- ――
- ほぼ日から「ほぼ日手帳のカバーを
いっしょにつくりませんか」とご相談したとき、
モチーフはすぐに決まりましたか?
- コンドウ
- 最初に打ち合わせをしたときに、
「キャラクターとは違うこと、
やってみたいことにもチャレンジしていい」
と言っていただけたので、
まず「お花を描きたい」とお伝えしました。
じゃあもうひとつはキャラクター系で、
となったときに少し迷いましたね。
ほぼ日さんはおしゃれなので‥‥。
- ――
- いや、そんなことはないですよ!
コンドウアキさんはご自分で用意された
パンダの着ぐるみをかぶっておられます。
- コンドウ
- わたしのなかではなんかもう、
とにかくおしゃれなイメージがあったので、
「どうしよう」と思ったんです。
キャラクター寄りのものよりは
絵本寄りのものがいいかな、と相談していくうちに
きつねが登場しました。
- ――
- 「キャラクター寄り」と「絵本寄り」とは
どんな違いがあるんでしょう?
- コンドウ
- もちろん人によって考え方は違うと思いますが、
キャラクター寄りだと
「パッと見で忘れられない」「特徴的なもの」
「これだけでぜんぶのグッズをつくれるような
強い存在感のあるもの」を考えます。
絵本だと、「生活になじむ」といえばいいのかな。
自然にそこにあって、ほかのものを邪魔しない。
キャラクターってそれだけで世界をつくってしまうんですが、
そこまではいかないようなものが
私の考える「絵本ぽい」あるいは「雑貨寄り」の
キャラクターかな、と思っています。
もちろん、そう考えた結果出てきたものが
どうとられるかはまた人によりますが、
自分の中ではそう分けているところがあります。
- ――
- 今回「生活になじむ」ほうを選択したのは
手帳カバーだから、という理由ですか?
- コンドウ
- それはかなりありました。
広告のような「商品を紹介するよ!」というものとは違って、
「日常で持ち歩く」ことはかなり意識しましたね。
- ――
- きつねは以前からお好きだったんですか?
- コンドウ
- きつねはもともと好きでした。
ただ、今回は明るめのポップな色味を使いたい、
黒も合わせたいと思ったのが先で。
手足が長ければ、動きもつけられるので。
- ――
- なるほど!
コンドウさんのこれまでの作品でいえば
「おふとんさん」は手足が短いというか
ほぼないから、動きがつけにくい?
- コンドウ
- はい、おふとんさんはそうですね。
- ――
- 絵本を読んでいると
おふとんさんは自在にとびはねている
イメージがありましたが、
あらためて見てみると、じつはそうでもないんですね。
- コンドウ
- そう。そんなに動いてないんですよ。
絵本は文章がつくので、
動きが感じられるのかもしれませんね。
今回の「ダンシングきつね」は
そういった補足がなくても、
見ただけで動いている感じにしたいと思いました。
ふだん手足短めのキャラが求められることも多いので、
そういった意味でもすこし違ったタイプになったかな、
と思います。
- ――
- このきつね、手足はもちろん、
しっぽにも表情があってかわいいです。
- コンドウ
- きつねって、何となく大人っぽい気がしません?
シニカルさもあったりして。
元々きつねというモチーフが持つ印象にも
助けてもらったかなと思います。
- ――
- 背景のチェックも、コンドウさんが描かれたんですよね?
- コンドウ
- はい。この線は水彩で描きました。
背景はストライプにしようか、チェックにしようかと
みなさんと相談して、色や太さもいろいろ変えていただいて、
このかたちになりました。
- やまと
(カバー企画担当) - このふたつの絵がコンドウさんから届いた瞬間、
「かわいい!」ともう大興奮でした。
- コンドウ
- 本当ですか。よかった!
