やさしいタオル、ふたりの作家。 INTERVIEW 2 牡丹靖佳 ~ウォールペーパー~

2021年春夏の「やさしいタオル」は、
2か月連続で新作をおとどけします。
その第1弾が「ふたりの作家」シリーズ。
香川に住む画家の山口一郎さんと、
京都にあたらしく拠点をかまえた
現代美術作家の牡丹靖佳さんに絵を依頼、
それぞれの世界をタオルにしました。
花を一輪、それも根っこのついた状態で
大胆に描いた山口さん、
ある屋敷を舞台にした絵本とリンクする、
まるで謎解きみたいな図案の牡丹さん。
ふたりへのロングインタビューをお届けします。


牡丹靖佳さんのプロフィール

牡丹靖佳
ぼたん・やすよし

現代美術作家。1971年大阪・梅田生まれ。
1997年、School of Visual Arts, New Yorkを卒業し、
2000年に帰国。
第4回セゾンアートプログラム 美術家助成受賞。
財団法人野村国際文化財団 芸術文化助成受賞。
ポロック・クラズナー財団 助成受賞。
絵画を中心に作品を発表するほか、国内外の
アーティスト・イン・レジデンスにも参加、
現在は東京と京都に二拠点のアトリエを構える。
平面から立体まで多彩な技法の作品を展開。
絵本、書籍の挿画などの分野でも活躍中。
2012年に発売した絵本『おうさまのおひっこし』は
第24回ブラティスラヴァ世界絵本原画展で
日本代表に選ばれる。
2人組のアート・ユニット「ポー・ワング」としても活動。
アグ(犬)と裁縫と路上のガラクタを愛する。

2021年5月11日(火)から始まる
グループ展『闇をまなざし、光にふれる。』に参加。
https://www.artcourtgallery.com/exhibitions/14389/
https://www.artcourtgallery.com/artists/botan/


世界のあちこちに住みながら。

──
牡丹さん、こんにちは。
ユニットの「ポー・ワング」としての活動もふくめ、
「ほぼ日」とのおつきあいは長いのに、
こんなふうにご一緒する機会が少なかったので、
とても嬉しいです。
このタオルの企画を始めたときは、
牡丹さんが東京にあたらしいアトリエを構えたところで、
じゃあ完成したころに取材に行きますね、
なんて言っていたら、京都に引っ越されて。
牡丹
町家(荒川区)の元工場の建物を借りて
アトリエをつくったところだったんですが、
そこはそのままにしつつ、
京都にも場所を借りて、
二拠点での活動をはじめたんです。
──
これまでも、まめに居場所をかえていますね。
大阪で育ち、ニューヨークで学び、
日本に戻ってきてからは東京をベースに
何度か引っ越しをなさって。
その間に、
外国に滞在して作品をつくる、ということも。
牡丹
「アーティスト・イン・レジデンス」といって、
3ヶ月くらいずつ滞在し、
創作しながら地元にも貢献する、
というプログラムがあるんです。
そういうものに応募して、
いろんな場所に滞在してきました。
外国ですとスウェーデン、スコットランド、
オランダのアムステルダムとロッテルダム、
日本でも、四国の神山(徳島県)、
八戸(青森県)、山田町(岩手県)など。
──
ひとところに留まらないのは、
創作活動のための理由があるんですか。
牡丹
ひとつのところに留まっていることは、
すごく快適なんですよ。
でも、快適ゆえに、頭が固くなってくる。
固定観念にしばられる。
知らず知らずのうちに、
常識の壁みたいなのができてくるんです。
社会って、お互いが理解している暗黙のルールが
ベースにありますよね。
でも、そのルールって、実は、
土地によって全然違ったりします。
東北の人と関西の人では「当たり前」が違う。
ひとつの場所に住んでいると、
そこのルールに自分も合わせてしまいますから、
時々そうやって違う場所に行くんです。
旅なら、異邦人として
自分のルールを押し付けることもできるし、
その旅が終わるまで暫定的に受け入れて、
いっそ楽しじゃおうと乗り切ったりできますが、
住むことによって、ある程度の責任を負います。
ルールを受け入れないとだめだから。
それを繰り返していくことで、
自分の中の頭の壁が作られるのを防いでいるんです。
──
では、家財道具は身軽に。
牡丹
はい。基本的には
トランク一個で移動できるようにしています。
創作に必要なものについては、
その土地で手に入るもので、
っていうことが多いですね。
──
きっと「ならでは」のものができるのでしょうね。
逆に言えば、行ったところでなければ
できなかった、ということも?
牡丹
作家にはいろんなタイプがいると思うんですけど、
僕は、現地に行って自分が感じたことを大事にしています。
そこの人達にとっての当たり前が、
別の目で見ると異質に映ることも刺激になるし、
「うちらの村、なんにも無いよ、面白いものなんて」
って言うけれども、僕からしてみたら
「めっちゃ面白いものいっぱいあるやんかー!」
いつもそういう第三の目でその土地を見つめつつ、
でもその社会の中にちゃんと入って、
中から作品をつくるっていうことを大事にしてます。
なので、材料も外から持ち込まないんです。
いらないものを使わせてもらったり。
──
牡丹さんの作品は、素材もいろいろで、
平面だけじゃなく、立体もありますね。
牡丹
アーティスト・イン・レジデンスでつくるものは、
立体が多かったりもしますよ。
例えば四国に滞在していたときは、
いらない段ボールで
動くおもちゃを作ったりもしました。
村の人達のいらなくなった家電を集め、
扇風機を6台ぐらい繋いで
メリーゴーラウンドを作ったり。
──
完成したアートは置いてくるんでしょうか。
牡丹
置いていってもいいよ、
って言ってくれるところはそうしてます。
スコットランドにいたときは、
地元の小学校の子ども達とワークショップをして、
風の力で走るバイキング船を作ったんですが、
それは、子ども達にプレゼントしました。
彼らはそれに名前をつけて、
あとで絵を描いて僕に送ってくれました。
そんな交流がうまれたりしています。

