京極 |
あれは‥‥『プレイボーイ』で対談したのは
何年くらい前になるんですかね。
|
糸井 |
ええと、10年とか? |
京極 |
経ちますか、そのくらい。 |
糸井 |
だって青年だったもの、京極さん。 |
京極 |
10年前だと‥‥30歳ちょいですね。
33〜34歳ってところかな。 |
糸井 |
黒い手袋して(笑)。 |
京極 |
ははは‥‥いまもしていますが(笑)。 |
糸井 |
デビュー作の『姑獲鳥の夏』が‥‥。 |
京極 |
31歳です。 |
糸井 |
だとすると‥‥ぼくらが会ってるのは
たぶん、こんど映画になる
『魍魎の匣』のあとくらいでしょう。 |
京極 |
そんなに、なりますか。 |
糸井 |
うん、なりますよ。 |
京極 |
それはそれは、おひさしぶりです。
あらためまして‥‥。 |
糸井 |
いえいえ、こちらこそ。
今日は「睡眠」の話ということで、
よろしくお願いします。 |
京極 |
お願いします。
|
糸井 |
ところで、水木(しげる)さんは‥‥。
|
京極 |
そっちですか(笑)。
|
糸井 |
ええ、まぁ(笑)。 |
京極 |
お元気ですよ、相変わらず。
ぼくは、小説にしても何にしても、
いろいろな作法を「水木しげる」から
学んでるんです。
だから、40年後には
ああいう老人になりたいなぁと、
ほんとうに、思ってる。
ぼくは、早く「くそじじい」とか
呼ばれたいと思ってて。 |
糸井 |
ははぁ‥‥。 |
京極 |
いや、水木さんは
そう呼ばれてないんですけど(笑)。
水木しげる作品のなかで、
いちばんの傑作は「水木しげる」本人です。 |
糸井 |
ご本人をご存知のかたは、みんなそう言うよね。
|
京極 |
会えばわかります。 |
糸井 |
いっしょにいるだけで、
なんだか「トロトロになる」って‥‥。 |
京極 |
そうなんです。
なんか出てるんですよ、「シュー!」って(笑)。
|
糸井 |
ご本人から(笑)。 |
京極 |
作品を読んで「おもしろい!」と思ってても
書いた本人に会ったら
「あ、こんな人だったのね」って
多少なりともギャップを感じること、あるでしょ。 |
糸井 |
うん。 |
京極 |
ない。 |
糸井 |
「ない」(笑)。
|
京極 |
ほんと、作品そのまんま。 |
糸井 |
いろんな人の話を聞いてると
そのまんま以上ですよね。 |
京極 |
そうそう。で、最近、ずーっと
「水木さんは、ボケてる」って
おっしゃってるんですけど、
バラしちゃうと、ボケてないですよ、ぜんぜん。
※水木しげるさんはふだん、
ご自分のことを「水木さん」と自称されます。 |
糸井 |
そうなんですか。 |
京極 |
うん、一時期は疑いましたが、
ちーっともね、ボケてない。聡明。 |
糸井 |
「ボケたふり」なんですか。 |
京極 |
もっともね、お齢ですから、
お耳が多少とおくなってたりはするんです。 |
糸井 |
ああ‥‥。 |
京極 |
だから、コミュニケーションが
スムーズにいかないときなんかに、
「ふり」をされるんです、きっと。 |
糸井 |
あ、そうなんだ。 |
京極 |
でもね、あれはどう考えたって、ゴマカシじゃなく
「ウケねらい」なんです(笑)。
‥‥ぼくたち、毎年、いろんなところで
「世界妖怪会議」って、やってるでしょう。 |
糸井 |
ええ、水木さんが会長の。 |
京極 |
壇上だと、音響の関係で
聞こえにくいんことがあるんです。
パネラーの発言が聞こえなかったり、
自分のしゃべってることが
まわりに聞こえてるかどうか
わかんなかったりすると‥‥「ふり」をされる。 |
糸井 |
うん(笑)。 |
京極 |
でもね、お客さんの反応のほうは、わかるわけですよ。 |
糸井 |
うん、うん(笑)。 |
京極 |
そこで、客がどかーんときそうなところでね、
また、「ボケてみる」わけですよ。 |
糸井 |
ああ、別の意味で「ボケてる」。 |
京極 |
それまで、饒舌にしゃべっていて、突然、
「そういえば、なんの話をしてたんだか
わからなくなりましたねぇ‥‥」
みたいなことをおっしゃる。 |
糸井 |
いいなぁ(笑)。 |
京極 |
最初の一回は、
「これ、ほんとに忘れちゃったのかな?」なんて
ちょっと心配になるじゃないですか。
でもね、「よさそう」なところでね、
繰り返されるんですよ、それを。反復。 |
糸井 |
ギャグの基本ですね。 |
京極 |
だからね、あれはね、ネタなんです。
ぜったい
タイミング見計らってるんですよ。
横で見てると、わかるんです。
熱弁に「照れ」ちゃったときも、いきますから。
|
糸井 |
それは、ぜったいボケてませんね‥‥というか、
「ボケてる」んですね、つまり(笑)。
<つづきます>
|