轟木さんと
BIWACOTTONの出会い。
- 轟木
- 私が BIWACOTTON(ビワコットン)と出会ったのは、
2017年の夏。雑誌で
「涼を感じる物選び」という企画があって、
代官山のインテリアショップにリサーチに行ったとき。
最初は、私、ビワの葉っぱの方のビワが大好きなので、
ビワだと思って説明を読むと、ビワ違いで(笑)。
- 杉岡
- 琵琶湖のビワでして(笑)。
- 轟木
- 触ってみたら、すごくサラッとしてて、これは涼しい!
で、その日に山下さんに問い合わせて、
撮影用に貸していただいて。
- 山下
- ちょうどBIWACOTTONの服を世に出し始めた頃で。
ユニセックスのアイテムを用意したけど、
メンズにばっかり売れちゃうな、っていう時期だったんです。
やっぱりレディースをやりたいなあ‥‥って。
それで、レディースの服のことだったら、
スタイリストさんが一番よく知ってるにちがいないって思って、
轟木さんと出会ってすぐに、図々しく電話したんですよ。
「レディースをつくってみません?」って。
そこから始まったんです。
左から、山下さん、杉岡さん、轟木さん。
轟木さんがデザインしたBIG Tシャツ。
こちらはフレンチスリーブインナー。
江戸時代から続く高島ちぢみをさらに進化。
独特の風合いとストレッチ性を持つ
綿100%の生地が誕生。
- 杉岡
- BIWACOTTONっていうのは、
そのルーツが高島ちぢみというもので。
- 山下
- 日本全国、ちぢみっていう布はいっぱいあるんですよね。
- 杉岡
- あるんですよ。江戸時代からあります。
新潟県の小千谷(おぢや)とか有名ですね。
小千谷縮は高級品ですよ。
- 山下
- ちぢみって、地域で製造工程が多少違いますもんね。
- 杉岡
- 共通するのは、表面に凸凹があって涼しい肌ざわり。
昔の人たちにとって着心地がいいっていうので、
いろんな工夫をされてきたんでしょうね。
よかったんだと思うんですね。日本の風土に。
- 山下
- 肌に触れるものはやっぱりちぢみがいい。
BIWACOTTONは、さらさら、しゃりしゃり。
綿100%でのびちぢみする、気持ちいい質感。
- 轟木
- 江戸時代から続いているってことは、
手で織ってたんですよね?
- 杉岡
- 手織りです。手機(てばた)で、
地元で栽培した綿で、
このへんの水で洗ってたんだと思います。
それがだんだん機械化されていったのが今のかたちです。
- 轟木
- すごいですねえ。
さっき水路を見かけました。水が豊富なんですね。
- 山下
- いやあ、日本にもいいものあるんですよ。
- 轟木
- ほんとに。
- 杉岡
- 高島ちぢみの独特のシワは、
糸を強く撚ることで生まれます。
BIWACOTTONの糸は
強く撚る高島ちぢみの糸にさらに撚りをかける。
- 杉岡
- ステテコなんかで親しまれていたんですけれど、
この布をファッションアイテムにしたいと思ったとき、
山下さんたちからまず言われたのが、
高島ちぢみの特徴はすごくいいんだけど、
まず高島ちぢみって名前に閉塞感を感じると。
- 轟木
- 「和」という印象がつよいですね。
- 杉岡
- ファッションの世界でやっていくなら、
名前をまず変えて、素材も改良しましょう、
と提案いただいて。
ちぢみの特徴を
もっとブラッシュアップすることにしました。
- 杉岡
- 高島ちぢみのプレミアムゾーンというか、
そういう究極のところを追求して、
いろんなものを作りました。
- 山下
- いくつかの究極を作った中に
BIWACOTTONの原型があった。
- 轟木
- この生地感がいいですよね。
- 山下
- この素材の感じが。
- 杉岡
- クレープっていうのは、
織りは粗いんですが、撚りの力で縮みます。
縮んだことで、
その粗く織られた部分の空気も含まれて波打つ。
クレープって語源がもともとフランス語で、
薄いものって意味もあると思います。
薄くて波打つ、っていうのは
高島ちぢみの定義のようなもので。
- 轟木
- 同じだったわけですね。
- 杉岡
- その特徴はやっぱり活かしたほうがいい。
そういう古臭いって言われるような技術も
活かされているんですよね。
幅180cmで織った薄い布が
幅88cmに!
