糸井 水木さん、神の領域ですね(笑)。
京極 ええ、もう、さすが妖怪協会会長です。
糸井 ねえ。
京極 その「技」、武器でもあるんです。

ぼくはご一緒する機会も多いので
多少わかるようになったんですけど、
好ましく思っていない人が相手だと‥‥
「フリ」が多くなる気がします。
シールドが強くなる(笑)。

糸井 はあ。
京極 対象がいなくなったとたんね、
ぜんぜん、ふつうになられる(笑)。
糸井 そういう意味でいうと、
結局、人って歳をとればとるほど
過激になっていくとも言えますよね。
京極 あの‥‥「老獪」ってあるでしょ。
ぼくの大好きな言葉なんですけど。
糸井 うん、最高です。
京極 「老獪」なんですよ、まさに。
あこがれの「老獪なじいさま」(笑)。
糸井 尊敬と愛情を込めてね。
京極 もちろん。

でも、じっさい、水木さんって
ものすごく計算がはやいんです。

印税がどのくらいになるかなんて
あっという間に
暗算できちゃう人ですから、今でも。
糸井 それは老獪だ。

京極 「のんびり、やりなさい」なんて言うじゃないですか。
「なまけものになりなさい」と、若者たちに。

これ、ちょっと聞くと
「あくせく働いてもしょうがないよ」って
メッセージだと、思うでしょ?
糸井 そう聞こえますが。
京極 違うんです。
糸井 ‥‥うん(笑)。
京極 「怠けていても
 食えるような人間になれ」
ってことなんです。
糸井 そうだと思った(笑)。
京極 「水木さんは、天才でお金もあるから
 怠けられるんです」と。

「才能のない人は
 働かないと餓死するだけですよ」と言って、
わはははっとお笑いになる。
糸井 すごいなぁ。
京極 おそろしいでしょう?

糸井 あの、緻密な絵だって、
水木さんじゃなくても、描けるようにしてますもんね。
京極 ええ、あれは「システム」なんです。

あの緻密な絵を、週刊誌の連載で
いったいどうやって描いてたんだろうと
思うじゃないですか。
糸井 だって、驚いたもん、子どものとき。
京極 まず、いわゆる「アシスタント」を雇わない。
糸井 雇わない?
京極 そう。画学生をスカウトしてきて、
自分の撮った写真だとか
いろんな資料を見せて、納得いく絵をとにかく描かせる。

で、それをストックしておく。
今でいうところの「コラージュ」ですね。

‥‥すごい発明でしょ。
糸井 はー、そうだったんだ。

子ども心に、
この人はすごいって思ってたもんなぁ‥‥。
京極 ぜったい、週刊ペースで描ける絵じゃないです。
すご過ぎ。

糸井 うん、うん、そんなはずない。
京極 だから、水木さんのところから
巣立っていった「漫画家」って
本当に数えるほどしかいないんですよ。
糸井 まあ、つげ(義春)さん。
京極 つげさんの場合は、
水木さんのところにいったとき、
すでにプロとして活躍されてたかたですからね。
糸井 ああ、そうですね。
京極 あと、鈴木翁二さん。
糸井 ええ。
京極 それから、池上遼一さん。
糸井 あ、そうか、そうか。
やっぱり「やりこんでる人」が多いですね。
京極 でも、水木さんの絵とは違うでしょ。
糸井 違う、違う。
京極 森野達哉さんくらいです。
水木プロ出身で、絵柄が似てるの。

あれだけの実績とキャリアがあるのに
フォロアーの漫画家が、ほとんどいないって、
おかしいじゃないですか。

それは、ようするに
漫画家志望の人をアシスタントにしないからです。
糸井 画学生に描かせてたんだ。
京極 だから、その人たちは、
その後、画家になることはあっても
漫画家にはならなかったんです。
糸井 そうやってため込んだ絵のストックから、
コラージュしていくという‥‥。
京極 その組み合せのセンスが抜群なんですよ、水木さんって。
糸井 でも、そのシステムにしても
当然のことだったんでしょうね、水木さんにとっては。
京極 「おまえはボルトをつくれ、
 おまえはナットだ‥‥わしが締めるから」。

糸井 老獪だなぁ(笑)。
京極 さらに、絵に対する審美眼っていうのかな、
その基準値が、ものすごく高い。
ダメな絵は、ぜんぶボツですからね。
糸井 で、京極さんは「合格」なんですか?
京極 え? ぼくは、漫画じゃないから‥‥。
糸井 いや、そこは見られてるでしょう。
京極 うーん‥‥。



<つづきます>



2007-12-18-TUE