西陣織の空き工場で。

──
そしていまはここ、
もと西陣織の工場を見つけて、
京都にも拠点をつくりましたが、
どうして京都に?
牡丹
いろいろ理由があるんですけど。
ひとつは、僕の実家が大阪で、
その縁もあって
大阪のギャラリーにお世話になっているので、
関西に拠点があると作業がしやすいこと。
いままで、東京で作ったものを
関西に持ってくることが多かったんですけど、
僕の絵は大きいので、運ぶのが大変でした。
長さ4メートルとか‥‥。
──
うわ、それは大変ですね!
牡丹
はい。横開きの大型トラックを
手配しないといけないので、
近い方がいいんです。
──
ご実家のある大阪を
拠点にすることは考えなかったんでしょうか。
牡丹
育った大阪にいると、
僕がすごく安心してしまい、
緊張感が足りなくなるんです。
新大阪に着いた瞬間にリラックスして、
もう、溶けてしまうほどです。
でも、少し離れた京都っていいなと。
京都は、イメージでは知っていても、
京都の人がどういう文化を持って、
どういう暮らしをしているのか、
大阪で育っていても知らないんです。
──
京都にいることは、
アーティスト・イン・レジデンスで
海外に住む感覚に近いのかもしれないですね。
牡丹さんのアート・ユニットである
「ポー・ワング」は二人組で、
並行して活動を続けておられますが、
二人の意見は一致したんですか。
牡丹
実は、京都に行きたいって言いだしたのは
彼女(ポー・ワングのもうひとり)なんです。
彼女は東京生まれの東京育ちだから、
普通に関東人が抱く「京都って素敵」という
ふわふわしたイメージがあったんだそうです。
それで京都には興味があったけれど、
これまでは行っても日帰り。
関西は僕の実家のある大阪を
拠点にすることが多いから、宿泊してのんびり、
なんていうことはありませんでした。
それで「もうちょっとディープな京都を知りたい」
「いつかは住んでみたい」が、
「いま住んじゃおうか?!」になりました。
しかも完全に引っ越すのではなく、
東京のアトリエも維持しながら
二拠点で暮らしてみようと。
ちょうど犬と暮らしはじめたところで、
海外にも行きづらいから、
ぼくも「いいんじゃない?」と言いました。
全然考えてなかった、思ってもみなかったから、
逆に京都に住んでみるって面白いかもって。
ぼくにとっては人生って、
計画をしてることを
順番にしていくのは楽しくない。
思いついたら面白そうな方に進むのが
アリだなって思うんです。いつも。
そして、探し出したら、
すぐ、この物件が見つかりました。


愛犬、グリフォンの「アグ」、本名「アクビレンコフ」。
オランダにいたとき、アーティストの友人の愛犬に一目ぼれ、
日本で出会って一緒に住むことに。
子犬のときアクビをよくしていたのと、
この子のおじいちゃんがロシア出身ということで
ロシアっぽい名前にしようと考えたそう。

