「そろそろ いいもの。
やまほん ほぼ日支店」の最初のアイテムは
「宝瓶」(ほうひん)です。
宝瓶とは、持ち手のない急須のこと。
玉露や上質な煎茶などのいい茶葉を
低温(ときには水)で淹れるための道具です。
買ってきたお茶を飲むことも、
ティーバッグのお茶をマグカップで淹れることも、
すっかりわたしたちの暮らしに溶け込んでいるけれど、
たまにはゆっくり「お茶を淹れる」ことを、
自分の時間としてたのしんでみたい──。
そんな思いでいた「ほぼ日」が、
ギャラリーやまほんのたくさんの定番商品のなかから
この「宝瓶」を見つけました。
宝瓶と、それに合わせるお茶の道具をプロデュースした
山本忠臣さんに、たずねました。
宝瓶のこと、そして宝瓶を使ってお茶をたのしむこと、
そのゆたかさについてのお話です。
スマホを置いて
お茶を丁寧に淹れることは、
時間を味わうこと。
ぼくは、お茶を通じて、
誰かと時間を共有してもらいたい、
という気持ちがすごくあるんです。
誰かにお茶を出すとき、普通は、
台所で淹れて、茶器を運んで
「どうぞ」ですよね。
けれども今回紹介する「宝瓶」は、
誰かの目の前で一緒にお茶を淹れる道具です。
自分もそうなんですけれど、
ぼくら、何かにつけてついスマホを見てしまうクセ、
というのがありますよね。
誰かと一緒にテーブルを囲んでいても、
それぞれがスマホを見ていることもある。
そうすると、同じ時間が共有できなくなります。
だから誰かにお茶を淹れて、出してあげるとき、
ゲストもその動作を見ているっていうのが
とても大事だと思っているんです。
これは「ひとり」のときも同じです。
スマホを持ってペットボトルのお茶を飲むのではなく、
宝瓶を使って、お茶の時間を大事なものとして、
ちょっと変えてみたら? って。
宝瓶って何
宝瓶は、低めの温度のお湯で
上質な煎茶を淹れるための茶道具です。
熱いお湯を使わないので、持ち手がついていません。
茶葉を入れ、さましたお湯を注ぎ、しばらく待ち、
茶葉がひらいたら蓋をおさえ、
注ぎ口から湯のみに注ぎます。
茶漉しはついていませんが、
ちゃんと開くようないい茶葉を使えば、
茶殻が湯のみに入ることは防げます。
時間はかかります。
はやりことばでいうと
「タイパ」の逆にある行為ですね。
でも、こういうことって大事なんじゃないのかなって、
ぼくは、ちょっとだけ、言いたいなあって思います。
この宝瓶に行き着く前に、
中国茶に夢中になった時期があるんですよ。
中国茶って、それこそ、お客さまの前で淹れる。
飲む用の茶杯とは別に、香りをきく(かぐ)ための
「聞香盃」(もんこうはい)があって、
時間をかけて丁寧に淹れて、お茶の時間を楽しみます。
その世界はたいへん豊かで深いものです。
けれども中国茶の習慣をぼくらの日常に取り入れるには、
それはちょっと難しい。
道具も、茶壺(急須)、匙、お湯を入れる茶海、
茶盤、茶杯に聞香盃‥‥たくさん必要です。
趣味として行なうのはいいのですが、
ふだんの暮らしに取り入れたいなと思い、
それにいちばん近い時間の感覚が、
宝瓶を使って煎茶を淹れることでした。
これなら友だちを招いた時に淹れてあげられるし、
「何をしているんだろう」という場がうまれる。
おいしいお茶を飲みたい、ということとともに、
淹れることそのものが楽しいんです。
芸術家の横尾忠則さんが
こんなことをおっしゃっているんですよ、
「感性は、言葉や観念でなく、
からだを通した体験からしか生まれない。」(*)と。
そのとおりですよね。
(*)『ルビンのツボ──芸術する体と心』
齋藤亜矢著/岩波書店 より
宝瓶の使い方
宝瓶を使うのがはじめてのかたでも、
決して難しくありません。
ポイントは「ぬるめの湯温で、
ゆっくり淹れる」ことです。
また、一緒に飲む人がいるときは一緒に、
ひとりのときも、台所ではなく、
食卓や、リビングのテーブルに運んで淹れて、
お茶の時間を楽しんでいただけたらと思います。
今回販売をするアイテムは10個。
宝瓶の大と小、
煎茶器のS、M、L、
筒型茶杯の大と小、茶托。
ここまでが宝瓶まわりのアイテムですが、
今回は急須、マグカップ、
そばちょくも用意しました。
急須はもっと熱々の
ほうじ茶、紅茶、中国茶を淹れるときに、
マグカップとそばちょくは
大きめの茶杯としても使えるアイテムです。
暮らしのスタイルに合わせて
選んでいただけたらと思います。
すべてぼくが設計した磁器で、
信楽の製陶所で作っています。
まず、沸騰した湯をさましておきます。
茶葉にもよりますが、玉露なら50℃、
いい煎茶なら70℃といったところでしょう。
宝瓶に茶葉を入れ、さました湯をそそぎます。
蓋をして、しばらく待ち、
茶葉がじゅうぶん開いたのを確認したら、
蓋をおさえて、茶杯にそそぎます。
両手でもいいですし、
利き手だけで持っても大丈夫。
煎茶器や茶杯に注ぐときは、
最後の1滴まで注ぎ切ります。
香り、味がなくなるまで、
何煎か楽しめます。
2023-06-20-TUE