マンガ家のとよ田みのるさんが、
赤ちゃんと過ごす日常をマンガにして
Twitterで公開していた『最近の赤さん』が、
趣味の枠を超えて人気マンガになりました。
そして、新たに「ほぼ日手帳」を使いはじめた
とよ田さんは「リアル赤さんスケッチ」として
水彩画をTwitterで公開するようになりました。
手帳を使いはじめたきっかけや水彩画の魅力、
自認する親バカっぷりも、たっぷりと伺いました。
- ほぼ日
- とよ田さんのTwitterで、かわいらしい「赤さん」の
水彩画をたのしみに拝見しているんですが、
描きはじめたのはいつ頃からですか。
- とよ田
- 「私まんが座談会」で声がかかって、
これを機にほぼ日手帳を買ってみようかなと
6月の頭ぐらいから使い始めたんです。
- ほぼ日
- そこから手帳にもお子さんの絵を描いて、
Twitterにアップするようになったんですね。
- とよ田
- はじめは、ボールペンだけで描いていましたが、
『ほぼ日手帳公式ガイドブック2016』を読んで、
その中にあった「河シクシクイ」さんの絵に、
ショックを受けたのがきっかけなんです。
▲河シクシクイさんのほぼ日手帳
- ほぼ日
- 河さんはInstagramで、
クオリティを保ちながら
毎日のように続けているのがすごいですよね。
- とよ田
- 何で塗っているんだろうと見たら固形水彩なんですよね。
「ああ、固形水彩なら手軽でいいね」と思いました。
僕の水彩は、水筆っていう握ると水が出てくる筆で、
絵の具を溶かしながら描くんです。
- ほぼ日
- きっかけは、ガイドブックだったんですね。
- とよ田
- そうなんですよ。糸井さんとお会いしたときに
「娘を手帳に描いてるんですよ」と伝えられて、
もうそれだけでちょっと満足していたんです。
でも、そのあとにガイドブックを見たら、
かなり描き込んでいる人がいるじゃないですか。
よーし、もうちょっと頑張っていいのかなと。
- ほぼ日
- 手帳に絵を描く時間は、どのぐらいかけるんですか。
- とよ田
- 線画自体は本当にものの数分だと思うんですけど‥‥
そうだ、今ササッと描いてみましょうか。
(お話しをしながら描きはじめる)
- ほぼ日
- 写真を見ながら描かれるんですね。
- とよ田
- そうですね。最初は、娘が止まってるときを狙って
描いていたんですけど、寝てるときしか描けなくて。
赤ちゃんって、つねに動いてますから。
- ほぼ日
- いろんなところに行っては写真を撮って、
家に帰って絵を描いて、という繰り返しなんですね。
いまではKindle版が発売されている
『最近の赤さん』をTwitterで始めたのが、
娘さんが10か月のタイミングでしたよね。
そのきっかけには、なにがあったんですか。
- とよ田
- はじめは、なんか幸せ自慢みたいで
カンジ悪いかなと思って我慢していたんです。
でもあるとき、妻のほうにばかり行っていた娘が
突然僕のとこに寄ってきてくれたことがあったんです。
それがもう、うれしくて、うれしくてしょうがなくて、
「こんなことあったぜー!」という漫画を描いたら、
思いのほかリツイートしてもらいました。
「あっ、こういうの言っていいんですか」と思って、
続けるようになったんです。
- ほぼ日
- とよ田さん以外の登場人物を動物にすることで、
「ああ、かわいいなあ」で受け止められますよね。
かなりサラサラと下描きをされるんですね。
- とよ田
- 手帳の下描きは1、2分とかで線を引いて、
そのあとに、暇なときに着彩をしています。
ちなみに、絵の具の入れ物も手づくりしてみました。
重箱みたいになっていたものの1段だけをはぎ取って、
パレットとまとめたものを、段ボールで作りました。
- ほぼ日
- おぉー、すごい。お仕事でも水彩画は使っていますか。
- とよ田
- いえ、これはまだ趣味で使っているだけで。
仕事では「コピック」というマーカーを使っています。
でも、今ちょうど連載と連載の隙間で
わりと時間があるんですよね。
この期間にスキルアップしたいなと思って、
水彩を勉強してみようと道具をそろえたんです。
実際にやってみたら、かなり楽しいなと思いました。
ついこのあいだ描いたのが、これです。
娘が袋を持って、赤い実をずーっと拾っていたんです。
- ほぼ日
- わー、素敵! 「赤さん」がこの瞬間を覚えていなくても、
いつか大人になって読み返したときに、
「こんなことあったんだ」と思えたらうれしいですね。
- とよ田
- 大きくなったら、このままプレゼントしたいですね。
写真のアルバムも作っていますが、
プリントアウトが遅れちゃったりして。
あと、これね。この絵の色合いが気に入ってます。
- ほぼ日
- ああ、これもかわいい!
