革のプロフェッショナルに訊く!TS2020の“すごい”革。

グラフィックデザイナーの佐藤卓さんが
選んだ革で作る「TS」シリーズの革カバー。
ことしは、独特の見た目とタッチ感をもつ
なんともカッコいい革が選ばれました。
独自の配合で作られたオイルを
内部に浸透させることによって
ほかにはない色みと手触りが実現した、
玄人好みの逸品なのだそうです。
21年にわたり皮革の輸入・販売をおこなっている
革のプロフェッショナル「協進エル」の田辺裕貴さんに
その魅力とすごさを、たっぷりと語っていただきました。
> 田辺裕貴さんプロフィール

[後編]ちょっとの差が、すごかった。

この革はもともと、何用に作られたものなんですか。
田辺
もともとは革小物で使えるようにと
開発された革のようです。
要はバッグやお財布みたいに、
いっぱい触る用途のある小物ですね。
触ってこそよさが出る革。
田辺
はい。触る用途のために作られた革とも
言えるかもしれません。
おしゃれ感がありますよね。
男性が持っても女性が持っても
素敵だと思います。
田辺
フランス原産のオス牛の革を使っているので、
革の中でも生地がしっかりして
繊維が詰まっている特徴があるんですが、
仕上がりや見た目はとてもエレガントですよね。
このあたりがやっぱり
イタリア人の繊細なセンスですね。
これを作ったタンナーさんは
どういった方々なんでしょうか。
田辺
イタリアのサンタクローチェにある
「キャピタル」というタンナーさんです。
タンニンなめしを専門に取り扱っています。
とにかく革好きの社長さんで、
新しい挑戦を常にしているかたですね。
いっぽうで、革の下地作りにも
真剣に取り組んでいる会社です。
土台がよくなければいいものはできないので、
そのあたりも含めて、信頼度も高いですね。
なるほど。
それから今日はすこし、
田辺さんご自身についてもうかがいたいなと
思っているのですが。
田辺さんは、どうして革のお仕事を選んだんですか。
田辺
そうですね。最初、大学を卒業してからは
ハンドバッグのメーカーに就職して
2年ほど営業の仕事をしていたんです。
営業をしていると、ことあるごとに
「イタリアの革がいい」と
お客様がおっしゃるわけですよ。
で、「何がいいんだろう?
これはイタリアに行くしかない!」と。
おお、いきなり!
田辺
会社に「行かせてほしい」と言ってみたのですが、
当たり前ながら、なかなか難しくて。
それで2年勤めた会社を辞めて、
イタリアの革を探求しに
バックパックで行ったのがはじまりですね。
結局、3カ月の滞在を2度ほどしました。
イタリア滞在中はどんなことをしていたんですか。
田辺
スキルもツテもなかったけれど、
どこか革関係の会社に就職したいと思って
あちこちへ連絡したんです。
そんななかで唯一、まだなにもできない僕を
快く受け入れてくれたのが、
「ブレターニャ」という
当時はまだ家族経営だったタンナーさんでした。
ああ、あのTS2017Black Domopackの革を
作っていたタンナーさんですね!
田辺
そうです、そうです。
午前中は朝イチで行って仕事を手伝って、
マンマの作るお昼ご飯をごちそうになって、
夕方からは語学学校に通って。
そんな生活を1カ月ぐらいやってしました。
革の基本的なことは、
そこで勉強させてもらいましたね。
全部、イタリア語ですか?
田辺
ええ。最初はなにを言ってるのか
わからなかったんですけど、
一生懸命、全部メモして覚えて。
マンマのレシピも全部書いてもらって‥‥
これは今でも、僕の宝物です。
わあ、いい話です。
それにしても今回は
かなり特殊でおもしろい革が
選ばれましたね。
お話をお聞きして、それがよくわかりました。
田辺
いま思えば、
最初にひと目見て、触ったときに感じた
「ちょっと」がやっぱりすごかったんだなと。
ちょっとの差を出すことって、
たいへんなことですから。
ちょっとの差が、すごかった。
田辺
本当に、同じような革って
すごくたくさんあるんですよ。
その中からこれだという1点を見つけてくるのが
僕らの仕事のおもしろいところなんです。
それが最終的には革好きのお客様にも
伝わって、愛されて、
うちの会社では10年、20年と長く使われる
「定番」になっていくんです。
ああ‥‥。
そして、これほどたくさんの種類があっても、
まだ新しいものがあるっていうのは、
すごいことですね。
田辺
それが革の魅力なんです。
世界中でお肉を食べていますよね、だから
世界中に革があるんですよ。
ええ。
田辺
そのなかで、革屋さんをやっていて思うのは、
単に「いい革」だけじゃだめなんだなということです。
革がどんなによくても、ものがよくなければ
その魅力は届きません。
製品としての最終形が大事だなと。
どんなかたちで届けるか、ということですね。
田辺
毎年僕は、完成したほぼ日手帳のカバーを見たときに
「おっ」と思うんです。
毎回、思った以上にいいものに仕上がっているし、
その革の魅力を最大限に発揮できるように
工夫されてるんだなっていうのを感じるので、
革屋さんとしてワクワクするし、すごくうれしいですよ。
わあ、ありがとうございます。
田辺
今回も、もうちょっとカジュアルっぽく
なるのかなと思っていたんですが、
予想外にスッキリ、シュッとして、カッコいいです。
ほかにはちょっとないでしょうね、こんな革製品は。
そう言っていただけてうれしいです。
たくさんのかたにこのカバーが届くといいなと思います。
田辺さん、今日はありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。

写真:兼下昌典