第3回 幸福の第一条件は金塊である。

京極 ぼくが「合格」かどうかってことでいうとね、
以前、「大水木展」って展覧会をやったんですよ。

糸井 ええ。
京極 そのときに、ぼくと荒俣宏さんが
プロデューサーとして入ったんです。

で、ぼくがポスターを作ったんですが‥‥。
糸井 はい、はい。
京極 水木さんのキャラクターを
百何十体か集めてコラージュして、
ぜんぶパソコンで色をつけた。
それを見ていただいたんです、水木さんに。

そしたら、水木さん、見るなり
「あ、ここはね、白はいけませんよ。
 ちょっと、黄色を入れるんです。
 そうすれば、まぁ、80点です」とか言われて‥‥。

アッという間なんですよね、判断が。
糸井 迷いがない、と。
京極 で、黄色を入れたら本当によくなった。
もう、「すげぇ!」と思いましたね。



ハズレのない感じ、というか‥‥。
糸井 おそろしいなぁ。
京極 今でも筆を持たれたらね、
シュシュシュシューって感じでお描きになる。
画力からなにから、なにひとつ衰えてない。
糸井 絵を描くための筋肉や神経は
ぜんぜん変わってないってことですね。
京極 そう、そうなんです。

ですからね、例の「ボケ技」だって、
むしろ頭の回転に、しゃべりがついていかない、
ということなのかもしれない。

考えてることがすご過ぎで、簡単に伝達できないから‥‥。
糸井 通じないんだったら
黙ってたほうがいいや、みたいな。
京極 そう、そう。
糸井 吉本隆明さんなんかは
「超人化する」って言いかたをしてますよね。
京極 ええ、ええ。
糸井 それ、ぼく、本気で思うもの。
京極 赤瀬川原平さんの「老人力」って、流行ったでしょ。
でもね、水木さんのは「老人力」じゃない。
糸井 ええ、違いますね。
京極 「水木力」なんですよ。

糸井 うん、うん(笑)。
京極 もう、「水木のちから」なんですよね。
若いころから、その「水木力」で
人生を乗り切ってこられたとしか思えない。

戦争中から、貧しかった時代から‥‥。
糸井 ジャングルで動物が生き抜くみたいに。
京極 ふつう、
「オレは天才でお金を持ってるから
 怠けられるんだ」なんて言ったら、
嫌われちゃうじゃないですか。

でもね、困ってる人にポーンと大金あげちゃったり、
そんなところもある人だし。
糸井 なんというか、
自由にやりたいんでしょうねぇ。
京極 このあいだ、
「幸福の第一条件は金塊である」
とおっしゃって。
糸井 金塊‥‥(笑)。
京極 大金のことを、「金塊」っておっしゃるんです。

「金塊を手にしたら、
 まあ、だいたいは幸せなわけだ」とか。
糸井 なかなか言えないというか(笑)。
京極 言ってみたい(笑)。

あれだけね、
「ラバウルの現地の人びととの
 質素な暮らしは、素晴らしい」、
つまり、経済活動から解放された生活は理想だ、と
言っておきながら、
舌の根も乾かぬうちに
「幸せにとって、必要なのは金塊である」と。

糸井 ははぁ‥‥。
京極 でも、変わり身が
激しいというわけじゃないんですよ。
糸井 同じ人なんだ。
京極 同一平面にあるんですよ。
糸井 なるほどねぇ(笑)。
京極 そういうところが、すごいんです。

お金を使う必要のない世界というのは
素晴らしい。
でも、お金を使う必要のある世界では
必要なんだって。
糸井 つまり、置き場所が違うぜってことですね。
京極 そう、そう。

「俺は日本に暮らしてるんだから、
 お金がなきゃ
 幸せになれないに決まってるじゃねえか」と。

「お金を使わなくていいような楽園だったら
 そんなもの、一円も、要らないよ」と。
糸井 そう考えると、一貫してますよね。
京極 うん、で、「金を稼ぐのは才能と知恵である」と。
糸井 う〜ん‥‥なるほど。

京極 つまり、
「才能を発揮して、どんどん稼いで、
 怠けられる人になりなさい」ということ。

いや、これね、哲学としては‥‥。
糸井 お手本にしたくなる(笑)。
京極 でしょう?

しかもね、照れながら言うんです。
かわいいんですよ、また、それが(笑)。

水木さんのいう才能って、
「努力を惜しみなくできる力」なんです。たぶん。
照れるのは、
ものすごい努力家なのを隠してるんですね。
糸井 京極さんは、そっちへ行けそうですか?
京極 いやね、僕はね、その‥‥。
糸井 どこが違うんだろう?
京極 水木さんの前にね、もう一段階、ありますし。
「荒俣宏」というすごい兄弟子がおりまして。
糸井 ああ‥‥そうか(笑)。
京極 ぼくは、「荒俣宏」を経て
「水木しげる」になるのが夢なんです。



<つづきます>



2007-12-19-WED