仕込み水は水道水!?
京都の大手酒造会社が2000年から10年間、
東京のお台場に出店した酒蔵で日本酒をつくっていた時、
使っていたのは京都の伏見から運んだ水です。
そして、お台場の酒蔵を閉じることが決まったころ
東京で地産地消のお酒をつくるとしたら?
と考えはじめて、まずぶつかったのが
「水をどうしたらよいのか」という問題でした。
地産地消となればやっぱり東京の水を使うべきです。
でも港区では地下水を飲用にはできません。
そこで、「灯台下暗し、かもしれない」と思い、
都心の水道水を研究所に送って検査してみました。
すると、意外なことに
「酒造適性が高い」という結果が出たんです。
都心の水道水は、高度浄水処理という
最新の技術でつくられています。
2013年に東京都23区の水道水は
すべて高度浄水処理された水になりました。
高度浄水処理というのは、
通常の浄水処理にプラスして、オゾンの酸化力と、
生物活性炭による吸着機能を活用した浄水処理方法です。
従来の浄水技術ではとりきれなかった
におい物質をとりのぞいて、くせがない水にします。
これは、日本の技術として海外に輸出されているほどです。
水道水を醸造に使っているというと、
皆さんからよく質問されるのは
「水道水ってカルキ臭がするんじゃないですか?」
ということです。
でも、それ、誤解なんですよ。
まず、第一に、
東京都の水道水はすごくおいしくなっています。
昔はしていたカルキ臭は、
いま、ほとんどしなくなっていて、
かび臭などもゼロ。
それでも水道水にはごく微量の塩素が含まれますが、
そもそも、匂いとして感じるほどではなく、
また、塩素って有機物で分解をするんですね。
お酒をつくるときってお米とか麹といった有機物を
ど~んと入れるので、発酵の過程で塩素はなくなり、
お酒の香味に影響することはまずないんですよ。
しかも、東京の水道水には、お酒の味や色を損なう
鉄やマンガンがゼロに等しいこともプラス材料です。
2017年、東京国税局の酒類鑑評会で、
うちのお酒が優等賞をいただきました。
東京の水道水が高い品質であるということです。
水の硬度は中硬水
日本酒の世界に
「伏見の女酒、灘の男酒」ということばがあります。
仕込み水として有名な神戸・灘の水は、
地下の貝殻層を通って、カルシウムやカリウムといった
ミネラルが多く含まれる硬度の高い硬水です。
ミネラルが酵母の活性を高めて、
辛口のお酒ができるから「灘の男酒」と呼ばれます。
それと比べられるのが、京都・伏見の水です。
これは、京都府と滋賀県の境に連なる
比良山系や比叡山に降った雨を水源として、
貝殻層をとおらない、硬度が低めの軟水です。
まろやかな甘口のお酒ができるから
「伏見の女酒」と呼ばれます。
硬度は、神戸・灘の水が100前後、
京都・伏見の水が60前後です。
東京の水道水は、灘の硬水と伏見の軟水の間ですが、
硬度は70前後で、伏見寄りの中硬水です。
東京の水道水の水源地は、群馬県、栃木県の山々や、
奥多摩の山なので、雪解け水の時期になると、
水がやわらかくなったりします。
いずれにしても、甘めのまろやかなお酒を醸す水ですね。
酒蔵を復活させた最初のころ、
「仕込み水はどこの水?」とよく質問されました。
「まさか水道水じゃないでしょう?」と(笑)。
うちは自信をもって、
高度浄水処理をした水道水だと公表しています。
都の水道局からは「よくぞ発表してくれた」と言われます。
(つづきます)
取材・文:金澤一嘉