐらいがいい?
コンドウ
いや、私の描いたものを
「いいゆがみだね」と言われることがあるんですが、
「いや、私全然ゆがませてないし」と思っているんです(笑)。
だから私がすごく整然と、ゆがみなく描けたと思うものが、
皆さんが思う「いいゆがみ」になっているらしい‥‥。
そこまで精密さを求める絵柄とはやはり違うので、
私は私にやれることができればいいかなと思っています。
――
ほぼ日手帳spring版は4月はじまりで、
新生活に合わせて買われる方もたくさんいらっしゃいます。
たとえばコンドウさんが会社をやめて独立されたのは
大きな決断だったと思いますが、
コンドウさん自身はどんなふうに
「新しいことをはじめる」ときは
どんなふうに決めますか?
コンドウ
私は季節がいいときに新しいことをはじめたくなりますね。
「芽吹く」という言葉がありますけど、
葉っぱが出はじめる季節にがんばれる気がする。
‥‥だから、あまり無理しなくていいと思います。
「なにかはじめなきゃ」と思って無理してやることは、
続かない気がするんですよ。
それよりも、「はじめたくてしかたない」という
気持ちではじめたほうが、自分になじんでいくんじゃないかな。

私自身、今回の「おはなばたけ」はずっと
「こういうのをやりたいな」と思いながら
ちょっとずつ描きためていた。
「やりたい」と思いながら進めていって、
何かのきっかけをもらったときにやれる力が
自分の中でたまっているのがいちばんいいな、と思います。
(おわります)
コンドウアキ文具会社デザイン室時代に『リラックマ』などのキャラクター原案、商品デザイン担当。退社後はフリーで『うさぎのモフィ』『ウーとワー』『おふとんさん』などのキャラクターデザイン、エッセイ、イラスト、絵本制作などを行う。http://www.akibako.jp/