- ――
- コンドウさんといえば
パキッとしたキャラクターのイメージが強いなかで、
「おはなばたけ」はやさしいかわいらしさがありますね。
- コンドウ
- いつもはキャラクターと、それから絵本の仕事が大半で。
フリーになってから16年、
会社員時代を含めると20年以上この仕事をやってきて、
このタイミングで「新しいことをやってみませんか?」と
言っていただけることってほんとうに貴重なので、
とってもうれしかったんです。
- ――
- そのときに、「じゃあお花を」と。
- コンドウ
- はい。
「水彩で描きたいな」と思って、おはなばたけを描きました。
- ――
- この「おはなばたけ」を見たあとに
改めて「おふとんさん」の絵本を開いて、
たくさんお花が描かれていることに気づきました。
- コンドウ
- そう。じつは描いていたんです。
自分でも「そういえばちょこちょこ描いていたな」
と後から思いました。
でもお花だけを描けることってなかなかないから、
今回の機会はほんとうに貴重で。
- ――
- なんだか、
子どもの頃に行ったファンシーショップの
包み紙のようなうれしさがあるなと思いました。
- コンドウ
- たしかに、小さい頃に好きで見ていた
ファンシーグッズとか、ミッフィーちゃんとか
そういうものが残っているのかもしれませんね。
ただそれよりも、
実際の原っぱの影響のほうが強いかも。
わたし、小学生時代はほとんど草っぱらにいて
雑草をつんで遊んでいたので。
- ――
- 小学生時代の思い出がここに!
風合いのある生地でつくったこともあるのか、
ハンカチとかエプロンとかにも似合いそうな、
布地の柄のような雰囲気もありますね。
- コンドウ
- 布地の柄というイメージは最初からありました。
それもおとなになってから
「そういえば私って布も好きだったんだ」と
思ったんですよ。
自分の好きなものに気づいて、
好きなものがちょっとずつ増えていって。
その仕事をやれることになったのは、
すごくうれしいことでした。
- ――
- この柄についても、「手帳カバー」ということは
意識されましたか?
- コンドウ
- 「ダンシングきつね」よりも「おはなばたけ」のほうが
意識していたかもしれません。
きつねは自分のこれまでの経験がありますから
ある程度わかって進めていたつもりなんです。
でも「おはなばたけ」は手探りしながら描いていました。
- ――
- 「キャラクターを作ってほしい」とか
「絵本を描いてほしい」とか、
いろんな仕事の依頼があると思いますが、
いちばん心がけていらっしゃることはなんですか?
- コンドウ
- 締め切りに間に合わせること。
- ――
- ああ‥‥!
- やまと
- コンドウさん、ご相談をした最初の段階から
スケジュールのことをものすごく気にしてくださって、
それがとても新鮮でした。
- コンドウ
- とくに商品って、間にあわないと
最終的には自分の首をしめることになりますから。
つくれないとか、色が選べないとか。
‥‥でも、聞きたいのはこういうことじゃないですよね(笑)。
- ――
- いや、それはすごくほんとうのことだと思います。
- やまと
- こんなふうに新しいものを作りだしたうえで
しかもスケジュールをきっちり守ってくださることって
決して「よくあること」ではないので、
本当にありがたかったです。
- コンドウ
- 元会社員なので(笑)。
- ――
- ものをつくる現場をご存知だから。
- コンドウ
- もちろん会社員として実際にものづくりを
やっていたというのもあります。
「みかんぼうや」でCMに携わったときに
お世話になった広告会社の方が
よくしてくださって、鍛えられたというのもあります。
その後、子どもをもったのも大きいですね。
子どもが熱を出すとスケジュールがどんどんずれていく。
その怖さを知ったときに身にしみました。
ずれた分を徹夜で取り戻すとか、
そういう無理もだんだんきかなくなっていくので、
ある程度何かがあっても仕上がるように
スケジュールを組まないと、と思っています。
- ――
- ご自分の中で納得のいくものをつくれる期間を
ある程度見越してとったうえで
スケジュールを組んでいくんですか?
- コンドウ
- そうですね。
複数のお仕事をいただいているので、
「1か月のうち、これにとれるのは3日だな」とか、
テトリスのように組んでいます(笑)。
絵本とか大きめのお仕事は
ちょっと長めにスケジュールをとって
ずっとふわふわと考えているという感じです。
まあ、でもビビリなんだと思います。
だから間に合うように動くという‥‥。
- やまと
- スケジュールもそうですけど、
コンドウさんは最初から、
「売り場では全体のどのくらいが見えますか?」とか
「汚れがつきにくいほうがいいですよね」とか、
ものとしての手帳のことをすごく理解してくださって。
- コンドウ
- やまとさんが「これはこうだから大丈夫です」と
こたえてくださったから、安心して進められました。
- ――
- そういう部分を気にしてくださるのは、
コンドウさんご自身が
キャラクターが商品になっていく過程を
実際に経験されているからこそですね。
- コンドウ
- 会社員時代、文具や雑貨などの商品づくりをしつつ
バーコードシールやディスプレイまで関わっていたので。
手帳にも携わったことがありますよ。
路線図や体のツボを載せたりもして、
「もうちょっとみんなツボのページ見てよ!」
と思っていたこともありました(笑)。
- ――
- わかります‥‥!
