「江戸桜」の名は、33年前に。
ほぼ日のために仕込んでもらう
オリジナルのお酒「江戸桜」は、
3社のコラボレーションで実現しました。
酒米の入手と商標はお酒を商う日本酒類販売さん、
お酒づくりを東京港醸造の寺澤さん、
お酒のコンセプトをほぼ日が担当しました。
まずは「江戸桜」という名前の由来を
皆さんに知ってもらいたいので、
その話からお願いします。
「江戸桜」という名前はいまから33年前の
1989年に商標登録をしています。
江戸桜ということばは、
染井吉野(ソメイヨシノ)という桜の別名でもあります。
江戸時代は華やかなもの、美しいものを
江戸桜と例えたともいわれています。
江戸桜が染井吉野の別名ということは、
日本中に江戸桜があって、
春を彩っているということですね。
全国で咲くので、皆さんにとって身近な桜だと思います。
そうした意味をもつ「江戸桜」という名前ですが、
色々な経緯を経て、今はこの名前が使われていない状況です。
そんななか、「ほぼ日酒店 YOI(よい)」は、
都心の酒蔵、東京港醸造さんとの出会いがありました。
ほぼ日だけのオリジナルのお酒を仕込みたいということで
相談することから始めたわけです。
開発コンセプトは
「出会いと別れがある桜の時期。
うれしさもかなしさもあるこの時に
乾杯したくなるお酒」というものです。
桜が彩る3月、4月は
別れもあれば出会いもある季節です。
長いコロナ禍によって、皆さんそれぞれに、
人とのつながりの大切さを感じていると思います。
同時に外出制限や時短営業などのコロナ対策によって、
お酒の消費量は減ってしまい、
酒米を栽培する農家さんが厳しい状況にあります。
いい酒米があるのに、もったいないということで、
茨木さんが勤める日本酒類販売さんが、
良質な酒米を見つけてきてくださった。
それが「愛山」という酒米です。
栽培が難しいので多くは収穫できないのですが、
品のよい甘みと旨みをもっています。
その愛山を、東京港醸造の寺澤さんの技術で、
ほぼ日さんのコンセプトに合うお酒にしてもらう。
愛山ならではの華やかなお酒ができると確信しました。
ぜひとも「江戸桜」という商標を
使ってもらいたいと思いました。
家康ゆかりの地から。
「愛山」という酒米について教えてください。
「愛山」は近年人気上昇中の酒米で、
産地は兵庫県の丹波篠山市(ささやまし)の盆地です。
栽培しているのは、非常に真面目な農家さんで、
いろいろなつてをたどって、
今回の「江戸桜」を仕込むぶんだけ、
わけていただくことができました。
篠山盆地は、酒米の有名な産地なんですか。
丹波の篠山盆地は霧の発生が多いんですね。
それは気温の寒暖の差が激しいことを意味していて、
おいしいお米ができるんですよ。
レベルの高い酒米がとれる地域です。
酒米の栽培に合っている気候風土なんですね。
ちなみに、
丹波篠山市の篠山城(ささやまじょう)は
江戸時代の1609年に、徳川家康が
築城を命じた城で、桜の名所です。
江戸桜の酒米の産地として縁を感じます。
篠山盆地は杜氏の寺澤さんもよくご存じです。
私は京都の綾部市という山間部の出身で、
篠山盆地はわりと近くなので気候や風土はわかります。
京都伏見の大手酒造メーカーで働いていたときには、
兵庫県の酒米でもお酒をつくっていました。
愛山はどんな特長があるんですか?
山田錦と同じ系統にある子孫で、
戦後の1949年に認定された新しい品種が「愛山」です。
酒造好適米の遺伝子をもっていて芳醇な甘みがあります。
山田錦は全国に栽培地がありますが、
「愛山」は栽培が難しいので、
山田錦に比べて生産量がとても少ない貴重な酒米です。
栽培が難しいとは?
「愛山」は普通のお米より背が高くなるので、
台風などの強風で倒れてしまうリスクが高いんですよ。
独特の成長過程を把握してうまく育てるためには、
肥料を施すタイミングなども難しいので、
結果的に生産量が少なくなっています。
今回入手した特等の「愛山」は、
正直言ってむちゃくちゃよかった。
まん丸で、ふっくらしてて、
いい酒米だということが見てもらったらわかりますよ。
ほんとうに、丸々としていて、かわいらしい!
中心が白っぽくて、周りは半透明ですね。
愛山は心白(しんぱく)が大きいんです。
心白とは酒米の中心の白く見える部分のことです。
普段食べているお米とは違いますね。
食用米には心白はほとんどないです。
心白にはデンプンが多く含まれています。
周りの半透明な部分には、
タンパク質や脂質があってお酒の雑味になります。
なので、精米して心白を削り出して
お酒づくりに使うわけです。
心白はすき間が多いので、麹菌がよく入って、
いい麹をつくりやすいです。
どんなお酒になりそうですか。
愛山は、とろりとした上品な甘みと旨みが出ます。
さわやかな飲みやすさで、
ほどよく余韻が残る感じの酒質です。
食事にもよく合うので、女性に人気がありますね。
楽しみです~!
取材・文:金澤一嘉