絵本とタオル。

──
今回のタオルは、
牡丹さんの新作絵本
『めいわくなボール』と
リンクしていますね。
牡丹
はい。タオルと絵本は、
ちょうど、同じ時期にお話をいただいたんです。
なので、どっちが先ということはなく、
頭のなかから、ひとつが絵本、
もうひとつがタオルというかたちに
なっていったということです。
舞台は僕の中にある「お屋敷」、
古い建物のイメージです。
──
その「お屋敷」のイメージって、
最初からはっきりと
「絵」になっているものなんですか。
牡丹
いえ、最初のイメージは、
話も色もついていない、
ほんとに雲のようなものなんです。
最初は、なんて言うのか、煙みたいなもので、
見えるものというよりも、
においに近い感じです。
そういうものが上からひゅーって降りてくる。
その、ぼやーんとしてる中に、
あ、これ面白いかも? 誰かに伝えたいな、
っていうものが混じります。
それを伝えるときに、
どういうふうに説明したらわかりやすいかなあ、
と考えてくうちに、
だんだん絵や物語の形になっていくんです。
──
それをどうやって捕まえるんですか。
絵にするのに。
牡丹
「翻訳する感じ」が近いです。
──
その煙やにおいのようなものを、
牡丹さんが絵に落とし込んでいく過程で、
絵本とタオル、同時に着想が?
牡丹
はい。絵本は、
最初のページから順番に見ていくという性質上、
時間の流れ、ストーリーがあります。
その動きのリズムっていうのが、
ボールが木の階段を
トントントントンと落ちていくような、
もしくは上っていくような流れでした。
絵本はその階段を上るシーンが
翻訳の糸口となって進んでいきました。
その建物には、すごく古い壁紙が
たくさん貼ってあって、
その壁紙とタオルがリンクしました。
壁紙をタオルに生かした、
ということではなく、
このタオル自体が壁紙なんですよ。
‥‥って、言葉で言うと、
ちょっとずれる気がするんですが、
たとえばバスタオルで洗った髪を拭くとき、
すっぽりかぶるような動作になりますよね。
そのときの「包まれている感覚」が、
「お屋敷の中に入り込んでいく」という
イメージに近いんです。
タオルを使うことで、ぼくの考えたお屋敷に
遊びに来てくださるような感じになると
いいなぁと思って考えました。
だからタオルは、
みなさんに使ってもらうことで
作品として成立するんです。
──
絵本とタオルを比べると、
相似点が見つかりますね。
ハンドタオルは2階の、
パパの書斎の裏手の廊下の壁だし、
コウモリがいるハンドよこながは、
1階の階段の横の壁ですね。
牡丹
はい、キッチンの裏側ぐらいかな。
そして狐がいるのがフェイスタオルで、
子供部屋の壁です。
一番大きいバスタオルは、
リビングルームの、
絵本では額がたくさん掛けてある部屋の壁です。
──
絵本とは、ちょっと色が違いますね。
牡丹
はい、同じ柄なんですけど、色を変えています。
絵本の中では赤っぽい色の方が合うと思い、
タオルの場合は青、緑、紫っぽい感じの方が
イメージに近いなと思って。
──
なるほど。イメージを翻訳する過程で
絵本とタオルで色が2つに分かれたんですね。
それぞれに名前はあるんですか。
牡丹
「僕の部屋/kidsroom」(フェイス)
「絵のある部屋/livingroom」(バス)
「階段の横/steps」(ハンドよこなが)
「二階の廊下/passageway」(ハンド)
っていうことになりますね。
──
このパパ、絵本に出てくる書斎は、
博覧強記というか、
ちょっと怖い感じのインテリアなんですけれど、
どんな人なんだろう‥‥。
牡丹
パパは、インディ・ジョーンズの、
体力が伴わないような感じの人です。
知識とか興味がすごくあるけど、
自分で探しには行かないタイプ。
──
座学の冒険家? 
“インドア・ジョーンズ”ですね。
牡丹
まさに(笑)。
ちなみにお母さんはキッチンで
鍋の蓋を持っている人です。
──
なるほど。
牡丹さんの絵本にはストーリーがありますが、
最後まで謎めいたままなのが楽しいです。
この家をめちゃくちゃにする
「ボール」がいったい何なのか、
それを読み解くこととか、
その解釈を読む人に任せていますね。
牡丹
そうですね。ぼくは国語や美術のテストで
「作者は何を考えていたのか」
という答えは出せないタイプです。
絵本もタオルも意味を伝えるものではないんですよ。
──
なるほど。ありがとうございました。
ところで、牡丹さんの原画を中心にした
インスタレーションを
京都と東京のTOBICHIで開くことになりました。
そちらもたのしみにしています。
牡丹
はい、たのしい空間にしたいです。
こちらこそありがとうございました。

牡丹靖佳さんのやさしいタオル「ウォールペーパー」は4月27日(火)午前11時 販売スタートです。


KYOTO ⇄ TOKYO 山口一郎~花に水~ 牡丹靖佳~ウォールペーパー~ やさしいタオルと原画、その他の作品

【2021年9月30日(木) 追記】

TOBICHI東京とTOBICHI京都で展覧会を開きます。
期間は2021年10月1日(金)から10月20日(水)まで。
途中、東京と京都を、まるっと展示替えしますよ!

山口一郎「花に水」

やさしいタオル「花に水」の原画はもちろん、
四国にあるアトリエで描かれた花の絵を
たくさん展示します。
山口さんによるライブペインティングを行ない、
その作品を期間中展示します。

TOBICHI東京2021年10月1日(金)〜10日(日)

TOBICHI京都2021年10月13日(水)〜20日(日)

牡丹靖佳「ウォールペーパー」

原画の展示と、タオル・絵本・オリジナルグッズの販売、
絵本の世界が体感できるインスタレーション、
新作の「立体作品」の展示と販売を行ないます。

TOBICHI京都2021年10月1日(金)〜10日(日)

TOBICHI東京2021年10月13日(水)〜20日(日)


2021-04-23-FRI

タオル撮影:有賀 傑