そんなふうに理解していただきながら、
今回は新しいチャレンジをしてくださったんですね。
たとえば「ダンシングきつね」は
ユーモラスでふっと肩の力が抜けるような存在ですが、
コンドウさんがご自身で考える、
自分のキャラクターの傾向はなにかありますか?
- コンドウ
- クライアントさんがいる場合は
もちろんその要望に合わせてつくることになりますが、
元々はあまり主張の激しすぎないものを作りたいな、
と思っています。
「こうであるといいよね」みたいなことを、
あまり言わせたくないというのはあるかな。
- ――
- キャラクターになにかを押し付けさせない?
- コンドウ
- はい。
自分が押し付けられるのが好きじゃないから、
キャラクターにも誰かになにかを押し付けさせたくない、
と思っているのかもしれません。
キャラクターって、私は、
全員に好かれなくていいかなあと思っているんです。
「好きだな」と思ってくれる人が好きでいてくれさえすれば、
「私、かわいいよね」とか「好きでいてね」とかを
わざわざ伝える必要はないかなと。
人間でもキャラクターでも、
それぞれいいところも悪いところもあって、
合う相手と合っていけばいいんじゃないかなと思っているので。
- ――
- 「かわいいでしょ」とか「好きでいてね」という
主張をしない。
- コンドウ
- もちろんそれが好きな方もいらっしゃるし、
そういう魅力的なキャラクターもたくさんいるけれど、
私自身が生み出すものについては
「そこまでがんばりすぎなくていいかな」と思います。
- ――
- 最初にキャラクターのデザインをするとき、
あるいは今回の「おはなばたけ」のように手描きで描くとき、
ときによって調子の良し悪しはありますか?
- コンドウ
- ありますあります。
丸が描けないときってけっこうあるんです。
なんでなのかはよくわからないんですけど。
ご本人が覚えてらっしゃるかわかりませんが、
和田ラヂヲ先生も以前「丸が全然描けんときあるぞ」
と言ってらしたので、
「わりとあることなんだな」とすこし安心しました。
- ――
- 「この丸ではダメだ」と思うポイントはどんなところですか?
- コンドウ
- ゆがみすぎているときはダメですね。
- ――
- ほどよくゆがむぐらいがいい?
- コンドウ
- いや、私の描いたものを
「いいゆがみだね」と言われることがあるんですが、
「いや、私全然ゆがませてないし」と思っているんです(笑)。
だから私がすごく整然と、ゆがみなく描けたと思うものが、
皆さんが思う「いいゆがみ」になっているらしい‥‥。
そこまで精密さを求める絵柄とはやはり違うので、
私は私にやれることができればいいかなと思っています。
- ――
- ほぼ日手帳spring版は4月はじまりで、
新生活に合わせて買われる方もたくさんいらっしゃいます。
たとえばコンドウさんが会社をやめて独立されたのは
大きな決断だったと思いますが、
コンドウさん自身はどんなふうに
「新しいことをはじめる」ときは
どんなふうに決めますか?
- コンドウ
- 私は季節がいいときに新しいことをはじめたくなりますね。
「芽吹く」という言葉がありますけど、
葉っぱが出はじめる季節にがんばれる気がする。
‥‥だから、あまり無理しなくていいと思います。
「なにかはじめなきゃ」と思って無理してやることは、
続かない気がするんですよ。
それよりも、「はじめたくてしかたない」という
気持ちではじめたほうが、自分になじんでいくんじゃないかな。
私自身、今回の「おはなばたけ」はずっと
「こういうのをやりたいな」と思いながら
ちょっとずつ描きためていた。
「やりたい」と思いながら進めていって、
何かのきっかけをもらったときにやれる力が
自分の中でたまっているのがいちばんいいな、と思います。 - (おわります)