休符と珈琲。虎へび珈琲・タナカサトル✕糸井重里
休符と珈琲。
対談 タナカサトル ✕ 糸井重里
コラボレーションブレンド、
「Torahebi 1101 Blend」の完成と発売を記念して、
虎へび珈琲オーナー・タナカサトルさんと、
糸井重里の対談をお届けします。



お店にはよく訪れている糸井ですが、
サトルさんとゆっくり話すのは、この日がはじめて。
コーヒーの香りに包まれながらの会話は、
最後までたのしくころがりました。



新潟から上京してファッションの道に進み、
やがて「虎へび珈琲」をうみだすまで、
サトルさんの半生をたどる、全4回の物語です。






第4回

またお店に行きます!
写真
糸井
「虎へび珈琲」って、やっぱりいい名前です。
サトル
ありがとうございます。
その名前も、親戚が由来なんです。
「虎」はおじいちゃんの名前から
一文字をもらって。
「へび」は、おばあちゃんの干支なんです。
糸井
いいですねぇ、ご家族総出です(笑)。
ただ、そんなすてきな由来ですけど、
「虎へび」と並べてみると、
不思議な怖さも出てきます。
サトル
ええ。
糸井
「ラコステ」の
ワニのマークがあるじゃないですか。
サトル
はい。
糸井
ワニって、アメリカの人からすると、
グロテスクなシンボルなんですよね。
沼地にいるし。嫌なものなんです、きっと。
それをマークにしているというのは、
ちょっとした摩擦みたいなものが、
こう、人の心に響くんです。
それだから「ラコステ」のワニは
うまくいったんじゃないでしょうか。
推測ですけどね。
「ちょっと嫌」というのは印象に残るんですよ。
「Yahoo!」にしたって、たしかあれは
『ガリヴァー旅行記』に出てくる野獣でしょ? 
「虎へび珈琲」にもね、ちょっとその感じが。
サトル
そうですね。
糸井
怖いものだし、不気味なもので、
何するかわかんない。
そういうのは、いいと思います、今、とくに。
日本の、アジアの、
古典的な雰囲気も匂うし。
サトル
ぼく自身、
アメリカやヨーロッパの文化とか、
音楽もずっと聞いて育ってきたので、
そっちに憧れがあったんです。
でも世界中を回っているときに
憧れの街を歩いていて、
まあ、差別にあったりしまして。
そうするとやっぱり、
ぼくらはどう転んでも日本人なんだと気付いて。
写真
糸井
そうなんですよね。
サトル
日本に戻ってきてコーヒーを始めるとき、
横文字でかっこいい名前にしても
しょうがないなと思いました。
糸井
憧れていたことの、下についちゃうんですよね。
サトル
ええ、それを避けたくて。
じゃあもう、「虎へび」という
日本のタイトルでいこうと。
デザインにも日本の伝統を落とし込んで。
糸井
それが結局、いま外国の人にうけている。
外国のお客さん、多いですよね? 
サトル
多いです。
糸井
渋谷PARCOの、あの変な場所にたくさんの人が。
サトル
(笑)変な場所です。
館内じゃなくて、いったん外に出た、
階段の途中ですから。
写真
▲ 渋谷PARCO3階「虎へび珈琲」店舗。
糸井
あの変な場所は、いいですよね。
ひしめいている感じがなくて。
いちいち、運がいいんですよ。
サトル
あの場所は、運がよかったです。
はじめて路面店を出すといったら、
青山の骨董通りとかを考えると思うんです。
裏通りでもいいかな、とか。
糸井
ふつうはそうだと思います。
サトル
どうせ裏に行くんだったら、
パルコの裏がいいな、と。
糸井
そうか、あそこは裏か。
サトル
裏だけど「パルコにある」って言えば
説明しやすいなと思って。
たまたま空いたので、決めました。
糸井
いやあ、全体にやっぱり、運がいい。
サイコロで4を出したいときに、
ぴたっと4が出てくる。
サトル
(笑)
写真
糸井
あの場所から発信されて、
今は、個性的なコーヒーの人気が
まずは高まっている状況ですよね。
サトル
そうですね。
糸井
でもそこを入口に、
一歩入り込んでもっと知りたい人には、
「もともとはファッションなんです」
という話があって。
そこがまたおもしろい。
サトル
ありがとうございます。
それを糸井さんと話せたのがうれしいです。
糸井
だからといって、
「ファッション」とも限らないという。
サトル
そう、カテゴライズの話ではなくて。
糸井
うちは、分類だと小売業なんですよ。
サトル
あ、そうなんですか。
糸井
虎へびさんも、もしかしたら
うちと近いのかもしれないですね。
ブレンドを売っている小売業ではあるけど、
実は、それだけではないという。
サトル
ええ。
糸井
「まずは個性的なコーヒーで」
という流れはすごくいいと思いますよ。
香料を使わないで、
この香りっていうのはすごいですから。



