京極 |
ぼくが「合格」かどうかってことでいうとね、
以前、「大水木展」って展覧会をやったんですよ。
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糸井 |
ええ。 |
京極 |
そのときに、ぼくと荒俣宏さんが
プロデューサーとして入ったんです。
で、ぼくがポスターを作ったんですが‥‥。 |
糸井 |
はい、はい。 |
京極 |
水木さんのキャラクターを
百何十体か集めてコラージュして、
ぜんぶパソコンで色をつけた。
それを見ていただいたんです、水木さんに。
そしたら、水木さん、見るなり
「あ、ここはね、白はいけませんよ。
ちょっと、黄色を入れるんです。
そうすれば、まぁ、80点です」とか言われて‥‥。
アッという間なんですよね、判断が。 |
糸井 |
迷いがない、と。 |
京極 |
で、黄色を入れたら本当によくなった。
もう、「すげぇ!」と思いましたね。
ハズレのない感じ、というか‥‥。 |
糸井 |
おそろしいなぁ。 |
京極 |
今でも筆を持たれたらね、
シュシュシュシューって感じでお描きになる。
画力からなにから、なにひとつ衰えてない。 |
糸井 |
絵を描くための筋肉や神経は
ぜんぜん変わってないってことですね。 |
京極 |
そう、そうなんです。
ですからね、例の「ボケ技」だって、
むしろ頭の回転に、しゃべりがついていかない、
ということなのかもしれない。
考えてることがすご過ぎで、簡単に伝達できないから‥‥。 |
糸井 |
通じないんだったら
黙ってたほうがいいや、みたいな。 |
京極 |
そう、そう。 |
糸井 |
吉本隆明さんなんかは
「超人化する」って言いかたをしてますよね。 |
京極 |
ええ、ええ。 |
糸井 |
それ、ぼく、本気で思うもの。 |
京極 |
赤瀬川原平さんの「老人力」って、流行ったでしょ。
でもね、水木さんのは「老人力」じゃない。 |
糸井 |
ええ、違いますね。 |
京極 |
「水木力」なんですよ。
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糸井 |
うん、うん(笑)。 |
京極 |
もう、「水木のちから」なんですよね。
若いころから、その「水木力」で
人生を乗り切ってこられたとしか思えない。
戦争中から、貧しかった時代から‥‥。 |
糸井 |
ジャングルで動物が生き抜くみたいに。 |
京極 |
ふつう、
「オレは天才でお金を持ってるから
怠けられるんだ」なんて言ったら、
嫌われちゃうじゃないですか。
でもね、困ってる人にポーンと大金あげちゃったり、
そんなところもある人だし。 |
糸井 |
なんというか、
自由にやりたいんでしょうねぇ。 |
京極 |
このあいだ、
「幸福の第一条件は金塊である」
とおっしゃって。 |
糸井 |
金塊‥‥(笑)。 |
京極 |
大金のことを、「金塊」っておっしゃるんです。
「金塊を手にしたら、
まあ、だいたいは幸せなわけだ」とか。 |
糸井 |
なかなか言えないというか(笑)。 |
京極 |
言ってみたい(笑)。
あれだけね、
「ラバウルの現地の人びととの
質素な暮らしは、素晴らしい」、
つまり、経済活動から解放された生活は理想だ、と
言っておきながら、
舌の根も乾かぬうちに
「幸せにとって、必要なのは金塊である」と。
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糸井 |
ははぁ‥‥。 |
京極 |
でも、変わり身が
激しいというわけじゃないんですよ。 |
糸井 |
同じ人なんだ。 |
京極 |
同一平面にあるんですよ。 |
糸井 |
なるほどねぇ(笑)。 |
京極 |
そういうところが、すごいんです。
お金を使う必要のない世界というのは
素晴らしい。
でも、お金を使う必要のある世界では
必要なんだって。 |
糸井 |
つまり、置き場所が違うぜってことですね。 |
京極 |
そう、そう。
「俺は日本に暮らしてるんだから、
お金がなきゃ
幸せになれないに決まってるじゃねえか」と。
「お金を使わなくていいような楽園だったら
そんなもの、一円も、要らないよ」と。 |
糸井 |
そう考えると、一貫してますよね。 |
京極 |
うん、で、「金を稼ぐのは才能と知恵である」と。 |
糸井 |
う〜ん‥‥なるほど。
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京極 |
つまり、
「才能を発揮して、どんどん稼いで、
怠けられる人になりなさい」ということ。
いや、これね、哲学としては‥‥。 |
糸井 |
お手本にしたくなる(笑)。 |
京極 |
でしょう?
しかもね、照れながら言うんです。
かわいいんですよ、また、それが(笑)。
水木さんのいう才能って、
「努力を惜しみなくできる力」なんです。たぶん。
照れるのは、
ものすごい努力家なのを隠してるんですね。 |
糸井 |
京極さんは、そっちへ行けそうですか? |
京極 |
いやね、僕はね、その‥‥。 |
糸井 |
どこが違うんだろう? |
京極 |
水木さんの前にね、もう一段階、ありますし。
「荒俣宏」というすごい兄弟子がおりまして。 |
糸井 |
ああ‥‥そうか(笑)。 |
京極 |
ぼくは、「荒俣宏」を経て
「水木しげる」になるのが夢なんです。
<つづきます>
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