- 轟木
- すごく伸びますね。
- 杉岡
- ほんまに。
- 山下
- いや、もう、カットソーのニット生地みたいな。
仕上がった生地は横幅88cm。
綿100%の平織りなのに、ぐぐっと伸びる。
- 杉岡
- 平織りで、糸の縮みを最大限生かしてるんです。
- 山下
- 一般的には、縮んでる素材っていうのは
伸ばしたら伸びっぱなしになるはずなんです。
それを戻すために
通常はポリウレタンの糸を入れるんですよね、
ストレッチ素材っていうのは。
だけど、これ、ストレッチ性があるんだけども、
ポリウレタンは入れてないんですよ。
なぜ戻るんだっていう話なんです。
- 轟木
- 綿100%の織りで
こんなに伸びる素材、見たことがありません。
- 山下
- 糸を限界近くまで撚っていることと、
エンボス、つまり型押しをしているということです。
- 山下
- 平織りですが、
アコーディオン構造みたいになってるんです。
- 轟木
- 作るのがたいへん、なんですよね。
- 山下
- 糸って、撚れば撚るほど強くなるだろうって
思うものですが、
強くなるってことは、イコール堅くなるってことですよね。
堅くなると実はもろいんですよ。
- 轟木
- はい。
- 山下
- ガラスみたいなもので。
ガラスって硬いけど、落としたら割れるでしょう。
この糸は、もう極限まで堅くしてるから。
ちょっと負荷かけると、切れる可能性があるんですよ。
強撚の糸を使い、隙間を設けて生地を織る。
このあとエンボス(型押し)をすることで、
伸縮性があり、風通しがよく、肌に張りつきにくい
独特の特徴が生まれる。
- 轟木
- 織ってる幅と、仕上がりではずいぶん幅が違いますよね。
- 杉岡
- BIWACOTTONは、わりと広い幅で織って、
それを一番狭い、幅88センチで仕上げるんです。
- 轟木
- 織ったときの幅は何センチですか?
- 杉岡
- 70インチですから、180センチ近くはあるんですけども。
- 轟木
- わあ。
- 山下
- 180cmが88cmになる‥‥半分以下ですね。
- 杉岡
- 織り縮みっていうのが、もう織っている時点であります。
- 山下
- 縮みすぎる、って言われるんですよ。
いや、そこが味なんですけどねえ。
狙いなんですけどねえ。
- 轟木
- おもしろいですねえ。
鬼っ子が、いい子に。
- 山下
- これだけ伸びてこれだけ縮むもんですから、
断裁は1反1反、パターンを変えてやってます。
そして、じゃあ、縫おう! となってみたら、
これまた大変で。
- 轟木
- ニットを縫うようなこと?
- 山下
- いや、ニット以上ですね。
- 杉岡
- 以上ですねえ。
綿100%なのに、伸びて縮みます。
- 山下
- たとえば、洗いや染めの工程も手間がかかってます。
ふつう、製品って、染まってる生地を裁断して、
縫いっぱなしで市場に出ていくものが多いんですけど、
これは全部、縫ったあとで染めたり、洗ったりしてるんですよ。
製品染め・製品洗いっていうものですね。
なんでかっていうと、生地ができあがってきた状態で、
普通の生地より、縮んでる状態なんですけど、
実は製品で染めたり、洗ったりするとさらに縮むんですね。
- 轟木
- その縮みも考えたうえで縫ってるってことですか?
- 山下
- そうです。その縮率をちゃんと読んで、
しかも色ごとにまた縮率が違います。
だいたい、さらに10パーセント縮むんですね。製品で。
通常で考えたら、もうとんでもなく効率が悪い。
- 杉岡
- だから、あんまりみんなやりたがらないですよね。
- 山下
- 普通で考えたら、生産効率悪いね、
無理だよね、ってあきらめる素材ですよ。
ただ、やはりこの縮みがあってこそのこの風合いなんで。
まあ、とにかくやり続けようっていうことで。
- 杉岡
- 山下さんだから、その工程を思いつく。
- 山下
- 僕、もともとジーンズを作っているんですよ。
ジーパンの生地や製法も独特ですからねえ。
手間がかかることが苦にならない。
洗い工場も必ずセットになってますから、
個体差があったり、製品を洗うっていうことは、
ジーンズではあたりまえなんですね。
- 杉岡
- BIWACOTTONは、生産性っていう基準からすると、
鬼っ子ですね。
- 山下
- もう常識外です。
- 杉岡
- でも、織りにくいものに挑戦するっていうのは
機屋(はたや)としてはすごい面白い部分だと思いますね。
めぐり合わせも、ラッキーでした。
まず、山下さんにアパレルへの道を示してもらって。
轟木さんに入っていただいてほんまによかったなと思います。
- 轟木
- たいへんだけれど、ものづくりのたのしさがある!
BIWACOTTON、鬼っ子だったのに。
いい子に育ったんですね。