- とよ田
- これはね、娘が猫のパペットが好きなんですけど、
友人から貰った、かぶる猫の毛布を着せたら、
パペットのお母さんのフリをするんです。
- ほぼ日
- うわー、かわいい!
- とよ田
- 「いい子いい子」とかしてあげるんです。
子どもでも母性があるんだなと。
ふしぎとこれかぶるときは、黙るんですよ(笑)。
- ほぼ日
- ああ、大人になるんですねえ。
『最近の赤さん』を描かれるようになった
生後10か月の赤さんが2歳になりましたが、
その中で変わったことってありましたか。
- とよ田
- 最初はビックリする瞬間が、いろいろありました。
特に、しゃべるのと歩くのはすごくショックでしたね。
「ああぁ、歩いてる、歩いてるぅー」って、
歩いているだけで泣きそうになるんです。
うれしいのはもちろん大きいんだけど、
「あっ、もうハイハイじゃないんだ」っていう
寂しさもどこかにありますよね。
- ほぼ日
- マンガでは、とよ田さんも一緒になって、
ハイハイしていましたもんね。
- とよ田
- そうなんです。だから寂しくて‥‥。
これが2歳の誕生日なんですが、
誕生日のときには貼るものがあり過ぎて、
絵は、その周辺のページに描いています。
上野動物園の入場券を貼ったら描くところがないから、
別のページに絵を描きました。
イベントのときには描くことが多いですね。
- ほぼ日
- この手帳は、マンガのネタ帳にもなっていそうですね。
とよ田さんが、ほぼ日手帳を使いはじめたときには、
どう使っていこうと考えていたんですか。
- とよ田
- 個人でやる仕事なので、あまり人と会わないんです。
意図的に人と会わないようにすれば、
人と会うのって月に1度か2度ぐらいだから、
手帳に書くことがあまりないんですよね。
それじゃあ手帳を持て余すなあと思ったけれど、
娘の育児日記にちょうどいいぞ! と思って。
使いだしたら、いろいろ使いみちが出てきました。
記録をしてみてよかったことは、
思い出になって、話せるのがいいですね。
「あ、ここ行ったね。また今度行こうか」とか。
動物園のチケットとかシールとか、
娘にもらったお花を押し花にして貼っておいたりね。
ちゃんとした行き場ができたのがよかったです。
貼るだけで、いい思い出になりますよね。
最近は妻が買ったチケットも、僕に渡してくるんです。
「これ、貼るでしょ?」って。
- ほぼ日
- たしかにチケットって、行き場がないですからね。
そういえば、水彩で描いているのに、
紙がにじんだり、フニャフニャにならないんですね。
- とよ田
- そうなんです。この紙、かなりいいと思いますよ。
裏写りも全然しないし、すごく描きやすいです。
水彩の勉強として、いろんな紙を試していますが、
案外この手帳が描きやすいんですよね。
水彩は、色を塗ったあとでも、ちょっと濃いなと思ったら
水で拭いてあげると、色が馴染んで明るくなるんです。
水を使うのに、後ろのページに染みにくいんです。
さすがに、描くページが増えると分厚くはなりますけど。
- ほぼ日
- だから絵日記に使う人が多いのかもしれませんね。
あっ、「赤さん」の落書きページもありますね。
- とよ田
- はい、これは娘が描いた絵ですね。
娘が、僕の真似をしたくて筆を奪うんですよ。
1歳半ぐらいで描いた絵なので、形は整っていませんが、
落書きのストックも面白いかもしれませんね。
