伊藤まさこさんの「白いお店。」

彫金作家の
竹俣勇壱さんといっしょに
「白いアクセサリー」を
つくりました。
【その1】白いピアスと、ネックレスと、リング。
伊藤
じつは私、これだけつきあいが長いのに、
竹俣さんのことを
「アクセサリーをつくる人」だと
思ってこなかったところがあるんです。
カトラリーだとか、暮らしのまわりの道具を
とても美しくつくられるかただな‥‥、と。
だから初めてお店に行ったとき、
「僕、本職は、これなんですよ」と、
アクセサリーを見せてくださったのに驚きました。
竹俣
そうだったんですね(笑)。
伊藤
でも私、アクセサリーをあんまり着けないものだから、
そのときも、「そっか」と思ったきりで。
そうしたらその後、共通の知りあいである
金沢の大きな酒屋さんのステキな女性のかたが
とってもかわいい赤のアクセサリーをつけていて、
気になって訊いてみたら、
それが竹俣さんの作品だったんです。
それで、私も色違いのネイビーを買いました。
それが、初めての、竹俣さんのアクセサリーです。
それを着けていると
「かわいいアクセサリーですね」と
褒めてくださるかたが多いんです。
「どなたの作品ですか」って興味を持たれたりして。
それで、これを「白」で作ったら、
より肌に馴染むし、
いいんじゃないかな、と思いました。
それが今回のきっかけです。
竹俣
最初はピアスでしたね。
伊藤
そう、それも、竹俣さんがつくられていたのは
ちょっと揺れる、引っ掛けるタイプだったのを、
くっつくタイプも欲しいなとリクエストして。
着けてる感じがしないほどかろやかで、
さりげなくて、とてもかわいいんです。
竹俣
そして、リングと、ネックレス。
伊藤
おそろいで着けても、単品でもかわいいですよね。
石は、ムーンストーン(月長石)ですよね。
竹俣
はい。やわらかい感じの色がいいなと思って。
インドやスリランカ、
またオーストラリアでも採掘される石です。
伊藤
金属部分は、シルバー案もあったんですが‥‥。
竹俣
白い石に、マットな仕上げだと、
変色しやすいシルバーは合わないなと思ったんです。
金沢に住んでいて、すぐにクリーニングに
うちに持って来られる人はいいけれど、
みなさんがそうじゃないですものね。
そこで「10金」を使いました。
金は、9金から24金まであるんですが、
10金というのは「24分の10」が金だということです。
残りは銅と銀が入っています。
僕は、この10金の色って、
クラシックな感じがして、
いやらしい金の色じゃないところが好きなんです。
伊藤
確かに、ギラッとはしていないですよね。
竹俣
でもみんな、あんまり使ってないんですよね。
伊藤
ということは、汚れはそんなに気にならない?
竹俣
そもそもあまり汚れないんです。
経年変化をするものでもないので、
ジュエリークロスで磨く必要もないです。
日常使いのできるアクセサリー素材です。
伊藤
水にも強いですよね。
竹俣
はい。お風呂も平気です。
ただ、強めの酸やアルカリには弱いので、
例えば美容師さんで、パーマ液とか
ああいうものをすごく使う人が、
着けっぱなしにしてると変色するときもあります。
そのくらいです。
伊藤
このデザイン、シンプルさがとってもいいと思うんです。
シンプルなんだけれど、じつはとても技巧的に
完成されたものだという印象があって。
そもそもこの形をつくり始めようって思ったのは──?
竹俣
とことん、シンプルでしょう?
僕のデザインするもの全般に言えるんですが、
技術的には石のセッティングを練習するとき、
このシンプルな形は、必ず習得するものなんです。
けれども、石のボリューム感や金属の厚み、
そういうことだけを変えるだけで
うんと良くなるんじゃないかなと僕は思うんです。
ナイフやフォークなどのカトラリーは
やっぱり「道具」なので、
多少機能的なことって出てくると思うんですけど、
ジュエリーの機能って「見た目」ですから、
そこをすごく気にして作りたいなと思っています。
僕らがよく間違うのは、
「誰もこんなやり方してないんじゃないか」とか
「見たことない物にしよう」とか考えて、
肝心の見た目の良さを見失うんです。
伊藤
はい。
竹俣
いま日本で、こういうファッションジュエリーが
流行り始めてから
40年から50年ほど経ってるんですけど、
もう、ありとあらゆる角度から
デザインされているんですよ。
伊藤
デザインし尽くされている。
竹俣
キャラクター物から、動物の模写までね。
でも、構造がシンプルなものだけは、
誰も本気でやっていないんです。
伊藤
「仕事をしていないって思われちゃう」
ということなのかな?
でも、そんなことないですよね、
ほんとうに欲しいのって、それですもの。
竹俣
このデザインも、多分僕らの業界の人だったら、
「こんなの誰でもできるよ!」って
100%、言うと思うんです。
でも、その人が、
このデザインの物を作ろうと思っても、
こうはならない。
そのくらいの自信はあります。
伊藤
ちょっとしたバランスが
すごくものをいうデザインですよね。
石が大きいのに、野暮ったくないですし、
なんだかかわいらしい。
竹俣さんは男性だけれど、
デザインするときは、
これを着ける女性を想像して?
竹俣
うーん? 当たり前のようにやっているので‥‥。
デザインする“物”に集中していて、
「誰に似合うか」じゃなくて、
「これに似合う人が、いたらいいな」ということです。
出会ってくれる人がいるはずだと。
伊藤
ステキな作品をありがとうございます。
おおぜいのかたが喜んでくださるといいなって思います。

▲家具はほとんどが拾った物と貰った物で構成しているという、
竹俣さんのギャラリー「sayuu」。
「金沢って、町屋を直すときに、いらないものを『タダで持ってっていいよ』と、
分けてくれるんです」
(つづきます)
2016-08-08-MON
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
スタイリング:伊藤まさこ 撮影:有賀傑 ヘアメイク:廣瀬瑠美 モデル:満島みなみ