(今井惇人さんに)香りをつくるのは、
科学的な分析からはじまるんですか? 
今井
そうですね、分析をして、
コーヒー豆の焙煎やブレンドだけで、
イメージの香りに近づけています。
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サトル
ブレンドでいこう、というのは
はじめから決めていたんです。
最近はブレンドではなく、
シングルオリジンのコーヒーが流行なんですが。
※〈シングルオリジン〉

農場、生産者、品種、精製方法などが
すべて同じ、一銘柄のコーヒー豆。
糸井
シングルオリジンね。
サトル
それはそれとしておいしいと思います。
ただ、「ベリーの味がします」
という説明をされて、飲んでみると、
そういう感じもするけれど‥‥。
糸井
言われてみれば、みたいな。
サトル
ワインの世界に近いような。
わかる人はわかる、というか、
わかるのがすごい、というような、
そういう風習がちょっと‥‥。
糸井
居心地が。
サトル
そうですね。
あと、同じシングルオリジンが、
別なお店で扱われていたりもして。
そうなると、
お店のオリジナリティってなんだろう、と。
糸井
ああ。
サトル
ぼくはどちらかというと、
ゼロからイチをつくっていくほうが好きだし、
そのクリエイティブの力を信じています。
やっぱり自分のセンターには、
「情緒」というものが大きくあるんです。
感動させたいという動機がすごくある。
それは自分が音楽から受けたこととか、
ファッションで感じたこととか、
初期衝動的な、あの感じ‥‥。
あの衝撃みたいなものを、
この2020年代に持ってこない限り、
やる意味はないんじゃないかと思っています。
写真
糸井
その発想は、
今の時代にはあまりないものですよね。
サトル
そうなのかもしれません。
糸井
つまり、
焙煎士の甥っ子は
ものすごく、超、今なことをやっていて、
社長はものすごく、今っぽくない
「情緒」なことをやっている。
サトル
ああ、ほんとですね(笑)。
糸井
その組み合わせが、すごくおもしろいです。
サトル
ほかにない組み合わせだとは思います(笑)。 
糸井
いやぁ、おもしろいなぁ‥‥。



ぼくは、あと何年、一所懸命に
仕事できるかわかんないんですけど、
こんなふうにおもしろい人たちって、
やっぱりまだまだいるんですよね。
サトル
そう言っていただけると。
糸井
日本にも、世界にもきっと。
でも、なかなか出会えないんですよ。
それをなんとかできないものかと‥‥。
広い場所があればいいなと思ってるんです。
写真
サトル
広い場所ですか。
糸井
イメージなんですけどね。
「とりあえず来てみて」って、
おもしろい人たちを広い場所に集めたら、
もう、そういう人たちを置いただけで、
きっとものすごい渦巻きができますよね。
サトル
すごいことになりそうです。
糸井
みたいなことを、
今はすごいやりたくなってるんです。
どうすればいいかわかんないだけど(笑)。
サトル
でも、そのスピリッツが
かっこいいなと思います、ぼくは。
糸井
じゃあ、そういう場所ができたら
ほんとに来てください(笑)。
サトル
ぜひ、ぜひ。
糸井
いや、ほんと、きょうはおもしろかったです。
サトル
こちらこそです。
コラボブレンド、よろしくお願いします。
糸井
そうだ、そもそもそれだった(笑)。
このブレンドで、
互いに新しい出会いがあるといいですよね。
サトル
はい。
糸井
じゃあ、また、声掛けあって。
サトル
今度は、青山で見つけたら、お声かけます。
糸井
(笑)またお店に行きます!
写真
2024-10-12-SAT
(タナカサトルさんと糸井重里の対談、終わります)







虎へび珈琲 ほぼ日支店
2024 10.11FRI - 11/4MON

「BLUE GIANT展」会場内のJAZZ喫茶にて
虎へび✕ほぼ日コラボブレンドを
体験価格500円でご提供。
渋谷PARCO 8F ほぼ日曜日