最初は抽象だったのが具象になっていく過程も、
きっと面白いでしょうね。
- ほぼ日
- それ、面白いですね! いい記録になりそうです。
『最近の赤さん』のマンガにしても、手帳にしても、
とよ田さんの好きなときに描かれていますよね。
趣味として、好きでやっているからこそ、
続いているのかなと思いました。
- とよ田
- 「うちの子見て。かわいいでしょ?」っていうのを
漫画の中でやっているだけですからね。
「このかわいい仕草、どう?」っていう。
僕は今でこそ、こんなに親バカなんですが、
じつは、娘が生まれるまでは赤ちゃんを見ても、
あまりかわいいと思えませんでした。
お世辞では「かわいいですね」って言うけれど、
内心では、サルみたいだなって思っていたり(笑)。
だから、しゃべれない赤ちゃんのときは、
面白くないだろうなっていう感覚があったんです。
でもね、生まれた子どもを初めて抱いた瞬間にね‥‥
よだれが落ちてきたんです。
「ああっ、かわいい!」と思っているうちに、
ボーッと見過ぎちゃっていたのかな。
一瞬で虜になりました。本当に、本当にかわいかった。
- ほぼ日
- はぁー、そんな変化があったんですか!
「赤さん」が好きなのはもちろんあるとして、
やっぱり絵もお好きなんだなというのも伝わってきます。
マンガ家を目指すきっかけも「絵が好き」からですか。
- とよ田
- そうですね。気がつけば絵が好きで描いていました。
中学校のときは美術部で油絵をやって、
色を塗るのも楽しいなと思えるようになりました。
マンガ家になって、描くことを「鍛錬」としていたのが、
最近、やっと「楽しい」に変わった気がします。
- ほぼ日
- 「赤さん」がきっかけで本が出たり、
お仕事も変わってきていますよね。
- とよ田
- 親バカな僕がベロ出して「見て!見て!」とやっていたら、
小学館さんが「うちでやりませんか」と言ってくれたり、
みんなが読んでくれるようになったんです。
Webでマンガを描いている人って、
かなり純粋な「好き」が多いですよね。
出版社を通すのもかったるいぐらいの感じで、
「面白いの描いたから見て見てー!」とやっていたら、
「おい、もっと描け」と周りに言われるようになって、
「ああ、描いていいんだ」っていう感じです。
『赤さん』の漫画もWebに投稿したら、
すぐに反応があるから、ちょっと気持ちいいんですよね。
- ほぼ日
- とよ田さんが手帳に絵を描かれているのを見て、
「あ、自分もやってみようかな」っていう人も
きっといるんだろうなって思いました。
- とよ田
- そういう広がりがあったらうれしいですね。
水彩だって、やってみたら本当に簡単ですよ。
自由に濃淡をつけられて、誰でも雰囲気を出せますから。
マーカーでグラデーションをつけるのには
じつは技術が必要で、けっこう難しいんですよね。
それが、水彩だと筆1本でササッとできる。
これから連載マンガでも、ぼかすところは水彩でやって、
パッキリ塗りたいところはコピックでっていう、
併用ができたらいいなと思っています。
- ほぼ日
- ほぼ日手帳をきっかけに、仕事の幅が広がったなんて
こちらもうれしいです。次回作、楽しみにしてますね。
いいお話が聞けました。ありがとうございます!
- とよ田
- いえいえ。ものすごい人がいっぱいいる中で
取り上げていただいて、ありがとうございました!